「今年の受験者の中にはイレギュラーがいるな」
低く厳かな女性の声が響いた。
「レルネン、気づいたか」
「もちろんでごさいます、ゼーリエ様」
「膨大な魔力をつつみ隠そうともしない。かなりの自信があると見える」
不服そうな態度を取りつつも、にやり、とその口角は上がっていた。
「この世の中にまだこれほどの実力者がいたとはな。これだから魔法使いはやめられん」
くくっ、とゼーリエは楽しそうに笑った。
「ゲナウ。一次試験は荒れるぞ。覚悟しておけ」
言われたゲナウという魔法使いは、ゼーリエに顔を向け、礼をした。
「俺はいつも通りにやるだけです。一級魔法使いには、それに見合う実力者を。それだけのことです」
「そうか。ゼンゼ、お前は?」
問われた長い銀髪を持つ魔法使いは、呟くように返す。
「……一級魔法使いは、どんな理不尽でも困難でも打ち破る魔法使い。それを平和的に確かめられれば、それで」
「レルネン、お前は?」
「…………きっと、なるようになるでしょう」
それを聞いて、ゼーリエは少し目を細めて、隣に侍るレルネンを見た。
「……変わらんな。……まあいい」
そう言うと、ゼーリエは場の全員に向けて、口を開いた。
「それではいつも通り、一級魔法使い試験を始めろ」
「「「はっ」」」
玉座の間に、一級魔法使いたちの声が響いた。
✕
「これより、一級魔法使い試験の第一次試験を始める」
場には、多くの魔法使いたちが集まっていた。
それに向けて、一級魔法使い、そして今回の試験官であるゲナウの声が響く。
「これより、参加者それぞれに腕環を配っていく。その腕環が示す者たちが、これから一次試験を共にしていくパーティになる」
そして、場の全員に腕輪がそれぞれに配られた。
それを手にした一人である五条悟は、あたりを見回した。
(結構数がいるな……一級魔法使い試験でも、上限と下限にバラツキがあるみたいだね。それで、この腕輪は……)
つけた腕環を覗いてみると、自分が所属すべきパーティの番号が書いてあることがわかった。
五条悟の六眼は、そのなかに刻まれている術式構造をひとりでに把握する。
(魔力を込めると自分の所属するパーティの位置を教えてくれるのか。呪力でも代用できるかな?)
試しに呪力を練って込めてみる。
腕環の術式が一瞬だけ作動しかける。しかし、六眼で見た通りの効能は発揮されなかった。
(……ダメか。やっぱり、この世界では呪力と魔力の間には何かしらの壁があるみたいだね)
大人しく諦めて、五条悟はその場で待つことにした。
その間、あたりを見回してみる。
六眼は呪力以外のものも正確に写してくれた。
おおよその実力を、そこに写る情報で測ることができる。
そんな中に、自分が劣る要素はどこにも見当たらなかった。
(まあ、サクッと合格できるでしょ)
そう思って、五条悟はひとつ、大きなあくびをした。
✕
「ゼーリエ様が言っていたのはあの魔法使いのことですか」
メガネをつけた黒髪のオールバックの魔法使い、ファルシュが口にした。
「膨大な魔力を隠そうともしていない。熟練の老魔法使いの数倍は…………あれ、なんか目隠ししてない? なんかわかる? 誰なのあれ」
「知らん」
その隣にいたゼンゼは、ぶっきらぼうにそう言う。
「……だが、何か異質なものを感じるな。膨大な魔力量だが、それ以外にも何か」
「それは確かに、私も感じます。……人間、ですよね? あの人」
「もし魔族ならば、この街に入った時点でゼーリエ様が動いている。もし騙せたとしてもこんな場所にノコノコやってくる馬鹿魔族は見たことがない」
(辛辣だなこの人……)
表情を変えずに、ファルシュはゼンゼの顔を見た。
そして、向こうの壇上に立つ試験官ゲナウが、次の号令を出した。