もしも五条悟がフリーレン世界に転生したら   作:ケンタ〜

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最強への凝視、そして罠

「蒼」

 

 虚空が空中に躍った。

 万物はそこに引き寄せられる。

 

「ゴガァァッ!」

 

 ガーゴイルたちが吠えた。

 

 その引力に引かれぬよう、逆へ飛ぼうとする。

 

 しかし蒼い虚空は逃さない。

 

 一人ひとりを追うように、移動し、飲み込み、吸収し、押し込める。

 

「ギギギイッ」

 

 ――――出力増強

 

 蒼の虚空の中でも、ガーゴイルが抜け出そうと試みる。

 

 更に蒼の虚空は収縮した。

 

 ガギィッ、と。

 

 十数のガーゴイルが押し込められ、ひしゃげていく。

 

 五条悟は楽しそうに頬を吊り上げた。

 

 バギンッ

 

 石の躯体が弾ける音がする。

 

「ギイイイイイイ――――」

 

 ゴギンッ

 

 ガーゴイルの身体が破断した。

 蒼の引力は全てを分解する。

 分子レベルにすりつぶすまで。

 

 虚空の中であらゆる物質はねじれだす。

 

 五条悟は『蒼』を解除した。

 

 押し込められていた石の塊が散乱する。

 

 ゴトゴトと地面に落ち、砂となったものがキラキラと光を感謝した。

 

 ガーゴイルの原型は最早どこにもなかった。

 

 紫髪の魔法使いが戦いの後の沈黙を破った。

 

「フリーレン様……見えましたか」

「いや、解析できなかった」

「じゃあ、これって」

「……呪いだね」

 

 フリーレンは静かに口を開いた。

 

「おっ、呪って言った?」

「…………」

 

 今全員がいる場所はダンジョンの中の広間だった。

 

 五条悟が先導してうっかり踏み込んだと思ったらガーゴイルが起動し、早々に戦闘が開始。

 およそ一分足らずで、五条悟がガーゴイルを単独で殲滅した。

 

「何者なの?」

 

 フリーレンのその言葉には強い響きが込められていた。

 どれだけ解析を試みても無駄だった。

 ガーゴイルを押しつぶした蒼虚空。

 

(術式構造が全く見えない)

 

 それの意味するところは一つだった。

 

「お前の使っているそれは呪いと呼ばれるものだ」

「この世界にもあるんだ」

 

 フリーレンは返答する。

 

「人類には解明できない、魔物や魔族の扱う類の魔法の総称。私たちはそれを呪いと呼んでいる」

 

 五条悟は微笑んだ。

 

「でもさ君たちも使ってるじゃん? そういう魔法。ゾルトラーク、ってやつ。確か、魔族の魔法なんだよね。僕が呪い使っててもおかしくないじゃん?」

「……確かにそうだ。でもあれは人類にとって長い時間をかけて、多くの魔法使いたちが解析し、実用に転じさせた魔法だ」

 

 フリーレンは『ゾルトラーク』の魔法陣を小さく空に描く。

 青白く複雑な術式模様。それはゆっくりとフリーレンの杖の上で回転を始める。

 

「それにそもそもこれは、最初から人類の魔法理論で解明できるほどに洗練されていた。だから、私たちはこれを使えている。でも、お前のそれ(・・)は明らかに違う。術式構造が、まったく見えない」

「そっか」

 

(まずったな。もう隠してもしょうがないか)

 

 五条悟は頷いた。

 

「うん、これは呪いだよ」

 

 五条悟は拳を握る。

 そこに薄い蒼が生じた。

 すぅっ、と風が起こる。

 空気がそこへと吸い込まれていた。

 

 フリーレンはそれに目を向ける。

 千年の経験がそれを覗き込む。

 しかしやはり何も見えない。

 その一端すらもつかめない。

 

 フリーレンの生きてきたなかでの(ことわり)とは、何もかもが異なっていた。

 

 五条悟は口にする。

 

「これが僕の呪い。生まれた時から身体に刻まれる魔法みたいなものさ」

「……随分とあっさり認めるんだね」

「まあ隠したってしょうがないしね。僕の世界じゃこれが普通だったんだけどな」

 

 ぱっ、と五条悟は手を開く。

 蒼い虚空は空に溶け消えた。

 

 結局一端も解き明かすことができなかった。フリーレンは五条悟の手から目をそらした。

 

「僕のいた世界では、この力を持つ人は呪術師(じゅじゅつし)と呼ばれてたよ」

「その呪いを使う人間は他にもいるの?」

「いるよ。でもきっと会うのは難しいかな。複雑な事情があってね。でも、みんな人間だ。魔族じゃない」

 

 コツン、と五条悟は自分の頭を叩いてみせた。

 

「ほら角もないでしょ。君たちをだますつもりもないよ。それに君のいろんな魔法なら、幻影魔法を使ってるかどうかも見破れるでしょ?」

 

 フリーレンは見つめた。

 千年間、魔法を見極め続けてきた金の目が、五条悟を凝視する。

 

 例え全部は見えなくても、その奥にあるものを少しでも見ようと。

 

(……こいつ、とんでもない死臭がする)

 

 フリーレンは眉をひそめた。

 今までに出会った、幾多もの魔法使い、戦士、魔族。

 

 歴戦のそれには、必ず死の匂いがつきまとう。

 

(どれだけの生命を殺してきた?)

 

 人間でも、魔法使いにも関係なくあるもの。

 恐らくそれは、自身(フリーレン)にだってある。

 

(――――魔族じゃないし多分人間でもない。こいつはもっと異質な何かだ。だって、魔力を全く感じないから)

 

 魔族ならば自らを誇示するために、必ず魔力を放出する。

 どんな魔族でも今まで会ってきたものはそうだった。

 

 これだけ力ある魔族なら魔力を誇示しないわけがない。

 しかしこいつは完全に隠蔽しているのか、少しの魔力もない。

 

 しかしフリーレンは、ごく薄くだが、五条悟の体を包む「何か」を目にしていた。

 

(これな一体何なんだ)

 

 魔力と言っても差し支えはないほどの膨大な量。

 しかし明らかに『揺らぎすぎている』。

 

(魔力に見えて魔力じゃないのか)

 

 フリーレンはそう結論づけた。

 

 今まで、千年の旅をしてきた。

 しかし、目の前にいるこの存在はあまりにも異様だった。

 

 明らかに、異質で。

 

(なんだ、こいつは)

 

 そして、未知だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗いよーーー!! 怖いよーーー!!」

「ええ…………」

 

 フリーレンが宝箱にハマっていた。

 

「いや、僕、『それ宝箱じゃないよ』って言ったよね」

 

 あきれ返った五条悟の声が響く。

 

「くらいよこわいよっ、だれかーーーっ!」

「聞いてない」

 

 五条悟は頬に汗を垂らしていた。

 

 騒ぎの原因はミミックだった。

 

 三つ並んだ宝箱の中を、先ほどまで凝視していたフリーレン。そのうちの二つはしっかりと宝箱だった。

 しかし最後の一つが問題だった。

 五条悟もフェルンも、口をそろえて、『それは宝箱じゃない』と口にしていた。

 

 しかしフリーレンは『いや、魔導書かもしれない』と口走り。

 

「たっ、たすけてっ、おいてかないでっ!」

 

 現時点、このザマとなった。

 

 そんなフリーレンにフェルンは慌てて駆け寄ってくる。

 

「ふっ、フリーレンさま! 宝箱を判別する魔法(ミークハイト)もこの人も、ミミックだって言ってたじゃないですかっ!?」

「フェルンー! 助けてーっ!」

「何回目ですかフリーレンさまっ!?」

 

 フェルンがフリーレンの脚をがしっと掴んで力いっぱい引っ張る。

 

「うぐっ、うぐぐっ……」

 

 痛そうな声を出しながら、フリーレンの胴体がぐいーっと伸びた。

 

 しかしそれだけだった。

 ミミックの牙はフリーレンの体を掴んで話さない。

 

「んん〜っ、ぬ、抜けないっ」

「痛い痛い痛いっ! フェルン裂けちゃうっ」

 

 うめくフリーレン、頑張るフェルン。

 

「えぇ……君たち、魔法使いだよね?」

 

 そして、立ち尽くす五条悟がいた。

 

「そっ、そうですけど、何が関係あるんですかっ」

 

 フェルンがキレ気味に答えた。警戒しようは相変わらずだった。

 

「いだいいだい、いだいーっ」

「……? ………??」

 

 そして、そんな二人をゼンゼは啞然と眺めていた。

 

「ついてく人……間違えたかな…………?」

 

 普段の無表情が今は困惑の色に満ちていた。

 傍のヘルファとヒルフトも目を丸くする。

 

「え、ヒルフト、私の見てるもの間違いじゃないよね……?」

「あ、ああ…………」

「三級魔法使い試験を史上最年少で突破した魔法使いが、ミミックにハマった魔王を討伐した最後の大魔法使いを引っ張ってる…………」

「うぐぐぐぐぐ」

「いや、君たちミミックにハマったって、抜け出せるでしょ、魔法とかで」

 

 五条悟は苦言を呈した。

 しかしフェルンはまたもキレ気味に返す。

 

「ミミックの内側はスカスカですよっ! 魔法なんて使ったら、フリーレンさまが吹き飛んでしまいますっ!」

「うぐぐっ、フェルンっ、痛い痛いっ」

「ええ…………」

 

(しかもこれ甘噛みじゃん)

 

 五条悟は内心でツッコミを入れた。

 

 全然ダメージが入っていなかった。

 

 フリーレンを捕らえているミミックの牙ははむはむとフリーレンの胴体を捕食している。

 しかし牙はなぜか、フリーレンの身体に刺さらず、当たっていてもぐにゅぐにゅと柔らかく端に逸れるだけだった。

 

(逆になんでこの魔物はこの世に存在してるんだ……?)

 

 はあ、とため息をついて五条悟は二人に近づいた。

 

「ちょっと下がってて、フェルンちゃん」

「なんですかっ、ていうか、ちゃん付けしないでくださいっ、ふっ……!」

「痛いっ、痛い痛いーっ」

「………………」

 

 何とも言えない顔をしながら、五条悟は術式を行使する。

 右手に少しだけ、蒼い虚空を形成して、そして右手をミミックの方に向けた。

 

「な、なにをする気ですか」

「いいから、ちょっと待ってて」

 

 ぴとり、と五条悟はミミックの(蓋の部分)に手を付える。

 

 そしてぐいっと、力いっぱい引っ張った。

 

「ふんっ」

 

 ぐぐぐっ、とミミックの口の力が緩まっていく。

 五条悟の手が引っ張るにつれて口がだんだんと開いていっていた。

 

 そして…………

 

 ぽんっ!

 

「わっ」

 

 フリーレンの身体が宙を舞った。

 

「うぐっ!」

 

 どさりという音と共にフェルンがうめいた。

 勢い余って、フェルンがクッションと化す。

 

「おりゃ」

 

 鈍い音と共にそしてミミックの頭に穴が空く。

 五条悟の拳によってミミックは魔力の塵となり、その場から消えていった。

 

「痛い……」

 

 フェルンは頭をさする。

 

「ごめん、こんな勢いよく抜けるとは思わなかったわ」

 

 五条悟は軽い調子で謝った。

 

「うわべっとべとだ……」

 

 奥にいたヘルファが心底嫌そうな声を出した。

 キレ気味のフェルンが五条悟に目を向ける。

 

「あの、口開けるなら早く言ってください」

「ごめんごめん。だって普通ミミックにハマった人間助けることないじゃん」

「それは…………そうですけど」

 

 それについては全くの同意で引き下がるしかなかった。

 人生においてそれなりの人と付き合ってきたが、今までミミックと分かってミミックにハマる人はフリーレンしかいなかった。

 

 その批判の顔が今度はフリーレンに向く。

 

「……やっぱり考えてみたら、フリーレンさまがミミックにハマったのが悪いですよね」

「ごめんて……」

 

 フリーレンはしょぼーん顔をした。

 

「フリーレンさま、お礼」

「……ありがと」

「どういたしまして」

 

 にっ、と五条悟は笑顔を作った。

 

「私もすみません、ずっと睨んでしまって」

「いいよ全然」

「あとフリーレンさま、降りてくれませんか」

「ごめん……」

 

 よくやくフリーレンがフェルンをクッションの地位から解放した。

 

「フリーレンさま……私ミミックだって言いましたよね」

 

 ビクッ、とフリーレンは肩を震わせた。

 フリーレンはその瞬間、長い人生の走馬灯を見た。

 

「一何回言えばわかるんですか。ミミックです、って。それで今回ほかのパーティの皆さんにも迷惑をかけてしまっていますよね」

「ごめん」

「いつもそれ言ってますよね。でも、なおってませんよね」

「それは…………」

「自覚があるんですよね?」

「……はい」

「自覚があるならなおしてください」

「いやその……」

「なんですか?」

 

 フェルンは顔を上げた。

 

 ビグッとフリーレンは大きく肩を震わせる。

 

 フリーレンにとって、そこには虎の睨みにすら等しい怒りの表情が込められていた。

 

「…………ごめんなさい」

「もうフリーレンさまなんて知りません」

「あぁっ」

 

 フェルンはすくっと立ちあがってどこかへ行ってしまった。

 そんな後ろ姿に、フリーレンの手が空を虚しく切った。

 

「ごめん、ごめんよぉフェルン、機嫌直してよぉ」

「知りませんったら知りません」

「ごめんてぇ」

 

 そんなフェルンの後を、フリーレンは追いかけていった。

 

「あっ、サトル、私たちも追いかけたほうが良いんじゃない!? 二人だけだと危ないよ!」

「確かにそうだな、俺たちも行こう」

 

 一緒にヘルファとヒルフトが走って行く。

 

「えぇ………………」

 

 取り残されたゼンゼは、またもやその姿を唖然と見ていた。

 

「あっははっ」

 

 その一部始終を見た五条悟は、心底から笑いだす。

 

「……なんで笑っているんだ?」

 

 ゼンゼは視線を上げた。

 

「いや、ちょっとね。楽しいって思って」

「……楽しい? これは一級魔法使い試験だ。それに今のは楽しいことでもないだろう」

「知ってるよ。でも、楽しいんだ」

「…………分からんな」

 

 ゼンゼは歩を進めながら、五条悟へ語りかけた。

 

「受験者名簿によると、ゴジョウサトルだったか」

「うん。サトルでもいいよ」

「ではサトル。私はお前を最初に見た時からずっと理解し難い」

「まあよく言われるよ」

「このダンジョンで何が楽しいと思ったんだ?」

 

 プラチナブロンドの髪の毛の隙間から、ゼンゼは五条悟を見上げた。

 

「……まあ。そうだね。このダンジョンの潜り方が、僕には楽しいのかな」

「……やはり、分からん」

「まあ、自分の感情をすぐに口に出せれば苦労しないよ。みんなでわちゃわちゃしてるのが楽しいのかな。知らんけど」

「……知らないのか」

「ま、それは僕じゃなくて、フリーレンにでも聞いてみなよ。僕はパーティでダンジョンなんてしたことはないからね。……そもそも複数人でやるのが久々だ」

「……そうか。では、そうさせてもらうとしよう」

 

 そう言うと、ゼンゼはそのまま、カツカツと早足で前に歩いて行った。

 

 ふ、と五条悟は笑う。

 

(理解し難い、か。逆に簡単に理解されてくれれば楽しいのかな)

 

 脳裏にかつての存在の記憶が浮かぶ。

 自らと、唯一並んだ無二の存在。

 

(理解して欲しい、か……)

 

 人生の最後に挑んだ存在。

 全てをぶつけて、そして敗れた。

 

 もし肩を並べられる相手がいるのなら。

 また、自らの全てをぶつけられる相手がいたのなら。

 

(また、理解して欲しいと思えるのかな)

 

 ほんの小さくだけ笑って。

 賑やかにする、パーティの一番後ろを、五条悟は、静かに歩いた。

もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)

  • 五条悟が全てをねじ伏せバトルしまくる
  • フリーレンぽく人の心を知りながら旅をする
  • 上二つをいい感じにバランス取った話
  • 好きにやっていいよ
  • そんなことよりプリン食べたい
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