もしも五条悟がフリーレン世界に転生したら   作:ケンタ〜

20 / 45
理不尽

「………………!!!」

 

 ヘルファは震えた。

 

 爪の先から産毛に至るまでが恐怖しているようだった。

 

 脚がガクガクと動いてしまう。

 

 理不尽だった。

 目の前にあるのはその権化だった。

 この世界に生まれてしまった理不尽。

 

 その前に、ヘルファはぺたりと膝をついてしまう。

 

「っ……あ………」

 

 最強。

 

 その言葉がどれだけ重いのかヘルファ初めて理解した。

 

 理不尽(五条悟)のオリジナルがこの世に来てからの数カ月間。

 ヘルファはずっとその側にいた。

 

 その間に感じていたのはとてつもない安心感。虎の威があった日常が、どれほど楽だったことが。

 

 しかし今、まるでその裏返しのように。

 安心感それすべてが、絶望となって帰ってきた。

 

 今目の前にいるのは、『最強』の敵。

 

「がっ」

「ひっ」

 

 ゴドン、と隣にいたものが倒れた。

 

 ヒルフトだった。

 反撃をする間もなくやられていた。

 倒れた彼の身体から、血溜まりが少しずつ広がっていく。

 

 ヘルファには見えなかった。なにも。

 

「あっ…………あ…………………」

 

 胸の前で、ヘルファは杖をギュッと握る。

 手が、体中が、小刻みに震える。

 最強が、自分を見下ろしていた。

 

「ひゅっ」

 

 目が合った。合ってしまった。

 全身の震えが、ピタリと止まる。

 最強と、目が合ってしまった絶望。

 

 それだけで、生まれてきたことすら間違っているように思えるほどの絶望が、全身を支配した。

 

 目が離れない。

 全身全霊で、凝視していた。

 

 一挙手一投足全てが即死になりうる恐怖。

 

 なんとか生きるために本能が行う凝視。

 自らを殺すであろう存在を前に、目が動かせない。

 

 しかしきっと殺される。どうしたって。絶対に。

 

 それを自覚した瞬間、下腹部に温かいものが広がった。

 

 全身に、力が入らなくなる。

 顔中から制御できない液体が流れ出してくる。

 涙が頬に伝い、びちゃりと膝に跳ねた。

 

「……ごっ、ごめっ、なさっ、あっ、あっ……」

 

 複製体は何もしていない。

 しかしもう、ヘルファは何もできなかった。

 言葉を解すこともない複製体に対して、意味もない謝辞を口にすることしかできない。

 

「っ、あっ」

 

 呂律が回らない。

 

 舌を動かすことすら至上に恐ろしいことだと感じられてくる。

 最早呼吸すら難しくなってくる。

 そんなヘルファを、複製体はじっと見下ろしていた。

 

「ヘルファさんっ、瓶を割ってくださいっ」

 

 焦ったフェルンの声が耳に届く。

 びくりとヘルファは震えた。

 複製体は、その声の主を振り返る。

 

「早く! ヒルフトさんの分も!」

「あっ、ちから、はいらな」

「っ……!!」

 

 フェルンは杖を動かす。

 じわりと、自分の杖に手汗が広がるのが分かる。

 それに気が付かないふりをして、フェルンはゾルトラークを放った。

 

「あっ」

 

 血飛沫。

 

 鮮烈な痛み。

 

 自らの肩を、何かが貫いていた。

 手にしていたはずの杖が、真ん中から二つになり、がらんと地面に落ちる。

 杖もろとも、五条悟の手刀がフェルンの肩を貫いていた。

 

 どさり。

 

 虚しく、その身体は地面に横たわる。

 

「えっ」

 

 放たれ軌道を変えたゾルトラークは、ヘルファの方へと向かっていた。

 胸元をかすめて、パリンと音を立てて消滅する。

 

 胸の下に隠されていた瓶が割れた。

 土の像が空中にぼんっと姿を現す。

 ヘルファの頭に、ほんの少しの希望が差した。

 

 ドッ

 

 ゴトリ

 

 ヘルファの足元に、その頭部が転がった。

 

「…………へっ」

 

 最後の希望。

 最後の保険。

 命を保証してくれるはずだった、たった一つの存在への信頼。

 

 それ全てが終わる恐怖。

 それらが自分に襲い来て、死の感覚がはっきりと体中を包み込んだ。

 

「お゛え゛っ」

 

 ヘルファは背を折った。

 

「ぇ゙っ、あ゛っ、え゛っ」

 

 ぐぷっと胃液がこみ上げてくる。

 

 びちゃびちゃと、地面に酸味の強い液体が飛び散った。

 手で受け止めようとしても、ただ手をすり抜け、地面に虚しく飛散する。

 

「はあっ、はっ、あっ」

 

 息も絶え絶えに、ヘルファは上目で、五条悟(複製体)を見上げた。

 

(殺されたくない)

 

 ただ唯一残った生への執着で、ヘルファは五条悟を見上げる。

 

 策略も希望もない。

 

 ただ本能的に残った、自分を殺す相手を認識しなければならないという、わけもわからない強制力。

 それだけだった。

 

 完全に萎縮しきった魔法使い。

 それを見る最強の眼差し。

 

 それは、まるで潰すまでもない虫を見ているかのように。

 

 ヘルファの目に映ったのは、何の興味もない瞳で彼女を見て、手を下しもせずに歩いていく最強の姿だった。

もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)

  • 五条悟が全てをねじ伏せバトルしまくる
  • フリーレンぽく人の心を知りながら旅をする
  • 上二つをいい感じにバランス取った話
  • 好きにやっていいよ
  • そんなことよりプリン食べたい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。