君はペガサス 僕はポラリス   作: 龍也/星河琉

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このページに飛んでくださりありがとうございます。アイカツ!の二次創作を始めてみることにしました。まだまだ未熟ですが温かい目で見守っていただけますと幸いです。これからよろしくお願いいたします。
※今回は少し長めのプロローグ的なお話となります。


#0 新時代のはじまり

 

 この世界は、守るべきもので溢れている。

 

 自然、動物、長年受け継がれてきた技術、世界遺産、著名な芸能人。数えれば枚挙に暇がない。

 

 大切な人やものを守れるように、如何なるものにも脅かされないように……男は長年考えた。これまでにない新しい組織を生み出す為に、来る日も来る日も答えを探した。

 

 その答えをようやく形にすることに成功した彼は先日とある学校へ打診を行い、回答を待っていたところ、つい先程『学園にもう1度来てほしい』という旨の連絡があった。先方に何と言われるのだろう、と不安が過るが彼はすぐに学園を訪れ、先日招かれた時と同様に来客用の席に小さく腰掛けた後、膝の上で握り拳を作った。

 

「先日は押しかけるような形で来てしまい、申し訳ございません。光石(みついし)織姫(おりひめ)学園長」

 

 男の目の前に座しているのはライトブラウンの長髪に青色のスーツ、耳朶にはイヤリングと思われるアクセサリーが着けられており、首に水色のスカーフを巻いた泣きぼくろが特徴的な女性。

 

 光石織姫。彼が今訪れているこの場所、『スターライト学園』の学園長を務めている人物である。ここは学園内の彼女の執務室で、そこに来客用の椅子とテーブルが用意されており、テーブルには先程淹れられたばかりの紅茶が湯気を立て、アールグレイの良い香りがふわりと漂っている。男の丁寧な謝罪に織姫は首を横に振り、軽く笑みを作った。

 

「いいえ。こちらこそ、本日は急にお呼び立てしてごめんなさいね。桑折(こおり)学園長」

 

「いえいえ。お呼びとあらばいつでも馳せ参じるのが、私のモットーですので」

 

「うふふっ。素敵ですね」

 

『桑折』と呼ばれた彼は、ゴールドブロンドの髪を肩まで伸ばし、黒のスリーピーススーツを乱れなく着用した、常に笑みを湛えて1本の糸のような目をした男だった。

 

 織姫の側に付き添っている男性教員から見れば、桑折は些か胡散臭さを感じさせるような風貌であった。先日訪ねてきた際に目にした彼の言葉遣いや立ち居振る舞いから、決して悪い人物ではないというのは重々分かってはいるのだが、それでもどこか怪しい雰囲気を拭い切れないということは、『人は見た目が9割』という通説はあながち間違いではないのかもしれない。

 

 織姫が口に付けたティーカップをテーブルに置いたのを確認した上で、桑折は口を開いた。

 

「それで、光石学園長。お話と言いますのは、先日私から提案させていただきました……J()B()A()()()()()()()()、でしょうか?」

 

「その通り。先日お話してくださった、桑折学園長が運営されている『プロテジェ学園』所属の生徒で構成される『ジュニア・ボディーガード・アライアンス』、通称『JBA』……あなた方のその試みに、私共は興味が湧きました」

 

「ありがとうございます。興味を持っていただけて光栄です。既に光石学園長もご存知かと思いますが、ボディーガード需要は年々急増の一途。第一線で活躍されている芸能人にも、ボディーガードを雇っている方が多いことが調査で分かっております」

 

「ええ。そこで、桑折学園長が考案した『JBA』が正式に日本ボディーガード協会から認可され、彼等を我が校……スターライト学園所属のアイドル達の護衛に就かせたい、と。それでお間違いないですね?」

 

「おっしゃる通りです」

 

 織姫の問いに桑折は首肯する。ボディーガードはその名の通り、人々を危険から守る職業を指し、主な仕事としては依頼人の身辺警護や要人警護等の警備業務、時には価値の高い物品を守るために出動することもある。

 

 アイドル等の各種メディアに露出の多い芸能人は危険な目に遭う可能性が高く、身を守ってもらう為にボディーガードを雇う者は多く存在する。故に現在はボディーガードの需要が年々上がり続けており、それに対応すべく桑折はボディーガード養成校である『プロテジェ学園』を設立し、優秀な人材を数多く輩出してきた実績がある。

 

 桑折は昨今、アイドルの低年齢化について考えを巡らせており、そのアイドル達に安心感を与えることができて尚且つ職務を全うできる人材を揃える組織として『ジュニア・ボディーガード・アライアンス』を考案。そしてスターライト学園での護衛業務をさせてもらえないか織姫に相談を持ち掛けたのが事の経緯である。

 

 織姫の隣の席に座している男性教員は顎に手を当てながら、両者の会話に混ざる。

 

「たしかに桑折学園長がおっしゃるように、ボディーガードの需要は年々上がっている。スターライト学園のハニー達を守るために、その『Junior Bodyguard Alliance』を派遣する……ということですね?」

 

「ええ。その通りです。ジョニー別府(べっぷ)先生」

 

 男性教員は無駄に良い発音でJBAの正式名称を口にし、うんうんと頷く。彼は黒のインナーに年季の入った緑色のジャージを着ており、きちんと整えられた顎髭がダンディーさを醸し出している。

 

 名をジョニー別府。スターライト学園でアイドル達の指導を担当し、嘗てはダンサーや振付師としてその名を轟かせた凄腕の人物である。今は教師として日々アイドル達を熱く導いているのだと桑折は耳にしており、ジョニーと実際に顔を合わせるのは今日が初めてであった。

 

「なるほど。それは大変グレイトな試みですね! Yeah!」

 

「きょ、恐縮です……」

 

 ニカッと歯を見せて笑い、親指を立てるジョニー。英語混じりの独特な言葉のセンスに少々ペースを乱されている桑折に織姫は微笑む。

 

「ジョニー先生はいつもこんな感じですので、どうかお気になさらず」

 

「はい。昔、別府先生のダンスパフォーマンスを見させていただいたことがあって……その頃からすごい方だと思っておりました。こうしてお話できて、嬉しいです」

 

 桑折は当時ダンサーとして活躍していたジョニーのダンスを目にしたことがあり、その凄まじい技量にとても感動した覚えがあった。道は違えど、ひたすらに技術を磨き抜く精神は尊敬でしかない。桑折の率直な言葉にジョニーは目を見開き、表情が緩む。

 

「ですって。良かったわね。ジョニー先生」

 

「Oh……! オレのファンがまさかここにも居たとは……今日はなんてハッピーな日なんだッ! センキュー! Mr.アイス!」

 

「出たわね、ジョニーネーム」

 

「ジョニー……ネーム……?」

 

「あぁ、すみません。お気になさらず。話を戻しますが、JBAはその名の通り……若いボディーガード達が集まる集団、といったところですものね?」

 

 首を傾げて頭に疑問符を浮かべた桑折に、織姫はこれ以上ジョニーのテンションに引っ張られて脱線しないよう軌道修正し、話を本題に戻す。織姫の質問を受け、桑折は即座に姿勢を正した。

 

「はい。年齢で言えば、大体小学生から中学生の者がほとんどです。全員……私の自慢の生徒でして」

 

「それなら、スターライトの生徒達も気兼ねなく接することができそうですね。ここでのアイドル活動はセルフプロデュースを主体としていますが、全員が全員いざという時に自分の身を守れる保証はない。私は桑折学園長のご提案に賛成いたします。ジョニー先生はどうかしら?」

 

 織姫は横目でちらりとジョニーに視線を送る。

 

「オレも試みには賛成ですよオフコース! ですがスターライトのハニー達を守りたいと言うなら、それ相応のボディーガードをご用意いただかないと……本末転倒という事態になりかねない上、彼女らの護衛に就く意味がなくなってしまう。桑折学園長、そちらはどのようにお考えで?」

 

「あら、ジョニー先生が珍しくまともね」

 

「ウェイトウェイト!! まるで普段はまともじゃないみたいな言い方じゃないですか!? ハートブレイキンッ……!」

 

 大仰なリアクションで織姫に突っ込みを入れるジョニー。目の前で漫才のようなやりとりが繰り広げられ、桑折は頬を緩ませる。

 

「冗談よ。桑折学園長、見ての通り私とジョニー先生は賛成です。ぜひ、JBAの派遣をお願いできますか?」

 

「では……私共と契約を結んでいただけると……?」

 

「ええ。私達で良ければよろこんで! 生徒達にとっても、自分を守ってくれるボディーガードが居れば安心できるでしょうし。桑折学園長が先日おっしゃっていたように、アイドルは守られるべき存在だと、私も強くそう思っておりますから」

 

 そう口にした織姫の声音には、桑折には計り知れない複雑な感情が宿っていた。きっと織姫はたくさんのことを経験していて、守られるべきだったはずの人やものを守れなかった過去があるのだろうか、と彼は感じる。であれば尚更、織姫が大切にしているスターライト学園の生徒達を守り抜ける少年少女を派遣しようと桑折は決意し、両の手を強く握り締める。

 

「ありがとうございます……! 護衛を任せていただけて、光栄です!」

 

「こちらこそ、数ある施設の中からスターライト学園を選んでいただけて光栄です。それで、プロテジェ学園のどなたを派遣いただけるんでしょうか?」

 

「それについてですが……先程別府先生がおっしゃった通り、アイドルの護衛を担うのなら優秀であるのは最低条件。それ以上なら良くても、以下であってはいけない。派遣させる生徒は、光石学園長直々にお選びいただきたいのです。こちらが、学内の成績優秀者のリストです。お納めください」

 

「わかりました。拝見します」

 

「アイドルを守りたいのなら、相応の人材を用意してもらわなければ護衛に就かせる意味がない」。先程のジョニー言葉は至極真っ当で、桑折もそれは理解した上でここに来ている。依頼人を守れないボディーガードなど、居る意味や意義がない。ジョニーも学園内の生徒達を大切にしているからこそ、選定する人材に対する目はシビアになるのだろう。

 

 プロテジェ学園の生徒達の実力を厳しい目で見られるのは容易に想像が付いていた為、桑折は事前に成績優秀者をリストアップしてまとめていた。そのリストを見てもらおうと、桑折は鞄からタブレット端末を取り出し、織姫に手渡す。彼女は端末を丁重に受け取り、空中に画面を映し出す機能、『エア・ディスプレイ』でページを開く。数年前から普及している視認性抜群の画面には、男女問わず様々な生徒が映っている。

 

「気になる生徒が居ましたらお声がけください。今決めるのではなく、後日ゆっくり選んでいただいても構いません」

 

「お気遣いありがとうございます。さすが、桑折学園長の自慢の生徒達。どの方もとても優秀そうで……ん?」

 

「光石学園長? どうか、しましたか?」

 

 1人の少年が、織姫の目に留まった。

 

 精悍な顔付きの者、自信の高さが顔に表れている者。十人十色の少年少女が映し出されているエア・ディスプレイ。そこに唯一、ボディーガードを目指しているというには些か不相応な……小顔で鼻筋の通った、唇の形も綺麗でどこか可愛らしさを感じさせる美形。しかし瞳は憂いを帯びたようにやや細く、口元も笑っておらず無感情な印象を与える。どうしてか、そんな彼の顔と表情が鮮烈に織姫の興味を惹いた。

 

「いえ……失礼ですが、この子もプロテジェ学園の生徒で、ボディーガードを目指しているのですか?」

 

「左様でございます。光石学園長はやはり、良い目を持ってらっしゃる」

 

「ふふっ。お褒めにあずかり光栄です。この生徒も優秀なんですか?」

 

「たしかにその子は、容姿や小柄な体型から「ボディーガードに向いていない」と揶揄されておりました。ですが日々の努力でそのレッテルを跳ね除け、プロテジェ学園内最高位の称号……『ジョーカー』を獲得した、極めて優秀な生徒なのです」

 

 桑折は自信満々に少年の経歴を説明し、それに織姫はおぉ、と小さく声を上げる。彼のことを語る桑折の表情から、相当に優秀な生徒であることが理解できた。

 

「ジョーカー……これまたグッドな響きですねぇ。我々で言うところの『スターライトクイーン』のようなものでしょうか?」

 

「そうかもしれないわね。桑折学園長、こちらの生徒のことを詳しく教えてもらえるかしら?」

 

「もちろんです。彼は私が直々にスカウトし、特に目をかけて指導していた生徒の1人です。少々真面目過ぎるきらいがありますが……人一倍責任感が強く、与えられた仕事をしっかり行えると信じております」

 

「そうなんですね。ちなみに、彼の友人関係は?」

 

 織姫に問われた桑折は少し間を置いた後、再度口を開いた。

 

「我が校は生徒間での競争が激しく、仲の良い友人を作る子はあまり居らず……彼も、周りと同じように独りで過ごすことが多く……」

 

「まぁ……! そうだったんですね……」

 

「ですが、彼とほぼ同じタイミングで学園に編入した生徒が2名居ります。写真の両隣に居る、この2人です」

 

 桑折は二本指でエア・ディスプレイの中に居る2人の女子生徒を差す。1人はピンクゴールドの髪を持ち、もう1人は銀色の髪を肩口まで伸ばした容姿だった。

 

「では、この子達が彼の同期ですね?」

 

「はい。この2名は『ジョーカー』の次に優秀な者に与えられる……『エース』の称号を所持しています。彼女達もボディーガードを目指す者として、自らの責務を全うする覚悟はできております」

 

 織姫は顎に手を当て、暫し思案する。桑折が言っていた、学園内で最も優秀な生徒である証の『ジョーカー』、その次に優れた者は『エース』。3名共プロテジェ学園内の上澄みに位置する生徒だと理解できた。織姫が最も気になったのはジョーカーの少年で、彼の同期と言えるのはエースの少女2人。スターライト学園で業務をしてもらうのなら、同期同士で切磋琢磨し合えた方が良い。そう感じた織姫は真っ直ぐに桑折の方へ向き直る。

 

「わかりました。それでは……彼と、こちらの女子生徒2名。計3名で、我が校のアイドル達の護衛をお願いいたします。私は、この子達が最も適していると判断しました」

 

 織姫の迅速な回答に、桑折の眉が微かに動く。

 

「お早い決断ですね。もっとゆっくり検討いただいても良いのですよ?」

 

「いいえ。お心遣いは大変ありがたいですが、それには及びません。プロテジェ学園内トップの彼と、次席の彼女達。成績は申し分ないでしょうし、何より……この子達なら、スターライト学園に新たな風を吹かせてくれると思ったのです」

 

「光石学園長……」

 

 現代の常識や自分達を取り巻く環境は目まぐるしく変わる。アイドルだって、ファンに求められるものは日々変化していく。世間一般の常識で言えば、少年少女がボディーガードの仕事をするのはあり得ないと一蹴されるだろう。けれど協会から正式に認可され、学園長が太鼓判を押す人材ならば……彼等を信じて任せてみるのもありだと判断した。何より、アイドルとボディーガード。異なる立場だが年齢の近い子供同士がどのような関係を築き、どんな未来に繋がるのか。織姫の心は、未知なる展開が動き出しそうな高揚感に満ち溢れていた。

 

「私は、私の直感を信じてみようと思います。ジョニー先生も、この子達で良いかしら?」

 

「何を言いますか。学園マザーが直々に選んだ生徒達なら、異論はナッシング! 彼らをスターライトに招こうではありせんか! Yeahッ!」

 

 ジョニーは親指を立て、自慢の白い歯を見せて笑う。彼も織姫が指名した3人の男女を派遣させることに異論はないようだった。

 

「ありがとう。じゃあ、決まりね!」

 

「本当に、ありがとうございます。では、派遣契約をするにあたってのお話し合いをさせていただきたいのですが、もう少しお時間をいただいてよろしいでしょうか?」

 

「えぇ、もちろん。お互いがWin-Winになるような契約にしましょう!」

 

「はい! ぜひ……!」

 

 アールグレイの湯気が揺蕩う空間で、両学園長は今後についての話し合いを始める。JBAのスターライト学園への派遣料、JBA個人に支払われる報酬の割合等、金銭が絡む小難しい内容が続いた為ジョニーはあくびを堪えながらテーブルの上に置かれた書類にちらりと目を通す。それを見る限り、桑折は本当にスターライト学園の力になろうとしているのがわかった。提示する契約内容に、こちらが不利になる要素が一切見受けられない。そこに織姫が歩み寄る姿勢を見せており、気付けば両者は笑顔で話し合いを行っていた。

 

「フッ。これは面白くなりますね。今よりもっと……ハニー達のアイカツがワンダフルになる予感がしますね!」

 

「同感よ。ジョニー先生」

 

 小声でジョニーに返し、織姫は粛々と桑折との打ち合わせを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 某日。都内唯一のボディーガード育成学校、プロテジェ学園にて。

 

 桑折は先日織姫から指名された3名の生徒を執務室に呼び出した。最後まで読むには軽く一晩はかかりそうな分厚い本が多数並べられている書斎に囲われたような一室で、桑折は組まれていた手を解いてから静かに口を開く。

 

「来てくれてありがとう。3人共」

 

 穏やかな声音でそう言われた3名は、一層手や足に力を込めて直立不動の姿勢を保つ。学園長に直接呼び出されているこの状況で楽な姿勢で居られる訳などない。

 

「とんでもございません。学園長、あたし達にお話というのは……?」

 

 ピンクゴールド髪の少女は、単刀直入に自分達が呼び出された理由を問う。

 

「ああ。早速本題に入ろう。私が前から進めていた『JBA計画』のことは、知っているね?」

 

「ええ。年若く優秀な人材を早期に現場に派遣して護衛業務に就かせる……昨今のボディーガード需要に応えるための計画だとお伺いしておりますわ」

 

「さすがリリス。覚えていてくれて嬉しいよ」

 

「恐縮です。桑折学園長」

 

 リリスと呼ばれた銀髪の少女は恭しく頭を下げ、彼女に微笑を返してから桑折は他の2人にも視線を合わせる。

 

「先日、日本ボディーガード協会からこのJBAの設立が正式に認可された。そこで、君達3名に……JBAの創設メンバーになってもらいたい」

 

「……!? あたし達が、JBAの創設メンバーに……で、ありますか?」

 

「ふふっ。そんなにかしこまらなくて良いよ、あいむ。君達にはJBA所属のボディーガード……組織のロールモデルとして、護衛業務を担ってほしいんだ。普段の成績、人間性、信頼性。それらを総合的に判断し、君達を先方に勧めた。そうしたら、向こうの学園長が君達を選んでくれた。とても名誉なことだよ」

 

 あまりの驚きに敬語が崩れかけた、あいむというベリーショートの髪を持つ少女はグッ、と両の拳を握り締める。まさか自分達が組織の創設メンバー……しかも護衛業務を任されるとは思わなかったようで、開いた口が塞がっていなかった。

 

「この(わたくし)をお選びいただけるなんて……光栄ですわ……!」

 

「日々の努力が身を結んだんだよ。存分に胸を張ると良い。派遣先も大手の学校……『スターライト学園』に決まっている。名前くらいは、聞いたことがあるんじゃないかな?」

 

「スターライト……所属する生徒は全員アイドルとして活動していると有名なあの学園ですか?」

 

 我に返り、あいむはスターライト学園について桑折に問う。自分達が通うプロテジェ学園と同様に合格率が非常に低く、所属の生徒達は業界から高い評価を得ていることで有名なアイドル学校。いつかはスターライトにもボディーガードを就けられるような体制を整えたいと桑折の口から聞いてはいたのだが、それがこんなにも早く実現したのは3人にとって想定外であった。

 

「その通り。今あいむが言ってくれたように、スターライト学園所属の生徒達は皆現役のアイドル。君達と変わらないくらいの若い人達がたくさん、芸能界に身を置いている」

 

 10代の若者が数多くアイドルとして活動しているのは純粋に凄いことだ。しかし、それ故の弊害も確かに存在している。

 

「その分マスコミやファン……様々な魔の手の標的になりやすい。知ってると思うが、アイドルのファンがしでかして警察沙汰になった、といったニュースは腐るほどある。私は、その現状を変えたくてJBAを作ったんだ。大切な人やものに寄り添い、守れるようにね」

 

「学園長……! そのお心に、感服いたしますわ!」

 

 桑折の言葉にリリスは声を弾ませる。守られるべきものが正当に守られる世界を実現する為にこのプロテジェ学園を創立し、そこから新たな組織を生んだ。学園の長として、経営者として、桑折は固定概念に囚われずに業界の最先端で居続ける覚悟はとうにできている。

 

 桑折がここまで話をした中で唯一、一切の口を挟まない男子生徒にちらりと目線を向ける。

 

「ありがとう。ハルキ、君も先方に選ばれたんだ。JBAとしての派遣業務、受けてくれるかな?」

 

 夜色の髪を整髪料でかき上げ、他の2人とは異なり制服の上から黒を基調とし、金色の留め具が付いたマントを羽織っている少年は表情を変えることなく小さく口を開いた。

 

「学園長の指示であれば、私はそれに従います。私は、私の責務を全うするだけです」

 

 淡々と放たれた彼の言葉に、あいむは舌打ちと共に横を向く。リリスは相変わらずだな、といった様子で肩をすくめた。

 

「頼もしいね。ちなみに、スターライト学園の学園長は……ハルキにとても興味を示していたんだよ?」

 

 桑折の発言に驚いたのか、彼の肩が僅かに動く。

 

「何故、自分に……?」

 

「君が我が校で最も優秀な『ジョーカー』であること以外にも、何か理由があるみたいだけれど……その答えは、スターライト学園に行けばわかるかもしれないよ?」

 

 そう言われてハルキは黙り込む。何故自分がそこまで先方に興味を持たれているのか皆目検討もつかないし、そのことについてどのような返しをすれば良いかわからない。数秒の沈黙が流れ、あいむは鼻持ちならない様子で会話に混ざる。

 

「先方がコイツにご執心ってことは、あたしや西城(さいじょう)は単にオマケってことですか?」

 

「あいむ、そんな言い方は良くないよ。今後JBAがもっと大きな組織になる未来を見据え……私が君達2人を推して、先方にご納得いただいた。あいむとリリスも選ばれたんだよ。スターライト学園のアイドルを守るための人材として、ね」

 

「私達が……」

 

 桑折はあいむを嗜め、彼女達もまた先方に選ばれた生徒なのだと伝える。ハルキの同期であることも理由の1つではあるのだが、たったそれだけの為に選出されたメンバーではないのだと2人に理解を促し、あいむとリリスはハルキと同様に口を閉ざす。沈黙は肯定と捉え、桑折は話を続ける。

 

「大丈夫。3人なら上手くやれると信じているよ。君達に与えられた称号やカードは、決して飾りではないだろう?」

 

 プロテジェ学園内独自の称号。それを与えられているからには相応の実力と成績を納めている証明であり、お飾りなどではない。あいむとリリスは制服のポケットからトランプを模したカードを取り出し、胸元にかざす。

 

「もちろんです。選ばれた以上、あたしにできることを精一杯やらせていただきます! エースの名に恥じない仕事をしてみせます!」

 

「私も同じです。エースとして、後に続く生徒達の模範になれるようなボディーガードを目指しますわ!」

 

「うん、素晴らしい心意気だ。では、改めて……」

 

 3名全員、スターライト学園での派遣業務を受ける気になってくれたと判断し、桑折は口角を上げながら頷いて自席から立ち上がり、目の前に居る少年少女1人1人と目を合わせる。

 

「スペード寮エース、東雲(しののめ)あいむ」

 

「はいっ!」

 

 快活な声で、元気良く返事をする。

 

「ハート寮エース、西城(さいじょう)リリス」

 

「はい!」

 

 凛とした声で、真っ直ぐに桑折の笑みを湛えた目を見据える。

 

「そして……ジョーカー、星北(ほしきた)ハルキ」

 

「……はい」

 

 大いなる期待が込められた学園長の呼びかけに、ハルキは静かな声音で返す。

 

「君達に、スターライト学園所属アイドルの護衛業務を命ずる。詳細は追って通達するが……派遣は今から1ヶ月後だ。各々研鑽を怠らず、心して準備に取り掛かるように。良いね?」

 

「「「はいっ!」」」

 

 3人は声を揃え、与えられた責務を果たす決意を固めるのだった。

 

 

 

 

「まさか、こんな早くから護衛業務を任されるなんて思わなかったぜ。先方も、あたし達を選ぶとはな」

 

 学園長室を出て、3名は学内の廊下を並んでゆっくり歩いていた。あいむは先程まで使っていた敬語を解き、男性のような粗野な口調で2人に話し掛ける。

 

「プロテジェ学園内のトップと次席2人。妥当な人選だと思いますわ。けれど名誉なことに変わりありませんの。光栄極まれり、ですわね」

 

「まぁ、そうだよな。……おい星北。相変わらずシケたツラしてやがんな。オマエは選ばれて嬉しくねぇのか? 先方の学園長からも特に興味持たれてるみてぇだしよ。ちょっとは喜んだらどうなんだ?」

 

 あいむとリリスに挟まれたまま無言で歩を進めるハルキに対し、彼女は挑戦的な口調で問う。彼はあいむに目線を合わせることなく、抑揚のないトーンで言葉を紡ぐ。

 

「別に嬉しくもなんともない。この派遣業務だって、ボクにとっては通過点でしかない。自分達が選ばれたってだけで浮かれているようじゃ、足をすくわれるよ」

 

「んなっ……別に浮かれてねぇよ!」

 

「同感ですわ。馬鹿にしないでくださいまし」

 

 ハルキの言葉を挑発と捉え、2人は怒りと不快感を露わにする。彼はいつもそうだ。正しいことを正しいまま口にし、とにかく他者に対しての配慮に欠けている。おまけにいつからか感情の起伏が非常に薄くなり、ここ数年笑っているところを見たことがない。

 

 まるで機械か何かのようなこの少年を学園長は特に目をかけていて、先方からも興味を抱かれているというのは2人にとって些か納得いかない部分はあれど、ハルキは学内で最も優秀であると認められた称号……『ジョーカー』を保有するただ1人の存在。そこに至るまでの努力や強さは、素直に認めざるを得ない。

 

「へっ。いくら偉そうなこと言おうが、オマエも現場に出るのは初めてなんだ。情けねぇ姿晒した時には……そのマントもジョーカーのカードも、あたしが奪い取ってやるよ」

 

 いくら成績が優秀であろうと、それが現場の護衛業務に活かされなければ無意味だ。それこそ、持っている称号も飾りでしかなくなる。「中等部初のジョーカーになりたい」というあいむの目標を尽く潰したハルキに対して彼女は対抗心を燃やしていて、且つジョーカーの称号を手にすることを諦めた訳ではない。責務を全うすると宣言した手前でそれが果たせない軟弱な人間だったら、ジョーカーの証であるカードもマントも自分がもらう。あいむの挑発的な言葉を受け、ハルキはやっと目線を彼女に向ける。宇宙のような青紫色の瞳であいむの眼を捉えた。

 

「……守るよ。この称号も、アイドル達のことも」

 

 短くそう告げ、足早にその場を去っていく。身に付けたマントを靡かせて歩く彼を無言で見送った後、あいむは深い溜息を吐いた。

 

「変わっちまったな。星北の奴」

 

「……ええ。まったく」

 

 ほんの少しの哀愁を纏った2人の呟きはハルキの耳に届かないまま、ただ宙に溶けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「にしても、学園マザーも思い切りましたね。まだ実績のない、真新しい組織と契約するなんて」

 

 その夜、スターライト学園の学園長室にて。部屋の窓から空を見上げる織姫に、ジョニーは背後から声を掛けた。

 

「実績はこれから生まれてくるはずよ。それに、生徒達を守りたいと言ってくれる方の厚意を無下にしたくないじゃない。初めに来てもらうプロテジェの生徒達も、桑折学園長のお墨付きみたいだしね」

 

「東雲あいむと西城リリスはわかります。この2人は問題ないでしょうが……何故、星北ハルキを選んだんです? オレもMr.アイスから彼の詳しい経歴を聞いていましたが、その限りでは……ハニー達と良い関係を作れるとはとても思えない。学園マザー、何かお考えが?」

 

 派遣してもらうにあたり、織姫と一緒に3名の人間性に問題がないか判断する為に桑折から詳しい経歴を聞かせてもらった。その際、ジョニーはハルキの話に引っかかりを覚えた。普段の生活や人間関係を見るに、優秀であるのはわかるが他者と上手くコミュニケーションをとれる人物には到底見えなかった。

 

 彼等の詳しい経歴を聞いた上で、それでも尚この3人を派遣してもらいたいと学園長である織姫がそう依頼した為、そこに異論はないのだが……ジョニーからすれば些か心配になる部分があるのが正直なところであった。彼の真面目な問い掛けに、織姫は笑む。

 

「だからこそよ。自身の過去を踏まえて……星北ハルキがこれからどんな人と関わり、アイドルとどのような関係を構築できるか。純粋に興味があるの。ジョニー先生も、できるだけ彼に寄り添ってあげてね? あの子も大空(おおぞら)と同じように、どん底を知っている。そして今もきっと……心に傷を負ったままだろうから」

 

 スターライト学園にも、ハルキとよく似た境遇の生徒が居る。飛び抜けた才がなく、実技や座学の成績は下から数えた方が早かった程に実力が芳しくなかった少女……大空あかり。彼女は底の底を知り、その状況から懸命に這い上がってきた生徒の1人だ。双方の努力の方向性は大きく異なっており、桑折から話を聞いた限りハルキがしてきた努力はどこか悲しみを伴ったものだった。

 

「心に傷を負ったまま」。そう口にして振り返った織姫の憂いを帯びた目に、ジョニーはハッと目を見開く。いくらプロテジェ学園の生徒が優秀とはいえ、彼等はまだ子供。本来であれば彼等も大人に守られるべき存在なのだ。織姫はハルキやあいむ、リリスがスターライト学園での業務で成長することを願っている。大人として、3名のことを見守って寄り添う義務があると感じているのだとジョニーは即座に理解する。伊達に何年も彼女と同じ時を過ごしていない。声音や表情で、織姫が何を思っているのかはある程度分かるのだから。

 

「わかりました。学園マザーの頼みとあらば、ハニー達だけでなくボディーガードの面倒もこのわたくし! ジョニー別府が見させていただきますぜ! Yeah!」

 

 凄まじい勢いでその場をくるくると回転し、ピタリと動きを止めてからサムズアップを決めるジョニー。ダンス由来のキレのある彼の動きは、いつ見ても飽きない。その言葉に織姫は安堵し、にっこりと笑みを浮かべた。

 

「頼りにしてるわ。ジョニー先生。あ、そうそう。問題ないとは思うけれど、さすがに男性をスターライトの寮に住まわせる訳にはいかないから……物置き小屋の掃除と、最低限生活できるように環境の整備をお願いね? 大丈夫、私もできる範囲で手伝うから」

 

 急な織姫からの依頼に、ジョニーは思わず「えっ」と声を漏らす。

 

 彼女の言う通り、ハルキとアイドルの間で「もしも」のことは恐らく起きないとは思うが、万が一のことを考えるとスターライト学園の寮に男性のハルキを住まわせるのはリスクが伴う。

 

 それは分かるのだが、寮のすぐ近くにある今や単なる物置きと化している別棟の整理と、そこで生活できるように改造しろ? あの物だらけ埃だらけクモの巣だらけの小屋を? しかもJBAの派遣は今から1ヶ月後。それまでにハルキが最低限度の生活をおくれるくらいに設備を整えなくてはいけない? そもそもあの小屋に電気やWi-Fiを通せるのか? これからかかるであろう工数を軽く想像しただけで、ジョニーの額から汗が吹き出る。

 

 いや、しかし。アイドル達を守る為にスターライト学園に来てくれるJBAの1人に対し、「あなたは寮に住めません」と突き放すのは無礼にも程があるというもの。しかもスターライト学園近郊に泊まれるホテルは皆無だし、まさか彼に「野宿しろ」と言うのはあまりにも無茶で酷な話である。せっかく来てくれるJBAを快く迎え入れる為に、ここは自分が一肌脱ぐしかあるまい。ジョニーは織姫に、ニカッと笑ってみせる。

 

「……オーケー! お任せください学園マザー! かつては『DIYのジョニー』と呼ばれたこのオレが……必ずやあの小屋を大改造して、劇的ビフォーアフターにしてみせますよ!! Yeahェッ!!」

 

 口ではこう言っているが、彼の声が明らかに震えていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




交わりの先に、未知なる展開が待つ。
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