紫陽花は天使である。異論は認めない。 作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。
れ、連絡先交換しちゃった……!紫陽花さんと凛さんと、あの王塚さんと!しかも紫陽花さんがグループも作ってくれたし、これはもうそういうことだよね!?わたしはこの三人と肩を並べてるんだよね!?
画面に映るあまりにも現実離れした現実にわたしが内心打ち震えていると、隣に座る凛さんが嬉しそうに口元を緩めていた。
「凛さん?何かいいことでもあった?」
「れな子、私は今いい気分なんだよ」
「そう?わたしもみんなと仲良くなれて嬉しいからおんなじだね」
凛さんも友達が増えたら嬉しいのかな。陽キャの人達は友達が増えることなんて普通で当たり前なんだって勝手に思ってたけど……そうでもないのかな。少し親近感湧くかも。
「ちょっと私トイレ行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
あ、凛さんがトイレに行っちゃった。
立ち上がって歩いていく凛さんから視線を前に戻すと、隣の人がいなくなって視界が広くなると同時に、前方から二人の視線を感じることになった。
「「……」」
うっ、な、なにこの圧!?凛さんが来る前はこれが普通だったのに!凛さんがいなくなった途端二人相手にわたしが一人でなんとかしないといけないみたいな圧が!王塚さんと紫陽花さんを相手取って2対1とか荷が重すぎる!
わ、話題は、話題は……何を話せばいいの!?二人は普段から何を話すの!?出会って二日の人達の好みとか知らないよ!盛り上がる話題も知らないよ!
無難なのは事前に起こった事とかだけど、授業と連絡先交換したことくらいじゃ弱いか!?二人は頭もいいし授業の内容なんて赤子の手をひねるようなものだろうし、そもそもわたしが頭よくないし!連絡先交換したことについてとか何を話すの!?
や、ヤバい!陽キャ生命絶体絶命の大ピンチ!武将甘織れな子、戦略的撤退を選択す!
「わ、わたしもトイレ行ってくるね!」
「う、うん、れなちゃんもいってらっしゃい」
少し勢いがよかったせいか、頭にクエスチョンマークを浮かべている二人の視線から逃れるように早足で教室の外へ向かう。そして、そのままの勢いでトイレに駆け込んだ。
鏡を前に自分の姿を見つめる。そこには以前より陽キャっぽいだけのわたしがいた。その顔には自信の『じ』の字もない。
「……はぁ」
このままじゃマズいぞれな子、ボロが出ないように陽キャとして立ち回るのがこんなにも難しかったなんて……いや、やってみせる!変わるって決めたんだから!二日で諦めるとか三日坊主もビックリだよ!
「なにしてんの?」
「うへぁっ!?」
り、凛さん!?そういえばトイレ行ってくるって言ってたっけ!?
「ふっ、なにその声。驚きすぎ」
「だ、だってぇ……」
「ごめんごめん。で、なんでここに?もしかしてトイレまで着いてくるタイプのストーカー?」
「違うよ!?」
陽キャになる前にストーカーになるとか笑えないって!凛さん表情一つ変えずにそういうこと言うんだから心臓に悪い!
「冗談だって。で、なんでここにいるの?もしかして、二人が眩しすぎて逃げてきたとか?」
「っ!?!?」
な、なんで分かったの!?まさかわたしの演技なんて簡単に見破られて――
「……マジ?」
あ……。
これ、もしかして、墓穴掘った?
……。
……わ、わたっ、わたしの人生はもう終わりだぁ!高校デビューで陽キャになろうとした陰キャがたった2日で音を上げて逃げたって笑い話にされるんだぁ!
カースト上位の二人に声をかけられて調子に乗った陰キャが身の程を弁えずに王塚真唯に声をかけるとかアホすぎって三年間後ろ指をさされるんだぁ!
「まあ、分かるけどね」
「……へ?」
い、今、なんて……?
「真唯ってモデルとかやってるすごい人なんでしょ?それに紫陽花は天使だし、緊張するのも仕方ない。うん」
「ぁ……?え……?」
ば、バレて、ない……?ま、まだ、今ならまだ、巻き返せる!?
「そ、そうなんだよね〜!去年まで普通の中学生だったわたしには二人のオーラが眩しくってさぁ!」
な、なんとかなって!お願い!神様仏様凛様ぁ!
「まあこれから慣れていけばいいんじゃない?ほら、そろそろ戻るよ」
「あ、うん……」
そうして、凛さんはわたしの前を歩き出した。
な、なんとかなった……?凛さんはあの二人が眩しすぎて普通のわたしでは少し耐えられなかっただけって思ってくれた?わ、わたしが陰キャだってところまではバレてない!?
や、やった!よく頑張った甘織れな子!わたしはまだ生きている!理解のある凛さんで良かったぁ!うへへへへ、死の淵から蘇ったわたしは無敵だ!生まれてこの方ここまで心弾む出来事は無いよ!生きてるんだわたし!まだ陽キャなんだわたし!
ウキウキの気分のまま調子に乗っているわたしが前を歩く凛さんに駆け寄って腕をポンポンと叩くと、凛さんは嫌がるでもなく普通にこっちを見た。
「どうしたの?」
ふへへ、陽キャはこれくらいのボディタッチができちゃうんだよね!わたし陽キャだから!
「凛さん凛さん。ところでなんだけど、さっき紫陽花さんのことを天使って言ってたよね?それってどういう?」
「ん?そのまんまだけど。紫陽花ってかわいいし優しいし天使でしょ?」
たしかに。少し接しただけだけど、紫陽花さんはかわいいし優しいし天使だった。
……もしかしてもしかするけど、わたしの抱いた感想と同じなのでは?凛さんって感性が他の二人よりわたしに近いのでは!?凛さんってわたしの一番の味方なのでは!?!?
「分かる〜!授業の合間とかに喋った感じ、こんなかわいくて優しい人いるのかなって思って!」
「お、れな子も分かる?紫陽花の天使具合が分かるなんてれな子は偉いなぁ。よーしよしよし」
「えっ!?ちょっ、凛さん!?」
なっ、なんか頭撫で回されてるんですケド!?しかも妙に撫でるの上手いし!撫で慣れてません!?コレって手で払っていいヤツ!?下手に払い除けたら舌打ちとかされない!?
「幼稚園からずっと一緒にいたけど、マジで紫陽花は天使だから。れな子も安心して崇拝していいよ。もちろん料金はタダ」
エ゛ッ!?崇拝!?崇拝ってなに!?ちょっと凛さん!?わたしと仲良くなったのは宗教の勧誘のため!?それ本当にタダなの!?後から請求書とか来るやつじゃない!?
「大丈夫大丈夫、紫陽花の天使っぷりにどっぷり浸かったら帰ってこれないだけだから」
「なにその違法薬物みたいな扱い!?」
怖いよ!!内容云々もそうだけど幼馴染を宗教みたいに扱ってる時点で怖いよ!!というかいつまで撫でられてるのコレ!?もう教室に着いちゃってるんですが!?奇異の目で見られてるんですが!?
「ま、冗談だよ」
なんて言いながら、凛さんはわたしの頭から手をパッと離した。
「へ……?」
さっきまでの会話がぶった斬られてワシャワシャと撫で回されていた手も突然離れて、わけもわからずにポカンとしながら凛さんを見つめていると、凛さんはわたしのことなんて振り返らずにスタスタと歩いて王塚さん達のいる席へ戻っていってしまった。
「ま、まさかただわたしをからかってただけ……?」
「お、せいかーい」
「っ、もう!凛さぁん!ひどいよぉ!」
わたしの純粋な陰キャ心を手玉に取って楽しいか!今のわたしは大体なんでも騙される自信があるぞ!陽キャの言うことだし……って思ってた矢先にコレだよ!何がわたしの一番の味方だよぅ!わたしの一番の敵じゃん!
謎に体力を消耗したし、色々擦り減った気もするし……トボトボと自分の席に戻って椅子に座ると、目の前の二人はわたし達を見て目をパチクリさせていた。
「え?ど、どうしたの二人とも……?」
「いや、先程よりも二人の距離がかなり縮まっているような気がしてね」
「そ、それは心理的な話……?それとも物理的に……?」
「両方じゃないかい?」
うーん、仲良くなってると思われてるのかな?でも、たしかに凛さんとは前より心の距離感が縮まったかもしれない。こう、ふざけ合うことができる感じの雰囲気があるっていうか。
むむむ……?カースト上位の人とボディタッチ有りでふざけ合うことができる……?これ、まさに陽キャっぽくない?わたし、今のすっごい陽キャっぽかったかも?ふへ、ふへへ……!
「……」
「……紫陽花、どうかした?」
「……え?」
ん?紫陽花さんがどうしたんだろう。何か変なところでもある?静かなままだけど。
「そんなに見つめられても何も出ないよ」
凛さんがそう言った瞬間、紫陽花さんの瞳はさっきよりも大きく見開かれて、慌てたように両手を体の前でブンブンと動かしていた。
「えぇっ!?あっ、あはは、ご、ごめんね。見つめてたつもりはなくて……その、二人がそんなに仲良くなれて羨ましいなって、思ったの。私はまだ真唯ちゃんとれなちゃんとそこまで仲良くなれてないから……そ、それだけなんだよ?」
ウ゛ッ!!こ、これが凛さんの言っていた天使!?少し恥ずかしそうに顎を引いて上目遣いの紫陽花さんは破壊力がッ!!これが凛さんじゃなくてわたしに向いてたら意識を飛ばしていたかもしれない!!
というか凛さんはよく平常心を保っていられるね!?これが幼馴染としての貫禄……!!
「なに、そう焦らなくてもいい。人には人のペースというものがある。仲良くなる時間なんて意識しなくてもいいのさ。それに、私は既に紫陽花のことを好意的に思っているよ」
「そうなの?ありがとう真唯ちゃん。私も真唯ちゃんのこと、大切なお友達だと思ってるよ」
「ふふ、それは光栄だね」
うわー!絵になる!王塚さんと紫陽花さんのやり取り眩しいー!わたしじゃきっと上手いことフォローできないんだろうなぁ。王塚さんのフォローが上手すぎてわたしとかいらないもんね。現に空気だもんね。
そうして、なんだかんだ一息ついてそれぞれお弁当に手を付けていると、わたし達の机の横に女の子がやって来た。
「たのもー!」
王塚さんと凛さんのいる側の机に両手を置いたその子に、自然とわたし達の視線は奪われる。その子は少し背が低くて水色の髪の毛をした……えっと、名前は……
「私は小柳香穂!あのねあのね!私もこのグループに入れて欲しいにゃって思って!ねーねー!入れてー!」
「ふむ、グループか。となると私は新参者だからな。三人に聞くといい」
「私はもちろんいいよ」
「私も」
「わたしも大丈夫だよ」
「やったー!決まりだね!みんなよろしくー!」
げ、元気すぎる……陽のオーラがすごい……というか、このグループがどんどんカースト上位の上の上の方に順位を上げていってる気がする……。
王塚さんと紫陽花さんと凛さんと香穂ちゃん……?なにこの豪華な面子!?そこにポツンと紛れるわたし!!圧倒的異物感!!これどうすればいいんだよぉ!!陽キャ極まってるよぉ!!最初はそんなつもりじゃなかったのにぃ!!
「紫陽花、帰ろっか」
「うん」
騒がしい学校生活が終わり、私と紫陽花は帰路に着く。夕焼けに染まる紫陽花も綺麗だね。瞳がキラキラして見えるよ。写真撮りたい。駄目?ブロマイドにするからさ。
「……凛ちゃん、れなちゃんとすごい仲良くなったね」
「れな子?まあ、そうだね。反応も大きいしからかいがいはあるし、面白いよ」
「そ、そっか」
「……」
「……」
……む?終わり?大天使アジサエルならもう少し何かあると思ったんだけど。というかいつもの紫陽花なら「あんまりからかいすぎたら駄目だよ?」みたいな感じでやさしーく注意してくれるのに。
もしかして私コミュニケーションミスった?いつだ!?いつ紫陽花とのコミュニケーションミスを起こした!?これは謝るべき!?私死刑!?さ、探らなくては!!
「どうしたの?突然」
「え?い、いや、それでどうって話じゃないんだけど……」
おお?何か言いたそう。教えて。これからの教訓にするから。将来のために役立てるから。もう二度と同じミスはしないから。頼む、天使よ。あと顔を合わせてくれないのは何故だ。ねえ、せめて目を見て話そ?ね?
「ううん、なんでもない」
ハグアァッ!?
なんでもない!?なんでもないだと!?絶対そんなわけないじゃん!!お前に不満はあるけど我慢してあげるよってこと!?飲み込まないで教えてください!!ごめんなさい!!許して!!
「それでね、この間チビ達と――」
あっ、これ、話終わったわ。完全に切り替えられちゃった。もう学校のこととか放棄して家での話をし始めちゃった。
……なんも頭に入ってこないんですけど。
土下座したら許してもらえないかな。