紫陽花は天使である。異論は認めない。   作:ロリコンではない。好きな子がロリなんだ。

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ようやく紫陽花メインのお話です。遅すぎるね。タイトル詐欺になっちゃうところだった。


大天使紫陽花

朝、ふと隣を見ると、少しだけ眠そうな凛ちゃんがスクールバッグを私と反対側の肩にかけて歩いているのが目に映る。

 

「今日はいい天気だね。眠くなってきた」

 

「うん、ぽかぽかして気持ちいいね」

 

その姿は見慣れた自然体だけど、歩く速度を私に合わせてくれているのを知っている。さり気なく立ち位置を入れ替えて常に車道側を歩いてくれているのを知っている。

 

それに気付いたのはほんの少し前で、昔の私は何も気付かずにその優しさを享受していたみたい。凛ちゃんはいつからやっていたんだろう。

 

気付いた時には隣にいて、何も言わずに寄り添ってくれていた。一緒にいることが当たり前になっていた。

 

お隣さんで同じ年に産まれた私達は、お母さん曰く幼稚園に入る前から一緒だったらしいけど流石に高校生になった今の私がそんなところまでは覚えていなかった。

 

それでも、覚えていることは多い。

 

あまり気の強くない私はどちらかと言えば引っ込み思案な子だったと思う。そんな私の手を引っ張ってくれたのは凛ちゃんで、周りの子が困っているのを見逃せない私のお手伝いをしてくれたのも凛ちゃんだった。

 

そういえば、中学生の時には解決できるからと相談事や悩み事を請け負い続ける私を無理やり休ませてくれたっけ。

 

私が限界だったわけではないけど、でも、私のために止めてくれたから。私のしたいことを考え直すきっかけになったから。私のことを思ってくれた行動だから今もこうして覚えているのかもしれない。

 

いつも頼りになって、わがままも聞いてくれて、私のことをずっと見ていてくれる。そんな私には勿体ないくらいの自慢の幼馴染。叶うことなら、いつまでも一緒にいられたらいいな……なんて。

 

隣を歩く凛ちゃんの姿を再度一目見て、こっそりと一歩分だけ距離を詰める。少し動くだけで腕と腕が触れ合うこの距離感は、どうしてか心地良い。

 

「ん?どうしたの?虫でもいた?」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

「そう?」

 

少し、最近少し私のことを置いてけぼりにしてる凛ちゃんへのささやかな抗議。きっと気付いていないと思うけど。

 

みんないい子だし凛ちゃんが楽しそうにしてるのを見るのもいいけど、ずっと近くにいる幼馴染のこと、もう少し構ってくれてもいいんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あじさい〜!あの妖怪パーフェクトウーマンがイジメてくる!」

 

体育の授業の終わり際、私は凛ちゃんに後ろから抱きしめられていた。か、構って欲しいとは思ったけど少し積極的だね……?嫌じゃないけど……。

 

「り、凛ちゃん?どうしたの?」

 

「凛さん?いったい何が……」

 

今日は体力テストの日で、ペアを組んでいた私とれなちゃんは一緒に首を傾げていた。あれ、そういえば凛ちゃんのペアって……

 

「おや、随分言ってくれるじゃないか。そもそも突っかかってきたのは凛の方だろう?わざわざペアまで組んで」

 

「うぎぎぎぎ……!!」

 

「り、凛さん大丈夫?」

 

あー、凛ちゃん負けず嫌いだからなぁ。真唯ちゃんに挑んで負けちゃったのかな。うぅ、こういうところが子供っぽいんだよね。かわいい……。

 

「なに、反復横跳びと持久走は凛の方が上だった。この王塚真唯に勝っている所があるのだからそれを誇ると良い」

 

「他は負けてるんだけど?普通にトータルでも負けてるんだけど?……はぁ、これでも中学の三年間はガッツリバスケやってたのにさぁ」

 

「だから瞬発力と持久力は私より上だった。それだけのことだろう?」

 

「は?他は負けても当然ってこと?コイツやっぱムカつく!」

 

あっ、あっ、お腹に回された腕にぎゅーって力が……あれ?今動いた後だけど私臭くないよね?汗臭くないよね?ど、どうしよう、抜け出せないのに……。

 

「だから言ったじゃない。こんなヤツと仲良くしようだなんてやめたほうがいいって」

 

「あ、紗月さん」

 

スタスタとやって来たのは紗月ちゃん。凛ちゃんの後ろの席の子で、凛ちゃんと仲がいいみたい。真唯ちゃんとも小学生からの付き合いらしく、私達のグループにちょこちょこ顔を出している。結構馴染んでるからもうグループの一員みたいな感じかも。

 

「やあ紗月。君も結果を比べるかい?」

 

「いや、遠慮しておくわ。真唯に運動で勝てるとは思ってないもの」

 

「釣れないね。どれか一つでも私に勝てているかもしれないとは思わないのかい?」

 

「どれか一つだけ勝てても他が全滅じゃ意味がないじゃない。凛の二の舞いになるだけよ」

 

「ぐふっ」

 

「あぁ!凛ちゃん!」

 

なんて鋭い言葉のナイフ!心を抉られた凛ちゃんが脱力してもたれかかってきちゃった。なんか、頼られてるみたいで少し嬉しいかも。肩に乗ってる頭なでなでしてみちゃおうかな。

 

「凛ちゃんお疲れ様。頑張ったね。よしよし」

 

「あじさい〜……」

 

うぅっ、弱々しい声上げないで。もっと甘やかしたくなっちゃう。

 

「凛さん!そんなに気にしなくても大丈夫だよ!王塚さんに勝ってるところがあるなんてすごいし、絶対凛さんの結果は全部わたしより上だもん!」

 

「れな子……れな子はもう少し頑張れ」

 

「えぇ!?必死のフォローなんですけど!?下を見て落ち着こう的なね!?」

 

「れな子と比べられても……」

 

「ヒドくない!?王塚さんと紗月さんに煽られた分わたしを煽ってない!?」

 

「おっと、心外だなれな子。私は凛を煽ってなどいないよ」

 

「私は客観的事実を述べただけよ」

 

う、うーん、負の連鎖が……真唯ちゃんも紗月ちゃんも結構ズバズバ言うから……。

 

「み、みんな仲良くしよ?ね?」

 

「もちろんだよ。紫陽花、勝負事というのは一つの交流の形さ。それに、お互いを意識することで高め合うことだってできるだろう」

 

「……で、凛。いつまで瀬名にもたれかかってるの?」

 

「紫陽花成分補給中だから」

 

そ、それはどう反応すればいいのかな?くっついてる凛ちゃんに視線が集まってると、自然と私も見られるっていうか……凛ちゃんに抱きしめられてるのをみんなに見られてるっていうか……少し恥ずかしいよ?

 

「あ、あはは……あ、あのね凛ちゃん、私も体力テストで動いたからね、汗とかもかいてると思うの。だ、だからね、言いそびれちゃったんだけど、あんまり近すぎるのは……その……」

 

遠回しに『離れて欲しいな』って伝えると、凛ちゃんは静かに固まって、あろうことか私の首筋に顔を埋めてしまった。

 

「……スゥ」

 

「ひぁっ!?」

 

えっ!?か、嗅がれっ!?

 

「何してるのこの馬鹿!」

 

バシッ!

 

「ぶっ!?なにすんの紗月!?」

 

「それはこっちのセリフなのだけれど?」

 

さ、紗月ちゃんが凛ちゃんの頭を叩いたらしく、凛ちゃんは頭を押さえながら私から離れた。でも、私の顔は熱くて、きっと今すごい真っ赤になってると思う。汗かいてるって言ったのに……うぅ、臭いって思われてないよね?恥ずかしすぎて穴があったら入りたいよ……。

 

「凛、運動後の乙女の匂いを嗅ぐのは失礼だと思うよ。いくら幼馴染とはいえ……もし私が紗月にやったら殺されてしまうだろうね」

 

「そうね、殺さなくとも記憶を失うくらい徹底的に殴るわ」

 

「凛さん、流石に今のはちょっと……デリカシー的な問題が……」

 

三人からの非難の声に、凛ちゃんは気まずそうに視線をそらした。

 

「……ごめん、つい興味本位で」

 

「それで、感想は?」

 

「うん?それはもちろん紫陽花のいい匂いがしt「凛ちゃん!?」

 

なっ、なんで正直に答えちゃうの!?バカ!凛ちゃんのバカ!

 

「あっ、ごめっ、紫陽花ごめん!違う!今のはトラップだって!見てよあの紗月の邪悪な顔!」

 

「馬鹿正直に話す凛が悪いと思うのだけれど」

 

「あ、紫陽花さん大丈夫?」

 

「だいじょうぶじゃないかも……」

 

恥ずかしすぎて死にたい……もう生きていけないよ……。

 

 

 


 

 

 

くっ、許さないぞ紗月!あんな誰でも引っかかる罠を設置しやがって!あれ以来紫陽花に少し避けられてるんだ!こんなの犯罪だろ!この犯罪者!

 

「なに?ド変態」

 

「その呼び方やめてくれない?」

 

「うら若き乙女の汗の匂いを嗅ぐ変態に言われる筋合いは無いわ」

 

「違うんだって」

 

「何も違わないじゃない。事実よ」

 

「な、何も言い返せない……」

 

なんだコイツ、レスバ強すぎか?

 

「あなたが犯した過ちを責めているだけよ。言い合いにもならないわ。だってあなたが一方的に悪いのだから」

 

「……うへぇ」

 

うーん、流石に匂いを嗅ぐのは駄目だったか。ついやっちゃったんだよなぁ。というか普通やるでしょあんなの。魅力的すぎる紫陽花が悪いのでは?あんな誘惑に勝てるヤツがいたら教えて欲しい。正気を疑うけど。

 

「……それにしても、紗月は真唯と競ってるの?」

 

「話をそらしたわね」

 

「もう勘弁してよ……」

 

「ふっ、いいわ。さっきの本気で慌てていた凛を見て満足したもの」

 

人の姿をした悪魔かな?性格わっる〜。

 

「それで、真唯と競っているかって話ね。それに答えるのならYesよ。大体はテストの点数で競っているわ」

 

「それ、普通に負けない?」

 

「ええ、大体負けてるわ」

 

「えぇ……」

 

「だからと言って逃げる選択肢は無いもの。いつか勝ってみせるわ」

 

「……私も運動で頑張ってみようかなぁ」

 

「あまりおすすめはしないわ。アレ、本当に規格外だから」

 

でもあのパーフェクトウーマンに一泡吹かせてやりたいよね。私の三年間をヒョイと乗り越えやがって。というか真唯にボコされなければ紫陽花に避けられることはなかったはずだし。すべて真唯が悪い。

 

「負けっぱなしはムカつくじゃん」

 

「……そうね」

 

……いや、ナチュラルに紫陽花に抱きつけたから完全に悪とは言い切れないか?むしろ感謝するべき?真唯のおかげで紫陽花成分を大量補給できたと考えるべき?くっ、王塚真唯め!良い面と悪い面の二面性を武器に戦うなんて卑怯だぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ、今現在帰宅中だが……どうしよ、紫陽花が静かだ。目を合わせてくれない。一緒に帰ってはくれるんだけどちょっと気まずいっていうかさ。私が悪いんだけどね。

 

「凛ちゃん」

 

「な、なに?」

 

「今日お家寄ってもいい?」

 

「え?うん、別にいいけど……」

 

「……」

 

そ、それだけ言って喋らなくなっちゃった。もしかして結構本気で怒ってらっしゃる?紫陽花に嫌われたらどうしよう……泣くよ?おもちゃコーナーにいるガキンチョくらい泣き叫ぶよ?

 

心の中で紫陽花のことを考えてると、いつの間にか私の家に着いていた。鍵を使って玄関を開け、紫陽花を迎え入れる。

 

「お邪魔します」

 

うーん、怒っててもお邪魔しますを言うとか律儀だね。紫陽花の育ちの良さが伺える。私とは大違いだ。一緒に成長したはずなのにどうしてここまでの差が……?

 

紫陽花を連れて私の部屋に入ると、私用のベッドと机と椅子があり、二枚の座布団が低めのテーブルを挟むように置かれている。うん、いつも通り。適当に荷物を置いて座布団に座ると、紫陽花もテーブルを挟んで反対側の座布団に座って横に荷物を置いた。

 

「凛ちゃん、私怒ってるんだよ?」

 

「……ごめん」

 

「汗かいてるって言ったのに、その、あれはヒドいよ」

 

「でも紫陽花はいい匂いだよ?」

 

「そ、そういう問題じゃなくて!うぅ……」

 

あ、顔赤くなった。かわいいね。少し驚いてる感じとかもう素晴らしいの一言に尽きる。……ああ、こんな天使を怒らせるとか私死んだほうがいいんじゃないかな。

 

「うん、本当にごめん。デリカシーなかったね。お詫びに何かして欲しいことある?欲しいものとかでもなんでもいいけど」

 

「な、なんでも……?」

 

だから許してください。なんでもいいよ。ホントに。ガチで。死んで詫びるよ。大天使紫陽花を傷つけてしまった罰はきっちりと受けますとも。お金か?それならなけなしの財布の中身を全て吐き出す所存であります。

 

「……じゃあ、動かないでね?」

 

ほう、いったいどんな罰を……?動きを封じて一方的に痛めつけるとか?いや、紫陽花はそんな暴力的なことはしない。なら私が動かない間に室内の貴重品を奪い取るとか?いや、紫陽花はそんな犯罪染みたことはしない。

 

……ん?つまりどういうこと?

 

紫陽花が何をするのか皆目見当がつかない。私が頭の中であれじゃないこれじゃないと考えていると、テーブルを挟んで座っていた紫陽花が立ち上がり、こちらに近付いてきた。

 

「紫陽花……?」

 

そして、紫陽花は私の後ろに回って座り、私を後ろから抱きしめた。こう、ぎゅっと。

 

「私結構動いたし、あの後汗は拭いたけど臭いんじゃない?」

 

「……ううん、臭くないよ」

 

「なに?仕返し?」

 

「……うん、仕返しだから、だから動いちゃ駄目だよ」

 

そう言いながら、紫陽花は私の首筋に顔を埋める。私がやったみたいに。

 

「分かった分かった。大人しくしてるよ」

 

「……私がいいって言うまでだからね」

 

「はいはい」

 

あー、これ駄目だ。これは駄目なやつだ。人間が耐えられないやつだ。

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