実験体MM   作:柳月&独鴉

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14.命名と職場体験準備

 体育祭も終わり、二日の代休の間に家で一緒に暮らしている一応現役だけれど、ほぼ活動していない炎熱系個性を持つお婆に轟の事を舞華は訪ねた。

 

「お婆、確かエンデヴァーが若い頃に先輩としてサイドキックしてたっていったよね? 聞きたいことがあるんだ」

 

 舞華が分かる限りの情報を伝えて知っている事を尋ねれば、躊躇しながらも轟焦凍の語った事やあの行動について話し始めた。

 個性婚、そしてエンデヴァーの場合も少しだけの事情、それは舞華が両親に売られ実験された子だからこそ教えなければならず、道を誤らぬようにと伝えられた。教科書にも載らない個性婚の全てが悪しきものでなかったということ。

 

 

 

 

 黎明期は、特に第1世代から第4世代までのヒーローとヴィジランテは力を求めた。ヒーロー側の強引な結婚ならまだしも、ヴィランの強姦行為、両勢力でも力のある個性を求め近親婚まで行われた酷い有様だったらしい。

 それでも、そこまで政府も国家も力を失い、ヒーローに頼るしかなかった時代、ヴィランの帝王と呼ばれるAFOの支配領域だけが他のヴィランも手出しができず安全であり、それ以外の地域はヴィラン同士やヒーローが戦う酷い有様、力を誰しもが求めても仕方のない事だった。

 第二世代から第三世代と呼ばれる頃の個性婚によって世代を超えたヒーローは力を増し、少しずつ安全な領域を増やし、そして近年個性婚が否定される程度の治安を取り戻したと語る。90歳にもなる引退ヒーローの婆様の若い頃はまさに地獄だったそうだ。

 そして婆様は弱いとはいえ炎熱系、エンデヴァーの父親と共同戦を敷く程度には親交があり、亡くなった後には雄英を卒業したエンデヴァーを先輩としてチームアップもした。そして焦凍の知らない事、少しだけの事情でも知った方が良いと。それは舞華でも辛い話。

 

 

 轟炎司は個性婚を望んでところに売り込みが来た口だという。轟が自ら探したのではない、20代中ほどですでにトップクラスヒーローであり名声と財力を持っていた所に、その金を求めて相手側からきたらしい。

 地方で長らく続いた庄家の名士であり、黎明期以降もヒーローにもヴィランにもならず、氷結系の力をもって自らの地域を納めていた。そして、黎明期前からずっと他家との交わりを避け遠いとはいえ親戚筋との 近親婚 を続けていた壊れた家系。近親婚による濃すぎる血によって個性由来の異形化や精神的変調も起こし始め、エンデヴァーの父親が戦死した頃から権力と財力を失ったそうだ。だからこそ、財力と権力を持っていた轟炎司との繋がりを求めた。

 婆様も先輩でありサイドキックとしてそのような個性婚に反対していたものの、氷叢家の事情を知り退かざる得ないことになった。轟炎司が娶らなかった場合、氷叢冷は、家によって再び近親婚による出産を求められる可能性が大いにあったからだ。冷の母親も父親と4親等の関係、ちょうど同い年位の4親等の男がいる。だが冷は拒否しないだろう、そう育てられたとお婆にはわかったそうだ。

 

 

 

 学問で知っている個性婚のリアルな実情、そしてそれが轟家に、焦凍の考えや行動に繋がっているとわかり舞華は何も言えない。

 

「その焦凍という子も可哀想と言えるね。 子供の視点だけで言えば地獄、だけれど。 冷の家の地獄も炎司が生きた地獄も、その子は知らない。

 自らの悲劇や不幸を比較して他人に甘いと言ってはいけないし、自分が辛いからと他人を貶めても断罪してもいけない。 それでもね」

 

 それはとても悲しそうに御婆は離し続ける。

 

「焦凍君は。 ヴィランにヒーローであった親を、子供を助けようとして共に殺された中学生であった炎司の無力感と絶望を知らない。 力が無く大事な者も守りたい者も、容易く殺されてしまった事を知らない。

 血を分けた家族に自らの尊厳を踏み躙られかけ頼る親族の居ない冷の地獄を知らない。 実の家族に自ら生きる道を選ぶ力もチャンスも与えられなかった事も知らない。

 それはね、だだをこねる子供の反抗だよ。 氷叢家の生き地獄も身心を蝕む無力も、どちらも語らない炎司の優しさと口下手と、執着心から良い親になりえなかったのもあるだろうけどね」

 

 考え込む舞華を見ながら、ゆっくりと言葉を選ぶ。

 

「これはまた違う視点の話。 ちゃんと理解したいのなら、轟冷の話も聞きなさい。 真実なんてね、人の数だけある。 婆の眼にはそう見え感じたのさ」

 

 伝えて考えさせ、自ら決めさせる。掌で炎を揺らめかせている舞華をみながら何も語らない。

 舞華の悪癖のようなもの、深く深く考えているときは炎をじっと見つめ、炎から蝶々が飛び立ちゆらゆらと舞華の周りを舞う。

 

「……いまあたしが出来るのは、個性制御を教えてくれたおじさんを、いい加減にしろってぶん殴るくらいかな。 あと許されるなら冷さんに会って話してみたい。 焦凍はとりあえず保留、嫌いだったけれど興味が失せた。 直接抗って勝てないから意趣返しを学校でしようとしてた思考がガキだし甘ったれてるだけってわかったし」

 

 興味の反対は無関心、舞華にとってただのクラスメイトであった焦凍はどうでもよいとなった。今は、恩人でもあるエンデヴァーを婆さんの代わりに殴ることくらいしか思いついていない。

 

「好きにしな。 それくらいされても仕方がないことをしたようだからね。 御婆も久々に顔を見に行こうかねぇ」

 

 

 

 

 

 登校日

 体育祭が終わり臨時休日を二日挟んで学校が再開される。舞華の家でありオールマイトの秘密の別宅から電車で3駅なのだけれど。

 

「あなた雄英体育祭の魔神さんね。 おめでとう!」

「女の子なのに凄かったわ。 これからも応援していくわね」

「ヒーロー着地格好よかった!」

 

 電車で移動中、優勝をほめてくれる人たちは多くいたが。

 

「マジンガー! 最後すげぇ技だったよ!!」

 

 魔神(まがみ)であってマジンではないのだけれど、一部のマニアや古いアニメ好きによってSNSを通じて比較動画が流れ、中学生未満の男子やオタク層などは見ていた。

 

「やっぱりビームもだせたり?」

 

「あはは……、それはまだ秘密です」

 

 舞華もなんとなく模倣しやすい為に技として利用している為否定もしずらく、愛想洗いを浮かべながら軽く手を振ったり、子供と握手をしたりでたった3駅でも疲れてしまった。

 

 

 雄英高校の1A教室に入ればみんなも沢山声をかけられ、緑谷がとくにしなびている。

 

「疲れてるけど、デクくん大丈夫?」

 

「うん……」

 

「強面の人達に場所譲られている映像流れてるよ~」

 

 どうやらあの極まった試合のせいでヤバい人だと思われたらしく、緑谷への応援ももちろんあるけれど、普段少々高圧的に振る舞うような人たちから何かしたらきっちり締められると思ったらしい。

 

「小学生の集団にドンマイコールされたよ」

「俺は熱い応援をされたぜ! オニギリやお茶を渡されたのは困ったけどさ」

 

 瀬路はドンマイコールに切島は漢連中からの熱烈な声援を受け、教室では疲れた表情を浮かべている。誰しもが何かと応援を受けた事を教室で話しているとホームルームの時間が近付き皆席に戻る。

 時間になる数秒前に相澤先生が教室に入り、本鈴と共にホームルームが始まる。

 

「今日のホームルームとヒーロー情報学は少々特別だ。 職業体験が近いが、体育祭の結果からこのように指名が来ている」

 

 電子黒板に映し出されたのは職業体験についての簡単な説明と、生徒の各自に対して事務所側が受け入れ要望が出ている数が映し出される。大小さまざま万を超える日本国内のヒーロー事務所。轟をトップに爆豪・切島・飯田・常闇など多数の事務所から職場体験受け入れの要望が出ていた。

 

「順位が上の爆豪より轟の方が要望が多いの笑える」

「やっぱりあの言動が原因だよ。 いくら強くても面倒で避けるわな」

「プロがそんなことで避けんじゃねぇ!」

「あれ? 魔神はたったあれだけ?」

「そうだよな。 なんでたった21?」

 

 クラスメイトが気になっている中、舞華はどういうことかと首をかしげていた。

 

「あたしは女性のみと静岡限定だからね。 みんなも基本要綱の書類には志望地域の選択欄あっただろ。 みんな指定してなかったの?」

 

 体育祭の数日前に学校側に提出した書類。家や個性などの諸事情でどうしても移動範囲が限定されてしまうこともある。

 蛙吹もそれに近い。個性の都合上サポートアイテムなどを使っても寒冷地、北陸や北海道の冬場は職業体験やインターンシップにも適さない。事務所側に失礼の無いように、前もって不可能に近い地域については申請する際に確認できる。

 舞華はそれに従って

 1.女性ヒーロー事務所

 2.静岡県内

 と限定していた。普通は一件でもこぼさない様に選別の記載欄は なし にするのだが、舞華の事情もある。

 

「俺全部了承にしてた! でもきてない!」

「オイラも女性事務所だけにしてたよ畜生!!」

 

 上鳴と峰田が頭を抱えながらも要望が届かなかったことに声を上げている。そんな状況を無視して相澤先生は要望の着ている各自に紙媒体の書類とタブレット用のデータが回していく。

 

「今回の指名はあくまで未来への可能性を見た形だ。 現状では戦力としても見られておらず、将来性への興味を持っているに過ぎない。 卒業までに実力が伸びなかった場合はサイドキックにもなれない。 なんてことはよくある」

 

「大人は勝手だ!」

「届いている指名が未来へのハードルとなる、わけですね」

 

「そういうことだ。 本来ならばヴィランを知る事は体験で行う形だったが、予期せぬ事態で一足先に体験してしまった。 一限目のヒーロー情報学だが職場体験の準備としてお前達には“ヒーロー名”を決めてもらう」

 

「「胸膨らむやつだ!!」」

 

 相澤先生の言葉と共にクラス中が沸き立つ。

 

「あくまで本登録ではない仮のヒーロー名だが、表に出る名前である以上適当なものは」

「付けたら地獄をみちゃうよ!」

 

 扉が開くとミッドナイト先生が相変わらずど際どいヒーロースーツで現れる。全身薄手スーツにボンテージ風腹部アーマーなど色々見た目が際どい。

 

「この時表に出た名前が世に認知され、そのままプロになっている人も多いわよ!」

「そういうことだ。 命名をセンスや流行などを含めて査定してもらう」

 

 それだけいうと用意してあったのだろう寝袋に入り込んでしまう。

 

「将来の自分はどうなっているのか、何を目指すのか。 名を付けることでイメージが固まり近付いていくことになる。 それが名は体を表すってことだ。 オールマイト、全能や絶大な力を持つと名乗ったようにな」

 

 ネームボードとペンが回され、前もって考えていたものを記入したり、新しく考えるなど様々、そして時間となり各自がそれぞれヒーロー名を発表していくのだが、青山の短文から芦戸のエイリアンクイーンと続いた事で大喜利の様相を呈してしまった。

 

「ずっと考えていたの。  梅雨入りヒーロー《FROPPY(フロッピー)》」

 

 空気が微妙になっていく中、クラスの良心でもある蛙吹の発表によって方向性が一気に戻された。クラスメイトのフロッピーコールの中、それに続けと切島は憧れのヒーロー名の一部を貰うなど背負う覚悟を表明するなどそれぞれの思いを込めたヒーロー名が発表されていく。

 

 

 耳郎  ヒアヒーロー・イヤホン=ジャック

 障子  触手ヒーロー・テンタコル

 瀬路  テーピンヒーロー・セロファン

 尾白  武闘ヒーロー・テイルマン

 砂藤  甘味ヒーロー・シュガーマン

 芦戸  エイリアンクイーンから訂正 Pinky(ピンキー)

 上鳴  スタンガンヒーロー・チャージズマ

 葉隠  ステルスヒーロー・インビジブルガール

 八百万 万物ヒーロー・クリエティ

 轟   ショート

 常闇  漆黒ヒーロー・ツクヨミ

 峰田  モギタテヒーロー・グレープジュース

 口田  ふれあいヒーロー・アニマ

 飯田  テンヤ

 緑谷  デク

 

 みんなそれぞれ、色々な思いを込めて仮とはいえ名乗るヒーロー名。魔神は自分の番になり壇上に立つ。

 

「マイク先生が試合中に話していた爆炎の女神を少しなぞりました。 爆炎の化身 久那土」

 

「久那土、分岐点や境界という事かしら」

 

「はい。 境界線の炎、それを越えた先はということです」

 

 ミッドナイト先生は舞華が犯罪者によって人為的に個性を弄り回され、少し間違えば自らの死を招く所まで個性が強化されている事を知っている。その舞華を超えるという事は、個性犯罪者などは薬などで大幅に強化しなければ到達することはできず、到達し超えたところで体が持たない領域という事でもある。

 炎熱系は自ら個性に焼かれぬようある程度の耐性を持ち、少しずつ耐性を強化しつつ個性を伸ばす、それが追い付かないほど火力を上げれば、待つのは自らを焼き殺す死の炎となる。

 

「いいわね。 その名に恥じないようにね」

 

 詳細に説明しないでも納得したミッドナイト先生。

 そして舞華は言わない。境界線の向こう側にも爆炎の個性としてもう一人の舞華がいる。久那土、それは二人の舞華にとってお互いの境界線を意味していた。

 それからもまだ迷っている飯田と緑谷が発表し最後は爆殺王で差戻しの爆豪のみ。

 

「爆殺卿!」

 

「違う。 そうじゃない」

 

 ずれたというかミッドナイト先生に再び止められ、舞華は呆れながら指摘する。

 

「爆豪、なんで前述ばかり決めてんだよ」

 

「あぁ!? どういうこった!」

 

「私の場合は前術が 爆炎の化身 で爆炎を扱うヒーローの意味、名は 久那土 だろ。 ナンバー2なら前述が フレイムヒーロー という炎を扱うヒーローの意味を表し、名を エンデヴァー なんだわ。 爆豪はずっと前術ばかり言ってんだよ。 例えば前述 爆殺卿 という爆破を扱うヒーローで名は 〇〇 ってつけるべきなんだわ」

 

 そう説明されると少し納得したのか、変わらず不機嫌な表情のままだがペンを置いた。

 

「わりぃ先生。 前述しか考えてなかった。 次までに考えるのでいいか」

 

 一旦は考えていなかったとして、ミッドナイト先生も絶対に決めなくてはならないと言うわけではないということで今回は決まらなかった。

 

 

 放課後

 名前も決まり、来週の水曜日には職場体験も始まる。申請書類は金曜日までに出すのは受け入れ側の都合もある。日曜日はともかく木金土と月曜日くらいは事前に練習くらいはしておこうとみんなで集まって訓練場に行こうと話しは纏まる。

 

「尾白か砂藤、普通科行くのに付き合ってくんない? 心操にも声をかけたいんだ」

 

「それくらいならいいよ」

「糖分の補給も終わっったしいくぜ」

 

 舞華は快諾してくれる2人に感謝し向かおうとしている最中、ヒーローオタクでもある緑谷はあんまり詳しくないクラスメイトから頼まれ、学校側が用意した40の受け入れ可能事務所の情報をあたふたと纏め上鳴や芦戸に説明していた。

 

 

 

 

 

 

 普通科-side

 雄英体育祭が終わり普通科も通常授業に戻るのだが、最初のHRで職場体験についての説明が行荒れた。体育祭を過ぎたあたりである程度在学中にトップヒーローになる夢を諦める者達が出始める。ヒーロー科との差というよりも、非常に高い倍率を抜けた中でさらに自己研鑽に優れるヒーロー科A組とB組、その差などをみせられ心が折れてしまう。もちろん折れずにヒーロー科編入を目指し、2年や3年になる際に編入する努力家も現れるのだが、それはやはり少数であった。

 

「職場体験の志望どうする?」

「私は、事務職でだしてみようかなって」

「俺も事務職希望してみようと思う」

 

 昼休みにそれぞれの理由で職場体験を希望する学生達、ヒーロー科でも受け入れ先をもっているように、普通科でも独自に受け入れ先を持っていた。

 

「俺は、二件だけど来ているからそこから選ぶよ」

 

 その中でも体育祭で実績を上げた心操は2件だが志望が出ていた。そんな中で教室の扉が開かれ、体育祭の優勝者が姿を現し教室が静まり返る。

 周りを気にする素振りもなく入口から教室内を見回し、気にもせず堂々と教室に入ってくると席で話していた心操の前で立ち止まる。

 

「心操、職場体験近いから特訓しよう」

 

「はっ? え? いや、突然なにを」

 

 突然の言葉に理解が追い付かず、心操や普通科の生徒達は驚き固まっていた。

 

「お前、あんまり体鍛えてないだろ? 基礎を鍛えてないと、個性が通じないときにあっさりやられるぞ」

 

 魔神と一緒に来ている二人のクラスメイト、1人は増強系らしく同じ高校1年生なのかと思うほど体を鍛えているし、もう一人も学生服ではわかりにくいけれど、見えている腕は筋肉質な上にところどころ怪我の痕らしいものがみえる。

 

「あたしは優勝はしたけれど、個性無しの基礎勝負じゃ砂藤と障子相手にも厳しいし、鍛えない事にはどうしようもない。 個性の爆炎だってのちのち炎熱無効にする個性持ちなんて出たら終わりだろ?」

 

 個性は成長しさまざまなものがでてきている。半熱半冷という複合化も出てきている為に、いずれ無効化が出てこない可能性がないわけではない。

 

「職場体験までヒーロー科でもみんな特訓する予定、うちらも体力と基礎トレーニングをメインにやるから心操も一緒にやろう。 増強系の砂藤ほどの筋肉美は無理でもさ」

 

 呼ばれた砂藤という男子はボディビルダーのようにサイドセップスからサイドチェストへとポージングを変えると制服越しでもわかる盛り上がった筋肉に普通科の面子からも感嘆する声が上がり、バックダブルバイセップスまで流れるように移行する。

 

「相変わらず砂藤はすげぇよ、背中が体育祭の競技場みたいってやつだな。 まぁともかく尾白レベルまで行かないと非増強系のうちらじゃヒーローとしてやっていけないよ」

 

 尾白という男子は砂藤と変ってスッと武道の構えをとる。しっかりと袖から出ている腕の筋肉が張り、個性のしっぽを除いても鍛え上げられたそれ相手に勝てるとは心操は思えなかった。

 個性が通じない相手でも戦えるように鍛え上げる。個性が通じないから無理だったとは言わない考え方、ヒーローとして根本的に考え方が違うことに心操や普通科の生徒達は、漠然としていた何が違うのかと考えていた一つが目の前で示され唖然とした。

 

「そんなわけで一緒にトレーニングしようぜ。 第三練習場でやる予定だからお前も来いよ」

 

 2人のクラスメイトの方を向いていた魔神が心操の方を大きく振り向き、そして両腕を大きく開いたことでとてつもないモノが心操のほぼ眼前で大きく揺れた。

 

「あっ、あぁわかった。 片付けが終わったら担任に言って向かうよ」

 

「それじゃ待ってるぜ」

 

 A組のクラスメイトと共に舞華が普通科を出ていく。出来ればすぐに心操もすぐに生きたかったのだが、色んな意味で席から立つことが出来なくなっている。他の普通科のクラスメイトの男子も同じように席から立ち上がれなくなったり、そっと前かがみになりながらじっとしていた。

 

「こうあれだ。 バルンっバルンって感じだった」

「良い夢見れそう」

 

 発した言葉が悪く、睨むように女子達から目を向けられた男子は教室で小さくなることになる。

 

 

 

 

 訓練場

 参加者の各々が自らの個性を伸ばしながら体を鍛える。そんな中で舞華は常闇に疑問を持っていた。

 

「飛べる事に良い加減気付けって」

 

 自ら扱っている個性の探求は同じ個性以外ではやりにくいが、新たな可能性や視点というのはその個性の詳細を理解していない者のほうが自由な発想で見つけたりする。それは固定観念がない為だ。

 

「シャドウ、パワーあるんだからお前を抱えて飛べるだろ。 何度見ても何かを持ち上げているとき常闇に重量負担が掛かってない。 単独で浮くから飛行ではなく空間を移動してんだよ」

 

「ダークシャドウだ、しかしそんなことありえるのか?」

 

 魔神はなんとなくダークシャドウを間違えて覚えてしまい、ずっとシャドウと呼びそれが普通になってしまっていた。

 

「やってみないとわからないか。 シャドウ、そのまま動かないでくれ」

「ワカッタ」

 

 離れた場所からダークシャドウに向かって舞華は走る。

 

「バレーのレシーブのように打ち上げろ!」

 

 そのままシャドウの腕に足をかけ打ち上げられるのに載せ高く跳躍、そのまま爆炎を操作しゆっくりと降下する。

 

「いま、常闇は反動や重さを感じなかったろ? 独立してシャドウは空間を三次元で移動してるんだよ。 だから行けるって」

 

 地面に魔神は降りると近くで練習していた峰田をひっ捕まえ、前に抱えながら爆炎を操作し足元で発生させ浮き上がって見せる。

 峰田は焦るどころか後頭部に胸が押し付けられ、だらしない表情を越えて魂が抜けかけているが構わず舞華は話をつづける。

 

「シャドウ、常闇をこんな感じで背後から抱えてみな。 手だと自由度がなくなるから腕で巻き込む感じで」

 

「コウカ?」

 

 言われながら常闇の背後に回り、両前腕で抱えるようにしたままゆっくりと上がり始め、抑え方が不安定で若干危なっかしいものの、常闇はダークシャドウに抱えられながら空中に浮かび上がった。

 

「これは!? ダークシャドウ! 俺達はいま飛んでいるぞ!」

「オォ! ヤロウトオモエバデキルンダナ!」

 

「そのままひとつ特訓と行こうぜ。 いまから峰田をぶん投げるからシャドウは常闇を抱えたまま、常闇は峰田をキャッチしてくれ」

 

 魔神は魂が抜けかけている峰田を両手で頭上に抱え、そのまま常闇の方に投げる。しかしうまく捕まえる事が出来ず峰田は落下を始めた。

 

「お~い峰田~、そろそろ正気に戻らないとトマトになるぞ~」

 

 舞華の声掛けに魂が抜けていた峰田は元に戻り、大慌てでもぎもぎを複数地面に投げつけクッションにすると真上に吹っ飛び今度は常闇にキャッチされた。

 

「あっあっぶねぇぇぇ! 常闇落とさないでぇぇぇ!!」

 

 峰田は常闇に必死に頼みながら常闇を掴む。

 

「峰田が泣きそうだしこれはやめとこうか。 まずは常闇自身のトレーニングと単独飛行を練習する感じでいこうぜ」

「あぁ、そうしよう」

「ガンバルゼ」

 

 

 別日

 授業も終わり皆が訓練場に向かう中、舞華はサポート科に赴き工業系高校の技術棟のような丈夫なコンクリート打ちっぱなしで作られた建物に居た。

 分厚い鉄でできた扉になっている教員室の扉をノックしたのだが。

 

「すいません。 連絡していたA組の魔神です」

 

 衝撃音が響き少しすると扉が開く煙と共に人影が出てきた。パワードスーツのような特徴的なヒーローコスチュームに大きな鍵爪の個性であるパワーローダー先生。

 

「書類は届いている。 追加の帽子と胸部アクセサリーは出来上がっているんだが」

「あなたが依頼者ですね!」

 

 部屋から飛び出してくるのはピンク色の髪と個性が現れた眼が特徴的な体育祭で緑谷チームの騎馬に居た発目 明。

 

「生徒に、まぁこいつなんだが。 もう一方のサポートアイテムを頼んでみたんだがなぁ」

 

 昨日、余りにもマジンと言われたので、鉄の城っぽい帽子と胸部放熱板っぽいものをヒーロースーツのオプションに、自費で制作をお願いしたヒーローコスチューム用耐熱素材で服飾を頼んでいた。

 手渡されたものを試しにつけてみると違和感もないししっかりとしている。

 

「こいつは服飾変更届だけで済む。 まぁただの衣装の追加だが問題はサポートアイテムで」

「そこはもう私が素敵なベイビーをご用意いたしました!」

 

 もう一つ頼んでいたのは服飾ではなくサポートアイテム、じっくりと用意して欲しいとお願いした打撃用の木刀っぽいものなのだが。

 

「え……なにこれ」

 

 どうみてもメカニカルで機構だらけにしか見えない棒のような物体が置かれ、謎に蒸気のようなものを噴き出している。

 

舞華が依頼を出していたのは

1.ヴィランの制圧用の木刀の形状品

2.ある程度火を纏わせても燃えない材質

3.半分くらいまで伸縮できる構造

4.乱暴に扱っても壊れない頑強さ

 

 だけのはずなのだが。

 

「個性をお聞きしまして! 爆炎を熱電変換し永久に動作するスタンロッド機能! さらにテーザー銃として先端を射出可能です!」

 

 たっぷりと魔改造を施されている。舞華の趣味以前に要望と余りにも異なりゴテゴテとした作りだ。

 

「じゃ、少しお借りして」

 

 舞華は持ち手部分を掴み軽く素振りしていると、色々察してくれたパワーローダー先生がテスト人形を設置してくれたので纏わせるように爆炎を放出しながら叩きつけ電撃が流れる。そしてそのままスタンロッドごと爆炎をあてると嫌な音が響き電撃が止まってしまう。

 

「あぁ!? ベイビーがぁ!!」

 

 ちゃんと設計されていたものの使用想定が少し違う。あくまでスタンロッドとして制圧を考えた発目明と、物理的に対象を叩き伏せ心身ともに抵抗力を喪失させ捕縛を考える舞華、見ている視点と方法の違いで道具に求める性能が異なる。

 

「だからいっただろう。 発目、ユーザーの求める点を優先しろと」

 

 機構が枷になり耐久性が落ちてしまっている。もちろんそのまま使えなくはないけれど、機構を追加した分重くなった上に繊細で乱暴な使用には耐えない。

 発目明のやり方もまたユーザーの求める一歩先に到達する可能性もあるにはあるが、まだ読みが足りずに別方向に暴走してしまっていた。もちろん失敗は成功の母なので、今回生み出した道具に関わる技術はかならず役に立つ。

 

「もっと素晴らしいベイビーを作ります!」

 

 止める間もなく工作台へと向かう発目明にパワーローダー先生はため息をつき、棚からサポートアイテムを一つ取り出した。パワーローダー先生が用意していたのは難燃性の木材に不燃液を染み込ませ、ねじ込みで一つに戻せる二分割の木刀。悪く言えばありきたりでサポートアイテムと言うには難しく、簡単な道具に思える。付属の腰に留める用具と合わせてもいたって変った者には見えない。

 

「一応数度試した後に正式にサポートアイテムに加えるか書類を提出するように」

 

 パワーローダー先生は舞華にそう伝え、他のサポート科の生徒達が作業している各作業室へと向かっていった。

 

 

 

 

 職場体験前日になり、最終準備と共に最後の仕上げの練習日。

 皆が飯田を気にしている。体育祭中の最中に兄であるヒーロー インゲニウムがヒーロー殺しステインの襲撃を受けてしまい、下半身不随の重症を負わされた。

 それから仮としてもヒーロー名を決めるときなどいつもとは異なる行動が多い。当人は大丈夫だと言っているものの、どう考えてもまともな思考状況じゃない事は舞華や緑谷など分かっているのもいる。それでも何か解決策を出せるわけもなかった。

 その為余り深く追求し過ぎないように気を付けながら、翌日に迫った職場体験の準備を進めている。

 

「よ~し、それじゃ峰田いくぞ!」

 

「お~!」

 

 舞華にぶん投げられた峰田は体長3mほどの巨大な蛾の炎となり空中に舞い上がる。舞華にとって炎を複合的に扱うため、ロケットフレアとエンチャントフレイムを併用して他人を飛行させる練習だ。

 訓練場の上空を舞う峰田は耐火・耐熱の通信機を付けている為話も出来る。

 

「峰田、調子はどうだ?」

「暑い! でもなんとかうまく飛べてる!!」

 

 なんども投げられ、慣れた峰田は炎の中でバランスを取りながら2分ほど飛行したのちに着地。

 

「なんていか、手足が動かしても何にもならないのが手持無沙汰なんだよ」

「それなら、手足と4枚羽を連動をしてみる。 もっかい行くぞ」

 

 最初はそういった形で上手くいかなかったものの、何度も繰り返し調整をしたことで大分飛行させることにも慣れてきていた。ただしあくまで峰田だけで他のクラスメイトはそこまででもないが。

 両手足を舞華が軽く触れた後無造作に持ち上げられ、投じられた峰田は巨大な炎の蛾となり、両手足で4つ翅を微調整して飛行している。舞華は形状と推進力だけを行うのでかなり負担を減らすことができた。

 新しく誰かを飛行させる技術、まだ舞華が求めるところには遠い。

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