実験体MM 作:柳月&独鴉
職場体験が終わり、クラスメイトが集まりそれぞれ職場体験先での経験を話していた。
麗日が何故かシャドウボクシングをするなど覚醒していたり、蛙吹が体験中に密入国を防ぐのに活躍したり、人質救助活動に参加し避難誘導をするなどみんなヒーロー活動を体験していた。
そんな中で爆豪が七三別けで教室に来たことで無謀にも上鳴が爆笑していた。
「まじかww まじか爆豪www」
「八二www 七三を越えて八二別けとかwww」
「笑うんじゃねぇ! 何してももどらねぇんだよ!」
爆豪が髪形が戻らずイライラしている中、舞華はちょっと呆れながら席に座っている爆豪の側まで行くと立ち止まった。
「爆豪、気付いてねぇの?」
「あ”ぁ”!? なんだってんだ!」
舞華は小さく息を吐くと無造作に爆豪の髪に触れ、指で梳くように一度撫でて顔の前に手を向ける。
「これジーニストのファイバーだろ? 髪の中に混ぜられて髪形の癖にされてんだよ。 爆破でふっとばしちまえって」
舞華に勝手に髪に触れられぶちぎれる寸前だったが、目の前に見せられた極細ファイバーを見て怒りの方向がジーニストに向けられる。
「くそがぁぁぁ! あの野郎いつの間にやりやがった!!」
爆豪は両手で髪をかき上げ、髪に自らのニトロに近い汗を少量混ぜると一気に爆破し余計な物を全て吹き飛ばす。さすがに完全に元通りとはいかないものの、いつもどおりのツンツン髪形に
舞華はいつも腰に止めているウェストポーチから使い切りのスタイリング剤を取り出し爆豪の机の上に置く。
「試供品で貰ったガチガチの奴やるよ。 トイレにでもいって直してきな」
礼も言わずに爆豪は受け取ると教室を出て行った。まだHRまで時間がある為にトイレで直すのだろう。舞華が席に戻ると梅雨ちゃんが首をかしげていた。
「よく気付いたわね。 それに男性用スタイリング剤をもっているのね ケロ」
「試供品なんかはドラッグストア等で押し付けられた奴、少しは通販の奴もまじっているかな?」
舞華はウェストポーチから女性用コスメの小分けされたサンプルをいくつか取り出し、続いてバックからポーチを取り出すと作の上に並べる。
「こっちはサブスクでの香水。 ちょっと見てみる? 10プッシュくらいでなくなっちゃうから全員で試すのは無理だけどさ」
Mtレディの所で週末インターンが始まり、安いバイト代のようなものとは言えちゃんと出る。その分毎週土曜日の午後から日曜日17時まで拘束時間は長い。
「え、見る見る!」
「どんなのがあるの?」
芦戸さんと葉隠さんが特に食いつき、7個の小さな香水瓶だけれど10回くらいしか使えない事で全員一回ずつ試すなんてできない。誰か代表して一つを使ってみて香りを確認するに済ませる。
「これ優しい香り!」
「こっちはえ~と、オーデサンスって奴!」
「あっこれ良いじゃん」
「なんか大人な感じがする」
「ローズサイレンスって書いてあるよ」
「薔薇ね。 優しい香り ケロ」
「サブスクだから定期的に選んで届けてもらってる。 ちょっとお小遣いの負担だけど、結構いい感じでしょ?」
久々にみんなが集まったことで話も弾む。香水を試しながら大変だった職場体験で得られた経験や、どうしたらもっと良かっただろうなど様々だ。
練習場
職場体験で伸ばした力を試しさらに伸ばすため、クラス全員が授業後に集まっていた。あの爆豪とて練習場でジーニストの元で学んだことをさらに高め、自らの糧とするために何かは分からないが個人練習をするため家に帰った。飯田はいまだ踏ん切りがつかず、今日もまた家に帰り両親や兄とヒーローについて相談を続けていた。
各自が練習している中で常闇はダークシャドウと共に空に舞い上がり、用意されている高所の目標物を触れながら飛行練習を続けていた。
「くっ、まだ安定が」
速度を出すとまだ空中でバランスを崩してしまい、その為に大幅に減速し時速30km程度でゆっくりと飛行している舞華にさえ追い抜かれてしまう。どうしても日光に当たるとダークシャドウのパワーが落ちてしまう欠点も消えていない。
「ヒーロースーツを改造したほうがいいよ」
「昼休みに改良案は提出はしたのだ。 だが即日とはいかなかった」
「チャントヤッタゾー」
常闇もダークシャドウを覆える改良型のマントと、飛行中の眼を護るゴーグル等のコスチューム改造申請はしたのだが、さすがに即日に出来るというわけではない。
「飛行できるのはやっぱいいよな。 こっちは一つ一つ登らないとさ」
瀬呂はテープを利用して高所にある目標まで登り、次の目標近くに到達するようセロファンを利用してロープのように使う。それでも職場体験先でのヒーローの指導を受けて身軽さに磨きをかけたらしい。
明日にはヒーロー実技の授業がある為、それに備えみんな職場体験で得た経験や知見を自らの糧になるよう練習を続ける。
「スマッシュ!」
そんな中、気合の声と共に拳を振るった緑谷の一撃が巨大な的を完全に破壊した。
「おぉ! 緑谷腕壊さずに力の制御できるようになったのか!」
「やるじゃん!」
「緑谷もプルスウルトラしたのか! 俺も負けてらんねぇ!」
クラスメイト達から緑谷の成長を喜ぶ声が上がる。
「うっ、うん。 体験先で力のきっかけとかを教えてもらえたんだ。 まだ集中を切らすと危ういんだけど」
照れながらこぶしを握り締める緑谷、制御できる数パーセント内範囲だけとはいえ、元々自壊するほどの“超パワー”故にほんの僅かでも制御できれば大きなアドバンテージとなった。
それから授業も進み、中間試験も終わり期末試験も近くなるとどんな試験になるのかと傾向と対策を取る為食堂で相談している生徒達も増えていた。テストは筆記だけではなく実技もあるということでみんな悩んでいる。
「とりあえず、大学とかで聞く先輩からの過去問とか出来そうにもないし、筆記はともかく実技は基礎練しっかりやるだけじゃない?」
「やっぱりそうなるかしら ケロ」
平然としている舞華は中間2位だったので問題は実技、しかし先輩に知り合いはいないので何も知らない。緑谷がどうすべきかと食堂で食事中だというのに思考の海に落ちていく。そんな中、椅子に座っていた緑谷が突然頭部を肘打ちされ揺らめいた。
「あぁ、ごめん。 頭が大きいから当たってしまった」
通路から少し離れた場所にいた緑谷の頭部にあたるはずもない。明確な行為を事故だと言いながら笑う姿に舞華は席から立ち上がり近付く。
「なにかn」
近付いてきたことに何かを問おうとした相手の頭を掴み、舞華は床に体重を掛けながら叩きつける。緑谷を攻撃した生徒はB組でヒーロー科の物間、受け身を取り頭部を守ったものの持っていたトレーに乗っていた食器とグラスが床に当たって割れ、周囲に響いた音で視線が集まる。
「あぁわるいな。 少し手と足が滑った」
舞華はそう言いながら今度は胸部に掌底を打ち付け、立ち上がりながら腹を踏みつける。
「あぁわるいわるい ついつい足が滑ってね。 まぁ許すよな? お前は通路からそれなりに奥まったテーブル席の緑谷の 後頭部への肘打ち をうっかりしたのと、ごめんという言葉で許せと言ったんだからなぁ?」
力を込めて腹部を踏みつけるとくぐもった声と共にどかそうと力を込め、物間の両手が足を掴むが舞華は構わずさらに体重をかける。
「私がこのまま足を滑らせて、お前が吐き戻すザマになろうが、うっかりやった事だから許さなきゃいけないよなぁ!?」
声を強めながらさらに力を込めて踏みつけ、膝から炎を噴き出させ推進力とすると物間の口から危うい息と声が漏れ始める。
「ごめん! こいつちょっと頭が!」
慌ててB組の拳道が舞華の腕を掴むもまったく動かない。舞華は視線だけ向ける。
「頭がアレだからって緑谷への暴力を許すなら、私もアレなのかもしれねぇな。 だからうっかり頭がアレな俺がこいつを再起不能にしても、許してくれるわけだ?」
余りの言い分にゾッとしながらも、物間もまた同じ論調で緑谷に嫌がらせという暴力を振るったのは確かな事。
「やばいって! おちつけって!」
慌てて峰田は踏みつけている側の足に縋りつく。わりと根性が座っているというか、何度も焼かれたり蹴られた経験がある峰田は、舞華が炎を出しても本気ではクラスメイトに害をなさないと色々な意味を含めて信頼し右足に抱き着き持ち上げ止めようとしている。
「みんな魔神さんを! 轟君は炎を氷で抑えて!」
「魔神君! 落ち着きたまえ!」
「落ち着け。 やりすぎだ」
緑谷・飯田・轟が止めようと4人係りで取り押さえようとし始めると流石に騒ぎになり始め、舞華は炎を消し足をどかす。
「……わかったよ。 でも拳道さん? ブラド先生と相澤先生にはこいつがやったことははっきりと伝えさせてもらう。 報復したあたしも怒られるだろうけれど、頭や心がアレという言葉で、怪我をしかねない暴力の嫌がらせをする奴を、ヒーロー科所属なんてふざけたことは言わせない。 二度とやらないように矯正させろ」
「わかった! 今回は本当にごめん!」
それは、次はないという明確な意思表示、拳道が物間を引きずって離れて行った。
舞華はいまもまだ足にくっ付き、ひと段落着いたと落ち着きながら頬を太ももにこすりつけていた峰田を振り払い、転がっていく峰田は梅雨ちゃんに舌ではたかれた。
「相澤先生の所に報告行ってくる」
騒ぎになっている食堂から舞華は出て行った。その後、報告を行った舞華はため息をついた相澤先生から軽い説教を受け、その後反省文の提出という形で済はした。
後頭部への肘打ちは冗談や嫌がらせで済む問題ではないという判断もされ、ブラド先生は物間の起こした行動に謝罪を含め強めに注意と警告をしておくとなった。
相澤side
危惧していたこと、悪意への過剰な攻撃反応は精神の問題と入学時から分かっていた。
「すまん。 物間にはきつく指導しておく」
ブラド先生から謝罪。物間も聞く限り少し問題があるとは分かっていたが、さすがにただ座っているだけのA組生徒の後頭部に肘打ちをするなど加減をした軽いちょっかいというレベルで済む事は出ない。
「いえ、こちらの生徒も問題がありました」
少し遅れて届いた情報では物間は痣は出来たがそれだけで済んだらしい。しかし精神的問題は余りにも大きい。爆豪もまぁ問題児ではあるがあれは幼さとプライドから来る拘りと攻撃性だが、魔神の場合は異なる。
「敵意への過剰な攻撃性の反応か。 厄介だな」
雄英入学前に仮免許を取れる努力と才能、そして向上心。しかしそれさえもマイナスにしてしまいかねない精神の問題。
ヒーロー公安協会からはヴィラン組織で個性を弄られさらに組織出身とされ監視対象という身柄。オールマイトが後見人だとしても、のちのちの為に雄英への入学がほぼ強制的に決まっていた。
もし、士傑であったのならば、あそこは規律と伝統を重んじた厳格な校風の学校だが、最悪魔神はヴィランになっていた可能性が高い。しごきの名目で苛めや暴力を目にしたのならば、最悪殺人を犯していた可能性さえある。その辺りがいまだ士傑はいまだ抜けていない。
自由と最先端、悪く言えば教員や学校側の負担も大きいのだが、生徒に対して融通が利きやすいという側面もある。差し詰め根津校長がオールマイトから聞き手回ししたのだろう。
「さて、どう指導したものか」
職場体験期間、魔神は短期の試用インターンだったが目立った問題はなかったとMtレディ事務所から書類は届いている。警邏中に遭遇したヴィランへの対応、事務所内での言動や行動、すぐにサイドキックとして動けるレベルと記載されている。
攻撃性の切っ掛けとなっているのは、仲間と認識した対象への悪意の攻撃だろうか。
「いや、悪意のない悪意……か?」
相澤は指導方針について悩み続ける。