実験体MM 作:柳月&独鴉
授業の内容は少し高校レベルにしては高い範囲らしく、割と出来が良い魔神もついていくことは出来ても満点と言えるような理解は出来ていなかった。
本日はヒーロー科ならではのヒーロー基礎学。
「わーたーしがー、普通にドアから来たぁぁ!」
「オールマイトだぁぁぁ!」
「シルバーエイジ時代のコスチューム!」
オールマイトの登場にクラスメイト達は沸き立ち、舞華は見慣れているのでシルバーエイジ時代の服は珍しいくらいにしか思っていなかった。
「早速だが今日はこれ! 戦闘訓練!」
バトルの文字が掛かれた札を出し、そして教室の壁に手を向けると壁から棚がせり出しナンバーが掛かれたトランクが出てくる。
いきなりの発言であるがオールマイトらしいというか、新任ゆえにオールマイトに向いた学問を学校側が担当としたと思われる。
男女に別れ更衣室へと移動し、着替えを始めたのだが。
「どうしたんだ? みんなこっちみて」
「ちょっ」
「スタイル……すごい」
「どうしたらその大きさになるのかしら ケロ」
さすがに恥ずかしくなってきた舞華は隠しきれない胸だけを手で少し覆い、手早くアンダーでもあるレオタードタイプのスーツを着用する。
「大きくても邪魔だって。 それに生活に支障があるし、汗で谷間が蒸れるし汗疹になるし、下着も種類が限られるし、電車じゃ常習的に胸や尻が触れる痴漢に遭うのは腹立つぜ?」
一部同調できる八百万は頷くも舌打ちが聞こえる。大きい方が良いというけれど余りにも大きいと邪魔でしかない上に、胸に多くのケアが必要だしやブラの選択の限定されるし、運動する際のデメリットと常設的視線のセクハラを受ける。
そして峰田は偶発的な事故を狙いはするがあからさまに触れようとはしてこない。わりと見るだけで意図した実行動はとらないのはヒーロー候補としての矜持なのか、それともただのヘタレなのかはともかくとして。
電車では成人男性と中学生未満の男の子が峰田よりもガン見して意識的に触ろうとしてくる。正直いうとたちが悪すぎて嫌になっていた。
「あたし的には梅雨ちゃんみたい可愛いほうが良いと思うんだけどね」
余り雑談し過ぎて遅れてはならないため、話はそこまでに切り上げ急いで着替えを終えると集合場所へと集まる。集合時間まで若干の時間がある為に再び雑談に戻るとそれぞれのコスチュームが話題となり、注目を集めたのは舞華と八百万であった。
「コスチュームもすごいわ ケロ」
「八百万は創造だっけ? その為に肌面が多いのかな」
「あたしは炎のどうしても都合上ね。 肌が出ていないと熱管理がまだ出来ないからさ」
舞華のベースはレオタードに近いものを使用したヒーロースーツ。
股の切れ込みが鋭く肋骨付近までサイドががら空きのため、腰から前と後ろ側に太ももの中ほどまで垂れ下がるように布があるのは企業側の配慮。
上半身も肩甲骨から肩を経由し二の腕まで完全に露出し、手のひらから肘までを黒い細身のガントレット。
尻から膝まで覆うものはなく、膝から下は黒く細身のレギンス。胸元も深い切れ込みで谷間が見えている。
露出狂にも思えなくもないがこれは個性を扱う都合上でもあり、肌感覚で炎の温度を測る為に地肌が露出している場所が多い方が都合がよかった。
男子連中も集合場所につくとガン見しながらも無言でサムズアップする峰田と、テンションが上がっている上鳴、他のクラスメイトは視界に入らないようにそっと視線をずらされたりと配慮が見られた。
「きっ、君! 学生としてなんたる格好をしているんだ!」
やはり飯田という男はどこか善意が悪回転しているとしか思えず、舞華はため息をつきながら肩から小さな炎を生み出し肌の上を滑らせ、そしてガントレットの上に到達するとその速度が急激に落ちる。
「うるせぇな。 個性の都合上地肌じゃねぇとわかりにくいんだよ。 確認も取らずにいちいち突っかかってくんな」
目で見てようやく納得したのか謝罪はしたが、やはりコスチュームに関して思うことはあるようだ。
各チームごとに訓練が開始され、第一試合である緑谷・麗日VS爆轟・飯田戦は警告と注意が特に多かった。
緑谷を必要に追い回すが麗日を全く対処しない爆豪、その上に攻撃はするが倒す事も捕縛することもせず、まるで嬲るように攻撃を続ける様はヴィランらしいと言えばそうだが、私情が入っているとしか思えない行動は見るに堪えるものではなかった。
終了と共に右腕の複雑骨折と左腕の裂傷と打撲によって緑谷は保健室に、片やあれだけ一方的に暴力を振るい怪我のない爆轟は茫然自失と共に怒りに震えている。
一方的暴力行為を受けながら常に大局と先を見続けていたのは緑谷、人としてヒーローとして、爆豪は格下であるということが証明されてしまった。
たった一日だけれど、授業の態度と成績からその地頭の良さが良く分かり、自らというものをある程度理解している事だろう。
「はぁ、本当に面倒なのに目を付けられたのか、それともそういった性格なのか」
舞華は無意識で近くにいたクラスメイトを引き寄せて抱きしめ、ため息をつきながら頭を撫でまわしていた。
「あの、ちょっと困る ケロ」
「あっ、ごめんごめん。 つい可愛いから抱きしめちゃった」
うっかりとアスイを撫でまわしていた舞華は抱きしめるのを止め、そのままオールマイトによる評価の説明を受け魔神は自分の番が来るのを待つ。
21人の都合上一組だけ3人になる。相手となるヒーローやヴィラン側はプルスウルトラ!ということらしく、魔神はそれにあたった。
チームアップは尾白という脚よりも太い筋肉で構成された尻尾を個性として持つ格闘系男子と、葉隠は自己限定であるが光を屈折させる個性を持つ透明系女子。
ヴィラン側になったため先にビルに入り与えられている作戦時間にざっとした役割や知っている事を共有する。
「轟は確かエンデヴァーの家、個性は氷と峰田が言っていた。 障子は体の部位である耳とか目とか腕を一定数増やして作れるんだったかな」
「もう調べてるのか」
「すご~い。 ねっね、どうやって知ったの?」
最低限調べているというか、スケベな事を言った峰田の頭にあるグレープもぎもぎを焼いてからなでて調べさせた情報。プロになればチームアップする仲間でもあるし、体育祭では競い合うライバル。
「峰田の頭を二回撫でて調べてもらった。 スケベで色々手遅れだけれど、頼めばそこそこ使える奴だよ」
葉隠も尾白もすでに言動や行動から峰田はどスケベな奴だと知っている。しかも舞華の胸をガン見しているし、席が近いからと頻繁に話しかけたりしているのも見ていた。
舞華も軽く笑いって引っ叩いたりしながらも、結構話に混ぜたりもするし峰田がやらかし発言をすると炎を出して軽く脅したりとする程度に、傍目には少し仲が良い程度には見えてもいた。
「開始!」
オールマイトのスタートの合図と共に待ち構えていると、一瞬でビルが氷漬けになり部屋にいた三人と模擬核弾頭が氷漬けにされかけるも、同時に舞華の爆炎が部屋を駆け巡り3人に届く前に溶かし尽くした。
「やっやばばば。 ささむむいってこれ!」
「全部氷にするなんて、すごい効果範囲だ。 まさかビル全部やられたのか?」
道着を着ている尾白はともかく、個性を十全に生かすために全裸になっていた葉隠は寒さに震えている。部屋だけは舞華が炎で溶かしているとはいえ、ビルが凍結するほど冷却された状態では室温は零下に近い。
「轟の迎撃はオレがやるから二人は予定通り対障子を頼む。 氷が相手ならまぁなんとか溶かしきれる。 それと、やっぱり透過時間が減ってもサポートアイテムの服着たほうが良いって。 風邪絶対引くわそれ」
舞華が焚き火サイズの炎を床に作り出し、葉隠はそれに当たっているがやはり見えてはいないものの震えていることくらいはなんとなく察することができる。
「あんまり為にならないからやりたくないんだけど」
舞華は両腕を広げて背後から葉隠れを抱きしめる。はっきりとした位置が分からない為に手を握る事も出来ず苦肉の方法であったが。
「えっえっ、ちょっとどう」
「フレイムエンチャント」
舞華の身体から炎がゆっくりと葉隠れの身体へと移り消えていく。状態が分からずに尾白は首をかしげていた。
「これで寒くはなくなっただろ? あくまで体温を上げるだけだし長くは持たないけれど」
「えっ、あっ、そういえば寒くない!」
見えないけれど身振り手振りで動く手袋のおかげで動く音から興奮している事が舞華と尾白には分かった。
「ディフェンスは二人、オフェンスは一人、あとはおねがい。 それと葉隠さん、ひっそりこっそり、得意を生かして頑張って」
それだけ伝えて舞華は部屋を出ると階下に降りて行き、通路で氷を左半身に纏うコスチュームをもつ半冷半燃の轟と遭遇した。
「よう、半端ヒーロー」
ヴィランらしく軽い挑発を行った舞華であったが、轟は何も言わずに氷を作り出し壁などを伝って迫る。
待機室
カメラからの映像を見ながらA組の面々はオールマイトから説明と講義を受けていた。
「轟はすげぇよ。 一瞬で視界は氷の山だぜ」
「そうですね。 凍らせてしまえば無力化と捕縛も容易いです」
A組の生徒がいくつも氷を作り出す速度は速く、壁までも氷が覆い尽くしながら伸びる氷塊は極めて攻撃性が高く、そして標的を捕えるのに適していることに評価をしていた。
オールマイトはなんとも説明しにくい部分があるのはわかってはいる。魔神舞華は例外と言える人工的に個性を強化され、それを苦しみながら自らの力として受け入れつつあるが、学生としては個性が余りにも強すぎる。
「轟少年の氷結は効果範囲と威力調整も良く鍛えられている。 即座に成形し地面を走る氷のサイズも速度も申し分ないといえるね」
生徒達が頷くようにオールマイトの説明を聞き、音声がないカメラ映像を見ていた。
生徒達には音声がない映像越しではあるが、爆発音の幻聴が聞こえるほどすさまじい勢いで炎が広がり、轟は二重三重と氷の壁を作り出すも尋常ではない速度で溶けていく。そして爆炎であるが故に衝撃もあることから通路という狭い空間で爆発の衝撃も襲い掛かっているため痛みに表情を歪めていた。
床や天井に至るまで凍結させながら迫る氷であるが、床から天井まで覆い尽くす爆炎によってお互いの中間地点でほぼ止まっている。
「千日手、攻防互角で決め手がありません。 このまま時間が過ぎればヴィラン側の勝利となります」
八百万少女の言っている事は6割方正しい。障子少年は動いているがおそらく尾白少年と葉隠少女の2人相手では押し切れず、決め手は轟少年と魔神少女の2人だろう。
決め手は魔神少女がどこまでクラスメイトを信じて力を見せるか、実技試験も個性把握テストも全て加減した“娯楽作品を模倣した技”の範囲だけ、私や長らく親交のあるヒーローの前で練習していた“凶悪なヴィランと戦う技”は使っていないのだ。どこか、やはり、傷を負っている心では他者を信じ切れていない。
それでも、だ。
「おい! 壁が溶けはじめてんぞ!」
切島少年の言葉に皆の視線の意識が周囲に向けられ、コンクリートの通路が魔神少女の周辺だけ溶け始めているのが見えた。
魔神少女から噴き出す爆炎が急激に増え、コンクリート製の壁も溶け始めその熱量が1300度に達していることがわかる。単純な熱量の力押し、氷結による冷却よりも爆炎による熱量が上回り、轟少年の周囲に形成されている氷までもが溶け始めている。
魔神少女が片手を耳に移動させ何かを話した直後、近くのカメラを壊すほどの爆炎が3階通路の全てを覆い尽くし、数秒後炎が消え去り離れたカメラには意識を失った轟少年の姿が映し出された。
核防衛側
二人の小競り合いの間に、模擬核爆弾の部屋の隅に隠れていた葉隠少女が尾白少年と障子少年の戦いの中で、こっそりと障子少年の足を引っかけて転倒させたことで勝敗を決した。
実力伯仲、そんな状態でお互いに必死であったために他に気を向けられず、尾白少年がたった一つだけあまりその場から動かずに応戦していたことに気付かず、捕獲テープも持たず足を引っかける為だけに動いた葉隠に気付けなかったためだ。
「葉隠さん連絡!」
「魔神さん! こっち捕えたよ! 聞こえる!?」
壁近くの床に置いておいた小型通信機を耳に戻し、葉隠から声をかける。
『了解。 こっちも”今”終わらせる』
その直後ビル全体を揺らす振動が響き、少し遅れて轟捕縛の連絡がオールマイト側から入り訓練は終了した。
放課後
腕の治療を受けているクラスメイトの緑谷が戻ってくるのを待ちながら話をしていた。
「やっぱり」
「アレだよな。 ヴィランの演技が面白過ぎて」
MVPだった飯田が話題の中心となり盛り上がる初めてのヒーロー実技授業。やはり各チーム戦の中での行動が注目される。個性の特徴や使い方、それぞれの利点欠点など雄英高校の生徒だけあって向上心は高い。
「魔神もすげぇよ。 あれどうやったんだよ、あの一面炎で覆った奴」
赤い髪が特徴的な切島、個性は硬化という単体戦向けに向く。性格もムードメイカーというよりも全体の潤滑油の様にバランスをとる男だ。
魔神が轟を気絶させる際にビルの3階部分を全て炎で覆った力を気にしているようであった。
「あれはただの力押し。 技とかそういうじゃないよ」
「え、いやだってさ。 あれだけの」
上鳴は舞華の言葉に驚いているが、単純に放出する爆炎の量を増し無理やり押し切っただけ。熱もコンクリートが溶ける程度で、舞華にとってはもっとも制御のしやすい範疇でしかない。
「だから力任せ。 轟だって氷を操作しただけで技ってわけじゃないだろ。 お互い出し惜しみしててたまたま勝っただけだよ」
そんな話をしている中でも爆豪は参加せずに帰宅し、緑谷は何かを伝える為に追いかけて教室を出ていた。