もしも五条悟がフリーレン世界に転生したら   作:ケンタ〜

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南の勇者がいた村

「いったあい……」

 

 ヘルファの小さな悲鳴が森の中に響いた。

 

「クソっ、化け物め……」

 

 地に手をつきながら、ヒルフトも口にする。

 

「今日はもう魔力切れか、動けないみたいだね」

 

 一人、悠々と地面に立つ五条悟はそう言って、二人それぞれに指を指した。

 

「ヘルファ、動かなさすぎ。魔力量にかまけて魔法ばっかり打ってたら突っ込まれて負けるよ。そんでヒルフト、そっちは動けるし魔法撃つの早いけど、雑になりすぎ。考えて動かないと無駄だよ」

「そうは、はあ、言われても……」

 

 仰向けに空を見ながら、ヘルファは息を切らす。

 

「ちょっと前まで、シスターでずっと座ってたのに……」

「冒険職目指して魔法使いなったんでしょ?」

「う…………」

 

 くっそお、とヘルファは芝生の上で駄々をこねた。

 ヒルフトは、膝をつきながら五条悟に尋ねる。

 

「はあ、はあ、しかし、サトル。なんでお前はそんなに動けるんだ。呪術師はこっちの世界で言うところの魔法職なんだろ」

「僕のいたとこでは術式よりなにより、まず体を動かすことを磨く。呪力を体の中に巡らせて動きを強化することが、『基本』なんだよ」

 

 五条悟はヒルフトにもわかるように、魔力を使って巡らせて見せた。

 

「この世界じゃ逆みたいだね。先に魔法を磨く。次に、もしできたら体内の魔力操作、ってかんじなのかな?」

「はあ、この世界だと、体を動かすことは前衛職にある程度任せられているからだろうな」

 

 息を切らせながら、ヒルフトはなんとか立ち上がる。

 

「そうね。呪術師はパーティを組めるほど人材豊富でもなかったから、全部自分でやるんだよ。この世界と違って、あっちでは『動けても呪力のない人間』は呪具でもない限り呪霊を祓えないし、発達しなかったんだろうね」

「だからと言って、この世界でヘルファのような魔法使いが鍛えなければならない理由はないだろう」

 

 ヒルフトは体についた埃汚れを払ってから、ヘルファに手を差し伸べる。

 

「ありがと……んっ」

 

 しかし、握った手に力が入らず、ぺたりとしりもちをついてしまった。

 

「うっ、はあ、はあ、ダメ、まだヒルフトみたいには動けない……」

「サトル、負ぶってやってくれ」

「えー。いつも僕じゃん。そっちやってよ」

「…………」

 

(乙女心をわかってないな…………)

 

 ヒルフトは五条悟を細い目で見てから、ヘルファを背負いあげた。

 

「ヒルフトすごいなあ、魔力切れでそんなに動けるなんて……」

「元から鍛えているからな」

 

 そのまま一行は歩を進め、森の中の街道に着いた。

 

「ここを抜ければ街に出るんだよね?」

 

 五条悟が聞くと、ヒルフトはうなずいた。

 

「街というか、村だな。ファーベル村、だったか。何かで有名な村だ。それで憶えている」

「あ、それって、南の勇者だよね」

 

 ヘルファが負ぶられながら口にした。

 

「それだ。魔王討伐に大きな貢献をしたとされる勇者だな」

「南の勇者?」

 

 五条悟は首を傾げた。

 

「魔王を討伐した勇者パーティのとは違うの?」

「うん。人類最強、って呼び声が高い勇者だよ。……あっ」

 

 そこまで口にして、ヘルファは後悔した。あわてて早口で取り繕う。

 

「えっと、最強っていうのはさ、あくまでも人それぞれの価値観であって、その、いろんな形があってもいいと」

「早く行こう」

 

 ガン無視だった。見るからに歩幅を大きくして歩いていく。

 

「…………これってさ、今日も夜まで小休憩ない感じかな」

「運が悪いと今日中に村に着くぞ」

 

 ヘルファとヒルフトは、そろって白い目をした。

 

 

 

×

 

 

 

「ここがその最強がいるって村?」

「はあっ、はあっ、このっ、人の心ない最強めっ」

「クソっ、まさか日没前に間に合うとは」

 

 五条悟の前で、二人は膝に手をつきながら文句を言った。しかもとうの本人は全く意に介さずに村人に話しかけようとしているところだった。

 

「そこのお姉さん」

 

 近くを歩いていた老齢の女性に、五条悟は声をかけた。

 目元を隠している包帯を外しながら、にっこりと優しい笑みを浮かべてみせる。

 

「……あら。どうしたのかしら」

 

 女性はぽっと頬に花を咲かせた。

 その傍で、ヘルファは悲しそうな目をする。

 

「……あれ、私も初対面でやられたんだよね」

「苦労しているな……」

 

 ヒルフトは同情の目をして、ヘルファの肩に手を置いた。

 

「お姉さん、この村に最強の勇者ってのがいるって聞いたんだけどさ」

「そ、そうね。その人の名前は、この村では有名ね」

「どこか教えてもらえるかな?」

「その、中央の広場に行けばすぐにわかるはずよ」

「そっか。ありがとうね、お姉さん」

 

 最後にもう一度、優しい笑みを五条悟は返した。

 

「あの、よかったら、お名前を聞かせてもらえるかしら」

「五条悟。通りすがりの冒険者だよ」

 

 やさしく手を振って、五条悟は歩いていく。

 

「…………この恋、あきらめようかな」

「いや、まだ人生は長い。頑張れ」

 

 死んだ目をしたヘルファに、ヒルフトは精一杯の慰めの言葉をかけた。

 

 

 

 

×

 

 

 

 

「……故人じゃん」

 

 綺麗に夕陽を反射する銅像を前にして、五条悟は立ち尽くしていた。

 

 人類最強、南の勇者。その銅像が、目の前に立っている。

 双剣を帯びた壮年の勇者は、高身長の背をまっすぐ伸ばして、遠いところを眺めているようだった。

 五条悟はくるりと振り返り、背後の二人に目を向ける。

 

「なんで誰も言ってくれないの?」

 

 包帯の下で、咎めるような目つきをした。

 場にヘルファの大きなため息が響く。

 

「……この最強、自分でひとッこともしゃべらずに突っ走ったくせに、今更こっちのせいにして来たぞ」

「サトル、さすがにそれは……」

 

 むっ、と五条悟は唇を尖らせる。

 

「言わないそっちが悪い」

「…………聞いた? 三十手前だよこの最強」

「教師とは思えない言い分だ」

「…………」

 

 五条悟はくるりと踵を返して建物のほうに歩いて行った。

 

「思いっきり図星じゃんか」

 

 ヘルファが恨みがましい目で背中を睨むと、ヒルフトも息をついた。

 

「まあ、さすがの戦闘狂というか」

 

 気の立った足つきでヘルファは五条悟に追随する。

 

「最強最強ってずっと。もう本当にこの人は……」

「なあ、サトルはなぜそこまで最強にこだわるんだ?」

 

 そろそろヘルファが爆発しそうだったのでヒルフトは慌てて訪ねた。

 五条悟は即答する。

 

「最強だから」

 

 それは振り返らずの一言だった。

 

「それは俺たちも疑っていない。しかしなぜそこまで最強に血眼になる?」

「うん、私もそう思う。ゼーリエ様の時もそうだったけど、最強の名前を聞くと分かりやすく血眼になるよね」

「…………」

 

 五条悟は答えなかった。そのまま、大股ですたすた歩いていく。

 ヘルファはその背中にまくしたてた。

 

「ねえ、それに『最強』ってのは呪術師の中での称号だったんだよね? なのに魔法使いとか勇者とか、見境ないの、なんでなの?」

 

 五条悟は背中で答える。

 

「……この世界じゃ、もしかしたらこの肩書は意味がないのかもしれない。でも、それでも僕は最強なんだ」

「……?」

 

 ヘルファは小さく眉を寄せた。五条悟の言葉に、一抹の違和感を感じる。

 

「どういうこと? 最強探しは『僕以外の最強は許せない』って叩き潰したいからやってるの?」

「そうかもしれない」

「え」

 

(僕のことなんだと思ってるの? とか言うと思ったのに……)

 

 ぶつけた煽りとしての一言を何気なく返されて、ヘルファの中に疑問が生じる。

 

「戦いたいから、とかじゃないの?」

「まあ、単純に戦いたいのかもしれない。強い奴とね。それから、最強って称号に誇りを持ってるからかもしれない。男の子ならみんな大好きな呼び声だ。もしくは、今まで鍛えて築き上げた、力への自信か」

 

 うーん、と小さくだけ唸って、ヘルファは首を傾げた。

 五条悟の言葉には、どれも違和感があるような気がした。

 考えついたそれを、ヘルファは口にする。

 

「同格が欲しいの?」

 

 ピタリと、五条悟の足が止まった。

 

「わっ」

 

 ぶつからないように、ヘルファは足を止める。

 

「…………そうかもね」

「……そうなの?」

 

 目の前の大きな背中が動き、再び街の中へと進んで行く。

 

「…………」

 

 ヘルファはぎゅっと服の胸元を握り締めた。

 

(サトルと同格……)

 

 彼女は考える。

 

 葬送のフリーレン。南の勇者。大魔法使いゼーリエ。ぱっと思いつくだけでそれだけある。

 

 しかしフリーレンは五条悟に敗れた。南の勇者はすでに故人だ。

 

(それに、サトルと違って戦いに負けちゃってるし)

 

 だとしたら、残るのはゼーリエだ。五条悟はゼーリエに勝負をけしかけ、楽しそうに戦ったらしい。

 しかし、最後までは戦おうとはしなかった。

 

(まあどっちかがダメになるまで戦うとなったら、それはそれで大問題なんだけど、でも)

 

 何か、ヘルファには考えもよらない理由があるのかもしれない。

 しかし、何か違和感があった。

 

 ゼーリエは紛れもなく最強だ。あのフリーレンよりも強く、おそらく五条悟にも満足に勝負はできる。

 

(だったらなんで、サトルはこんな風なんだろう)

 

 とても大きな背中。でもどうしてか、そこにさびしさをおぼえる。

 ありえないくらい強いのに、隣にいると言うだけで頼もしいのに。なおも最強の名を求めて、血眼になって動こうとしている。

 

 ゼーリエという最強と戦っても、なお。

 

(何か、違ったのかな)

 

 五条悟の求める『最強』。それと、どこか違ってしまったのか。

 あのゼーリエですら、五条悟にとっては欠けている要素があったのか。

 それとも、また別の何かか。

 

(わかんないなぁ。この最強(ひと)。ずっと、わからない)

 

 ふう、と息をつき、ヘルファは口を動かした。

 

「ねえ、私が頑張ったらさ、強くってなれるのかな」

 

 その声は、すぐ隣を歩いていたヒルフトだけに届いた。一瞬の間があってヒルフトは答える。

 

「…………どうだろう。なにせ、あの最強だからな」

 

 言外に、ヒルフトはその言葉の真意をくみ取っていた。

 

「そっか」

 

 前に目を向けながら、ヘルファは相槌をうつ。

 

「頑張ろう」

 

 その言葉が、夕日の静かな空気の中に溶けていった。

もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)

  • 五条悟が全てをねじ伏せバトルしまくる
  • フリーレンぽく人の心を知りながら旅をする
  • 上二つをいい感じにバランス取った話
  • 好きにやっていいよ
  • そんなことよりプリン食べたい
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