零落の王墓その最深部。
顕現した、事象の地平面。
史上初。ブラックホールへ侵入せんとする人類。
そこへの挑戦者五条悟、術式が回復するまで残り二十三秒。
脳を破壊して短縮を試みる。
しかしそれでも、十五秒。
それまで、耐える必要がある。
(どうやって?)
今目の前にあるのは理の外。
人類が足を踏み入れたどころか、目にすることすら不可能なはずだった空間。
空間を司るはずだった術式はない。
それらを操作する術はない。
更に目の前にあるのは、理を超えたもの。
引力の限界を超えた事象の地平面の向こう。
そこにあるのは
誰も知らない、世界のルールを否定する空間。
この世そのものを否定する、
(史上最強の次は史上最も不明な空間か。いいさ。やってやるよ)
始めに、五条悟は右腕を再生した。
つい先程に、ゾルトラークによって飲み込まれた右腕を。
宿儺戦と異なり消費のほぼない五条悟は、その再生を数秒のみで終わらせる。
その時点、事象の地平面に飲み込まれるまでには、残り一秒のみが残されていた。
術式回復まで、十一秒。
即座に、再生した右腕を捨てる縛りを結ぶ。
続けて全身に、呪力を高速で巡らせた。
(さあ、行こうか。世界でもっともヤバい旅行だ)
その見開いた目を、全力で事象の地平面に向ける。
史上初。
人類、ブラックホールに侵入し、生還する試み。
全身が、一気にそこに侵入した。
「――――――!!」
全身を万力の応力が襲った。
(想像以上――――!!)
まるで、全身が巨人にへし折られようとしているかの如き圧力。
深海に生身で放り出された時の記憶が蘇る。
まるで全身が固定されながらねじ曲げられようとしているような感触。
ブラックホール、体の部位ごとにかかる強烈な重力の差が、全身を引きちぎろうとする力になる。
ここにきて縛りが実現する。
右腕は呪力で守るまでもなく即座に破断した。
侵入より二秒。
縛りによって強化し体中に張り巡らせた呪力の防御がゴリゴリと剥がされる。
事象の地平面の中心部に向かって、呪力たちが吸い込まれていく。
ものの二秒、張っていた呪力の半分が吸収されていた。
更に体の表面が削られている。
自分の体表面の細胞たちが、中心部へと削られるように吸い込まれて行くのを感じた。
(足りない)
即座の決断。左脚の下腿より先を放棄する縛り。
不快な感触とともに下腿はひしゃげ、粒子レベルにすり潰されながらブラックホールの一部と一体化していく。
そこに回すべきだった呪力を、全身へ回す。
さらに、縛りの対価により一定以上の呪力を得た。
術式回復まで残り五秒。
五条悟の六眼表面がチリつく。
(近いな)
すぐそこに見えた。
理外だった。
事象の地平面の中心。
特異点。
五条悟の六眼はそれを理解しようとする。
本来それは人類が見られるはずがないもの。
覗けるはずがないはずのもの。
生きているなかで六眼が見たいくつもの理、そのどれにも適合しない世界の向こう。
六眼をもってしても覗いてはいけないもの。しかし
残り三秒。
体中の表面の細胞が
縛りで捨てた部位以外の全てに向け反転術式を回す。
しかしそれでも再生したそばから持っていかれるほどの強烈な引力。
二秒。
(体内の呪力まで吸い込まれている……どんな原理だ……!)
引力、それは万物に平等にかかる力。この世のすべてを無差別に吸い込まんとする地平面。着実に中心部へと、確実に崩壊へと向かうように。
(呪力の消費が半端じゃねぇ)
もはや全身を防護する呪力が一秒ごとに全て入れ替わる。
体のパーツを破断されぬよう固定しているはずの呪力までもが漏れ出していく。
常に反転術式を行使し破壊された組織を再生する。
並列処理に脳細胞が焼き切れ、そんな脳を再生するためにまた反転術式を回す。
さらに術式を司る部位の再生も並列して行う。
(脱出したとして、まだ
五条悟は飲み込まれる直前、フリーレンの本体の呪力がなくなったのを感知していた。
殺されたか、隠れたか。
もしそうなったら、自分の複製体がやってくる。
(いや)
五条悟は自らのその思考を振り切る。
(
五条悟は不敵に笑う。
全てを飲み込む事象の地平面で。最早その身体が理外へ触れんばかりになる中で。
そこへ飲み込まれれば帰還が叶うか誰も分からないのに。無限の距離に飲み込まれれば、術式が回復したとしても戻れるか分からないのに。
しかし最強は、ただその笑みを深めた。
――――――三分。
杖を構える複製体。
静寂に満たされた最奥の間。
耳を澄ませば、最早風の音しか聞こえない。
そんな空間の中心に、事象の地平面が浮かんでいた。
風は
その空間に三分が経過した。
全てを吸い込む魔法は、その間顕現し続けていた。
殺すための確実な時間。
外部からは魔力観測ができず、飲み込まれた五条悟がどうなっているかわからない。
そのための確実な時間。
理外を創る魔法が生み出す引力にはあらゆる抵抗が通用しない。術式があるのならばともかく、物理的行動は何も意味をなさない。
それなのに。そのはずなのに。
事象の地平面は、泡立った。
時間の差。
三分、それがフリーレンの感じた時間。
しかし事象の地平線の中では、大きな時間の歪みがあった。
理をねじ曲げる空間によって生み出された、膨大な相対論的時間の差。
それを力任せに矯正するかのように。蒼い虚空が、内側から空間を捻じ曲げる。
延長された無限の距離を、無限の圧縮で乗り越え、胎動する。
全てを剥ぎ取られた剥き出しの肉体。しかし確かに形を保っている最強の肉体。
満身創痍。
右腕をもがれ、左脚を失くし、体中のあらゆる場所に裂傷。
しかしその顔は、ただ、悦楽を浮かべていて。
「なかなかだったね」
五条悟、満身創痍。
しかし計算ずくの満身創痍。
人類初。事象の地平面より帰還成功。
フリーレンにとって不快な音を立てながら、その千切れた四肢がボコボコと音を立てる。
――――まずい
複製体。
そこに、突き抜けるような焦燥。
精密に模倣しただけの心に、飛び出んばかりの焦燥感が走る。
あと数秒。
あと数秒あれば、五条悟の再生は全て終わってしまう。
最早こちらの肉体の維持は精一杯。
――――――――――!
しかし杖を向ける。未だ再生を続ける五条悟に。
これなら、再生が終わる前に当たる。
全力の人を殺す魔法を込める。
しかし最強に対して、それはあまりにも遅すぎた。広げられた無限により、複製体の動きは強制的に止められる。
「また会ったね」
それは
「やあ、僕」
扉を開き姿を現した、自らの姿に対してだった。
「仕切り直しだ」
最強は同時に指を結んだ。
『「領域展開」』
あとがき
ブラックホール旅行に必要なもの
行き:右腕 左脚 原子レベルの緻密な呪力操作 反転術式 それらを行使する五条悟
帰り:無下限呪術
逸般のご家庭にいる方々はお試しください。
もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)
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五条悟が全てをねじ伏せバトルしまくる
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フリーレンぽく人の心を知りながら旅をする
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上二つをいい感じにバランス取った話
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好きにやっていいよ
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そんなことよりプリン食べたい