実験体MM 作:柳月&独鴉
個性が発露したことでオリンピックが陰りを見せ、現在日本中から注目が集まるスポーツの祭典のようなものとなった雄英体育祭。現役ヒーローにとってはサイドキックのスカウト、ヴィランとっては未来の敵を見極めるために日本中から注目される。
各学年ごとに大規模な競技場が存在し、スカウトを考えるヒーロー達は3年生や2年生の競技場に集中し、まだ1年生は未来への投資や可能性を見る為であり、スカウトという考えは薄い。しかし今年はヴィランによる襲撃事件と撃退したという話題性もあり、通年ならある程度は席に空きがある中で満員御礼の状況であった。
A組控室
入場前にそれぞれ意気込みを話していたり柔軟をして備えたりと様々、舞華はゆらゆらと小さな火の玉を自らを周回するように浮遊させながら個性の調子をみていた。
そんな中で轟は緑谷に対し、オールマイトに気をかけてもらっている、個性が似ていると話し、そのうえで緑谷には負けぬと宣戦布告し、爆豪がそれを見て自らに宣戦布告をしない事に対して極めて不機嫌となっていた。
(体育祭の前に轟の奴なにやってんだ。 一人でこの世の地獄を全部背負っているみたいな面して)
舞華は呆れながら浮かせていた火の玉を分割し、複数の小さな蝶に変えたあと頭上で舞わせる。それから轟は舞華の方を見たものの、その向けられた視線は火を睨むように見ているが舞華は見ておらず、火の先に誰かを見据えていることに舞華は気付いた。
「魔神、お前にもだ。 俺は」
「めんどくさい。 あたしは聞かない。 勝手に自分の世界でほざいてろ。 峰田、まだ入場まで時間があるからA組に割り当てられた観客席を見に行くぞ」
舞華は轟の言葉を遮りながら火の蝶を消し、峰田の体操着の後ろ襟を掴みあげ持ち上げるとそのまま控室を出ていく。黙って持ち上げられていた峰田だったが、控室を少し離れると恐る恐る口を開いた。
「なっなぁ。 なんで轟を無視するんだよ。 確かに変な様子だったけどよぅ……」
「あいつ、あたしを通して誰かを見て憎み睨んでやがった。 横に居たお前も、あいつがあたしじゃなくて火をずっと睨んでいたのは気付いてただろ」
なんだかんだ言って舞華は余り峰田を邪険にはしない、峰田は控室でも近くで過ごしていたし良く視線を向けていた。そのことに舞華は気付いていたし、轟の妙な表情は峰田も見ていた。
「峰田だって、体育祭はアレコレあっても純粋に優勝を目指してるだろ。 それなのにあいつは憎しみで優勝を目指して、ふざけんなってな」
後ろ襟を掴んで持ち上げていた峰田から手を放し、舞華はそのままA組の観客席に向かう。
「そりゃ、魔神が火を使っているとき轟の奴はいつも睨んでいたけど。 なんか事情があんのかもしんねぇし」
「事情があったらあたしを無視して轟の事情を押し付けるのがヒーローかよ」
それ以上は舞華も峰田も何も言わず、A組に割り当てられた観客席を一目見た後控室へと戻った。
『年に一度の雄英体育祭! ヒーローの卵たちが我こそはとナンバー1を目指す大バトル!! 一年を見に来たリスナーの興味はこいつらだろ!! ヴィランの襲撃を受けたにも関わらず、乗り越えた新星共!! ヒーロー科1年A組!!』
プレゼントマイク先生によるアナウンスは場をさらに温め、参加者や観客の気分を高調させていく。順番に競技エリアに入場していく中で観客席からの視線と歓声が集まる。さすがに緊張している学生は多く、そして熱狂に押されて気持ちは盛り上がっていった。
ミッドナイト先生が壇上に立つとそのスタイルとヒーローコスチュームから大きく歓声が上がる。
「ミッドナイト先生は相変わらずなんて格好をしてるんだ」
「18禁ヒーローが高校教師をしていていいのだろうか」
「いい!」
「そこ静かにしなさい!」
特に峰田のテンションが上がり過ぎ、大きな声を出したことで注意が出される。それでも観客の男達はミッドナイト先生の一挙手一投足に反応を示し、その人気の高さがうかがえる。
ヒーローになりたての頃はもっと過激な、それこそほぼ何も着用していないようなヒーローコスチュームであり、根強くそして女性ヒーロートップとも言える人気を現在も持っている。
その手に握る個性を活用する為のサポートアイテムでもある鞭を振るい、響く音を合図としていた。
「選手宣誓! 一年A組、爆轟君!」
代表として爆豪が壇上に上がりマイクの前に立つ。何か問題発言をするのではないかと、クラスでは不安がある声が上がっていたが、その通りな発言を爆豪はしてしまった。
「宣誓。 俺が一位になる」
観客席や学生の中でざわめきが広がり、それでも止まることなく挑発的な笑みを浮かべながら学生を見下ろすように言葉を続けた。
「モブ共は、せいぜい俺の良い踏み台になりやがれ」
挑発と見下しを含めた発言に観客席や他の科からのブーイングがあがるも、それでもなんとなく、自らを引けない所にまで追い込み限界以上に力をだそうとしていることに数人の生徒や教師たちは気が付いていた。それでも他にも方法があるだろうとは思っていたが。
「それでは第一競技はこれよ! 障害物競走!」
ミッドナイト先生によって行われる第一競技のルール説明、障害物競走ということでお互いも障害物と言う考え、よほど悪質な行為以外は妨害さえも許すという過激なもの。そしてその競技はヒーローが救助やヴィランの居る場所へと駆けつける能力を測るものでもあった。
全員が各々の考えをもってスタート地点へと移動し、スタートの合図を待つ。
『準備は良いか! なんていわねぇぜぇ! スタートォォ!!』
プレゼントマイク先生による合図の中で舞華は動かず、やり過ぎない程度の妨害はどの程度のものかと思案していると、競技場の出入口付近が凍結し轟による大規模妨害攻撃が行われた。
『さ~て実況はこの俺プレゼントマイクがやってくぜ! 解説の準備はAre you ready!? イレイザーヘッド!!』
『お前が無理やり呼んだんだろうが』
氷結により競技場からの出口が狭められ、さらに足元が凍ったことで転倒する選手によりさらに混乱は広がる。個性操作が上手いヒーロー科のA組とB組が早々に突破するも、普通科・経営科・サポート科は抜けるのに苦労をしていた。
その様子を舞華はスタート地点で見ながら、炎を両腕に蓄積しつつあった。
『お~い もうスタートしてるぞ~!』
『魔神、やる気がないなら棄権するか』
最後尾どころかほぼ一人でスタート地点で立ち尽くしている舞華にプレゼントマイク先生と相澤先生から声が入った。
「蓄積にあと15秒かかります! もう少し待ってください!」
『早くしろ。 先頭は第一関門まであとわずかだ』
急かされながらも、個性や技によってすぐに動けないタイプもある事からそれ以上は何も言わない。それから時間が経過し舞華のジャージの両肘部分が燃え上がり、そのまま両手で千切ると全体に火をつけて上に放り投げる。燃え上がったジャージの腕部分の炎が急激に大きくなり飛行機の羽のようなものを形作り始めた。
「フレアスクランダー! クロス!」
炎で大きな翼のようなものを舞華は作り出し、走りながら跳躍すると炎の翼が背中に合わさる。起点として爆炎の衝撃を操作し飛行する為の技であり、水平な状態で飛行を始めた。
フレアスクランダーはあくまで見た目と都合を優先したもので、本来の爆炎の衝撃をそのまま利用した飛行方法よりも速度も操作性も劣る。
ただし、服を焼かないためヒーローコスチュームではなくても使える利点があった。体操服で通常通り爆炎の衝撃を受ければ、ある程度の耐熱・対炎・耐水・対電・対酸などトータルに網羅する雄英の体操服とジャージとはいえ耐えられず燃えてしまう。
地上から5mほどの高さを飛行したまま舞華は第一関門のロボットへと迫るも、大型ロボは動きが遅く伸ばされる手を避けながら無事通り抜け、普通科・サポート科・経営科などが苦戦する中そのまま第二関門である綱渡りを飛行したまま抜けてしまった。
『ずりー! そこまで自由に飛べるのは障害物競争になんねぇぇぇ!!』
『時速30kmほどだが飛行できることは個性届けには記載されている。 お前、ちゃんと読んでいなかったな?』
舞華は爆炎の衝撃波を利用し前進方向ならほぼ自由に飛行が出来る。一方で後進や上下左右は若干速度が劣ってしまうが、それもあくまで爆炎であり衝撃波の瞬間的出力が低いためで飛行に問題はない。フレアスクランダーの場合はさらに自由度と衝撃が減ってしまう。
一応ルール違反になるのではないかと事前に相澤先生と香山先生に確認は取っており、最高高度7mまでならばと許可を得ていた。
『一位集団は小競り合いを続けながら地雷原を走っていくぞ! さぁ地雷を踏まずにどこまでやれるか!!』
実況から聞こえてくるのはトップが最終障害である地雷原を小競り合いしながら抜けている最中という、舞華はさらに加速しながらも第三障害物である地雷原が見えると、緑谷が地雷原の入口近くでで何故か地雷を掘り出していた。
「なにやってんの?」
気になって着地しながら舞華は緑谷に話しかけると、突然の事にしどろもどろになりながらの説明と、背負っているヴィランロボの外装と思われる物体の事と合わせ、大体やりたいことを察する事が出来た。
「よっし、手伝う。 おもいっきり派手にぶっ飛んでみようぜ」
「えっ、でも魔神さんなら自力でも十分に上位を狙えるんじゃ」
構わず舞華が地雷を掘り出し始め、緑谷も掘るのを再開した。
「何か奇抜なことしなきゃガンガンにやり合ってるトップ二人を出し抜けない。 緑谷の考えたこれなら可能性は大きいんだよ」
まだ困惑している緑谷と共に一山できるまで掘り出し緑谷は外装板を構えた。
「一気に行くから覚悟しろよ!」
舞華の攻撃で弾けた地雷によって生じた強烈な爆発の衝撃と音は周囲にまき散らされ、緑谷は外装で爆発の衝撃を防ぎ舞華はそのまま身に受けた。緑谷はまるで風を受けるセイルのように外装を利用し、舞華よりも倍近く加速し一気に先頭に踊り出す。
魔神も衝撃を爆炎と合わせて加速していたが、面辺り受けた爆発の衝撃は緑谷の方が余りにも大きく追い付けない。
『おぉっとぉ! 緑谷が地雷の爆発を利用して吹き飛びながらトップに猛追、いや追い越した!!? どんな教育してるんだイレイザー!!』
『普通にやってたら追い付けないと考えたんだろう。 並の考えじゃできない事だな』
『思ったより高評価!? 緑谷やるじゃないか!!』
「呆れが大部分だ。 協力した奴もいるようだがな」
プレゼントマイクによって爆発を利用した無茶に相澤先生が呆れ半分の中、緑屋はトップの2人を僅かに追い越したものの、小競り合いを止め爆豪と轟が緑谷に妨害攻撃をしかけようとした。爆豪は爆破を発する為の掌底を、轟は地面を踏みつけ氷結が迫る。
「抜かせて、たまるかぁぁぁ!!」
追い詰められたときに力を発揮するタイプなのか、緑谷は気合の声と共に妨害と加速を行うため、爆豪と轟の2人が追い付きかけたところで地面を外装で叩きつけ、地雷を爆発させることで再加速、轟と爆豪は周囲に弾き飛ばされかなりの妨害となった。
(緑谷の奴すごいな。 もうちょっとあたしも気合いれないと!)
まだ追い付き切れずに遠目に見ていた舞華は意識を変え、炎の翼から大きく爆炎を発生させ体を無理やり押し出し加速させる。それでも緑谷は再度の爆発の加速で外装から弾き飛ばされ、受け身を取りながら地面の上を転がり立ち上がると走り続ける。
徐々に舞華は追い付くも最後まで追い抜く事は出来ず、緑谷は飛び込むように競技場内へと戻りゴールラインを駆け抜けた。
『一位で戻ってきたのはなんと! 後方集団から第三障害で一気にまくったダークホース緑谷ぁぁぁ! これは誰か予想できたか!?』
プレゼントマイク先生の宣言によって順位が確定し、1位は緑谷、1秒ほどの差で舞華が2位と上位陣は30秒ほどの間にどんどんゴールしていく。
ゴールラインを越えた後、待機エリアに居た舞華は前に見た灰色の髪色をした個性スチールの男、徹鐵を見かけ声をかけた。
「徹鐵、間に合ったな。 体力は残ってるか?」
息を少し切らしながら切島に少しだけ遅れて到着、個性が似たタイプらしい。
「もちろんやれるぜ! しかし飛べるってのは、やっぱり便利だな!」
「個性の使い方だよ。 スティールだってあたしじゃ出来ないことも出来るだろ」
飛行もできる個性といっても、飛行できるまで個性を操作する技術を磨きさらに技という形まで昇華させた。最初の頃は足から空気を噴出する個性で飛べる人から教わり、時折墜落しかけるなどしながら苦労して覚えたことだ。
「スティールで飛行は無理でも何か早く移動する手段あるかもな」
次の競技まで時間がある為、少し話している最中に茨で構成された長髪を持つ特徴的な女子生徒がゴールラインを越えた。
「あの人は?」
「あぁ塩崎だ。 推薦入学でB組に入ってきた。 お~い塩崎~」
徹鐵が気を利かせたのか声をかけたので、気付いてこちらにあるいてくる。巫女やシスターのような宗教的な雰囲気を感じさせる所作を思わせ、そういった方面でもトレーニングを積んでいそうであった。
「徹鐵さん、何か御用ですか?」
「ちょっと紹介したほうが良い奴がいるんだ」
徹鐵の紹介ということで舞華は前に出る。
「あたしは魔神舞華、ちょっと話したいと思って徹鐵にお願いしたんだ。 迷惑だった?」
「塩崎茨と申します。 問題ありませんよ」
そのまま個性の話をしていると紫髪の、普通科からA組に挑戦状を送り付けてきた生徒がゴールラインを越えた。まだ締め切りの声がないため合格ラインであろう。
「よぉ、間に合ったようだな。 こっちこいよ」
待機エリアに来たところで手を振って舞華が声をかけると、顔を赤くしながらも舞華の元へ歩いてくる。
「あっ、あぁ うん。 なんとか。 そちらもえ~と2位突破おめでとう。 普通科じゃやっぱり誰も注目してないんじゃないかって」
「第一競技はプロになった時のヴィラン追跡能力・現場急行能力の現状を測っているだけだろ? 合格ラインを超えた時点で未来への可能性大きくありってことだけさ。 普通科で合格ラインを突破しただけ鍛え込んだそちらの方がおめでとうだって」
「おう! 関門を突破したんだから気合入れて練習してきたんだろ! 堂々としろよ!」
「お二人の言うとおりですよ。 誰しもが努力してこの場に立っているのです。 気にすることではありませんよ」
舞華も徹鐵も塩崎も普通科とか何も気にしていない。ただ努力してヒーローになるという目標に向かっているか、同じヒーローを目指すライバルで仲間としか考えていなかった。心操が思うように下に見る事も驕る事もない。少なくとも現一年生にそういった考えを持っているのは爆豪と、B組男子に1人いるくらいだった。
「……やっぱりありがとう」
4人でそのまま次の競技が始まるまで話をしながら最後の一人がゴールするのを待っていた。