実験体MM   作:柳月&独鴉

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3.入学日

 魔神は40分ほど早く登校し、最後尾一席だけのところに着席していた。

 本来は20人かつ最初は名前に順ずる席順となる。しかし峰田実の身長の都合もあり、少しだけ席順が変更され魔神舞華が八百万より後ろの最後尾になっていた。なにせ舞華は高校一年生であるが180cm近くもあり、クラスの女子で最も背が高く前や中頃などは後ろの生徒にとって黒板が見づらくなってしまう。

 横に誰も居ない最後尾というのは少々寂しさもあり、しかし普通科やサポート科などからの移籍も時折ある為、それを考慮した初期20人なので最大24人までは許容範囲であった。A組とB組を合わせて通常は最大移籍は8名ということだ。

 

 

 次々と同級生となる生徒が自らの席に座る。日本各地から集まってくるため同中学校の生徒はいないらしく、みな隣の席や話しやすいと感じた相手に自己紹介を行っていた。

 

「おっ、あの時の姉ちゃん。 やっぱり合格してたんだな!」

 

 聞いた覚えがある声の方を向くと、特徴的な髪形をした背の低いのがサムズアップしていた。

 

「ん、あの時の奴か」

 

「名前がなかったから落ちた方と思ってたぜ」

 

 魔神は一般合格とは少々異なる。もちろん学科・実技の試験の結果としては合格点であるのだが、殺傷力が低い技もあるのかと確認が行われ、正式な合否判定結果には遅れてしまい載っていなかったと伝えられていた。

 舞華の呼吸や発言の為に揺れる胸を峰田はガン見していた。

 

「ちょっと事情があってな。 それはともかく」

 

 舞華は小さな炎を右掌から出し少しずつ大きくしていく。

 

「見るのは男だから仕方ないと許すさ。 まぁガン視もほどほどまでならな。 でも、触れたり写真や映像に残すなどしたら」

 

「わかってるって! ぜってぇそんなことしねぇよぉ!」

 

 少し涙目になりながら峰田は何度もうなずき、そんなことはしないと断言した。

 

「それならいいよ。 同じクラスメイトとして頑張っていこうぜ」

 

 舞華は笑いながら火を消すと握手を求めて手を差し出した。峰田も少しおっかなびっくりながら握手を返し、その後自分の手をじっと見ている。無言で舞華が掌に炎を宿すと慌てて自分の両手をすり合わせる。

 

「おっ、おいらは峰田実、よろしく!」

 

 そんなやりとりを見ていた一つ前の席に座る女子がそっと椅子を向けた。

 

「あの、私は八百万百と申します。 よろしくお願いしますね」

 

 それから3人で話をしている最中に胸をガン見していた峰田を何度か蹴飛ばしていると、大きな声が教室に響き目を向けると机に両足を載せ少々態度悪い奴がいた。

 

「クソエリートじゃねえか、ぶっ殺しがいがありそうだな!」

「なっ!ぶっ殺し、君酷いな本当にヒーロー志望か!?」

 

 またメガネをかけた奴が何かしているようだ。自己紹介で学校の名前まで話しているだけに単純なのか目が曇っているのか、正義感と規律の暴走なのか、どちらにせよ後々で問題を起こしそうなやつではあった。

 放っておけば突然教室に入ってきた教師に怒られるだろうに、舞華は呆れながら何も言わずに眺めていると、さらに教室に入ってきた同級生をにらみつけたところでミノムシのような姿をした先生が入室してきた。

 舞華は知っている。確認試験を受ける際にも参加して居た教師、八木さん(オールマイト)の話では他者の個性を一時的に消去できる力を持つ、個性に依存しきったヴィランにとって一対一という環境下ではもっとも恐ろしい相手、ヒーロー“イレイザーヘッド”であった。

 

「全員これ着てグラウンドに集まれ。 個性テストを行う」

 

 全員が入学式ではなくいきなり個性テストを受けるということに驚き、ガイダンスなどはどうなるのかと混乱しているけれど、急ぎ着替えグラウンドにでるとあの態度の悪いのが首席らしく最初に例題としてテストを受けるようだ。

 

「しねぇぇぇ!」

 

 物騒な掛語で口が悪すぎる為に舞華も少々呆れを通り越し、もう放っておいて自滅させようと舞華は考え、他のクラスメイト達も閉口しつつも飛行距離が非常に長い事にも驚いていた。

 

「もう一例だ。 魔神、お前もやってみろ」

 

 投げ渡された計測用のボールを舞華は受け取る。計測ボールを右手の5指で掴み、左手で右の前腕を掴み反動で負けぬように足元をしっかりと踏みしめ構える。

 

「では、飛べ ロケットフレア!」

 

 右腕を爆炎が包み込み炎が腕の形を形成、ボールを掴みながら飛翔しどんどん距離を伸ばしていく。一方で離れていくたびに制御が甘くなっているため、なんとか制御しながらであったが最後は形を保てなくなりボールは地面に転がる。

 

「1121m」

 

 測定結果はそれなり、若干一名が凄い表情で睨みながら舞華を見ていたが、気にすることもなく気を抜く。

 

「なにこれ、すごく面白そう!!」

「個性思いっきり使えんだ! さっすがヒーロー科!」

 

(それはヒーローとして不味い思考)

 

 盛り上がるクラスメイト、しかし個性はヒーローがヴィランや災害から誰かを救うために使用するから許される。それは雄英生徒だからようやく自由に使えると考えるのは正直良くない。

 それは魔神は幼い頃にオールマイトに保護され、忙しい為にオールマイト個人だけではなく、オールマイトの身内ともとれる信頼できる多くの人達、模範的ヒーローでありその考え方は様々だが一貫していた。個性はとても危うい、人を助けられ救えるけれど、容易く殺せてもしまう。だからその力は慎重にそして甘い考えをもって使ってはいけないと教えられていた。

 

 相澤先生の表情が変わり、小さくため息をつく。

 

 「……面白そう、か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい。 よし総合トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

 衝撃発言に固まるクラスメイト達、そんな中でくせのある緑髪の毛同級生が絶望的な表情を浮かべている。

 個性があるように見えない、ただそれも別段おかしい事ではないと舞華は思っていた。

 古参ヒーローの話ではオールマイトが学生時代は無個性でも雄英に入学した生徒は居たし、無事に卒業してヒーローにもなったらしい。知恵と勇気と根性の時代だったらしいけれど、それが今でもいたところで別におかしなことじゃない。

 それとも何かハイリスクな個性のため、そう何度も扱えないタイプの可能性だってある。

 

 順調にテストが行われていく中でも緑谷は高評価を出せず、クラスメイトの各々が得意とする系統で高得点を出していく。やはり高倍率の中を抜けてくる雄英の学生達は体と頭に個性を鍛え挙げてきている。

 順番が回り緑谷が覚悟を決めてボールを投げるも平凡な記録、相澤先生と話したのちに再度投げ、衝撃音共に計測ボールの距離はどんどん伸びていく。

 計測結果と共にまだ動く事が出来ると伝えるも、凄い覚悟と共に指が折れているのが見える。少なくとも指を代償にしたのは確かだった。

 

(危うい……かな)

 

 舞華はもしかしたら、緑谷は増強系であるが個性の反動もしくは代償が人体の損傷を引き起こすのではないかと考えていた。

 そういうタイプがいままで3人だけいたことは舞華は引退したヒーロー達から聞いていた。代償というものがある代わりに、その増強割合は並みの身体の数十倍まで身体能力が引きあがる。そう悲しく語ったオールマイト、以前オールマイトに迫る超パワーを持つヒーローがいたらしいが、その反動で体が壊れては治療を繰り返したことによる衰弱死によってたった5年で亡くなったそうだ。

 そして舞華は保護者であり後見人であるオールマイト(八木)からOFAを継承したことは聞いていても、誰に継承したかは安全のために知らされていなかった。

 

「デク! てめぇどういうことだ!」

 

 ずっと態度が悪かったクラス名との爆豪は手から爆発を起こしながら緑谷に向け駆けだし、その様子を見て近場に居たクラスメイトの峰田を舞華は掴み上げ投げてしまった。

 

「なっなぁぁぁぁ!?」

「ぐがっ!」 

 

 爆豪の背中へとっさに空中で体制を整え直した峰田の蹴りがきまってしまう。前のめりに地面に倒れるも怒りの表情を浮かべながら魔神の方を向きながら立ち上がる。

 

「てめぇ! なにしやがる!」

 

「ひっひぃぃぃぃ!」

「とっさにやっちまった。 わるいな峰田」

 

 完全に切れているだろう爆豪の今にも人を殺しそうな悪人面に峰田は舞華の後ろに隠れるも、舞華は気にする素振りもなく手から小爆発を繰り返す爆豪と対峙していると、相澤先生の操る捕縛布に爆豪がからめとられる。

 

「よく止めたな。 だが少々やり過ぎた」

 

「すいません。 とっさのことだったもので、近場にあった峰田を投げつけました」

 

「今後は気を付けろ。 それと爆豪、これ以上個性を使って暴れるのなら、除籍にするぞ」

 

 警告が発せられると舌打ちをしながらも大人しくなり、緑谷と舞華を睨みながら引き下がった。

 それはともかくとして、次のテストが構わず進められる様子に、舞華は緑谷の近くまで行くと無造作に右腕を掴み上げた。

 

「えっ、ちょっ、えっえっ??」

 

 緑谷は女子に触れられることに慣れていないため、痛みで歪んでいた顔が真っ赤になりしどろもどろになりながらその場に固まる。

 

「状態からして筋組織の酷い損傷と内出血、よくもまぁ無理な事をする」

 

 舞華はハンカチを取り出すと紫に変色している人差し指と無事な中指を合わせ、ハンカチで単独では自由に動かないように固定する。

 あくまで突き指などに向いた応急処置とはいえ、何もしないまま個性把握テストを受けるべきではない。

 

「お前が覚悟を決めてやったんだから、終わりまで気合入れていけよ」

 

 舞華はそれだけいうと次の個性把握テストに移り、緑谷は力を使わずにテストを受け続け最下位を取り続けた。

 残念ながらであったものの、合理的な虚偽によってその能力を最大まで引き出そうとしたという。

 八百万は冗談に決まっていると言っているものの、舞華は本当に落とすつもりだったんじゃないかと思っている。視界の端に見えてしまっている校舎の影、こちらを見ているオールマイトの表情からしてだ。

 隠れているようにしてもその体格から上半身の左半分が全部出ていて、視線が一度向いてしまえばはっきりわかってしまう。

 オールマイトは口元に指をやってしーっと言っているので、舞華は静かに少しだけうなずき何も気づかないふりをし続ける。

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