時、かなり遡り。
一級魔法使い選抜試験より二週間、ザンフト大森林。
そこに、二人の魔法使いと、一人の呪術師の姿があった。
「じゃあ、二人とも、よろしく」
「う、うん」
「行くぞ」
二つの魔法杖が空中に掲げられ、魔法陣が出現した。それはゾルトラークの魔法陣。もう五条悟にとっては何十回見たかも分からないものだ。
数個の魔法が同時に放たれ、向かってくる。
「――――ダメか」
ソルトラークは五条悟が広げた無限を貫通し、その先も貫かんとばかりに向かってくる。
呪力によって再現した防御術式が展開され、衝撃と共に受け止めた。
鮮烈な魔力の粒子があたりに散る。
五条悟は掌印を結んで無限の防御要件を変更し、口を開いた。
「もっかい」
「分かった」
「いくよっ」
その合図で二人は再びゾルトラークを数発放つ。
魔力の奔流は再び真っすぐ五条悟へ向かい、また防御術式によって受け止められられる。
「うーん、この定義付けもだめか。次」
「おりゃっ」
「ふっ」
再三のゾルトラーク。それはまた、無限の防御をたやすく貫いてくる。それをまた同じ呪術で受け止めた。
すると、五条悟は大きく唸った。
「う〜〜〜〜ん」
「サトル、うまくいかない?」
杖を収納し駆け寄りながら、ヘルファは尋ねた。
「うん。どう防御しようとしても無限が貫かれるんだよね」
ポリポリと五条悟は頭を掻く。
それから掌印をつくり、今展開されている無限の術式構造を、今までのものと同じに直した。
「定義を魔力そのものにしてもダメだ。さらにゾルトラークの術式の構造を対象にしても問答無用で貫かれる」
「全部止める、で定義してもダメなのか?」
二人の方へ歩きながら、ヒルフトが聞いた。
「それは常にやってるんだよね。通り抜けられるように定義した物質以外は基本的に全部止めるようになってる。じゃないと不意打ちに弱くなるし」
ん〜、と五条悟は再び唸る。
「思ったより厄介だね、ゾルトラーク」
「他のどんな強力な魔法も止めれるのに、それだけはダメなんだね。
ほえーとヘルファは感心した。
続いてヒルフトが言う。
「そのムカゲンジュジュツというのはとんでもないような魔法……いや呪術に見えるが、完全無欠というわけにはいかないんだな」
「そうね。今まで僕はゾルトラーク以外に、四回だけ無限を打ち破られてる」
「あ、意外と……」
ヘルファがぽつりと言った。
「それはどんな方法で貫かれたんだ? ヒントになるかもしれんぞ」
「あんまり開示とか無闇にしたくないんだけどね。でもしゃーなし」
そうだな、と五条悟は頭を掻きながら答えた。
「一度目は『術式そのものを無効化する』術式を持った武器によって貫かれた。二度目は『術式構造を乱す』術式を持った道具によってバチンと」
「そんなにすごい道具があるんだね」
ほえー、とヘルファは感嘆する。
「二つ目のは、防御魔法と似たような感じか?」
ヒルフトが言った。
「そうね。多分防御魔法でぶん殴られたら通ると思うよ」
うなずいて、五条悟は続ける。
「それで、三度目は、『中和される呪力を流し込まれた』ことによって破られた。これはもうどうしょうもない。すべての呪術は呪力によって動いてるから、中和されたら術式は保てない」
「そうなのか。それだと、魔法の方を経由してなんとかできないか?」
「まあ僕が魔法をマトモに使えるようになったら試してみてもいいかもね。今は無理だ。それで、最後が……あんま覚えてないんだけど」
うーん、と五条悟は唸る。
「思い出せないの?」
「いや。あんまり全貌を認識できなかった、っていうのが正しいかな」
「どういうこと?」
ヘルファが首をひねった。
「六眼でもうまく見えなかったんだよね」
「ならば、呪術ではないのか?」
ヒルフトは眉を寄せる。しかし、五条悟は首を横に振った。
「ありえない。これは前の世界にいたときの話だから」
「そうか……」
ヒルフトは顎に手を当てる。
「しかし、六眼は呪術であれば、全てを見通せる体質なのだろう?」
「それなんだよね。でも斬撃に伴う呪力すら感知できなくってさ。認識そのものをすり抜けたっていうのかな………」
「ほー…………」
「ヘルファわかってないね」
「うん」
否定もせずにうなずいて、ヘルファは口を開く。
「確認なんだけど、そもそも無限のバリアって、見えないだけでそこにあるんだよね?」
「あるよ。それに僕の呪術はそういう術式だし」
「それをすり抜けるって、槍を突き刺すときに、鎧を無視して人体だけ貫くみたいなことでしょ?」
「そうなるね」
「無理じゃない?」
「そうね」
「槍ごと貫くならまだしもさ。サトルとしては、それやられた時、無限ごと貫かれたって感じはしなかったの?」
「………………」
五条悟は微妙な顔をした。目隠しの包帯がくしゃりと皺になる。
「何その顔」
「記憶が曖昧なんよね……でもまあ、確かに、無限を『すり抜けた』って感じではなかったかもしんない」
「重大なことだったろうに、どうしてそんな曖昧なんだ?」
今度はヒルフトが首を傾げた。
「いや、ね」
ふう、と五条悟はため息をつく。
「まあそれで結構マズい状態になっちゃってね。意識がわりかし危なかった」
「へー。サトルもそんなになることあるんだ」
「最強への道もタダじゃないってことだよ」
背の後ろで、五条悟はこぶしをギリと握り締めた。
すぐにそれを解いて、二人に向き直る。
「でも自分で言うのもなんだけど、六眼はすべての呪力を見通すものだ。だからそれにうつらなかったということは、うろ覚えというよりかは、初めから六眼でも認識できなかったっていうのが真理なのかな」
「うーん」
ヘルファの首をひねる角度は、より増す一方だった。
「二律背反じゃないの、それ。矛盾してるよ。すべてを見通す呪術なのに、見通せてないじゃん」
「マジそれ。転生して四か月ずっと考えてんだけど、全くわかんない。ヒルフト分かる?」
「サトルが分からないのなら俺にも分からんだろう」
呆れたようにヒルフトは言う。
「しかし、それでやられたというのは事実なんだな?」
「そう。一度は右腕をぶった切られて、ハッキリ見てた。それでも何も見えなかったのは、つまりそういうことだと思う」
「うーん」
ヘルファはトントンと眉間を叩いた。
「矛盾があるっていうことは、大抵の場合前提条件に間違いがあるって聞いたことある」
「つまり?」
「えっとね。この話題の場合、『六眼がすべてを見れる』ってことと、『その攻撃が呪術だった』っていうこと」
「なるほどね」
五条悟は目隠しの中で目を細めた。
「ヘルファってたまに育ちの良さ出るよね」
「まあ悪くはないけど……」
五条悟は指を二本立てた。
「つまり見方を変えて、言い換えると。
一.六眼が見通せない何かがあった。
二.その攻撃が呪術でない何かを経由していた
こういう可能性も考えられるってことになる」
「確かに。サトルも相当頭いいよね。考え方の解釈の広げ方って言うか」
「高校教師舐めないでもらって」
わざとらしく、五条悟は胸を張って見せた。
「しかしサトル。ゾルトラークの術式構造は六眼で見えるんだったよな。ゾルトラークは今言ったものほど大層な魔法ではない」
「うん。あくまで魔法陣とか、付随する呪力とかを見てるだけなんだけど」
体勢を戻して、こくりとうなずく。
「ゾルトラークに一番近いのは一つ目。『術式そのものを貫いている』。そういう術式が組み込まれている魔法なんだと思うよ」
「結局それが一番近いんだね」
ふう、とヘルファは息をつく。
「実家でチラ見した昔のゾルトラークの専門書にも似たようなこと書いてあった気がする」
「だとしたら、ゾルトラークを防ぐにはどうするんだ?」
ヒルフトは腕を組みながらそう言った。
「術式そのものを貫くのなら、ムカゲンジュジュツではどう定義しても、結局ガワごと引っぺがされることになる」
「それ。やっぱり今の無限の張り方じゃそもそもダメってことなのかな」
「防御魔法はじゃあ、なんで引っぺがされないの?」
「それもそう」
ピッ、と五条悟はヘルファを指さした。
「六眼じゃ魔力はあんま見えないから憶測なんだけど。おそらく防御魔法は『魔法を散らす魔力の層』を表面に展開してる。表面にある魔力が先にゾルトラークに触れて散らして、内部の術式を保ってる」
手を広げると、そこにぱっと防御術式が展開された。
「少なくとも僕が再現した防御魔法はその原理で動いてる。だから魔法を散らすためのプログラミングと、魔力の層を展開するための魔力が相まって、相当複雑な構造になってるね。魔力がゴリゴリ削られるのはこのせいかな」
「へー。そうなんだ」
「ヘルファ知らずに使ってるの?」
「魔法職はじめて一年経ってないから……」
「俺も防御魔法を出すのにそこまで考えていないな」
ヒルフトも手元に一枚の防御魔法を展開し、それを見てみる。
「まあ、言われてみればそのような感覚はする」
「じゃあさ、無限で防御魔法に似たことをすればうまくいくんじゃない?」
ヘルファが提案をした。
「そうね。やってみようか」
五条悟は掌印を結び、再び無限の要件を変更した。
(無限の表面に薄い呪力の層を作り出す。これは落花の情の応用でいけるな。呪力への複雑な受け流しプログラムは簡易領域と普段の無限の応用)
ものの数分で、五条悟の無下限プログラミングは終了した。
「よし、できた。二人とも、もっかい」
「よし来た」
「任せろ」
今、五条悟の無限の表面には、プログラミングされた呪力の薄い層が巡っていた。
それらは無限のそれと同じ要領で侵入物を検知し、防御魔法のように攻撃を受け流すようになっている。
ヘルファとヒルフトの前に大きな魔法陣が出現し、青白い魔力の大砲が飛び出した。
一直線を描き、五条悟へ。
轟音が立ち、土埃があたりを覆いつくした。
「うまくいった」
埃が晴れると、掌印を構えた無傷の五条悟の姿がそこにはあった。
「おお! やったうまくいった!」
ヘルファは子供のようにぴょんぴょんと飛び上がる。
五条悟は掌印を解いた。
「まあ、さすがにニュートラルと同じ呪力消費とはいかないかな。防御術式よりはマシ、って感じ」
(魔力がある程度感じられるようになったおかげで、防御術式みたいに攻撃へのプログラム作動を全部呪力で仕込まなくてもよくなったのが大きいか)
もう数度、同じように術式を作動させて性能を確かめてみる。
「よし」
どうやら、問題なく動くようだった。
「これでまたサトルが最強として格が上がってしまったわけか」
ヒルフトは冗談めかして言う。
「それじゃ、今度は二人の格を上げる番だね」
「「え?」」
ヘルファとヒルフトの声が重なった。
五条悟は首をかしげる。
「何? 僕だけ修行やって、二人ともなにもやんないのはないでしょ?」
「えっ、じゃあ……」
「模擬戦。かかって来て」
「…………っ!!」
ヘルファはとっさに口を押えた。
零落の王墓の中でのトラウマが、まるで昨日のことのように襲い掛かってくる。
しかし、乙女の意地で放出はなんとか耐えた。
そして、空中に魔法杖を呼び出し、五条悟の方をぐっとにらみ上げる。
「お、お手柔らかにっ……!」
「……!」
それをヒルフトは驚いたように見てから、歯を食いしばって、杖を構えた。
「くそっ、ヘルファが立ち向かう以上は。よろしく頼むっ、ゴジョウサトルっ!」
「いい意気だね。行くよ」
翌日、二人は魔力切れと筋肉痛で動けなくなった。
もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)
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