実験体MM 作:柳月&独鴉
騎馬戦も終わり、決勝トーナメントは午後ということで休憩を兼ねた昼休みを挟む。そして昼休みが終われば本選に出れない人達へのアピールタイムであるレクリエーションということ。
A組の女子が集まり、昼食を食べていると峰田と上鳴が神妙な顔で訪ねてきた。
「相澤先生から女子はチアリーディングの応援合戦に出ろってさ」
「コスチュームは八百万に用意を頼むってよ」
そう伝えて足早に去ろうとする2人だったが。
「峰田と上鳴」
舞華の声にびくりと峰田が固まり、つられて上鳴も立ち止まる。
「八百万に作らせるってのがおかしいよな? すでにあるなら決勝トーナメントに出れない人たちのアピールになるからわかるけど、なんで本選に出る八百万1人を消耗させて作らせるわけさ」
食堂の椅子から立ち上がり、両手から炎を噴き出しながら舞華は2人に向かって一歩進む。
「一週間女子のパシリと相澤先生への通報で手を打つか。 それとも我を通してバレてから半殺しにされるのと」
「「すんませんっしたぁっっっ!」」
話の途中で勢いよく上鳴と峰田は土下座し、事情を説明すると女子達から冷たい視線を向けられる。
「さいっっっていっですわ!」
「さいあく~。 百ちゃんがコスチューム作ったのが原因で敗戦したらどうしたんよ」
「なにも擁護できないわ ケロ」
少し落ち着いたと判断されていた峰田の暴走は、女子から再び距離を置かれるには十分だった。
「このスカポンタン共。 上鳴は本選に出るからおしおきは負けた後、峰田は昼食が終わってから一週間は女子の荷物持ち等な」
舞華はそのまま事情を説明しに相澤先生の所に赴き、昼休みで一旦仮眠をとっていたところを申し訳ないと言いつつ、事情を説明すれば眉間にしわを寄せ寝袋から這い出してきた。
「……あいつら、一回しめるか。 報告ご苦労だった」
その後、結構なお説教を2人は受けた後、レクリエーションに参加できるように解放された。
大玉転がしに借り物競争など、アピールを兼ねたレクリエーションが行われている中、決勝トーナメントに出る生徒は最後の調整を兼ねてそれぞれの方法で体調を整えている。
爆豪が体温を維持し力の源でもある手の汗腺を活性化させるため、魔神は調子を落とさないように気分転換だったが、通路でたまたま出会ってしまい、何も言わずに控室に向かっていた。爆豪は爆発で魔神は爆炎と微妙に波長が合う時がある。
通路を曲がった先から緑谷と轟の声と話が聞こえてきたため、舞華は立ち止まり察しは良いが普段は無視している爆豪もぎりぎりで立ち止まると、機嫌を害したまま話に耳を傾けた。
それは立ち聞きになってしまったが轟の家庭環境に個性婚、そして母親の隔離に等しい入院と、聞く限り虐待寸前の訓練、それゆえの異常さを感じる焦凍の覚悟と関係した事柄に纏わる際の攻撃性、色々学校での行動に納得がいく話だった。
さらに緑谷に対してオールマイトの隠し子かと問うことに驚き、小声で舞華は爆豪に尋ねた。
「爆豪。 緑谷って隠し子っぽい境遇なのか?」
「ガキの頃からデクの親父も見てるがそんなはずはねぇ。 親父もデクと同じもじゃ毛だ」
さすがの事態にどういうことかと、お互いの確執も横に置いてまずは状況を理解をし直すことを優先していた。
「じゃぁ轟の勘違いか? あいつどういう頭してんだ」
「いちいち聞くんじゃねぇよ。 めんどくせぇ話しやがって」
少々ひん曲がっているが爆豪も根はヒーローであり天才な上に努力家、過去に起きた個性婚の事についても一般学問レベルでは知っているし、それが厄介な物であることも理解していた。
緑谷と轟の話が終わり、別方向の通路の先へと歩いていくのを見届けてから静かに控室に戻り、普段ならするはずのない面と向かって情報の整理と轟のボケ具合に、そして家の事情をまとめ直し
「他人の家の事情に口出しは出来ない。 だけどあたしらヒーローはお節介が仕事だ、どうするよ」
「半分野郎を吹っ飛ばして目を覚まさせるっきゃねぇだろ。 他に案でもあんのかよ」
お互いに何か案があるわけでもない。高校一年生が他人の家庭事情に対して適切な助言を出来るわけもなし、どうしたらよいのか回答のない考えだけが過る。
「相澤先生にも体育祭が終わったら相談するとして、あたしら学生じゃそんくらいだよなぁ」
「くそなこと体育祭の時に話しやがって」
一応の話が着き別れるも爆轟はただ不機嫌が募るだけだった。しかし舞華は少し異なる。個性の制御に苦しんでいた小さい頃、炎の指導を受けている最中の関りで子供なりに、自分にも他人にも物凄く厳しく、個性の恐ろしさを説明してくれエンデヴァーを理解していた。
(あの親父さんがねぇ。 婆さん達が色々話してない事もあんのかな)
舞華にとってエンデヴァーは指導者のひとり、そしてそのエンデヴァーの先輩であった炎熱系ヒーローも居たし、昔話も色々してくれていた。
(まぁ、いまはぶん殴るだけかな)
掌から大き目の炎の蝶を作り出し、ゆらりゆらりと周囲を漂わせながら舞華はそろそろ始まる決勝トーナメントの集合場所へと向かった。
まずは厳正なくじ引きの結果、1年B組の塩崎茨がシード選手となり、第一試合は緑谷と心操が戦う。
第一試合
『障害物から騎馬戦まで一位を守り通した、地味だが実力はもうわかってるな! 一年ヒーロー科 緑谷出久!個性は超パワー! もう一人は、ごめん注目してなかった! 一年普通科 心操人使! 個性はまだ秘密!』
プレゼントマイクによる紹介の中、試合開始前から心操は緑谷に聞こえる程度であるが、今まで自らの個性でどう関わられてきたか、どう嫌われてきたか、優しく相手の気持ちが理解できる緑谷だからこそ、たった一言、“分るよ”と、理解を示す返答させてた。その直後に動きが止まり心操の命令に従ってステージ外へと出ようとしている。騎馬戦では正確な個性を伏せていたものの、なんとなく察せられていたようだが、昼の間に答えてしまう言葉を考え抜いた心操の勝に見えた。
「しっかりしろ緑谷!」
「目を覚まして!」
さすがに観客席から言葉で援護をするわけにもいかず、クラスメイトとは異なり舞華は黙ったまま事の成り行きを見ていると、強烈な衝撃が緑谷から発せられた。
「相変わらず気合の入り方が逝っちゃってるな。 あいつ」
緑谷は洗脳されたまま自ら指を潰す事で洗脳を解いたことに呆れながら、それでも勝利への執念によって緑谷は自由を取り戻した。
心操が走り寄りながら何を語りかけても緑谷は何も言わず、一か八かとそのまま押し出そうとした顔と肩を掴みながら押そうとしたがフィジカルの弱さが出た。A組では個性を上手く扱えない緑谷であるが、個性無しで力を競えばクラスの中でもかなりある方なのだ。
押されながらも腕を掴み返し、心操を抵抗もさせず一本背負いでステージ外へと投げる事で勝敗が着いた。
心操は悔しさをにじませながらも、油断するなよと緑谷の背中を押したのちステージを離れる。
「惜しかったな心操!」
「A組のトップクラスと良い勝負すんなよ! お前は普通科の希望だよ!」
「あの個性、ヴィラン捕縛に有用だ。 スカウト予定に入れておくか」
「あれが普通科かぁ? 雄英馬鹿だなぁ」
観客席にいる普通科のクラスメイトから語られる障害物と騎馬戦での優勝者にあと一歩まで攻めた事への賞賛、そして観客の現役ヒーロー達から出てくる高い評価の数々。小中学生とは異なり、しっかりと評価ができる人たちから出される正当な個性の評価、涙が溢れそうになりながら心操は控室へと戻っていった。
第二試合 瀬呂VS轟
『その活躍は優秀! 優秀なのだがいかんせん拭いきれない地味はなんなのさ! ヒーロー科 瀬呂!個性はセロハン! バーサス 一位は取れていないが常に上位! 同じくヒーロー科 轟焦凍! 個性は半冷半熱!」
試合開始の合図と共に瀬呂は即座に両肘からテープを射出し轟を拘束、身体を捻りながら轟を場外に投げようとしたが、焦凍はステージの半分を瀬呂ごと氷結させた。しかし止まる事もなく広がる氷に舞華は観客席前のフェンス上に爆炎の柱をいくつも作りだし、客席に到達する前に氷を防ぐも危うい所だった。
「てめぇ轟! 観客席まで影響を与えんじゃねぇ! 怪我人を出す気か!」
舞華は観客席の視線が集まるのも気にせず、さらに吹き上がる炎でステージ外にまで広まった氷を溶かし始めるが焦った表情を浮かべる。
「ああぁ! そんなことよりも!!」
舞華は観客席から飛び降りると半身が凍っているミッドナイト先生のもとに走り、凍っている半身側に小さな炎をいくつも浮かせ、腕には炎を宿らせ溶かしていく。
「風邪ひかないようすぐ溶かしますんので!」
轟は瀬呂のほぼ全身を覆っている氷を左腕から少し炎出して溶かしているものの、その速度は遅く凍傷とはいかないまでも風邪を引きかねないゆっくりとしている。よほど炎を使いたくないらしい。
「障子・尾白・砂糖! 余裕があったら氷を一部砕いてくれ! 瀬呂も凍傷まではいかなくても急がないと風邪引いちまう!」
「あっ、あぁ。 分かった!」
「任せてくれ。 すぐに!」
「よし! 個性で砕いてなんとかするぜ!」
舞華に名指しで呼ばれた3名は観客席からステージに降りると急いで駆け寄り、各々の個性を利用して氷を砕き、速やかに救助したのだが体が冷え切っていた瀬呂はすぐに控室のシャワールームへと走っていった。
第三試合 上鳴VS魔神
「第三試合! エレクトリックボーイ! 上鳴電気! 個性は帯電、近付く奴は皆びりびりにしちまうぜ! 対するはスタイルは超高校級! 魔神舞華! 個性は爆炎、半端な奴は焼き払われちまうぞ!」
プレゼントマイク先生による簡単な紹介と観客と選手のテンションを上げる為の口上、それは十分に場を温めていく。ステージ上で向かい合う2人にも聞こていた。
「や~、本来ならひとつ口説くくらいはしたいんだけどよ。 前に失敗してっから勝負つけさせてもらうぜ」
自他認める少しチャラい男をやっている電気であるが、さすがに試合となると真面目になり緊張をほぐす程度の振る舞いでしかない。
「気にすんなって。 そのナンパな根性に少し焼き入れしてやるから」
レフリーでもあるミッドナイト先生、2人の準備が整っていると理解し鞭を鳴らしながら試合開始を宣言した。
「いくぜ! 最大130万ボルト放電!!」
上鳴は最初から持てる最大の力による無差別攻撃、なのだが距離を大体把握している舞華は軽く後方に跳躍し、十分な効果を発揮する有効射程から逃れると放電を辞めた。
『おぉっと! 魔神が距離を取ったぞ! 上鳴も大放電も取りやめた!』
『距離を把握しているな。 互いにステージの反対の隅までとなれば十分には届かん』
魔神は大きくアンダースローのように振りかぶると地面に向け炎弾を放ち、消えることなく地面を這うように炎がステージ上を走り上鳴へと迫った。
「ってあぶねぇ!? 」
とっさに上鳴は横に跳んで避けたものの、再び舞華が放った新たな炎が迫る。
観客席では切島と梅雨が舞華の新しい技をしっかりと見ていた。
「あれ、特訓してた奴だな!」
「そうね。 闇払いだったかしら」
一緒に練習した時に3人で選び練習した。地面を滑るように高速で迫る遠距離攻撃、跳躍すれば避けれると言っても離れた位置から投じるだけで牽制を含めた攻撃になる。
『魔神、上鳴に大技を使わせず一方的に攻撃を続けているぞ!』
『空気はもっとも絶縁性が高い。 あれだけ離れてしまえば大放電でも十分な効力は発揮できないだろう』
「こうなったら一か八か!」
舞華に向かって走る上鳴、十分な射程に入れば広範囲に届く最大放電による攻撃を狙う。炎に飲まれるも構わずに進む姿に観客席から歓声が上がる。あくまで加減している為に水ぶくれも出来ない軽いやけどで済むとはいえ、半端な覚悟で覚悟ではできない。
ただ視界が奪われることで舞華の姿が曖昧で、跳躍したことに気付いていなかった。
「気合は認めるよ! 火炎蜂!」
後宙返りしながら全身に爆炎を纏い、着地と合わせて背中と両腕に爆炎を発生させながらの肘打ちを上鳴の腹部に突き刺した。
「ぐぅっ、えぇ……」
うめき声と胃の内容物を戻しそうな声を上げ、上鳴はステージに蹲る。そのまま数秒立ち上がれず、ミッドナイト先生が判定を下す。
「勝者 魔神さん!」
観客席からは勝敗が決まったことにより歓声が上がり、舞華はその場でゆっくりと一回転をしながら周囲に炎を蝶を舞わせ、頭を下げたのちステージから下り控室へと戻っていった。
(ちょっと、まずいかな)
勝利はしたものの、個性の揺らぎを感じた舞華は保健室に向かっていた。舞華の特融、複数の個性を与えられた影響で揺らぎが時折生じ、日によっては個性を使うとバランスが崩れ仮眠をとらないといけなかった。朝から炎の蝶を飛ばしたり個性の様子を見ていたが、思ったよりも観客席から掛かる精神的負担と合わせてバランスを崩しつつあると認識していた。
舞華は普段からリカバリーガールの許可をもらい、次の授業が来るまで保健室で仮眠を取らせて貰うこともある。リカバリーガールも事情は知っている為、最悪ドクターストップをかけるため診察をしっかりとしていた。
「特段異常はないね。 それでも違和感が大きく成ったらすぐに言うんだよ」
「わかってます。 無理したらまた先輩やお婆に怒られるんで」
リカバリーガールの診察を受けたあと、体育祭臨時出張保健室のベッドで舞華が仮眠をとっている間にもトーナメントは進む。