低い音と共に、温室の扉が開く。
面接はもう最後の一人になっていた。
この面接で、ゼーリエから見ても多くの収穫があった。
思わぬ才能も多く見つけることができた。
今までにないほどに多くの収穫だった。
しかし、今日、最もゼーリエの興味を唆ったのは。
「ウチのを不合格にしてくれたみたいだね」
声が響いた。
五条悟の声。
しかし、扉の前にその姿はない。
ゼーリエはフッと笑った。
「私の後ろに立っておいて、開口一番にそれか」
言いながら、ゼーリエは振り返った。
「師弟揃っていい度胸だ」
「そりゃどーも」
後ろに立つその姿をゼーリエは認識する。
大男だった。
二メートル近い位置にあるその顔を、ゼーリエは見上げる。
「お前がゴジョウサトルか」
「どうも、高校教員の五条悟です。面接よろしくお願いいたします」
わざとらしく、五条悟は礼をしてみせた。
「それで、何が聞きたいの?」
「話が早くて助かるな」
ゼーリエはニヤリと笑う。
五条悟へと足を進めながら、口にした。
「お前、何者だ?」
「五条悟。最強。自他ともに認める、ね」
五条悟は即答した。
ゼーリエの足運びがピタリと止まる。
「私を差し置いてか?」
強調するように、ゼーリエは言った。
しかし、五条悟は軽い調子で言い放つ。
「てか、そもそも君、だれなの?」
ピシリと空気が固まった。
まるでこの場全体が停止したかのような。
「ゴメンね。僕、君のこと全ッ然しらなくてさ」
花も、水すらもが息を潜めるかのように、全てが。
ただ、五条悟と、ゼーリエを除いて停止する。
しかし何のかわりもなく、五条悟は言い放った。
「初対面の相手にはそもそも自己紹介でしょ? 僕、高校教員だからそういうとこ厳しいんだよね」
からからと五条悟は笑った。
「…………」
ゼーリエは答えない。
五条悟から見て、ゼーリエの表情には何の変化も無かった。
しかし確かに分かった。
強者としてのものが。
そのプライドの沸騰が。
「大魔法使い。ゼーリエだ」
その口が、厳かに開く。
五条悟は返した。
「そ。対抗馬はいないみたいだね。じゃあ『最強』の称号は、僕のってことで」
「生憎、私以上の魔法使いは居ないものでな。わざわざ、『最強』を名乗る必要もない」
再び、沈黙が流れた。
二人はただ見つめ合う。
短くも長い時間が流れた。
特に、扉の向こうで待っている人々にとっては、永遠とも思えるような何かだった。
ゼーリエは口を開く。
「ゴジョウサトル。見ればわかる。お前は戦闘狂だ。あの魔王を倒した魔法使いであるフリーレンに対してすら、お前は楽しむための戦いをしていた」
ゼーリエは、自らの胸に手を置いた。
「お前からして、私はどう見える」
そして、笑みを深めた。
ギリギリまで糸を張り詰めたかのような空気だった。
しかし二人の表情は少しも変化しない。
五条悟の口から、笑みがこぼる。
「口下手かな? やりたいことはやりたいですって言わないと、先生には伝わりませんよ?」
「生憎、正論が嫌いなものでな」
ゼーリエが、くいっと指を動かした。
パリンという音がする。
二人の姿はもう、どこにもなかった。
✕
ゼーリエの手に魔力が込められていた。
その手は五条悟の顔にゼロ距離で向けられている。
五条悟の指先に、煌々たる赫が浮かんでいた。
その先に、ゼーリエの額がある。
水上都市オイサーストより上空七十メートル。
魔力と呪力が炸裂した。
大きな水しぶきが二つ上がる。
ざあ、と落ちる雨。
どちらにも、雨は到達することはなかった。
常時展開している防御結界にて水はゼーリエに届かず、無限の距離に阻まれ雨は五条悟を濡らせない。
「初めて見る魔法だ。何と言うんだ?」
ゼーリエは声を張り上げた。
飛行魔法を行使し、空中に浮かび上がる。
五条悟もは無傷で立ち上がる。
「無下限呪術。空間を操って、止めたり、縮ませたり、吹き飛ばしたりするの」
同じように、五条悟も宙に浮かぶ。
術式の開示。
ゼーリエの知らぬ理によって、五条悟の出力が上がる。
「飛行魔法でもないのに飛べるのか。面白い」
「――――!」
五条悟の視界がブレた。
身体が吹き飛んでいる。
横向きに強烈な加速だった。
すぐさま身体が叩きつけられた。
「ハハッ、どこだよここ」
水上都市オイサースト。
その姿が、ここからはとても小さくみえた。
自らの体を受け止めたのは、山の岩肌だった。
「あそこで暴れると少々困るものでな」
即時に追いついてきたゼーリエ。
五条悟へ向け右腕を上げた。
「ここで存分にやろうじゃないか」
「フリーレンもそうだったけど、この世界の魔法ってぜんぶ効果範囲バグってん――――――」
巨大な岩が身体にのしかかったような感覚が、五条悟に襲いかかった。
「うおっ!」
――――
十倍以上の重みが全身を襲う。
呪力の強化をしても、立ち上がることがままならない。
(強烈!)
全身が押しつぶされるような感覚。
五条悟の頭上に、蒼い虚空が出現した。
ゼーリエがにやりと笑う。
「そういうこともできるのか」
「残念ながら、
何事もないように五条悟は立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ行こうか。まだるっこしくてもしょうがない」
五条悟の手には、掌印が結ばれていた。
「領域展開」
膨大な呪力。爆ぜるような膨張。
ゼーリエは目を見開く。
大きな結界がゼーリエを巻き込み、領域が展開される。
展開と同時、術式命令を全開にした。
(どうだ)
フリーレンには通用した。
自分自身にも通用した。
両面宿儺にも通用した。
では、この世界の最強格には。
(マジかよ)
結界の必中術式。
違和感。
(半分しか、成立していない)
「結界に魔法を付与したのか。見たことのない面白い戦い方だ」
「やっばいな」
五条悟は笑った。
(領域の必中効果が中和状態になっている)
「そっちも領域展開できたの?」
五条悟の疑問。
それに、ゼーリエは口を開いた。
「領域展開と言うのか。そちらの結界の展開と同時に、こちらも同じように結界を展開した。おそらくお前の魔法体系の戦いだと、これが正しいのだろう?」
「御名答」
(一瞬で領域の押し合いにたどり着けるとか、何もんだよコイツ)
五条悟の胸の内が、ふつふつと掻き立てられた。
――――もし本気を出せば
今までに戦った相手を、脳裏に思い出す。
――――出していいのか
それらの多くは、自分の一撃のもとに。
――――出しても、戦いはすぐ終わらないのか
だが、五本の指に入るものを除いては。
――――目の前のコレは、耐えられるのか
最強故の無意識のストッパー。フリーレン相手にすらもやっていた最強としてのストッパーが、外れようとしている。
「あんたさ」
五条悟は言う。
その言葉に、最大限の期待を込めて。
「あんたさ、強い?」
「誰よりもな」
五条悟はワクワクする。
「ハハッ」
そして笑う。
ゼーリエは手を前に出して、何かをつぶすように拳を握った。
「いくら魔法が強力だとしても、結界が貧弱では意味がないな」
「うん。よく壊されるよ」
笑顔で、五条悟は答えた。
外側からの強い圧力。
そのまま領域は、崩壊する。
ゼーリエは空中に残り、五条悟は地面に着地した。
「ん? お前、魔法が使えなくなるのか」
次の魔法を練りながら、ゼーリエは口にする。
(どこまで見えてんだよ)
五条悟は構えた。
これより術式の使えない十数秒間を、乗り越えなければならない。
そして相手は大魔法使いゼーリエ。
「でも手加減不要ね」
「いいだろう。試してやる」
ゼーリエの魔法が発動した。
――――
五条悟は空を見上げた。
全てを見通す六眼が、形成されていっている魔法を見通す。
空が少しずつ曇っていく。
とんでもない魔力がそこに吹き込まれる。
天候に至るまでを変える、桁外れの魔法。
その曇が形成されきってはじめて、五条悟はその効果を知った。
五条悟は身を翻す。
「行くぞ」
神話の魔法。
天から幾百の柱が落ちた。
地を壊す天変地異。
地面が貫かれ、土がえぐれ、木々が吹き上げられ、クレーターが形作られていく。
絶え間のない超質量をもった高速の雨。
五条悟は、歓喜していた。
(やっべぇ!)
跳ぶ、走る、身を翻す、絶え間のない回避。
六眼と呪力探知による超回避。
針の隙間を縫うように五条悟は避けていく。
(手心なしの質量攻撃! 防御魔法じゃ貫かれる!)
ただ避けるしかない。
雨のように絶え間も隙間もないはずの中に、五条悟は一寸の隙を見つけ出し、身をすり込ませていく。
「そこだ」
左腕を何かが貫いた。
五条悟は笑みを深める。
『こいつには、本気を出してもいい』
五条悟の心臓がどくんと跳ねる。
反転術式が、全開で左腕に集中された。
「当然のように欠損も直すか」
ゼーリエの称賛。
彼女の口元にも笑いが広がる。
「あんたはどうなの?」
五条悟の声。
それはゼーリエの目の前から来た。
ゼロ距離。
ゼーリエの目の前。
五条悟の術式は、回復していた。
「赫」
無限の発散。
それを纏った拳。
顔面への殴打を繰り出す。
ゼーリエの身体が、軽々と吹き飛んだ。
(近接はフリーレンみたいに苦手か?)
吹き飛ぶゼーリエを見て、五条悟は思考する。
しかし、ゼーリエの体は空中でピタリと停止した。
「いいな」
空中でその身体にブレーキがかかった。
ゼーリエの顔が五条悟を向く。
その頭部から、小さな血の筋が垂れていた。その血を、ゼーリエは指先で軽やかに拭き取る。
「見たことのない早さだ。いや違うな。空間を圧縮しているのか」
「御名答」
五条悟の右手に蒼が籠る。
最大限の出力をそこに込めて。
しかし。
「
一足先に。
五条悟の足元が途端に熱を帯びた。
直後、天へ向かって一直線に光の柱が伸びる。
(あっつっ!)
瞬時に空気を無限の防御対象に切り替える。
身体が、空に打ち上げられた。
この一瞬ではどれだけ高所かも定かではない。
辿り着いたそこに、天からゼーリエが五条悟を見下ろしていた。
五条悟は認識する。
上空三〇〇メートル近く。
「死ぬなよ」
ゼーリエの右手に、魔力が集中した。
――――――
「――――――!!」
体全体が加速する。
一秒ごとに襲いかかる十倍の加速度。
地面がいつ来るかも定かではない。
体が際限なく加速していく。
初めての経験。
全身が揺れる。
「ッッ!!」
山の頂点に、衝撃と噴煙が巻き起こった。
地面が激しく振動する。
山の表面だけでは受け止めきれない。
五条悟の身体は、なおも地中に向かって沈んでいく。
ゼーリエは魔法の出力をさらに強めた。
五条悟の身体は、更へ潜って行く。
「!」
その時、ゼーリエは反射的に防御魔法を全面展開した。
今身にまとっている多層の防御結界では足りないという判断。
目の前にある、数百メートルの山。
その中腹。
そこに、ゼーリエは膨大な力の発生を見た。
ぽうっ、と小さな赫と蒼の魔力を見て。
――――――茈
轟音。
山が吹き飛んだ。
なんの比喩でもない。
山が、根元から引っ剥がされた。
強大な無制限の茈の衝撃波が、山を内側からひっくり返していた。
「……!!」
ガラガラと、残骸が散っていく。
ものすごい呪力の余波を、ゼーリエの展開した防御魔法が受け流した。
その発生源に煌々と浮かぶ、今の事象の犯人。
「ごめ。無人だったから吹き飛ばしたけど、あそこ誰かの土地?」
全く無傷で五条悟は姿を現した。
ゼーリエは笑う。
「安心しろ。私有地だ。
そして、続けた。
「なあサトル。お前―――――」
「蒼」
轟音がした。
蒼による物質の操作。
山の残骸、それが一気にゼーリエに襲いかかり、巨大な球を形作る。
「蒼」
術式を更に続ける。
どんどんと残骸が追加され、球は巨大になっていった。
まるで一つの小惑星のような巨大な球へ。
五条悟は更に出力を強める。
ただでさえ高密度な岩たちが、ギギギと悲鳴を立てながら。
質量攻撃。
防御魔法を掻い潜るほどの質量攻撃。
一切の手加減はない。
最大出力の術式行使。
「…………どうだ」
その瞬間。
球の上下へ、莫大なエネルギーが爆ぜた。
「…………!!」
五条悟は目を見開く。
膨大なエネルギーの光の柱。
岩たちは容易く吹き飛ばされた。
圧倒的な熱量で、飛ばされた岩は溶け落ちていく。
山を破壊してみせた五条悟に対する当てつけのようなやり方。
高密度のエネルギー、圧縮した球を一撃で吹き飛ばしたその中心。
「やるな」
ただ微笑むゼーリエが、佇んでいた。
少しだけ破けた衣服を魔力の流れにはためかせながら。
「ムカつくね。ちょっとはこたえろよ」
五条悟は言う。
「どの口が。私に傷をつけて、これだけの魔法を使わせておいて」
ゼーリエは、自らの服についた汚れをはたき落とした。
「それに、私の服を破いたんだ」
「こっちは右腕取られてんのよ」
「化け物め。もう再生し終わっているだろう」
(――――楽しいね)
目の前の相手の魔法を、六眼が分析する。
今まで使った魔法は、ゾルトラークのような魔法ではない。
ゾルトラークが「貫くため」だけにつくられたのならば、ゼーリエのその魔法たちは、ただ『戦うため』だけに生み出されたかのような。
この世界は平和だった。
しかしそれに全くそぐわぬような、鮮烈な魔法の数々。
「魔王ってのがのさばってた時代は、相当面白かったんだろうね」
「残念ながら、私が生きて来たのは更に前だ」
五条悟は掌印を結ぶ。
(今の自分の最大限を、コイツに――――――)
五条悟は呪力をみなぎらせる。
「まあそう急くな、ゴジョウサトル」
ゼーリエの魔力が胎動した。
その手に、魔力が込められる。
「これは面接なのだからな」
五条悟はそこに込められた術式を見た。
そして目を見開く。
「おいマジで?」
「ゆっくり話でもしようじゃないか」
大魔法使いゼーリエ。
その手に構築されたのは高度な結界魔法。
そこに何かの魔法の術式が組み込まれたのを、五条悟は見る。
結界が展開される。
ゼーリエは口にした。
「
「…………!」
五条悟の頭上を、真っ青な空が覆った。
擬似的な領域の形成。
外と中を隔絶した空間が、その場に生み出される。
「……まさかね。これすらも一目で覚えられるとは思わなかったな。呪術戦の頂点なのに。ちょっとショック」
辺り一面に、花畑が広がっていた。
色とりどりの、鮮やかな花の森。
それが、風に吹かれたかのように揺らめいていた。
「まあ座れ、ゴジョウサトル」
そして、その場には、白いテーブルと椅子。
そこに腰を下ろしたゼーリエは、微笑みながら口にする。
「便利なものだな。心象風景を映し出せる。自分の体内のように自由に魔法を制御できるのか」
きょろきょろと五条悟は辺りを見回す。
その六眼は、ゼーリエの展開した領域を分析していた。
(花畑を出す術式…………)
「おかしいな。本来領域に付与できるのは、生来の生得術式のはずなんだけど。まさか、結界にイチから術式そのものを全部
「私を誰だと思っている」
ゼーリエは微笑みかけた。
「大魔法使いとは、こういうものだ」
「参ったね。流石に一本取られたよ」
そう言って、五条悟は椅子に座った。
「君と、ちょっと話がしてみたくなったかな」
「手のかかる受験生だ」
ゼーリエは、楽しそうに口端を上げた。
もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)
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五条悟が全てをねじ伏せバトルしまくる
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フリーレンぽく人の心を知りながら旅をする
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上二つをいい感じにバランス取った話
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好きにやっていいよ
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そんなことよりプリン食べたい