(消耗戦だ)
喉の奥が酷く痛い。
目が混濁する。
痛みに慣れていても、どうしてもこればかりは生物の理。
喉を貫かれると、頭に血がいかない。
(意識は……まだあるな。考えれている。喉の再生を急げ。向こうも致命傷。茈の爆発と赫の攻撃。肺も潰した。傷の再生に時間がかかる)
骨を繋げ、血管を構築し、そこへ纏うように肉を構築する。
(折れてんのか? いや貫通してるな。あぶねぇ。もうちょっと真ん中当たってたら首チョンパだったかも)
吹き飛ばされたのは首の右半分、頚椎がほんの少し損傷。
しかし、首を貫かれる経験は一度だけではない。
その時の経験も相まって再生は五秒で終わる。
半ば反射的に『自分』の姿を探す。
その呪力は、すぐに見つかった。
(同じ相手、同じ手数、同じ発想。今までやったことなかったから、始めて分かったな。こうなると、手数が尽きるまで、防御の呪力ができなくなるまで続く)
少しずつ思考が明瞭になってくる。
あたりの様子をつかむことができる。
最初の蒼によって作られた、クレーター型のフィールドのなかに、自分はいた。
その上の壊れていない床の部分に、複製体がいる。
すでに反転術式による治癒は終了しかけている。
それは五条悟も同様。
(呪力は…………目算ほぼ同じか)
消耗戦。
いままで同格の相手がいなかった五条悟にとって、両面宿儺を除く初めての経験。
(宿儺とやった時も消耗戦って感じはしなかった。互いに隠してる手数があったし、互いにいくらでも出したくても出せなかった手札もあったからな。でもこの戦いは違う。こっちも全部知ってるし、向こうも全部知ってる)
それは、戦いというよりは、手合わせ。
かつて、孤独に高みに上り詰めた自分。
そのまさに『自分』と。今ここで、高め合っている。
(…………楽しいな)
アドレナリンに酔った頭が、ぼぅっとしてくる。
(……でも、まだ)
『楽しかった』では、終わりたくない。
死ぬ時に、負けた。その記憶。
(楽しかった。楽しかったさ。人生で初めてあんなに全力を出した。人生で初めてあんなに戦った)
呪力を、五条悟は身に纏う。
(でも…………)
『史上最強』に受け止められた。すべてを出し切った。全力で殺し殺された。
しかし。
(まだ、勝ってない)
自分は知らない。
宿儺がどうなったのか。
自分は勝ってないから。
それとも負けたのだろうか。
勝ったとして、どうなっただろうか。
負けたとして、どうなっただろうか。
あわよくば、勝っていてほしい。
自らが育てた花が、大きな果実を結実していてほしい。
でもどうしても知らない。何をしようとも分からない。
自分は負けたのだから。
人生で初めて負けたその瞬間に死に、そして全てを見れなくなった。
例え、この六眼をもってしても、世界を超えて覗けはしない。
(楽しかった。ああ楽しかったさ。でも)
五条悟は、大きく息を吸う。
「それ負けてんじゃねぇか、俺」
五条悟は、再び前を向く。
自らの体を全て使いつくさんとする最強故の覚悟。
(全力で――――――)
『同格』に飢えた最強の、戦闘への思考。
全てを省みぬ全力。
『例えこの身を壊しても』
その後髪を引く、もう一人の超越者がいた。
「待って」
そして、ひどく落ち着いた声が響いた。
呪力探知で、五条悟はそれを知る。
反射的に、五条悟は後ろへ拳を向けていた。
硝子が弾けるような音。
五条悟の拳は、青い障壁に受け止められていた。
「味方だよ」
目を疑う。
しかしすぐに分かった。
フリーレンだ。
複製体でも、幻術でもない。
ちらと五条悟は自分の複製体の方を見る。
動いていない。
急なイレギュラーであるフリーレンを、警戒している。
五条悟は、深く息をついた。
「……人がせっかくカッコつけようとしてるのに、そりゃないでしょ」
大きな落胆。
戦闘を妨害されたことへの苛立ち。
深い感情が五条悟の身を包む。
「何しに来たの?」
しかし、その感情を知ってか知らずか、フリーレンは極めて冷静な様相で口にした。
「ごめん。戦いを邪魔したのは本当に悪かった」
それは続ける。
「でも万が一にも、サトルに死なれるわけには行かない」
その言葉には、強い何かが込められていた。
(――――何かあるな)
思考を切り替えつつ、五条悟は言う。
「……僕たちそんな死を心配し合う仲だっけ?」
「サトルが死んだら、私たちはほぼ全員このダンジョンで死ぬことになる」
「…………」
五条悟は沈黙する。
(そのとおりだ)
すぐに分かる。
(
その思考を裏付けるように、フリーレンは口にした。
「だから、戦いを変わって欲しいとお願いしに来た」
「…………変わる?」
五条悟は眉根を寄せた。
違和感を覚える。
その反応へ、フリーレンは繰り返すように言った。
「私がこの複製体の相手をする」
五条悟は硬直した。
予想外だった。
ぴくりと自分の眉が動く。
共闘でもなく、交代。
「僕が、この複製体に負ける可能性があるってこと?」
早口に、五条悟は言う。
フリーレンは、その五条悟の中にあるものをまるで無視するように、口にした。
「例え負ける可能性が少しでもあるのなら、看過できない」
「負ける………………」
五条悟の息が止まった。
負ける。
負けたことはある。
ただ一度のみ。
しかし。
今の戦いで、負けるつもりなど毛頭ない。
今まで、負けると思って戦ったことなど生涯で一度もない。
五条悟の奥底にあるもの。
フリーレンの言葉で、それが震える。
「君が
心のなかにあったあらゆる感情の代わりに、五条悟はそう言った。
しかしフリーレンは、躊躇いもなく口にした。
「私は、一人じゃないから」
五条悟の中にある、大きな感情が胎動する。
「そうか」
小さく、しかし鋭く五条悟は口にした。
「どう?」
フリーレンは聞く。
「嫌だ」
五条悟は即答した。
はっきりと、強く。
「すっごく嫌だ。僕はここを引きたくない」
「…………そう」
ほんの少しだけ込められた、フリーレンの落胆の声色。
「でも、ヘルファたちの事を忘れたわけじゃないでしょ。負けたら、ヘルファたちは」
「知ってる」
「………………」
フリーレンは沈黙した。
「…………悪い記憶を刺激したか。それに根っからの戦闘狂だね」
五条悟の心臓が揺らいだ。
――――その通りだ。
フリーレンの言葉は的確だった。
――――僕はこの戦いを邪魔されたことに、ひどく怒っている。
フリーレンは続けた。
「自分が負けた事の責任は」
「分かってるさ」
遮るように五条悟は言う。
フリーレンは嘆息した。
「はぁ…………これだから、強さに自信のあるやつの説得は嫌なんだ」
フリーレンは目を逸らす。
「なんでそんなに戦いたいの?」
――――人生に一度、あるかないかの同格の相手との本気の戦闘を。
――――この無遠慮に邪魔してきたエルフのことが、気に入らない。
「分からないさ」
口にせず、ただそう、五条は言う。
――――強者故の――――
「君なら、分かると思ってたんだけどね」
「確かに、私は強い者の気持ちがよくわかるよ」
フリーレンは口にして、五条悟は言葉を止めた。
「でもこの違いはなんだろうね。私は戦いたい人の気持ちは分からない」
「じゃあなんで、君は僕の複製体と戦おうと思ったの?」
「私が戦わなきゃいけないから」
「――――屁理屈だ」
五条悟は言い放った。
――――今すぐにでもまた戦闘を始めたい。
――――こんなフリーレンなぞ無視して。
――――なぜ邪魔なんかしてきたんだ。
全く顔に出さずとも、理性の内側でそれが暴れる。
後ろに立つ複製体と戦いたい。
「引いてくれ。この戦いは僕がやる」
五条悟は、弱まりかけた呪力を再びみなぎらせた。
「…………」
フリーレンが小さく息をつくのが分かった。
「若い連中は血気盛ん過ぎるね」
吐息交じりの声が響く。
ぴくり、と五条悟の眉が動いた。
「若いって僕が?」
「……若造でしょ。まだ私の十分の一も生きてない」
悪口ではない。しかし、フリーレンから出るにしては強すぎる言葉だった。
五条悟は、その顔を見る。
フリーレン。
千年生きる魔法使いだという。
しかしその顔は、自分の頭より二つも下の位置にある。
少女のようにしか見えない。
しかし、その目は少しも油断なく、五条悟を咎めるような目つきで見ていた。
「お前は、自分が負けるイメージができていない。なら、自分そのものである複製体にも確実に勝てる保証はない」
念を押すように、フリーレンは言った。
フリーレン、その身体から立ち上る力。
それが一気に、膨れ上がるように膨張した。
十倍以上に。
五条悟をも飲み込むように。
「サトル。引いて欲しい」
(憂太のそれと――いや、もしかしたら――――)
その量は、かつての教え子、そしてその先をも連想させるほどの膨大さで。
しかし五条悟は動かない。
「……嫌だ。引かない。そっちこそ僕の複製体に勝てる保証はない」
「私は、お前の複製体を確実に殺す算段がある」
「僕を?」
睨み上げるような目つきのまま、フリーレンは続ける。
「この戦いで、お前は自分で自分自身を殺すイメージができていないんだよ。実力者によくある傲慢だ。お前のような実力者の複製体を確実に殺せない奴に、任せるわけには行かない」
「それは――――」
そこまで答えて、五条悟の台詞は中断された。
五条悟の複製体が動いていた。
五条悟は身構え、手に術式をまとう。
しかし、それよりも先に。
「
辺り一帯を、地獄の業火が飲み込んだ。
あとがき(ちょっと暗い内容なので嫌な人は読まなくても構いません)
最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
そして、今回、もし五条悟対五条悟を楽しみにしていた人がいたら、本当にすみません。
展開的な合理性や理由があってこんなふうになりました。
フリーレンの方も結構強い言葉を使っています。解釈違いなどあればすみません。
でも、諸々理由あってのことです……。
そのうち言い訳をあとがきなどに書くかもしれません。
そのお話は、作者なりにもろもろ考えたり、考えなかったりして物語を書いています。
ので、温かい目で見て頂ければ幸いです。
疑問などあれば答えられる範囲でお答えしますので……(あまり強い言葉を使われると凹みますので、よかったら優しくして欲しいです)
次回も頑張って書いております。
よろしければお付き合いください。
もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)
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五条悟が全てをねじ伏せバトルしまくる
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フリーレンぽく人の心を知りながら旅をする
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上二つをいい感じにバランス取った話
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好きにやっていいよ
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そんなことよりプリン食べたい