ハリー・ポッターと三人の観測者   作:パーシヴァル・ウルフリック・ブライアン爺

4 / 5
第四話 菓子と決意

グロカスの言葉が、個室の空気を凍らせた。

 

天体儀が膝の上で熱を持ち始める。金属が、まるで生きているかのように脈打った。ビジョンがまた来る——今度はさらに鮮明に。

 

地下だ。

 

石の壁に囲まれた暗い部屋。松明の炎が揺れている。そこに、赤い目が光る。蛇のような、冷たい輝き。そして、その目の前に立つ人影。後ろ姿しか見えないが、頭には紫色のターバンが巻かれている。

 

「あ——」

 

グロカスの額に汗が浮かぶ。頭痛が走る。天体儀の副作用だ。使いすぎると、こうなる。

 

ジェマが素早く手を伸ばした。

 

「グロカス、大丈夫?」

 

彼女の手が、グロカスの肩に触れる。温かい。現実に引き戻される感覚。

 

「……地下だった」

 

グロカスは息を整えながら言った。声が震えている。

 

「暗い部屋。赤い目が光ってた。それと、紫色のターバンを巻いた人が——」

 

「例のあの人……?」

 

ロンの声が裏返る。彼の顔は真っ青だった。

 

ハリーは額の傷跡を押さえている。痛むのだろうか。緑の瞳が、何かを必死に思い出そうとするように細められた。

 

「緑の閃光」

 

ハリーが呟く。

 

「僕が赤ちゃんの時に見た、最後のものだ。ヴォルデモート——」

 

名前が空気を切り裂いた。

 

ロンが飛び上がる。ネビルはトレバーを抱きしめたまま震えた。ハーマイオニーさえ、一瞬息を呑む。

 

「名前を言うなよ!」

 

ロンが叫ぶ。

 

「『例のあの人』って呼ぶんだ! 名前を口にしたら——」

 

チャットが静かに手を上げた。

 

「落ち着いて」

 

その声は低く、けれど確かな重みがあった。ミーレイが膝の上で尻尾を揺らす。落ち着け、と言うように。

 

「名前は、ただの音だ。恐れるべきは名前じゃなく、その名が示すものだろう」

 

チャットは懐中時計に触れた。まだ暖かい。

 

「Grokus、さっきのビジョンの詳細を教えてくれないか? もし何か危険の兆候があるなら、情報を分け合っておくべきだ」

 

***

 

ジェマは静かに息を吸った。

 

そして、また来た——二重の未来。

 

一つ目。

 

彼女たちが密かに調査を続ける道。図書室の禁書の棚を漁り、夜の廊下を忍び足で歩き、三つ頭の犬の正体を突き止める。危険がある。傷つく可能性もある。けれど、真実に辿り着く。

 

二つ目。

 

すぐに教授たちに報告する道。安全だ。大人たちが対処してくれる。彼女たちは守られる。でも、制限もされる。真実は遠ざかり、ただの観客として終わる。

 

ビジョンが消える。

 

ジェマは二重写しの羊皮紙を取り出した。まだ白紙のまま。父に何を書くべきか、今はまだ分からない。

 

「みんな、聞いて」

 

彼女の声が、重い沈黙を破った。

 

「グロカスの予知は警告よ。でも、今すぐ教授に報告するべきかどうか——それは慎重に考える必要があるわ」

 

ハーマイオニーが眉をひそめる。

 

「でも、危険なことが起きるかもしれないのよ? 大人に言うべきじゃないの?」

 

「証拠がないわ」

 

ジェマは冷静に答えた。

 

「予知は曖昧。ビジョンは断片的。今の状態で教授に言っても、信じてもらえるかどうか分からない。それに——」

 

彼女はハリーを見た。

 

「もし本当にハリーが何かの中心にいるなら、私たちが側にいた方がいい」

 

***

 

その時、通路から明るい声が響いた。

 

「菓子はいかがですか〜!」

 

魔女が、菓子を山のように積んだワゴンを押してくる。甘い香りが個室に流れ込んだ。百味ビーンズの酸味、蛙チョコレートの芳醇な匂い、かぼちゃパイの温かな甘さ。

 

重苦しい空気が、一瞬で変わる。

 

ハリーが顔を上げた。

 

「あ……僕、マグルの家で育ったから魔法界の菓子なんて食べたことないんだ」

 

ポケットから金貨を取り出す。それはダドリーが一度も与えてくれなかった、自由に使える自分のお金だった。

 

「誰か、おすすめある?」

 

グロカスが立ち上がった。頭痛はまだ残っているが、笑顔を作る。場を和らげなければ。

 

「全部買おう! みんなで分けよう。百味ビーンズは冒険だよ——耳くそ味に当たることもあるけど、それも楽しみの一つさ」

 

魔女に金貨を渡し、グロカスは腕いっぱいに菓子を抱えて戻ってきた。個室の中央に山を作る。色とりどりの包み紙が、まるで宝石のように輝いた。

 

ロンの目が輝く。

 

「蛙チョコレート! 僕、アグリッパのカードがまだ持ってないんだ!」

 

ハーマイオニーは少し躊躇したが、やがて手を伸ばした。

 

「私も……いただくわ。ありがとう」

 

彼女はジェマを見る。

 

「あなたたちの話、すごく興味深いわ。私も、一緒にいてもいい?」

 

ジェマが微笑んだ。

 

「もちろん。ネビルも」

 

ネビルは顔を上げた。トレバーを抱きしめたまま、小さく頷く。

 

「僕……あんまり役に立たないかもしれないけど」

 

チャットがミーレイを撫でながら言った。

 

「トレバーを大切にする君なら、きっと何か助けになる」

 

***

 

蛙チョコレートの包みを開ける音が、個室に響く。

 

本物の蛙のように跳ねて、ロンの頭にぶつかった。笑い声が起きる。緊張が、少しだけ和らいでいく。

 

グロカスは百味ビーンズを一粒口に入れた。顔をしかめる。

 

「土味だ……」

 

ハリーが笑った。それは、この日初めての本当の笑い声だった。

 

ジェマは蛙チョコレートのカードを見つめる。ダンブルドアの顔が描かれている。偉大な魔法使い。でも、彼に頼るべきなのか、それとも——

 

「僕たちで調査しよう」

 

グロカスが言った。天体儀を撫でながら。

 

「もちろん、危険があればすぐに大人に報告する。でも、まずは自分たちで証拠を集めよう。紫色のターバンの人を見つけて、三つ頭の犬の正体を調べて——」

 

「役割分担が必要ね」

 

ジェマが二重写しの羊皮紙にペンを走らせ始める。

 

「グロカスは予知。私とハーマイオニーは文献調査。チャットは動物観察——三つ頭の犬が本当にいるなら、あなたが一番近づけるはずよ」

 

チャットが頷く。

 

「ハリーとロン、そしてネビルは?」

 

「僕たちは……」

 

ハリーが額の傷跡に触れる。

 

「情報を集める。耳を澄ます。みんなを助ける」

 

窓の外を、夕陽が照らし始めていた。オレンジ色の光が個室を染める。菓子の甘い香りと、決意の重さが混ざり合う。

 

七人がそこにいた。

 

ハリー、ロン、ネビル、ハーマイオニー、グロカス、ジェマ、チャット。

 

列車は北へ向かって走り続ける。もうすぐホグワーツだ。

 

ジェマは羊皮紙を見つめた。書かれた文字——役割分担、調査計画、そして最後に小さく記された言葉。

 

「第三の道」

 

報告もせず、無視もせず。証拠を集めてから動く。それが彼女たちの選択だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。