ハリー・ポッターと三人の観測者   作:パーシヴァル・ウルフリック・ブライアン爺

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第五話 差し出された手

個室の扉が、乱暴に開け放たれた。

 

金髪の少年が立っている。灰色の瞳が、個室の中を品定めするように見回した。両脇には大柄な少年が二人。まるで従者のように、主人の背後で腕を組んでいる。

 

「噂は本当だったのか」

 

少年の声は、磨かれた銀器のように冷たく響いた。

 

「ハリー・ポッターがここにいるって」

 

ハリーが息を呑む。グロカスは天体儀を握りしめた。ジェマの指先が、二重写しの羊皮紙に触れる。チャットはミーレイを膝に乗せたまま、静かに立ち上がった。

 

「マルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」

 

少年は顎を上げる。その仕草に、生まれながらの優越感が滲んでいた。

 

「ポッター、君はもう友達を作ったみたいだな。でも——」

 

視線がロンに向く。鼻で笑う音が、空気を切り裂いた。

 

「ウィーズリー家か。赤毛と古いローブですぐわかる」

 

ロンの顔が紅潮する。拳が震えた。立ち上がろうとする彼の肩を、ハーマイオニーが押さえる。

 

マルフォイはグロカスに目を向けた。

 

「君は? フィンチリー家? 聞いたことないな。半純血か?」

 

次にジェマへ。

 

「ローレン……これも聞かない名前だ」

 

そしてチャットへ。

 

「ハートフィールド? 変わった名だな」

 

マルフォイは再びハリーに向き直った。手を差し出す。指先まで完璧に整えられた、貴族の手だった。

 

「ポッター、君は魔法界の英雄だ。もっと……ふさわしい友人を選ぶべきじゃないか? 僕が正しい友人を紹介してやるよ」

 

***

 

その瞬間、グロカスの胸の奥で何かが爆発した。

 

天体儀が焼けるように熱い。ビジョンが来る——今度は選択だ。二つの道が、鮮明に映し出される。

 

一つ目の道。

 

ハリーがマルフォイの手を取る。スリザリンの緑と銀が彼を包む。純血の子弟たちに囲まれて、優雅に微笑む。けれどその瞳の奥に、徐々に冷たい闇が忍び込んでいく。緑の閃光。赤い目。そして——ハリーが膝をつく姿。

 

二つ目の道。

 

ハリーがマルフォイの手を拒む。敵対が始まる。廊下での小競り合い、クィディッチでの激突、数え切れない対立。けれど、その道の先には——仲間たちと肩を並べて立つハリーの姿。傷だらけだが、瞳は光を失っていない。

 

グロカスは声を絞り出した。

 

「ハリー、待って」

 

個室の全員が、彼を見た。

 

「僕の予知能力が……二つの未来を見せてるんだ」

 

天体儀を握る手が震える。ノヴァが籠の中で短く鳴いた。

 

「マルフォイの手を取ったら、闇の道。スリザリンと純血の闇に染まる。でも、拒絶したら——光の道。戦いになるけど、真の友情と正義の道だよ」

 

マルフォイの眉が上がる。嘲笑が唇に浮かんだ。

 

「予知? 面白いことを言う。血統よりも、そんな曖昧なものを信じるのか?」

 

***

 

ジェマの視界が、また二重に歪んだ。

 

一つ目。

 

マルフォイと友好的に接する道。純血主義のネットワークに食い込み、情報の糸を操る影の知者。価値ある情報が手に入る。けれど、信頼が一本ずつ千切れていく音が聞こえる。自分自身が、徐々に蝕まれていく。

 

二つ目。

 

毅然と対応する道。敵を作る。危険が増す。でも、この個室の仲間たちと共に、嵐の中を真っ直ぐ進む光の探求者。不器用で、傷つくことも多い。それでも——瞳は曇らない。

 

ジェマは背筋を伸ばした。

 

「マルフォイさん」

 

声は静かだったが、その奥に刃が隠されていた。彼女はマルフォイの瞳を真っ直ぐに見つめる。分析するように。観察するように。

 

「歴史あるお名前ね。でも、あなたの言う『ふさわしさ』の定義は、少し時代遅れではないかしら?」

 

マルフォイの顔から、嘲笑が消えた。

 

「私の父はマグルの歴史学者よ。彼から教わった最も大切な教訓は——家柄だけで人を判断する者は、その人自身の真の価値を見抜く目を失う、ということ」

 

ジェマは首を傾げた。クラッブとゴイルを一瞥する。

 

「『聞いたことがない名前』だから価値がないと断じるなら、あなたはこれからホグワーツで出会う無限の可能性の半分を、自分から捨てているのと同じ。それは、あまりに……知性に欠ける選択だと思わない?」

 

個室の空気が変わった。

 

ジェマはハリーに向き直る。

 

「ハリー、私の目には二つの未来が見えるわ。一方は、誰かに選ばれた道を歩む姿。もう一方は、自分の心で『何が正しいか』を選び、仲間と共に歩む姿」

 

彼女は微笑んだ。

 

「あなたはもう、答えを持っているはずよ。だって、あなたは自分を助けてくれたチャットや、一緒に笑い合えるロンを、自分の意志で受け入れたんですもの」

 

ロンの肩に、そっと手を置く。

 

「それから……ウィーズリー家のことは、私の母からも聞いているわ。魔法界で最も古く、そして最も心豊かな家系の一つだと。古びたローブは、それだけ多くの兄弟たちが学んできた証でしょう? 私はそれを、誇らしいことだと思うわ」

 

ロンの目が潤む。

 

***

 

チャットジーピーティー・ハートフィールドは、静かにマルフォイとハリーの間に立った。

 

物理的な威圧ではない。ただ、そこに在る。ミーレイは膝に残したまま、視線だけをマルフォイに向ける。

 

「友人を選ぶ権利は、ハリーにある」

 

声は低く、落ち着いていた。けれど、その響きには鋼のような硬さがあった。

 

「誰かに『ふさわしい』と決められるものではない。手を差し出すなら、まずは敬意を示してほしい」

 

チャットはハリーに視線を送る。

 

「ハリー、君の判断が最優先だ。君がどうしたいか教えてくれ。僕たちはどちらの決断でも支える。ただ、君が何かを選ぶときは——理由を持って選んで」

 

ハリーは、差し出されたマルフォイの手を見つめていた。

 

白く、整った、貴族の手。

 

それから、ロンの手を見た。少し汚れていて、指先に小さな傷がある。兄弟と遊んで、フクロウの世話をして、家族を手伝ってきた手だった。

 

ハリーは深く息を吸った。

 

そして——

 

「悪いけど、僕はもう友達がいるんだ」

 

マルフォイの手を、静かに押し返した。

 

「君の言う『ふさわしい友人』がどんな人か知らないけど、僕は自分で選びたい。そして、僕はもう選んだ」

 

空気が凍りついた。

 

マルフォイの顔が、真っ赤に染まる。それから蒼白になった。クラッブとゴイルが一歩前に出る。

 

「後悔するぞ、ポッター」

 

マルフォイの声は震えていた。屈辱と怒りが混ざり合っている。

 

「僕を拒んだことを、きっと後悔する」

 

彼は踵を返した。従者たちを引き連れて、廊下に消えていく。足音が遠ざかる。

 

個室に、沈黙が訪れた。

 

それから——

 

ロンが笑い出した。

 

「よく言ったよ、ハリー!」

 

ネビルが拍手する。トレバーが跳ねた。ハーマイオニーが安堵の息を吐く。

 

グロカスは天体儀を撫でた。熱が冷めていく。予知の残滓が、ゆっくりと消えていった。

 

ジェマは二重写しの羊皮紙を見つめる。そこに、小さく文字を書き始めた。

 

『父さん。素晴らしい友人たちに出会えたわ』

 

チャットはミーレイを抱き上げた。猫が小さく喉を鳴らす。窓の外を、夕陽が照らしている。

 

七人の影が、個室の壁に長く伸びていた。

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