プロローグ 呪術の高みと大魔族
すべてが凪いでいた。
そこに存在するあらゆるものが停止していた。
すべては永遠の時を得、形を永劫に保ち、悠久の時を享受するまでそこに存在し続ける。
そして、目が眩むほどにきらびやかだった。
「お前の家にあるものを見てきた」
すべてが停止した中に浮かぶ強者は言った。まるでこの世のすべてを享受したかのような力を体現したような存在。この世界に生まれ落ちただけで、全ての均衡を破壊してしまうような、存在としての重量感。
「そう。とても素敵だったでしょう? 私の研究成果は」
くすりと、その対面にいる者は笑う。相対する『強者』に対して、どうしてか、全くの恐れを抱いていなかった。優しく指同士を合わせて、まるで語りかける母親のような声色で、彼女は口にする。
「あれが私の研究テーマなの。あなたもとっても興味深いわ。よかったら、お話させてくれない?」
とてもきれいな笑み。少女の作る穏やかなそれとしか思えないような、かわいらしい微笑。
人間としか思えない。さらに言えば、人間の中でもこれほど優しい微笑みは見られないだろうと思わせるような。
しかし、その対面に立つ男はその根源を見抜いていた。
「言葉を選んだ方がいいんじゃないのか」
「…………どうして?」
男の全身に、全てを飲み込もうとするような力が沸き上がった。
解放された輝く青の瞳が、人の形をした人ならざる者を見据える。
「今際の際だぞ」
空間が捻じ曲がる音が響いた。
次の瞬間、男の姿は掻き消える。
遅れて、甲高い金属音が響いた。
交差した五本の大剣が一人の男の手刀を受け止めていた。直撃した一番外側の剣はパキパキと音を立てて崩壊している。
ようやく追いついた風が、衝撃波となってあたりに吹き荒れた。
しかし木の枝は揺れず、木の葉は一つとして吹き上がらない。すべては黄金と化して停止していた。
「今まで沢山クズを見てきたよ。人間で。保身のクズ、高慢なクズ、ただのクズ、腐ったクズどものゴミ集積所。でもこれだけのクズを見たのは初めてかな。人間じゃないってだけで、ここまで生き物ってぶっ飛んでクズになれるんだね」
ピシリと剣の芯にヒビが入り込み、甲高い音を立てて崩壊した。
結んだ掌印に呪力が込められ少女へと向き、彼女の後方の空間が捻じ曲げられる。バツンと音を立てて、その体は数十メートル後方に吹き飛ばされた。
「安心したよ。どうしてフェルンとかヘルファみたいな優しい奴らがこんな職業をやれているのか分かった」
右手を空中に構える。真っ赤な虚空が渦を巻いて形を成し、無限の発散をそこに蓄えた。
「イカれてなくてもいいくらいに、心を痛めなくてもいいくらいにクズだ」
右手の指それぞれに収束した五つの虚空が展開され、空中の魔族へ向けて一斉に放たれた。
火薬を数トンも凝縮したかのような爆発が巻き起こる。
噴煙の中からはキラキラと輝く青い魔法の破片と、頬に裂傷を作った少女が姿を現した。
「素晴らしいわ」
恍惚とした表情で少女は笑う。しかしその目の向こうには、底知れない興味と狂気が渦を巻いていた。
「初めて見る魔法。人類のそれじゃないわね。独立した系統なのかしら? それとも、あなたもしかして魔族なの?」
「生憎、肉団子で実験するくらいフィクション脳じゃないんでね」
少女の周囲に二十もの魔法陣が出現し、そこから一斉に魔力の奔流が飛び出した。
それを男は六角形の結界で阻む。
しかし少女の猛攻はとどまるところを知らないどころか、なおも威力を増大させ、嵐のように攻撃を追加する。
「あなたの魔法は知っているわ。ゾルトラークは魔法だけじゃ防御できないんでしょ?」
魔力の奔流に対し、結界の防御はほとんど常時展開しっぱなしになる。男の身にまとう力のオーラがどんどんと削れていく。
「やっぱ魔族って長生きだから、思考回路がおばあちゃんなのかな」
男は、トントンと頭を指さした。
「何年前のトリセツ読んでんだよ」
その姿が掻き消えた。
手刀は音の速度を幾倍も超えて空間を横断する。
少女がその事象を理解する前に、自身の左腕が空中に踊っていた。
男の右手が返す刀となり力が込められる。
少女の呆気にとられたような表情。
その目が、何もないはずの方角へ向いた。
瞬時の判断で手刀は視線の方へ向けられる。
力の衝突が起こり、爆風があたりを覆した。
ぴたりと手刀の寸前で止まったのは、金色によって形成された流線型の剣。
漆黒の軍服に身を包んだ長髪の魔族。頭部からは天を突くような角ばった角が伸びていた。
「ソリテール。こいつはお前とは相性が悪い」
魔族は距離を取りながら口を開き、淡々と少女へ告げる。
「そのようね。でも、あなた一人で代わりができるほど簡単な相手でもないみたい」
「分かっている」
二人の魔族が、たった一人の男の前に立ちふさがった。
「肉団子の産物二人相手に、どこまで戦えるかしら?」
少女は男へ向かって皮肉を込めて言った。しかし、その顔は聖母のように微笑んだままだ。
「相変わらず頭おばあちゃんだな。ビックリしたよ」
『最強』は狂気を含んだ笑みをたくわえて、掌印を構えた。
「お前ら二人で、戦いになると思ってるその頭に」
あとがき
やっぱり続きます
もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)
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