実験体MM 作:柳月&独鴉
四月も中ほどになり、数度のヒーロー実技を経てそれなりにクラスメイト同士で個性や性格もはっきりとわかり、初の救助授業のため学内をバスに乗って移動中も個性についての話題で盛り上がってた。
「やっぱり派手な個性だと人気も上がりやすいし、轟とか一気に行くだろうな」
「派手だけど爆豪はむずかしいよな! くそを煮詰めたような性格ってもうわかってっし!」
「うるせぇ! 出すわ人気!」
「ほらまたぶちぎれてんじゃん」
1A組にとって初めての救助授業、移動の間も緊張と期待の良い状況であったのだが、舞華は時折発生する個性の揺らぎで体調を崩しバスには乗っていなかった。保健室で昼休みを過ごしてからの移動で救助実技に遅れており、皆が実技場に着くころようやくUA高校の無人移動車に乗って向かい始める。
USJ(ウソの災害や事故ルーム)
救助を専門としたヒーロー 13号先生による個性の危険性についての説明や、今回USJ内で行う救助訓練の概要や要点などの説明を受けている最中に事は起きた。
入り口付近に黒い霧のようなものが広がり、雄英に関わる人間ではないだろう者達が続々と出てくる。転移系の個性のようであったが、先生たちが生徒達の前に出るなどただごとではなかった。
すぐに相澤先生は学校側に対してあらゆる手段をとって連絡するように個性持ちの生徒に伝え、そして13号先生に生徒達を連れて非常口から脱出するように指示を出してヴィランと戦うためにたった一人で飛び出していった。
相澤先生の個性殺しの抹消の個性によって数多くいるヴィランは突然力が使えなくなり、分かっていても混乱してしまい動きが鈍った所を捕縛布と体術を使った攻撃で次々と昏倒させていく。しかしその様を恐らく指揮を取る立場にあると思われる3人はとくに焦る事もなく見ていた。
相澤先生の指示によって1Aの生徒は13号先生と共に別の出口から脱出するため非常口へと向かおうとしたのだが。
「初めまして。我々は敵ヴィラン連合僭越ながら……この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして。
予定通りならばここにいらっしゃるはずですが。 まあそれとは関係なく……私の役目がありますので」
黒い影の塊のようなものが現れ、生徒達を飲み込もうと広がり始まる。13号先生の個性でもあるマイクロブラックホールによって黒い霧が飲み込まれ防がれているのだが。
「俺達にやられるとは思わなかったのか!」
「なめてんじゃねぇぞくそが!」
黒い霧の個性だろう人物に対して攻撃を切島は硬化した手刀を、爆豪は爆発を叩き込もうとするも霧の部分を通過し効果が見られない。
だが、そのせいで生徒達を飲み込まないようにと13号先生は個性を使えず、黒い霧は急速に広がり生徒全てを包み込んでしまった。
舞華がUSJの入り口に到着したのだが入口の大きな扉が開かず、近くに備え付けられている非常電話に手を取るも何も音がしない事に異常性を感じていた。
(何か変だ)
念のためオールマイトから渡されている非常通報用の小型機を押したのち、正門から数メートル離れている小口の非常扉のノブと蝶番を溶断し中に入った。
こじ開けた扉の先に居たのはヴィランというにはなんとも小悪党な感じがする男が二人。どう控えめに見ても、真っ当な生き方をしていないと思われる異形型個性を持つ3人は舞華を見ると下品な表情を浮かべた。
「扉が開いたから増援かと思ったが、ガキかよ」
「はっ、女一人ね。 いろいろサービスしてくれんな」
「ガキの癖に良い体してやがる。 なぶり殺しにするか」
ゲスな言葉に、舞華はゴミを見るような眼で見ながら、右の手のひらを上に向けたまま人差し指と中指を相手の足元に向ける。
「燃えてしまえ」
指を曲げた直後地面から噴き出す爆炎にヴィランは飲み込まれ、炎に全身を焼かれ痛みと恐怖でのたうち回る。
力を抑え最低限の熱量であるが全身を焼き上げられ軽傷とはいえ全身火傷、医療機関で処置を受けなければのちのち命に係わる程度の炎症、舞華はギリギリで制御しながら、そして決して逃げたり別のクラスメイトの所に行かぬよう残虐に苦しめる。
十分に怪我を与え身動きがとなれくなったことを確認し、爆炎を操作し自らを浮き上がらせると戦闘音が響く中央広場へと急ぐと、担任である相澤先生が漆黒の肌をしている異形型と思われる者と交戦していた。
さきほど舞華が倒したような小悪党程度と思われる多数のヴィランは地面に倒れていたが、大柄の異形系増強型個性持ちヴィランと思われる男は巻き付いていた捕縛布が破られ、相澤先生は頭からも血を流し掴みあげられていた。そのまま大柄なヴィランによって相澤先生は地面に叩きつけられ、そのまま腕を踏み砕かれる瞬間が目に入った。
【怒れ・憎しめ・殺せ】
舞華のトラウマはある程度は治っている。ヴィランに対する殺意も憎しみも、多くのヒーロー達の献身的な手助けで、その心に触れる事で舞華の心は大分癒され傷が開く事もない、それでも傷に寄った痛みと憎しみの怒りは消えない。
ヴィランにあっても、まだ相応に冷静に燃える激情を抑えられた。だが今目の前で暴力が振るわれるのを目にし抑えていた物が溢れ出す。どれだけ意識的に思考や脳髄を凍らせ冷静であろうとしても、燃え盛る憎しみの感情の炎は舞華の個性を増大させる。
舞華は広場に着くと共に片手秒間25発、両手合わせて50発の野球ボールサイズの爆炎の弾を作り出し、黒い怪物に向け一気に放つもほとんど効果がない。とはいえ衝撃と火傷によって動きを阻害させ、完全に頭部を防ぐ体制に入っている。
そのわずかな時間に相澤先生は拘束から逃れ距離を取るも、手足の怪我に加え頭部からも血を流し不利な状況であったことがわかる。
「魔神か!? 危険だ! 下がれ!」
ヴィランが受けている攻撃の性質から魔神だと判断し下がるように相澤は伝えるもそれができるはずもないこともわかっていた。相手はかなりの力を持つ異形の象行型なのだ。しかしほんの少し、ほとんど効果がないはずだがヴィランは何故か動きを止めていた。
「なんだ? 遅れてきた生徒か? まぁ脳無に衝撃吸収があるとはいえ邪魔だな。 先に殺しておけ」
体の再生が進んだためかそれとも命令を受けた為か、即座に舞華を殺すために襲い掛かろうとした手が最初に燃え上がり炭化するように崩れ落ちる。そのまま火は全身に回るも無視する脳無であったが、次に足が炭化し崩れ落ちるとその場に倒れ込む。
舞華にとって完全な制御が可能な温度は3000度程度まで、普段なら難しい4000度である黄色に近い炎を操り、脳無の細胞は即座に炭化し崩壊。そして僅かにでも動く脳無を舞華は躊躇なく両腕両足を炎で焼き焦がす。
「へぇ、随分とやばい炎の個性もってんな。 だがいくらでも脳無は再生する。 無駄なんだよ! 脳無、再生してガキを殺せ!」
命令により脳無が持つ超再生によって手足が元に戻ろうとするも、舞華は目を見開くように黒いヴィランを見つめながら躊躇なく手足を爆炎を地面から噴出させることで炭化させ続け動きを完全に抑え込む。その間にも野球ボールサイズの火球を作り出し、数こそ少ないが残る二人、手のアクセサリーを付けた男と黒い霧の男に放ち続ける。黒い霧の男が周囲に広げている黒霧に防がれてはいるものの、攻撃を仕掛けてくることだけは妨げる事が出来ていた。
時折飲み込まれたはずの火球が舞華に黒い霧を通じて撃ち返されるも、当たる前に停止し再びヴィランの2人に向かうように射出される。
そして一分近く焼き払い続けていると体力が尽きたのか、再生も止まり表情もなく目を見開いていた脳無は目を閉じ動きを止めた。
ヒーローだとしても過剰防衛、もしくは手間のかかる聞き取りなどが必要な悪質な戦闘行為、冷徹な表情で淡々と行う舞華に危うさを相澤は感じながらも、今止めたところでさらなる危険度が増してしまう。
「……次」
普段の舞華なら見せない怒りに満ちながらも冷たい眼、それが残る二人へと向けられゾッとした恐怖を感じ、全身に手のアクセサリーを付けている男は一歩下がり声を上げた。
「黒霧!」
その言葉に全身を黒い霧のようなもので身を覆っていたヴィランから急激に広がり始め、舞華は自らを飲み込もうと広がる黒い霧を少しだけ見ると興味なさげに視線を戻す。
「ワールド・ファイア」
舞華の言葉と共にUSJの天井まで到達する爆炎の柱がいくつも舞華の周囲に吹き上がり迫る個性の黒い霧を焼き払う。
その炎の色は白に近づき6000度へと達しようと高まり、周囲の物体が温度に耐えられず溶解を始め、近付くだけでも呼吸器が損傷する危険な領域に入っていた。天井からは溶解した鉄材などが滴り落ち始める。普段の舞華が使う“娯楽作品を模倣した技”ではなく、対ヴィランの為に用意した“殺傷しかねない危険な技”。
幸いなのはまだ舞華は芯では冷静であり、爆炎を操作し空気を巻き込み周囲には高温の酸素が回らぬように気を掛けている点。しかし制御を徐々に甘くなり完全な円柱の火柱は徐々に形が崩れ始めていた。
相澤先生も余りの熱量に距離を取り、口元を抑えながら声を張る。
「魔神! 力を使い過ぎるな!」
片腕の粉砕骨折に頭部の酷い打撲によって相澤先生もまた、担任になるに際して根津校長から魔神舞華の生い立ちと現状の精神状態を説明されている。ヴィラン相手であると感情の制御が難しくなりそれに伴い火力の制御が曖昧となってしまう。つまり相手を殺してしまう可能性の増大だ。最悪個性を使って魔神舞華の個性を封じる事もできるが、いまヴィラン相手に優勢に戦える者は他に居ない。
「くそが。 こんな奴がいるなんて聞いてねぇぞ」
「だめです。 引き千切ろうにも近付くだけで焼き払われてしまい霧が到達しません」
睨むように舞華を見ている二人のヴィラン。歩く程度であるが火柱を維持しながらも徐々に近付いて来る危険な存在に手におえないと理解はしていた。
「トムラ、残念ですが一旦引きましょう。 あれは対策がないと難しい。 一時的でも触れられれば可能性がありますが、現状では何もできません」
「ちっ。 あの野郎、情報が足りねぇし間違ってんじゃねぇか」
黒い霧が二人を覆いそのまま消えていく。イレイザーヘッドとして無効化しようにも、ある程度の阻害は出来るのだが完全に発動している状態ではその範囲を広げるのを止める事しかできない。
僅かながら脳無を回収しようとする黒い霧が迫るも、それも近付けば舞華の炎に焼き払われ近付けずそのまま消え去った。
舞華は敵対者が居なくなったことで炎を消し気を吐く。どれだけ思考を凍らせてもヴィランを見ると憎しみの炎は燃え上がり、舞華の中で個性がヴィランを憎め殺せと叫び続ける。個性に明確な意思はなくただただ強烈な憎しみに襲われ、それが苦痛であり制御することに小さい頃から苦労していた。
舞華は何度も深呼吸を繰り返し、頭の中に響く声が小さくなっていく。
「無理をするな。 辛いのならこちらで個性を抑える」
「……大丈夫です。 もう収まり始めてます」
苦痛に歪む表情に相澤先生は声をかけ、周囲の安全を確認しながらすでに動かなくなっている脳無を完全に動けぬよう捕縛布でぐるぐるに巻き上げる。
それから少しして1Aの全員が集まり始め、救援にUSJにたどり着いた教師たちと共に残党の駆逐が行われ事態は収束した。
魔神舞華は相応に、生徒指導室ではなく校長室に呼ばれ、根津校長・リカバリーガール・オールマイト・相澤教師を交えての説教と事情説明。さすがに生徒指導室への呼び出しや反省文というものはなかったが、軽い指導と敵対した3名の特徴についての聞き取りが行われた。
幸いというべきなのか。クラスメイトの全員が火柱を見ていたが、舞華が出したものとは気付いているクラスメイトは居なかった。表向きは誰も言わずであったが、早く到着していた緑谷・あすい・峰田は様子を遠巻きに舞華の戦いを見ていた。