「これより、一級魔法使い選抜試験、第三次試験を開始する。事前に告知した通り、三次試験はゼーリエ様による面接によって行われる。一名ずつ名前を呼ぶので、呼ばれたものから入るように」
純白の空間に一級魔法使いの声がこだました。
その先頭にいるものから一人が、大きな扉の向こうをくぐっていく。
「始まったね、サトル」
「そうね」
「…………」
軽く返事をした五条悟の顔をヘルファは見上げた。
「緊張してないの?」
「してない」
「…………なんで?」
「最強だから」
にっ、と五条悟は笑ってみせた。
「そう」
ふう、とヘルファはため息をついた。
(大丈夫かな、私。合格できるかな…………。ここ数日、気が気じゃなかったし。少しでも、ゼーリエさまのお眼鏡にかなえば…………)
「ヘルファ、大丈夫か」
「あっヒルフトさん」
後ろから話しかけてきた声に、ヘルファは振り返った。
「二次試験ぶりだな。元気そうで良かった」
「うん。傷は無事ですか?」
「お陰様でな。ケガしたことすらウソみたいだ」
「良かった」
一通りの対面文句を終えると、ヘルファはまた息をついた。
一人の魔法使いが、扉の向こうから神妙な顔つきで出てくる。
(…………あの人、不合格だったのかな…………)
それを見ると、自分の体中が凍りつくような気持ちだった。
二次試験に参加していたほぼすべての魔法使いたちは、どれも自分より上か、最低でも自分と同じ実力を備えているものばかりに見えた。
しかしそんな人達が落ちてしまうとなると、自分の未来の可能性は何も残されてないように見えてくる。
「緊張しているな、ヘルファ」
そんな彼女に、ヒルフトは言った。
「うん……わかりますか?」
「手が震えてるぞ。顔色も良くない。あまり良く寝れていないな」
「うん。緊張で寝付けなくて……」
(この人のほうが、よっぽどサトルよりも気を使ってくれるな……)
ヘルファは内心で嘆息をついた。
「まあ大丈夫だ。なるようにはなるさ。それに試験はまた次もある。俺たちはまだ全然先がある」
「うん、でも……」
「まあ、それでも合格したい気持ちはもちろん分かる。俺の今の言葉は、落ちたときの言い訳にでもしてくれればいい」
「……そっか」
こくり、とヘルファは頷いた。
「ありがとう。ちょっとだけ楽になったかもです」
そう言って、ヒルフトを見上げた。
「ああ。よかった。じゃあ次は俺だ。行ってくる」
「頑張ってくださいね」
「もちろん」
ヘルファが手を振ると、ヒルフトはそれに軽く手を挙げて、笑顔で扉へと向かって行った。
✕
「不合格だった…………」
「ええ…………」
帰ってきたヒルフトの開口一番だった。
「単純に実力が見合ってないって……出直してこいって……」
「そんな……」
「あの人ひどくない……? もっと言葉選んでほしい……」
べそをかきながら、ヒルフトは目もとを腕で拭った。
「ひ、ヒルフトさんがだめなんじゃ、私は……」
その時、ヘルファの名前が、試験官によって呼ばれた。
「あっ、もう私の番……?」
「頑張れヘルファ……俺はダメだったけど諦めるな……」
「え、ええ…………」
そんな横から、声を上げる五条悟。
「そーだぞ、頑張れヘルファ。負けるなヘルファ。えいえいおー!」
五条悟は両手を動かして、応援歌を歌ってみせた。
(なんだこの動き…………なんかたまにすっごいムカつくなこの同居人……)
ほう、とヘルファは息をつく。
(まあでも、逆にほぐれた……気がする)
「……ありがと、サトル」
そう言って、ヘルファは前を向いた。
「行ってくる」
「がんば」
ぱしん、とヘルファの背中を、五条悟は軽く叩いた。
「これは……なに?」
「応援」
「……そっか」
小さくヘルファは微笑んで、扉の方へと歩いていった。
✕
「しつれい、します」
ヘルファの後ろで、大きな扉が重厚な音を立てて閉まった。
純白の空間。
青い空が見える温室。
とても幻想的な空間。
一面に、水の流れと活けられた花がある。
そこには、一人の小さな女の子の姿があった。
髪は金髪。肌は人形のように滑らかで、おとぎ話に出てくる妖精という呼称がお誂え向きのように感じられた。
「………………」
その妖精の目は、しかし、まるでおとぎ話のそれとは言えなかった。
まるで、宝石を品定めする魔女のように。
じっと、ヘルファのことを見ていた。
(…………なにも、しゃべらない…………?)
ヘルファはそこに立ち尽くして、魔女の選別を、そこに甘んじて受け入れていた。
しばらくして、魔女はようやく、その重くしかし小さな口を開いた。
「なぜ聖都の僧侶がここにいる?」
「えっ」
びくり、とヘルファは体を震わせた。
「お前、ここがどこだか分かっているのか? 一級魔法使い試験だぞ。聖都からの視察でもしに来たのか?」
ヘルファは思わず、ぎゅっ、と自分のスカートの裾を握った。
「え、いや、なんで…………」
「魔力で分かる。女神の魔法を使っているものの魔力の残りがな」
「いや、私は、そのっ、職業を変えて……」
「やはりお前、一回私と会ったことがあるな」
彼女は止まらず、畳み掛けるように口にした。
「どこだったか。そうだ。聖都からの使節団の中に紛れ込んでいたな」
「っ………………!」
(この人……なんで、憶えて)
自分みたいな有象無象の事を、あの十人近くいた人々の中で覚えられているとは思わなかった。
「魔力がやけに高かったから覚えている」
「……!」
まるで思考を読んだかのように、それは口にされた。
そして、また口が開かれる。
「ここは僧侶職が来る場所じゃないが、言い訳ぐらいは聞いてやろう。言ってみろ」
そう言って、大魔法使いゼーリエは、目の前の少女をじっと見つめた。
「ッ…………」
(絶対、不合格だ……っ)
まるで、射られた獲物のように、ヘルファの身体はピシリと動かなかった。
(でも、いっ、いわなきゃ、いわなきゃっ……!)
ぎゅうっ、とスカートがくしゃりとシワになる。
(動け動け動け動けっ…………!)
ぶるぶると震える手。
その脳裏に、
「うっ…………」
ヘルファの手は、自らの口を抑えていた。
がくり、とヘルファの膝が地面につきそうになる。
「……? おい」
ゼーリエの声が空間に響いた。
(やばっ、こんなとこでっ…………!)
必死に、せり上がってきたものを、ヘルファはせきとめる。
ごくりと、喉の奥にやって来た熱いものを、ヘルファは押し返した。
「はあっ、はっ…………」
ヘルファの肩が上下する。
「すみ、ません。言い訳、しますっ」
「………………」
ゼーリエの目が、最初にヘルファを見ていた真剣なそれとは少し変わっていた。
何が危ういものをみているような、不安そうな目。
「……言ってみろ」
ヘルファはぐっと口を閉じて、一気に口にした。
「そ、僧侶! っていうか聖都のシスターだったんですけど! 窮屈な生活が嫌になってやめましたっ! それで魔法使いにあこがれて、冒険者になりまひたっ! 以上ですっ!」
「…………それだけか?」
「はっ、はひっ、はいっ、それだけですっ。あっ、あと親の束縛強かったんで、逃げました!」
「………………」
ゼーリエの顔が、かなり絶妙なものになっていた。
そのまま、暫く沈黙の時間が続く。
それを打ち破るように、ヘルファは小さく聞いた。
「あ、あの、結果は…………」
「…………度胸は認めてやる。私の前で吐きそうになった受験生はこれが初めてだ」
「ゔっ、す、すみません」
「だが、合格を認めてやるわけにはいかん」
「っ……!」
ヘルファは奥歯を噛んだ。
その顔に落胆の色が広がる。
「だが一つ、アドバイスをくれてやろう」
「えっ……」
弛緩しかけた手に、また力が入った。
「お前、見るに僧侶としての実力はなかなかのものだ。同じ時間を魔法使いとして鍛えていたらと考えれば、まあ及第点はある。しかしこれは一級魔法使い試験だ。魔法使いとしての技量が、お前はあまりにも低い」
「………………はい」
その通りのことに、ヘルファは反論できなかった。
一級魔法使い試験が始まってから、自分がマトモに魔法を放てたのは十回もなかったし、なにより人の命を奪ったことすら初めてのことだった。
なんとか僧侶として鍛えた魔力を活かして三級魔法使いになれたとしても、本職の魔法使いとしてはその経験はあまりにも少なかった。
「でも……人を殺してしまったので、わたし、もう僧侶には……」
「知らん。お前の過去や未来や事情がどうなのかは興味がない」
「ぅ゙っ…………」
ゼーリエは自分の爪を弄くりながら続ける。
「もっと経験を積め。次の試験の時にまた来い。その時に見込みがあったらまた見てやる。だが今はダメだ。不合格」
「っ、は、はいっ…………」
そう言って、ヘルファは踵を返した。
背後にある、大きな扉に手をかける。
「……待て」
「え……?」
その声に、ヘルファは振り返った。
「お前、師匠がいるだろ。あいつは何者だ」
「え…………」
「お前からそいつの魔力か何かの残り香を感じる。教えろ」
ヘルファは一瞬口ごもる。
(あいつ…………サトルの、ことかな)
「目隠しをした大男のことだ。あいつはなんだ?」
「………………」
キッ、とヘルファは唇を結んで、答えた。
「ゴジョウサトル。最強です」
そう言って、扉をくぐる。
その空間には、ゼーリエ一人だけが残された。
「はっ…………」
小さな、笑い声。
花の咲く幻想的な空間に、その厳かな声が響き渡る。
「私を差し置いてか」
花に向かってしゃがんでいたその身体は、すっと立ち上がった。
「いい度胸だ」
ゼーリエの顔は、鮮烈な笑みを浮かべた。
もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)
-
五条悟が全てをねじ伏せバトルしまくる
-
フリーレンぽく人の心を知りながら旅をする
-
上二つをいい感じにバランス取った話
-
好きにやっていいよ
-
そんなことよりプリン食べたい