君はペガサス 僕はポラリス   作: 龍也/星河琉

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読んでいただきましてありがとうございます。今回もよろしくお願いいたします。


#2 アイドル学校×ボディーガード〜後編〜

 

 自分が通う以外の他校は、存外新鮮に映るものである。

 

 スターライト学園へやって来たJBA一同はジョニーと涼川(すずかわ)に学園内の敷地を一通り案内してもらい、設備についての説明も共に行われた。アイドル学校の名門と言われるだけありレッスン室がいくつもあり、トレーニンググッズもあれ程数多く揃えられているのはさすがの3人でも舌を巻いたようで、スターライトの凄さを思い知らされることとなった。

 

 レッスン室以外にも集会に利用できる講堂、広いグラウンドや体育館、各種イベントやライブを行える劇場、自然豊かな広場等……充実した設備の数々にあいむとリリスは開いた口が塞がっていなかった。自分達が通うプロテジェ学園も不自由はしないくらい設備が整っているし、広いといえば広いのだが、ここまでのものではない為に驚きが大きかったようである。

 

 案内の途中でスターライト学園の学園長、光石(みついし)織姫(おりひめ)にも軽く自己紹介を行い、各々が所持しているスマホに織姫やジョニーの連絡先を登録した。緊急連絡用に入学時からプロテジェ学園より貸与されている携帯端末は、護衛業務を担う上で不可欠なツールとなる。

 

 スケジュールの確認や業務連絡を手軽に行えるようにアップデートが施されたスマホを使いこなしながら、3人はこれからボディーガードとして仕事をこなしていくこととなる。

 

 現在あいむとリリスは涼川にスターライト寮の中を案内してもらっているが、ジョニーとハルキはスターライト寮敷地内の付近に建てられている物置き小屋前に足を運んだ。ハルキの脳内に、「まさか……?」という言葉が浮かぶ。

 

「さ、着いたぜルーキー。ここが今日からルーキーが住む……名付けて『J(ジェイ)×J(ジェイ)ハウス』だ!」

 

 異様に格好良くその場を回転した後、ビシィッ! という擬音がよく似合う勢いで物置き小屋を指差す。物置き。念の為何度か瞬きをしたが、その目に見えるのはまごうことなき物置きだ。『J×Jハウス』というネーミングは恐らく『ジョニー×JBA』か『ジョニー×ジョーカー』の意を表すのだろう。名前については一旦置いておいて、ハルキは一応ジョニーに確認をとろうと口を開いた。

 

「……恐れながら申し上げますが、物置き小屋のように見えるのは気のせいでしょうか」

 

「フッ。入ってみればわかるさ。いざ、オープンッ!」

 

「……!」

 

 そう言ってジョニーが小屋のドアノブに手を掛け、勢い良く開いた先には……本格的な居住スペースが作られていた。

 

 明るめの照明の下にちゃぶ台が置かれており、近くには冷蔵庫や小さめの棚がある。横側には蛇口式のシンクが付けられており、ガスコンロはないが湯を沸かす為のポットや湯呑みと茶葉がセットで揃っている。部屋の上部にピンと張られた洗濯ロープに、奥側に見える布団と枕。人1人が最低限生活できる程度に設備が整えられていた。

 

「すごい、ですね」

 

「センキュー! ずっと物置きとして使われていた小屋を大改造し、ルーキーが寝泊まりできるようにしたんだ。申し訳ないが、ハニー達と同じ寮に住まわせるのは少々問題があると学園マザーから言われてしまってね……手狭だが、水道や電気も通ってるぞ!」

 

 絨毯を敷かれた床の上には6つ口の電源コードが伸ばされており、蛇口をひねると濁りのない水道水が出てきた。自分の為だけにここまでの設備工事を行なってくれたことにハルキは内心驚きながら、ジョニーの方へ向き直る。

 

「当然の判断だと思います。事前にスターライト学園の立地を調べたら山の方だったので、最悪野宿するつもりでしたから。お部屋を用意していただいて、ありがとうございます」

 

「ノンノンノン! 野宿なんてさせる訳ナッシング! 自分の家だと思って、自由に使ってくれ! Yeah!」

 

「お心遣い、痛み入ります。……あの、冷蔵庫や棚に貼られているシールは一体……?」

 

 ジョニーに礼を言いつつ、先程から気になっていた家具に貼られているアルファベットの『J』を形どったマークに無数の星が散りばめられているシールを指差す。するとジョニーは「良い質問だ」と言わんばかりにフッ、と笑みを溢す。

 

「家具や家電はオレの私物を置かせてもらった。工事費は経費で賄えたんだが、生活用品はNGと言われてしまい……家の倉庫にしまってた物をそのままリユースしたんだ! おNewで揃えようとしたらオレの財布が空っぽに……ソーリー……」

 

 徐々に声が弱々しくなっていくジョニーに、懐事情の厳しさを垣間見る。

 

 どうやらここにある家具家電はジョニーの私物らしく、であれば妙にアメリカンなシールのデザインにも納得がいく。どの家具も目立つ傷や汚れはないが、シールに所々剥がれや色褪せが見られることから年季の入り具合を感じる。家具と家電は新品だろうと中古だろうと使えればそれで充分な上、不自由しないようにわざわざ私物まで設置してくれたジョニーに頭を下げる。

 

「いえ……謝らないでください。むしろこんなに設備を整えていただいて……頭が上がらないです。本当に、ありがとうございます」

 

「ノープロブレム! ハニー達やJBAにとって居心地がグッドな場所を作るのが、大人の仕事ってやつさ。Yeah……」

 

「そ……そう、なんですね」

 

 妙に良い声を出すジョニーにハルキは戸惑いながらも言葉を返す。

 

 案内している時もコロコロと表情が変わり、何かを説明する度にアグレッシブな動きが混ざる彼のテンションに着いていくのがやっとで、まだ業務が始まる前だというのに若干の疲労感があった。訓練とは別ベクトルで疲れが溜まっていくというか、当のジョニー本人はあれだけ激しく動きまくっていたのに少しも疲れた様子が見受けられない。普段からスターライトのアイドルを指導している分、底なしの体力を持っているのだろうか。とハルキが心の中でそう思ったところで『ルーキー』と、ジョニーが彼の名を呼んだ。

 

「案内はこれで終わりだ。夕方にまた顔を出すから、それまではハウスに自分の持ち物を置いたり、明日の準備をして過ごすと良い。ルーキーのキャリーバッグはそろそろハニーが持って来てくれるはずだぜ!」

 

「わかりました。ご案内いただき、ありがとうございました」

 

 ハルキは改めてジョニーに頭を下げると、彼は爽やかに髪をファサッ、と揺らしてみせる。

 

「礼には及ばないさ。じゃあ、また後でな。グッバイルーキー!」

 

 軽く手を振って小屋を出る時、ジョニーはとある来客に気が付いた。

 

「おっ。ちょうど入れ替わりだな。荷物を持ってきてくれてセンキュー、()()()()()! 彼はもう中に居るから、挨拶してやってくれ! Yeah!」

 

「はい。お疲れ様です」

 

 颯爽と小屋を出ていくジョニーの代わりに、1人の少女が控えめに入口から顔を出した。青色を基調とした制服に身を包み、薄紫色の長髪に菫色の双眸がクールな印象を与える。去り際のジョニーの発言から、彼女がここまで自分の持ち物を運んでくれたのだと確信し、ハルキはゆっくりと玄関口へ移動して外へ出て、すぐ側に居る女子生徒の前へ立った。

 

「この度、プロテジェ学園から参りました。星北(ほしきた)ハルキです。これから、お世話になります」

 

「スターライト学園の氷上(ひかみ)スミレです。こちらこそ、これからお世話になります。よろしくね」

 

 自己紹介の後にスミレは柔らかく笑む。その柔和な笑顔が、ハルキが師として仰ぐプロテジェ学園の長、桑折(こおり)と重なった。彼女のことは何も知らないが、その笑顔できっとたくさんの人達を癒しているんだろうな、と彼は思う。自分達JBAには到底出来ないことだから、素敵だと。

 

「荷物を運んでくださり、ありがとうございました。来て早々ご迷惑をおかけし、申し訳ございません」

 

「ううん。せっかくスターライトに来てくれたんだから、このくらい当然だよ。気にしないで?」

 

「ありがとうございます。これから荷解きを行いますので、失礼いたします」

 

 スミレからキャリーバッグを受け取り、早々に小屋に戻ろうとするハルキ。そんな彼に、スミレは思わず「あっ……」と声を出した。

 

「……あのっ」

 

「はい? 何か、ありましたか?」

 

「わたしでよければ……荷解き、手伝おうか? 1人じゃ大変だろうから」

 

 スミレからそう言われ、ハルキは数秒間押し黙る。彼女が良かれと思って、厚意で言ってくれているのは考えなくても分かる。……けれど。

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、これ以上お手を煩わせる訳にはいきません。私1人で大丈夫です」

 

 わざわざ自分の荷物をここまで運んでもらっているのに、荷解きまで手伝ってもらう訳にはいかない。それにジョニーや涼川、スターライトの学園長である織姫は例外だが、スミレ達アイドルとは業務以外で関わりたくないとハルキは考えている。

 

 JBAはあくまで仕事としてスターライト学園に派遣されている身。生徒達と仲良くするなんて言語道断だと彼は自分に言って聞かせていた。故に手伝いは不要だとスミレにやんわりとお断りの旨を伝えたのだが、彼女はその場から離れようとしない。

 

「……あの。お手伝いは不要と……」

 

「わたし、スターライトに来て……1人で荷解きしたの。大変だったし、少し……寂しかった。あなたも、同じ気持ちになってほしくなくて。だから……手伝わせてほしい。だめかな?」

 

 真っ直ぐに自分を見つめるスミレに、ハルキは思わず目線を逸らす。ちらりと視線を戻すと、未だこちらをじっと見つめるスミレが居た。なんだか、何度断っても譲らない気がして、このままでは埒が明かない予感がした彼は小屋のドアを静かに開ける。

 

「お言葉に甘えて、よろしいでしょうか」

 

「ふふっ。もちろん。お邪魔するね」

 

 こうして、ハルキとスミレの2人で荷解きを始め、持ち物を部屋に配置していくこととなった。生徒に見られて困るものは持参していないし、業務用に貸与されたパソコンもパスワードでロックしていて見られる恐れもない為、ハルキはキャリーバッグをがばっと開く。中身を一目見たスミレの口から「わぁっ……」と声が漏れる。

 

「いっぱい、詰まってるね」

 

「重たかったですよね。申し訳ございません」

 

「ううん。キャスターついてたし、普通に持ち上げられたから大丈夫。あ、これ……アイロン?」

 

「ええ。業務用のワイシャツ等をアイロン掛けするため、持参しました。小さめですが脚付きのアイロン台も入ってますので、重たいのはこれらも一因かと。すみません」

 

 キャリーバッグの中には着替え用の服やプロテジェ学園の制服一式とノートパソコン、アイロンとアイロン台が揃って入れられている。他にも日用品がいくつか入っており、先程持った時に感じた重さの理由にスミレは納得する。キャリーバッグの中身を目にし、彼女はとあることに気が付いた。

 

「気にしないで。……ハルキ君、几帳面なんだね」

 

「え?」

 

「アイロン持ってきたり、着替えも綺麗に畳まれてる。それと、靴磨き用のブラシやクリームも入ってるから。けっこう、綺麗好き?」

 

 スミレに問われ、ハルキは表情を変えずに彼女と目線を合わせる。

 

「せっかく身に付けるなら、綺麗なものが良いというだけです。それに……私はJBAのロールモデルとして派遣されています。なのに身だしなみがだらしないなんて、示しがつかないでしょう」

 

 自身の清潔感も理由の1つだが、ロールモデルとしてスターライト学園に派遣されている以上、今後増員されるかもしれない他の生徒達の模範でなくてはならない。身だしなみ、言動、行動、業務。全てにおいて気を抜くことは許されない。ハルキはその思いを胸に派遣を受け入れ、ここに来ている。故にいたって普通で、当たり前のことだ。ひけらかすものでも、褒められることでもない。

 

 それでも、ハルキの返答を受けたスミレは頷いて、静かに笑みを作る。

 

「そっか。どんな理由でも……わたしは、素敵だと思う」

 

「普通です。褒められる程のことではありません」

 

「それを普通だと思えるのも、すごいよ」

 

 普通のことだと言っても更に褒め言葉を重ねられ、背中にむず痒さが走ったハルキはプロテジェの制服を掴みながら立ち上がる。

 

「褒めても、何も出てきませんよ」

 

「わたしが伝えたいと思ったから。キャリーバッグのもの、触って大丈夫?」

 

「ええ。お好きなように」

 

 制服をハンガーに通しながらそう返し、スミレはキャリーバッグから丁寧にものを取り出して、丁度良い場所に配置し始める。

 

 作業は黙々と進んでいき、両者共に会話はない。だが、ハルキにとってはむしろそれが良かった。話しかけられなければ喋らずに済む。スミレと仲が深まることもない。電池を入れて動き出した時計の針の音だけが聞こえる空間。しかし、自分以外の誰かが居ると分かるこの状況を、そこまで悪いものでもないとハルキは感じるのだった。

 

「良い感じになったね」

 

「はい。手伝っていただき、ありがとうございました。この恩は、業務で返します」

 

 一通り物を配置し終え、スミレに深々と頭を下げるハルキ。お礼を言われた彼女は軽く首を横に振る。

 

「大袈裟だよ。わたしがただ、手伝いたかっただけだから」

 

「それでも、助かりました。本当に、ありがとうございます」

 

 今度はスミレと目を合わせて再度礼を伝えた。施しを受けたのならしっかりと謝意を述べる。桑折に徹底して教わった教訓だ。その目があまりに真剣で、とても……綺麗で。スミレは彼の目を見つめて、静かに微笑む。

 

「どういたしまして。お仕事やオーディションで会った時は、よろしくね?」

 

「はい。JBA所属のボディーガードとして、業務を全ういたします」

 

「うん。またね、ハルキ君」

 

 スミレは一言伝え、小屋から出て行く。ドアが完全に閉まった後、ハルキはふぅ、と一呼吸落とす。

 

「別に……覚えなくて良いのに」

 

 自分をボディーガードとして認識していればそれで良い。この名前を記憶に残しておくことなんてない。なのに、律儀に自身の名を呼んだスミレにハルキはなんとも言えない気持ちを抱くのだった。

 

 

 

 

 

 時刻は夕方。部屋に設置した物品の位置を微調整したり、キャリーバッグの奥深くに収納していた家族写真を取り出して眺めているうちに時間はあっという間に過ぎて行った。

 

 手に持っていた写真立てを棚に置いたところで、小屋のドアをノックされた。来訪者は、大方予想がついている。玄関前で一言「どうぞ」と伝えると、ガチャッと良い音を出してドアが開かれる。

 

「……ジョニー先生」

 

「グッドイーブニンルーキー! 部屋、仕上がってきたな!」

 

「ありがとうございます。先生、ご用件は?」

 

「ああ、ルーキーと一緒に食べようと思って、こいつを買ってきたのさ! Yeahッ!」

 

 夕方にまた顔を出すと聞いていたが、何故また小屋に来たのか聞いてみると、ジョニーは手に持っていた袋から勢い良くあるものを取り出してハルキの前に突き出す。

 

「これは……のり弁?」

 

 四角いプラスチック製の容器の右側に海苔で覆われた白米、左側には唐揚げや卵焼き、ポテトサラダにウインナー等、豊富な惣菜が綺麗に詰められている、まごうことなき海苔弁当だ。袋の中にはこれと同じ弁当がもう1つ入れられていた。

 

「ザッツライト! 我が校を代表すると言っても過言ではないアイドル、スターみ……星宮(ほしみや)いちごの実家が弁当屋でね。たまにこうして買わせてもらってるんだ。もちろん、オレのおごりだぜ!」

 

 サムズアップを見せるジョニーからそう聞いてすぐに、ハルキはキャリーバッグから財布を取り出す。

 

「いえ、代金分お支払いいたします。ご馳走になる訳にはいきませんので」

 

「ノーノー! ノープロブレム! ルーキーがなんと言おうと、お金は受け取らない。これはオレからのお祝いさ。ハニー達がお世話になるし……そのお礼も兼ねて、な!」

 

 腕でバッテン印を作り、ジョニーは祝いだからと弁当の代金を貰わないとハルキに伝える。ジョニーも先程のスミレと同様に1度決めたらなかなか譲らなさそうな気がして、彼は千円札を取り出そうとした手を止める。

 

「何から何まですみません。ジョニー先生」

 

「気にしないでくれ。しばらくはオレがルーキーの身の回りの世話をするよう任されているんでね。当たりまえだのオフコースだぜYeah!」

 

「ありがとう、ございます」

 

 事前に桑折から聞かされていた通り、ジョニーが暫くの間ハルキがスターライト学園での生活に慣れられるように色々な面でサポートしてくれるようだった。だとしてもわざわざ物置き小屋を改造して居住スペースを作ったり、今みたいに弁当を買ってきてくれたり……少々手厚すぎるような気もするが、ジョニーにとってこれが当然と言わんばかりの振る舞いと言動を午後から見続けている。そういう人だから、敷地内を見学した時にも他の生徒達から好意的な目線を向けられていたのだろう。

 

「ユアウェルカム! さぁ、冷めないうちにいただくとしよう!」

 

 ジョニーが弁当と割り箸をちゃぶ台に置き、絨毯に胡座をかく。

 

「今お茶を淹れますね。冷たいのと温かいの、どちらがよろしいですか?」

 

「おっ、気が利くな! 急に冷え込んできたし、ホットで頼む!」

 

「承知しました」

 

 ハルキは備え付けのポットを用いて湯呑みに茶を入れ、ジョニーの前に置く。彼に促されるままハルキも弁当の蓋を外し、「いただきます」と声に出してから食べ始めた。

 

「ん〜ッ! やはりスター宮のお母様が作るのり弁は最高だ! Yeahッ!!」

 

 テンションの高いジョニーのリアクションに特に何も言わず、ハルキは表情を変えることもなく黙々と弁当を食べ進めている。ジョニーが度々彼をちらりと見やっても、様子は何ひとつ変わらない。食事中も表情を一切崩さないハルキに、ジョニーの胸が痛む。

 

 ハルキはまだ子供だ。まだ齢13歳であるというのに、不気味な程に落ち着いている。嘗てスターライト学園にも同じくらい大人びた生徒が何名か居たが、その人物達とはまた系統が違う。乱れなく着用されたスーツ、ワックスで固められた髪。一目見れば彼が如何にしっかりした人物か分かる。しかし、どうしてか……そんな彼がどこか辛そうにしている気がしてならないのだ。

 

 弁当を半分ほど食べ終えたところでジョニーは箸を置き、胡座から正座に変えて前を向いた。

 

「なぁ、ルーキー。少し聞いても良いかい?」

 

「はい。なんでしょう?」

 

 ハルキも右手に持っていた箸を置いて言葉を返し、改まった様子でジョニーは静かに口を動かす。

 

「キミは何故、ボディーガードを志したんだ?」

 

「何故、志したか……ですか?」

 

「ああ。ルーキーがプロテジェ学園に入学した経緯や、そこでどんな日々をおくっていたのか。派遣してもらうJBAを選定するために桑折学園長から色々聞かせてもらった。その上で、気になったんだ。ルーキーを突き動かすものがなんなのか……オレは知りたい」

 

 先程とは打って変わって真面目なトーンでハルキに問う。何故、ボディーガードの道を選んだのか。選択肢なら他にもある中で、何故ボディーガードを目指したのか。そう聞かれた彼は、膝の上で握り拳を作る。

 

「理由は大したものじゃありません。単純に、かつてボディーガードだった父に憧れて目指すようになりました。動機だけで言えば、東雲(しののめ)さんや西城(さいじょう)さんの方がとてもしっかりしています。でも、強いて言うなら……」

 

 言葉を止め、幾許かの逡巡の後に再度唇を動かす。

 

「……()()()()()()()()、でしょうか」

 

 両親に会う為。誰かを守れる立派な人間になりたいでも、誰かの力になりたいでもなく、希うような声音で一言ジョニーに打ち明けた。

 

「ファーザーと、マザーに?」

 

「ええ。……ちっぽけな理由でしょう」

 

「いいや、そんなことはない」

 

 少し驚いていたところにハルキが自嘲を口にし、ジョニーは「それは違う」と首を横に振る。

 

「どんなものであれ、目標を持っているのは素晴らしい。目標があるからこそ、そこへ向かってまっすぐ走り続けられるものさ」

 

「そういうものでしょうか」

 

「ああ。ルーキーがファーザーとマザーに会えることを、オレは祈っている。まぁ、勝手にキミの今までのことを知ってしまったオレが言える立場じゃないかもしれないが……」

 

「いえ。別に隠していませんから、気になさらないでください。知られて困るものでもないですし。問題ございません」

 

「……そうか」

 

 ジョニーはハルキに微笑んで、頷く。彼のことが少し分かったと共に、ハルキは決して血の通っていない人物ではないと確信する。初めは協調性等のいくつかの面で不安があり、彼を派遣してもらうことを選んだ織姫の采配に些か疑問を感じていたのだが、ハルキもスターライトの生徒達と同じように夢を持っていて、ボディーガードを志した真の理由を話した際の口調から、両親をとても大切にしているのだと知った。

 

 故にハルキの存在を認め、且つハルキの夢を応援したくなった。祈りたくなった。いつか彼がまた両親と会えることを。その為の手助けを、してみたいと思った。そうするにはまず、ハルキのことをもっと知るべきだと感じたジョニーはちゃぶ台の上で両の手を絡ませる。

 

「オレはもっと、ルーキーのことを知っていきたい。オレにできることで、キミの力になる」

 

 ジョニーの言葉にハルキは肩の力を抜いて、そっと瞼を閉じる。

 

「既に充分すぎる程、施しを受けていますよ」

 

「このくらい当然さ。気にする必要はナッシング! わからないことや、気になることがあればいつでも言ってくれ。このオレ、ジョニー別府(べっぷ)がどんなことでも解決するぜ! Yeah!」

 

 開けた目線の先に、先程と同じ笑顔が在った。安心感のある心強い笑み。桑折から聞いた通り、信頼できる大人だとハルキは改めて感じ、ぺこりと頭を下げた。

 

「お気遣い、感謝いたします」

 

「やっぱカタいぜルーキー……もっとフランクな感じで来てくれ! それと質問でもなんでもカム! ウェルカム!」

 

「いえ、そういう訳には……質問も今は特に……」

 

「ここでの入浴についてや、明日ルーキーが担当するハニー達の情報を知りたくはないかい?」

 

「それは……お伺いしたいです」

 

「そうこなくっちゃな! このオレ、ジョニー別府がしっかりお答えす……」

 

「そのセリフちょっと気に入ってません?」

 

 いつの間にやら、ジョニーのペースに着いて行けるようになったハルキであった。

 

 

 

 

 

 

 

 鈴虫の声が微かに聞こえる夜、ジョニーに教えてもらったスターライト学園近郊の銭湯で入浴を済ませ、部屋着に着替えたハルキはノートパソコンを開き、明日の護衛業務に向けて現場のリサーチをしていた。

 

 オーディション会場の概要や非常口の場所等、様々な情報を調べ終えた後、マルチタブでスターライト学園所属生徒の名簿を開く。織姫から受け取ったUSBを使うことで閲覧可能な、スターライトの全生徒の情報を一括で確認できる便利なデータだ。その名簿から2名の生徒をピックアップし、真剣な表情で液晶に映る生徒達を見つめる。

 

大空(おおぞら)、あかりさん。……新条(しんじょう)、ひなきさん」

 

 護衛対象となる少女達の名を、ハルキは小さく呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




その肩書きは、誰が為に。
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