もしも五条悟がフリーレン世界に転生したら   作:ケンタ〜

38 / 45
北部高原の大結界

(大陸魔法協会からの伝達事項の中には僕だけが認識できる情報が書いてあった)

 

 五条悟は地面に降り立った。その直前から五条悟は完全に呪力と魔力を隠蔽している。

 

(言われなければ僕でも気が付けなかった。北部高原の中にこんなデカいものがあるってのに)

 

 五条悟は取り出した地図を凝視する。

 

 北部高原の一部に記してある呪力による印と文字(・・・・・・・・・)

 

 魔力を習得した五条悟と同時、呪力を習得したゼーリエによる文字(・・・・・・・・・)

 その地図を仕舞って、前を見上げる。

 そこには、巨大な半透明のドーム状の結界があった。一目見るだけで、六眼に膨大な情報量が飛び込んでくる。

 

(なんだありゃ? 一体どんだけの術式が突っ込まれてんだ? パッと見でも解析が相当に難しい。帳にしたら一体どんだけの結界魔法の専門家が必要か)

 

 すこしずつ黒くなっていく北部高原の空。その中に堂々と聳える、巨大な結界。

 

黄金郷(・・・)を封じ込める大結界。数十年前の大陸魔法協会による所業。認識阻害の術式も組み込まれているな)

 

 結界のその先にある圧倒的な気配を、五条悟はすでに感じ取っていた。

 そして、この結界がその強大なものを閉じ込めるためのものであるということも。

 それが、おそらく黄金郷というものを作り出した元凶であるということも。

 

 一目見て、数キロ向こうの視界の先にある黄金の大地が、人類にとっては不可逆的なものであるということが分かる。

 

(なぜかあの中に入ったら面倒なことになる気がするな。こんなアホみたいな範囲をほかの物質に変質させる魔法。マトモな呪術の効果範囲じゃありえない。そしておそらく僕は今、それへの対処法を持ち合わせていない)

 

 五条悟は頬を吊り上げる。

 

(ムカつくね、この世界じゃ相性如何で無下限呪術が余裕でブチ抜かれる)

 

 五条悟は自然に、結界の向こうにいるであろう存在の姿を想像していた。

 最強に上り詰めた魂は、自らを害す可能性のある物に対し、自然と悦びを溢れさせる。

 

 五条悟は掌印を結んだ。

 

(また来るよ)

 

 五条悟の姿は、全く一つの呪力の痕跡すら残さず、その場から掻き消えた。

 

 

 

×

 

 

 

(それで、次だ)

 

 日の暮れた暗い空の下で、五条悟は空に浮かぶ。

 

(ゼーリエが僕にあの結界を見せたということは、これが何か関係しているということだろう。呪力で書いてあった情報によると、あの場所は半世紀以上前に黄金郷に変えられた、城塞都市ヴァイセ)

 

 地図を取り出して、その中にある赤丸印を確認する。

 

(確かに、被害のあった八の町はどれも、この城塞都市ヴァイセからは一定の距離を保っている。つまり、今回の行方不明事件の魔力は、この城塞都市を認識している(・・・・・・・・・・・)。大陸魔法協会によって作られた、強力な認識阻害の施された黄金郷を)

 

 ふう、と五条悟は薄く姿を現した星空を見上げた。

 

(あまりにもトントン拍子に考察が進んでいるからいい傾向とは言えないけど。でもあえて考えるなら、あの行方不明魔族は……人攫い魔族は、この結界に関することをしようとして、人間を攫っている……?)

 

 五条悟は掌印を結んだ。

 

(あの結界はそう簡単に解析、解除できるものじゃない。でも、不可能ではない。長い時間と知識をかければ。そして、もしあの中にあるやつが解き放たれたとしたら。そう考えると、想定以上にことは重大だな)

 

 蒼を行使し、五条悟は空間を圧縮した。

 

(今晩中に探知結界の範囲をできるだけ広げるか。二人には悪いけど、直ぐに動かないと)

 

 

 

×

 

 

 

 大陸魔法協会による要請から、二か月が経過していた。

 三人は当初の物見小屋をそのまま拠点として転用し、そこを中心として活動を続けている。

 しかし。

 

「……何もない、ね」

「やられたね」

 

 気まずそうな顔をするヘルファと、机で頭杖をつく五条悟。

 部屋の隅で、ヒルフトは腕を組んで静観していた。

 

「この一か月で僕らは北部高原全域に探知術式を広げた。もうこれを大陸魔法協会に提出したらそのまま魔族探知網になるレベルのやつね」

 

 コツン、と五条悟は机を拳で叩く。

 

「でもなーんにも、出ない。マジでどうなってんの」

「しかも、行方不明はいまだに増えていると来た」

 

 ヒルフトが苦々しそうに言った。

 

「その被害範囲も以前と同じ、ランダムに出鱈目だ。必ずどこかの感知網を通っているはずなのに。サトル、飛行魔法の限界高度を飛んでいたとしても探知できるはずなんだろう?」

「うん。魔力の塊である魔族が通ったなら、魔力を隠蔽しているかに関わらず一瞬でわかるはず。これは呪術の帳の効用を利用した、ウン百年のノウハウがあるやつだよ」

「一体何が……」

 

 うーん、とヘルファは頬に手を当てて悩む。

 

「聞き込みをしても、効果は上がらないし。大陸魔法協会の名前で、怪しい人物にはついていかないようにとお触れを出したけど……どれだけ効果があるか」

「はあ……」

 

 ガタン、と五条悟は座っている椅子を後ろに倒した。倒れるか倒れないかのところで、椅子をギコギコとさせる。

 

「北部高原って魔族一匹二匹だけしかいない、とかじゃないよね?」

「もっといるはずだ。実際、フリーレンとフェルンたちによる魔族討伐情報が、二か月ほど前に上がっている。その前後で討伐された魔族は五つを超えたらしい」

「なるほどね。ますます分からなくなってきた」

 

 部屋の中に深い沈黙が広がった。

 しばらく、ヘルファが姿勢を変えたことによる椅子の軋み以外には、何も音が鳴らなかった。

 

「………魔族も、人を食べたりするために移動とか、するよね……。それすら、してないってことなのかな……」

 

 五条悟はそれに答える。

 

「二十近くの街や集落を中心に探知結界を張り巡らせたんだ。人を襲うために街に行けば秒で分かる。ってことは、つまりそういうこと。魔族は移動をしていない」

 

 ヒルフトが首をひねった。

 

「あり得るのか? 魔族は食人以外にも人間を襲う。奴らの一体に至るまでが、一か月にわたって移動すらしないというのはあまりにも不自然だ。俺としては、奴らが俺たちの動きを認識しているとしか思えない。もしくは、俺たちの行動を想定しているかだ」

「や~な予感がするな」

 

 五条悟は天井を仰ぎながら口にする。

 

「前にもこういうのがあったよ。気持ち悪いことがね。こっちの動きを徹底的に分析して、徹底的に効果的な対処法を練ってくるようなことが」

「それは、五条悟がこの世界に来る前の話、というやつか?」

「そう。やな思い出だからあんま思い出したくないんだけどねーーー」

 

 あーあ、と五条悟はごねるような声を出した。

 

「そういえば魔族って組織的なことすんの?」

 

 ヒルフトはうなずく。

 

「個人主義とされる魔族ではあるが、人間に対抗するために最低限のつながりを持つことはある。その場合、ほとんどが上下の関係ではあるが」

「なーーーるほどね。うーん。やだな。すごく」

「……そこまでなのか? サトル、お前ほどのものが……」

「そいつね、魔族みたいに何百年も生きてるゴミクズだったよ」

 

 ガタン、と椅子が元の位置に戻り、大きな音を立てた。ヘルファの肩がビクッと揺れる。

 

「どうしてこういうやつらにはマトモなのがいないんだろうね」

 

 五条悟は立ち上がった。

 その顔をヘルファは見上げる。

 

「っ…………」

 

 そこに、自分が想像をすることも難しいほどの過去が乗っていることを、どことなく直感した。

 

「さ、サトル」

 

 その呼びかけ。五条悟は、ふっとヘルファにその顔を向けた。

 

「ぅ」

 

 ぎゅ、とヘルファは服の胸を強く握りしめる。

 今の五条悟の顔。かつて見た、全く何も込められていない複製体のそれ。

 胃袋がちくちくとする。しかしヘルファは口を開いた。

 

「わ、わたし、何できる……?」

 

 ヘルファは精一杯微笑みながらそう言った。

 にへら、と目を半端に閉じた少女の顔が出力される。

 

「………」

 

 それを見たヒルフトは、ぐ、と奥歯を噛んだ。

 

(ヘルファ……)

 

 五条悟はすぐには返答を返さなかった。その姿をヒルフトは注視する。

 五条悟の両脚はそこに立ち尽くしていた。その顔は、ヘルファに話しかけられる直前のそれとほぼ変わっていない。何かを処理しきれていないような表情。

 

 あまりにも強くのしかかる沈黙。それに耐えきれなかったのか、ヘルファは再び口を開く。おろおろと取り繕うような表情だった。

 

「えっと、さ。私、ずっと聞き込みばっかりで。あんまり、役に、立ててないからさ。何か、負担を減らせるようなこと、したいなって」

「……そっか」

 

 五条悟はまるで再起動したかのように、つぶやくように言う。

 

「まあ、ずっと聞き込みじゃ気も滅入るよね」

「いや、別に、まあ……」

 

 はぐらかすように、ヘルファは目をきょろきょろさせた。

 

「いや、そういうことで、いいです」

「じゃあ、ヘルファには――――」

 

 その瞬間、五条悟の言葉が止まった。

 

「え? サト――――」

「反応があった」

 

 部屋中に巨大な緊張がのしかかった。

 

「そ、それって、魔族………」

 

 五条悟の頭が瞬時に回転する。

 

(動いたのか? 魔族が、今? 何かを見計らっての?)

 

「サトル、場所は?」

 

 ヒルフトが素早く尋ねた。

 

「北部高原の西側だ」

「急ごう」

「もち」

 

 五条悟はうなずき、呪力を巡らせた。

 

「…………っ」

 

 ヘルファは手元に魔法杖を呼び出して、ぎゅっと握り締める。

 三人は一斉に小屋の外に出て、五条悟に抱えられた。

 一瞬後、全員の姿が消滅した。

 

 

 

×

 

 

 

 もう北部高原においての瞬間移動は五十を超えていた。寸分の狂いもなく、狙った場所に着地する。

 

「ゔっ」

 

 ヘルファがとっさに口を押えた。その魔力探知に、経験もしたことのないような強力な魔力が漂っている。

 五条悟は真剣な顔をする。

 

「ヒルフト」

「二つ……いや三つ魔力を感じる」

 

 三人が立っている場所は結界を張った小さな集落の一つ、そのすぐ近くだった。振り返れば、その建物が数十メートル向こうに見える。

 

「ヘルファ、村の人たちに家から出ないように伝えて」

「っ、わ、わかった」

 

 喉元までこみ上げたものを飲み込んでから、ヘルファは後ろへ走った。

 

 村の西側。五条悟の呪力探知によると三百メートル。その上空に、魔族の姿はあった。

 

「あれが魔族か」

「禍々しい魔力だ」

 

 ヒルフトは頬に汗を垂らしながら魔法の杖を呼び出す。そこにすぐに魔法を発動できるように素早く魔力を巡らせた。

 

 魔族たちは二人の前方の上空数十メートルで停止する。

 三つとも、全て顔を覆う鎧を身に着けた女性の容姿をした魔族だった。

 

「君たち何しに来たの?」

 

 五条悟は声を張り上げた。

 

「人間の魔法使いか」

 

 魔族の中で最も魔力の高い一人が返答する。

 

「その村を襲いに来た」

「随分正直なんだね? 魔族って、もうちょい狡猾なやつらだと聞いてたんだけど」

「魔力の低い男と女の魔法使い。そしてお前の魔力量はもはや魔法使いと言うにもおこがましい。そんな奴らに狡猾になる必要すらない」

「ははっ」

 

 五条悟は口角を上げた。

 

「そう見えるんならしょうがない」

 

 ピン、と五条悟は指を弾いた。

 ぐしゃりと音がする。

 

 今話していた魔族が、地面に叩き落されていた。

 

「「!?」」

 

 他の魔族たちが驚愕する。

 

「じゃ、ヒルフト。ヘルファが戻ってきたら二人で残りの相手しててね。僕は一番強いのをやるから」

「なっ!? 俺たち二人で二人の魔族をか!?」

「何のためにここ二か月鍛えたと思ってんの。じゃ、よろしく」

「ちょっ!?」

 

 抗議の声を最後までいうまでもなく、五条悟はすでに駆け出していた。

 

「おい……」

 

 魔族二人に顔を向けて、ヒルフトは魔法杖を構える。

 

(仕方がない)

 

 目を閉じて、ヒルフトは魔法を唱えた。

 

魔力を武器の形にする魔法(フォームハフト)

 

 









やっとマトモなヒルフト活躍回がやってきそうです。

それはそうといつも皆さんご感想や評価ありがとうございます。
よかったら皆さんの中での二人(ヘルファとヒルフト)のビジュアルを教えてください。
あえて髪色とか目の色とか確定させてない感があるのですが、読んでる側のイメージを知ってみたいです。よければ。

もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)

  • 五条悟が全てをねじ伏せバトルしまくる
  • フリーレンぽく人の心を知りながら旅をする
  • 上二つをいい感じにバランス取った話
  • 好きにやっていいよ
  • そんなことよりプリン食べたい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。