実験体MM   作:柳月&独鴉

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8.体育祭 騎馬戦

 突破者は43人、A組とB組の全員に加え、サポート科と普通科から1名ずつが第二競技へと進む。再び壇上に上がったミッドナイト先生により、第二競技の説明が行われる。

 

「次の競技は騎馬戦よ! チームとなりお互いの鉢巻を奪い合いなさい! そして第一競技のゴール順にポイントが与えられ、総合ポイントが高い4チームに決勝競技への参加権が与えられるわ! 画面を見なさい!」

 

 詳細が競技場の液晶画面に表示され、観客の誰もが目を向ける。体育祭競技場の大画面には各生徒名と共に付与されたポイントが打ちし出され、1位は1000万ポイント、その鉢巻一つで決勝競技への参加資格が与えられる。

 

(緑谷一点狙いでいけるってことだけど、それはちょっとなぁ)

 

 舞華が周囲を見れば誰もが緑谷を狙うように見ている。それでも舞華は引退ヒーローから余裕がある時はエンターテイメント性を大事にしろと言われ、そして1人を集中狙いというのも気分が良いものではなかった。

 

「徹鐵、塩崎さん、心操。 ちょっといい?」

 

「どうしたんだ??」

「何かありましたか?」

「なに?」

 

 2人はB組、騎馬を組むのなら同じクラスの方が良い。互いの個性も把握している点も強いし連携だって取りやすい。

 

「雄英の学生としてトップを目指して緑谷一点狙い、はいいけどさ。 なんか皆で寄って集って一人から奪おうとするってのはヒーローらしくないよな?」

 

 静かに聞いてくれている3人に、考えではなく思いを伝えるようにしっかりと言葉を選ぶ。

 

「二位が限度になってしまうだろうけれど、緑谷チーム以外全員敵に回して守る側にならない? ヒーローらしく誰かを守る戦いを私はしたいんだ」

 

 舞佳は炎を消すように拳を握り、そして再び手を開きながら3人に向ける。

 

「ヒーローらしく! そうだ! 守る戦いこそがヒーローだぜ!」

「えぇそうですね。 それがきっとヒーローとしての道です」

 

 徹鐵と塩崎の2人が伸ばした手に触れ、協力してくれるといってくれた。そして。

 

「決勝に行かなきゃ編入の夢もないんだ。 だけど、俺の個性を誰かの役に立てたい。 誰かを守れるヒーローに」

 

 心操も賛同してくれたことで、ミッドナイト先生に騎馬チームを登録。緑谷たちも騎馬のメンバーが決まりったようだ。魔神達が緑谷達の所に集まると少し驚いたような表情を浮かべている。魔神達が緑谷達に理由と考えを説明すれば、ヒーローとして理解し全員で手を重ねた。

 

常闇「無数の敵に立ち向かうは集った戦士達……」

徹哲「正々堂々! かかってこいやぁ!」

麗日「やったろうよ! きっといけるよ!」

塩崎「守るための戦いです。 負ける事は許されません」

発目「いいですよぉ! 目立ちまくってますよぉ!」

心操「やると決めたんだ。 決勝まで必ず行ってみせる!」

魔神「やり通す!」

緑谷「みんな! いくよ!」

 

 騎馬戦はチームでの連携と現場での即応能力が測られる。A組6組・B組6組、変則の組み合わせてをいれてもそれしかいない戦いが始まった。

 

 

 

 

 アナウンスルーム

 

『これは面白い流れになったぜ! 二組が協力しそれ以外とやりあうつもりだぁ!』

『共闘を禁じてはいないが、どれだけやれるもんか見ものだな』

 

 プレゼントマイクとイレイザーヘッドは見下ろす位置から全体の動きを見ながら、全体の生徒達の動きを把握していた。

 開始と共に大きく動いた2騎馬、先頭である徹鐵と飯田が真正面からぶつかり合い、轟は氷によって地面を凍らせることで動きを止めようとするも、魔神の爆炎がそれを遮る。

 舞華と轟が鉢巻をめぐってのやり合いは周囲に氷結と爆炎をまき散らす中、魔神にB組からの横やりが右側から入ろうとするも、茨のツタを地面を通すことで強固な壁として構成し騎馬全体を守る。

 そして左側からB組の鎌切の騎馬が片腕を伸ばす。舞華は攻撃に使わず、自らの腕を爆炎の衝撃で加速させながら手を打ち払い逆に鉢巻へと手を伸ばした。

 とっさに刃、といっても切れ味を限界まで落としているだろうそれを出して防ぐB組鎌切、魔神は弱い爆炎で視界を遮り、小さな爆炎を連続して発生させ鉢巻を掴み取った。

 そして声をかけたのか、茨のツルを下げると共に舞華の騎馬が少し下がりながら3組を正面に導くと、今度は轟チームとB組2チームの騎馬と小さな小競り合いも起きる。

 

『魔神の騎馬は3チームと互角にやりあいながら早々に鉢巻を奪った! これは他チームにとって大きな壁かぁ!!』

『覚悟の違いもあるだろうが、お互いにカバーがしっかりできている。 即席のチームだが各自やるべきことを見極められているな』

 

 どの騎馬も連携を取りながらも決勝に進むために動き続ける。ただし、B組の4チームはお互いに連携をとる事で効率的に決勝進出を狙っているようだが、相澤にとっては余り良い評価にはなっていない。

 合理的で立派な作戦ではあるのだが、求められているのは少人数で連携をとる能力であって多チームを纏め上げた戦略ではないのだ。作戦立案能力と実施力は評価はする、しかしそれだけだ。

 何よりも現在必要なのは目標に向かう意欲という精神力、常に自らにとっての最善で最高のヒーロー像を目指す力だ。爆豪が圧倒的トップへ向かう覚悟と行動力があるように。

 

 

 

 

 10分経過

 

『誰もが緑谷の騎馬の1000万ポイントを狙っているが、10分経過してもまだ変わってないぞ! ごめん! 3分持たないと思っていた!!』

『対応が上手い。 何よりも緑谷が全員の個性を把握しているのが強みだ。 最適だろう判断を下せている』

 

 緑谷は氷結の攻撃を麗日の個性と発目のサポート道具で騎馬全体を浮かせることで躱し、空中を短時間移動し離れた場所へと逃れている。そして再び競技場に降りると魔神チームの騎馬の背後を守るように移動し、峰田チームからもぎもぎによる遠距離攻撃も、爆豪の爆発飛行を利用した強襲もお互いをカバーし合えるようにすることで対応していた。

 

『おおっと! 爆豪がまた魔神に突っかかった事で爆発と爆炎が競技場内に吹き荒れたぁぁぁ!』

 

 爆豪が爆発飛行によって騎馬から離れ、魔神の鉢巻を奪おうとしたことで爆豪の掌底と魔神の拳がぶつかり合い、発生した爆発と爆炎は観客席やアナウンスルームまで熱風が届くほどに広がる。

 

『お互いにある程度近い個性だ。 タイミングも読みやすいのだろう。 緑谷チームからの支援で爆豪が押し戻されたな』

 

 緑谷チームにいる常闇ダークシャドウによって空中に留まりにくい爆豪が騎馬へと押し戻される。

 ヒーローは現場で他のヒーローとのマッチアップも多い。お互いの利点や欠点を理解し、最適な行動をとって対ヴィランや災害に対応しなければならない。個性への理解力や対応力は、ヒーローにとって重要な要素だ。個性を上手く扱えない緑谷だが、この点は高く評価できる。

 緑谷チームにとって現在の要は常闇の個性であるダークシャドウ、そして緑谷がとっさに下す判断と反射も悪くはない。瞬間的なものだが周りの影響を受けて個性を扱えてもいるようだ。

 激しい奪い合いの中でB組物間か魔神騎馬の左側面から腕を伸ばした。轟と鉢巻の奪い合いをしている最中であるため、舞華は左腕に炎を宿し防ぐ体制を取るのがみえる。

 

「油断したね?」

 

 物間の言葉と共に大きな爆発が魔神の側頭部に直撃した。さきほどまで見せていた個性が空気凝固であったため、舞華が攻撃性が低いと判断しているところで物間がコピーした爆豪の個性である爆発、ジャージの上着が一部焼けて裂け、意識外であったことから舞華の体がぐらりと傾く。

 あまりの爆発に共に攻めていた2チームも攻撃を躊躇している中、舞華の鉢巻に物間の手が伸ばされる。

 

「舞華さん!」

「物間やりすぎだぞ!!」

「あぶない!?」

 

 心操と鉄哲が手を合わせて支えていた左足も離れ、危険な倒れ方をした舞華をとっさに手を放し支えるように心操は手を伸ばした。

 

「てめぇ! 俺の爆発を!!」

 

 あまりの大きい爆発に轟の騎馬へと向かっていた爆豪も声を上げた。

 3人の声に反応して舞華の髪が燃え上がるように炎を宿し、体勢を崩したまま髪を大きく振るうことで伸ばされた手を燃える長髪で打ち払う。舞華は支えてくれた心操の手を掴んで留まり、さらに自らの体勢を爆炎の衝撃で整え直しながら手を伸ばし逆に物間の鉢巻を掴み体ごと引き寄せる。

 

「爆豪の爆発の真似か、それはいいけどさ。 今のはあたしや爆豪に切島じゃなかったら大怪我だぞ! 練習してから使いやがれ!」

 

 競技場に響くほどの怒りに満ちた剣幕で大声を挙げる姿に、相澤も目を細めるように睨んだ。

 爆炎の個性の舞華だから爆発によって生じる炎と衝撃にもある程度の耐性がある。だからこそ雄英体操着が焼けて裂けるほどの爆発を側頭部にいきなり喰らっても鼓膜も無事だし火傷もないが、これが耐性もなく慣れもない相手だった場合、鼓膜が破れ肌と頭皮が焼けていた可能性が高い。

 爆豪は自らの個性であるため、緑谷が相手でなければ相手が重大な怪我を負わないように対人の場合は常に加減をしている。コピーであり経験も理解も浅く、ただ使用した物間では個性の加減が出来ていなかった。

 

『物間。 同じことをもう一度やった場合、失格にするぞ』

「物間君! 騎馬や騎手への過剰な攻撃は反則です! 次はありません!」

 

 解説の相澤先生から警告が飛ばされ、ミッドナイト先生から最終通告が下される。そして一旦物間チームは魔神チームの騎馬から離れ、迫る爆豪チームへと向かった。

 

「てめぇ! 俺の個性を使いやがって!」

 

「戦略も立てられずにただ一位を狙うなんて猿じゃないんだからさ。 頭を使いなよ。 ヘドロの被害者さん」

 

 爆豪は問題児に違いはないが、その戦闘センスも戦意も並外れて高い。そんな相手を挑発したのが悪かった。物間は爆豪から最優先排除の敵として認識され、躊躇なく爆発を利用した飛行で襲い掛かり、円場の個性による空気凝固の個性を利用した盾で防ぎ攻撃を仕掛けようとしたのだが。

 

「うらぁぁ!」

 

 空気凝固された盾をそのまま叩き壊し物間への鉢巻へと手を伸ばした。物間と違って怪我をさせる事もなく、鉢巻を全て奪い取ると瀬路の個性であるテープによって無事騎馬に戻り、物間と協力していたB組の1チームへと再び爆破を利用して躊躇なく飛び掛かり、即座に鉢巻を奪いとった。

 

『爆豪チーム! 次々とB組騎馬から鉢巻を奪っていく! これは火が付いたか!?』

 

 爆豪とて爆発を利用した飛行にリスクがないわけじゃない。腕から肩にかけて負担も大きいのだが、そんなことよりも挑発してきた相手を叩き潰すことを選んだ。

 

 

 

 

 魔神チームだけでもB組の2組とA組1組を相手に競り合っている。残るはB組2組は爆豪が叩き潰し緑谷に迫り、緑谷・轟・爆轟の3騎馬の戦いに他のチームが割って入れずにいた。ポイントを現在持ちとり合っているのは緑谷・轟・爆轟・魔神、残りは0ポイントで決勝に行くには最低でも1チームから鉢巻のほとんどを取らなければならない。だが、頭ひとつ抜けるほど戦闘が上手い4騎馬から取れずにいた。

 

『残り1分だぜ! 』

 

 プレゼントマイクにより残り時間が伝えられ、連携が取れていたB組が一気に崩れる。前提は全員が決勝進出というチーム戦略、どのチームもいけない現状では誰しもが自チームだけでも決勝に行くために動き出す。

 そんな中で飯田の個性を使った短時間の超高速を利用して飛び込んだ轟チーム、横を抜けていくタイミングで緑谷の1000万の鉢巻をつかみ取る事に成功した。だがその直後。

 

「やるな飯田!」

「凄いな飯田君!」

 

「兄さんが見ているんだ! 君達に負けられ」

 

 頭に触れた舞華の合図に合わせ、共に飯田に声をかけたタイミングで心操が一瞬だけ個性で意識を奪い、通過したが10mほど離れた場所で飯田の足が乱れた。速さと合わせバランスを崩したことでなんとか体制を整える為、騎馬全体が乱れ足が止まる。緑谷では手は届かないが、常闇のダークシャドウが鉢巻を奪い返す事に成功した。

 

『タイムアップ! 一位抜けは緑谷チーム! 一瞬の早業で1000万ポイントを持って行かれたと思ったが、即座に取り返したぞ! 第二位は魔神チーム、守り切った総合ポイントは十分だ!』

 

 プレゼントマイクによって順位が次々と発表され会場は盛り上がり、相澤は体育祭後の指導に反映させなければと考えていた。

 変則騎馬もあったため、通過者17名となった。

 

 

 

 

 体育祭警備ヒーロー休憩室

 各地から今回の体育祭に合わせて集まったヒーロー達、休憩室では学内中継の映像が流されている。

 

「プロになれば商売敵といえども、協力していかなきゃなんねぇことも腐るほどある。 その辺をみてんだろうな」

「サイドキックとの連携、他事務所との合同訓練。 単独で出来ない事は山ほどある」

「今年の一年は随分と厳しい競技してるわね」

 

 デステゴロ・シンリンカムイ・MTレディの三人で警邏しており、休憩時間も同じだったため共に映像を見ていた。

 

「あの見た目は話題性もあるだろう。 職業体験にまず読んでみるのもいいかもしれないな」

「爆炎か。 私は火は苦手だが、飛行能力はどのヒーローにとっても有用だろう」

 

 シンリンカムイには火は苦手としているが、デステゴロにとっては問題がなく、職場体験について書類を出そうかと考えていると、MTレディは得意げな表情を浮かべた。

 

「彼女からすでに職場体験とインターンシップの要望が来てるのよ! 例え書類を出しても来るのはうちよ!」

 

 MTレディ事務所にすでに魔神舞華から要望書が届いていた。職場体験とインターンシップだが、別に学生側から要望を先に出しても問題はなく、舞華から<体育祭で結果を出すので、事務所で勉強させて欲しい>とメールが届いていた。MTレディとしても珍しいことだと気に留めていたし、体育祭一年の部を警備のついでに注目をしていた。

 

「あの子なら外見も含めて話題性も抜群! これはチャンスなのよ!」

 

 気合の入り方が凄いことに少し2人は退いた。シンリンカムイとデステゴロからみてMTレディは実力も向上心もあるが、個性の都合上周りの被害を出しやすい欠点がある。ヴィラン捕縛や救助での歩合給を考えても周囲の損害によって保険を越えて赤字になりやすい。

 人気商売の面を強く押し出すのもグッズ販売などから補填する力にもなる。

 

「気負わずにやる事だ。 2年目とはいえまだまだ話題性はあるだろう」

 

 シンリンカムイから見ても、騎馬戦での振る舞いを含め現状で一番の話題性を持っているだろうことはわかる。飛べる点も評価が高く、空から警邏と追跡が出来るという点も強い。おそらく現段階までの活躍だけでも100以上職業体験への誘いが入る事だろう。

 

「ヒーローコスチューム次第じゃ人気を食われるかもな。 あの派手な外見と若さは強敵だぞ?」

 

 デステゴロは笑いながらタバコの火を消すと再び警邏に戻るため控室を出て行った。

 

 

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