「
ヒルフトの所持する魔法杖は他の魔法使いと比べて比較的短く細い。
彼の魔法はそれを媒介として魔力を纏わせ、思う武器を形作る。
ゴウン、と地面に金属音が落ちた。魔法杖を握りとして、半透明の長身の戦斧が実現する。
ヒルフトは大きく深呼吸をした。
視界の先の五条悟は瞬間移動で魔族と共にどこかへ消える。
これで正真正銘助けは無くなった。
空中に浮かぶ二人の魔族に目をやる。どちらとも兜鎧を身につけ、片方は武器のようなものを手にしていた。
(魔族の戦士? いや杖か……?)
杖を手にしている魔族は珍しい。それに鎧をしているものも非常に稀有だ。少なくともヒルフトは出会ったことがない。
そもそも魔族と戦うこと自体が二度目。
心臓がうるさいくらいに胎動する。
魔族の杖が自らへと向く。
「
強烈な閃光に視界が真っ白になった。
とっさに前に出した魔力の斧が聞いたことのない音を立てて吹き飛んだ。
受けたことのない力に状況を全く認知することができず、体は空を舞っている。
「――――――!?」
熱烈な後背の痛みとともに、ようやく意識が今を認識した。
体が木造家に突っ込む。
「――――がッ」
いろんなところから血が噴き出した。
すぐに体中に魔力を回す。全身を覆っていた痛みが少しだけましになった。
「くっ、そっ!」
戦斧を両手にして瓦礫の中から立ち上がる。
宙に浮かぶ魔族は、不敵に言葉を話した。
「人間にしては頑丈だな」
魔族の杖が、再びヒルフトへと向く。
意識がグラつく。
防御魔法を前面展開。
高熱の光が目の前で激しく爆ぜた。
「ッ…………!!」
(なんて魔法だ……!)
展開した防御魔法が一秒ごとにバリバリと削られていく。ゾルトラークよりも直接的に魔法術式そのものを物理的に焼いてくる威力。
斧を持って防御魔法の外へ離脱する。
(すぐに追撃が来るわけではない。おそらくインターバルが必要!)
ゾルトラークを二門、展開し空を飛ぶ二人の魔族へ放射する。
どれも苦労なく避けられる。ヒルフトは飛行魔法を発動した。
戦斧と共に、体が魔族と同じ高度へと素早く上がる。
口の中に溜まった血のりを無造作に吐き出して、空中で斧を振り上げた。
振りおろすと共に前方へ加速。
魔族の突き出した杖が火花を立てて受け止めた。
「ッ……!」
重い。人間のそれとはまったく違う。
岩に斧を打ち込んでいるかのような感触。少女のような見た目にして、感触があまりにも不釣り合い。
「
「!!」
とっさに展開した防御魔法に剣山が突き刺さった。
熱線の魔族がその一瞬に杖を振り、ヒルフトを退ける。
「ぐッ!」
その瞬間すぐに剣山が降りかかってくる。
防御の隙をかいくぐり、ヒルフトの肩口が血を噴き出す。
「がっ……!」
「くだらないな」
(まずい……!)
魔族が杖を前に出した。そこにまばゆく赤い光が集中していた。
それと同時に、もう一人の魔族も手をかざす。
「クソッ……!」
防御魔法を二面に向かって展開する。
それに向かって魔法が襲い来る、直前。
「「!?」」
二人の魔族は回避行動をした。
三本の魔力の槍が、一瞬前までそれがいた場所を通り抜け、地面に衝撃を残した。
ヒルフトはとっさにそちらを向く。
「ごめんなさいっ、遅れましたっ」
「ヘルファっ!」
そこには、聖典を手にするヘルファの姿があった。
魔族の方を警戒しながら、ヒルフトへ駆け寄ってくる。
「大丈夫ですかっ回復を」
「ヘルファ、そんなこと気にしている場合じゃない。杖を出せ。こいつらは強敵だ」
「は、はいっ」
ヘルファはすぐさま杖を召喚し、魔族へと構える。
「来るぞ!」
その瞬間、二人へ熱線の雨が降り注いだ。
「――――!!?」
ヘルファは声にならない声を出した。
展開した防御魔法が轟音を立てて揺れ、着弾した地面は高温で地面を溶かす。
(分散射撃もできるのかっ……!)
ヒルフトは動揺する。
高温の魔力が終わったあとに、すぐに魔力でかたどられた鋭い針が襲い掛かって来た。
ヘルファが悲鳴を上げる。
「ひっ、ヒルフトさんっ……!」
「このままじゃジリ貧だ。魔力が低いこっちが負ける!」
ヘルファが展開した防御魔法に絶え間なく針の嵐が突き刺さってくる。
膨大な魔力消費にこちらが不利であることは見ずともわかった。
「ヘルファ、熱線の魔族の方をやってくれ。俺は針を飛ばしてくる方の魔族をやる」
「ええっ!? む、無理ですよ、ぜったいこっちの方が強いですし!」
「相性は見たところそっちの方がいい。熱線の方は一度撃ったらインターバルが必要だ。速射性能はゾルトラークより悪い。しっかり見れば、大丈夫だ」
「そ、そんな……!」
ヘルファは怖気づいて杖をぎゅっと握る。
その目を、しっかりとヒルフトは見据えた。
「大丈夫だ。どんな攻撃も、サトルよりはずっと遅い」
「っ……!」
こくり、とヘルファはうなずいた。
「いくぞ。三、二、一!」
同時、二人は飛び出した。
ヒルフトはゾルトラークを針の魔族へと連射し、ヘルファは飛行魔法で熱線の魔族の周りを周回するように飛んでいく。
杖の先で破壊の権化たる魔力が紅く圧縮される。熱線と化し、ヘルファへまっすぐ飛んでいった。
「ッッ――――!!」
展開した防御魔法の前で、空気をバリバリとプラズマ化させるような音が響く。
当たれば即死。ヘルファの背中を死の恐怖がゾクゾクと撫でた。
しかし防いだ。
不思議な高揚感がそこにある。なぜだか、嘔吐感は顔を出してこなかった。
攻撃が防御魔法をかいくぐってこない、拳で破壊されたりもしない。
ヘルファは魔法陣を五門、周囲に展開した。
「
直撃する直前、魔族は高度を上げそれを回避する。
ヘルファはそれに奇妙な違和感を覚えた。
当たるギリギリ、その直前に至るまで、敵はゾルトラークの回避行動をしなかった。
(いや、できなかった……?)
ここ二か月。すべての攻撃が、全身全霊で放った魔法が、全く当たらないという経験をして来た。というか、全ての攻撃が予備動作から見切られ、それすらうまく隠せと指導をされてきた。
今度は相手が分散型の熱線を放とうとしてくる。
(発射まで、0.5秒くらい圧縮の時間がある?)
それに合わせて防御魔法を前面に展開すると、目の前で紅い魔力の光が爆ぜた。
防御魔法が悲鳴を上げる。しかし防ぐことができる。
目でとらえられないほどの速度で肩をブチ抜かれることもない。変幻自在の赫い球に惑わされて防御魔法の展開を右往左往することもない。
それどころか、魔法陣をすこし工夫するほどの時間すらありそうだった。
(フェルンに教えてもらった――――)
「
八門。高速の射撃魔法が魔族を襲う。
「ッ」
ギリギリで、魔族はその奔流を避けた。
(もしかして…………)
人生初、ヘルファの対魔族戦が始まった。
×
「
ヒルフトに空から斬撃の雨が襲いかかる。
魔力の盾に剣山は突き刺さった。
地面へ漏れたものは穴を残すが、着弾の後すぐに消滅する。
飛行魔法を行使して、ヒルフトは相手をしっかりと見据えた。
ズキン、と貫かれた肩が痛む。
(盾や肩に着弾した針は消えていない……体内に残って苦痛を増やす仕組みか。趣味の悪い魔法だ)
突き刺さった肩から左手でニ十センチほどもある針をズっと抜き取る。
そこからすぐさま血が噴き出るが、魔力を込めて止血をした。
――――ヒルフトは体内での魔力操作の習得が断然早いね
五条悟のそんな声を思い出す。
(確かに、体内の魔力操作の向上は俺の戦闘スタイルならうってつけだったな)
ひそかな感謝をしながら、魔族に油断なく目を向ける。
思考からヘルファの心配はいったんすべて取っ払う。
背中を任せた相棒の心配はしない。戦士時代に親に教えられた心得だ。
「お仲間の魔法使いはいいの?」
目の前の少女の魔族がそんなことを言ってくる。
ヒルフトはその言葉に一瞬も耳を貸さず、ゾルトラークを一門放った。
魔族はそれを簡単に避けてくる。
「話の途中なのに。なんで攻撃をしてくるの?」
飛行魔法を行使して、ヒルフトは魔族へ襲い掛かった。成形した魔力を戦斧に変え、魔族めがけて振り下ろす。
その直前、魔族の手に魔力が集中した。魔力の剣山を飛ばす魔法。
そのさらに直前、ヒルフトは身をひるがえす。
剣山の嵐が頬の皮と肉を吹き飛ばした。
しかしそれだけ。
ヒルフトの振った斧は、魔族を袈裟懸けに振りぬいた。
「…………!」
鮮血。
とっさに魔族が距離を取る。動揺に魔力が揺れた。
その直後、ヒルフトの杖は弓の握りに形を変えた。その両端の延長から、弓の
成形された魔力が矢となり、ギリリと弦が引き絞られた。
手を放した瞬間、魔力操作によって撓りと弦は本来の弓のそれよりも何倍も速く弾ける。
「っ!」
魔族の左肩が、鮮烈な血を飛ばした。
「これでおあいこだな」
ヒルフトは低い声で、再び矢を弓に装填する。
「面白い人間ね」
微笑む魔族の周囲に、千本の針が出現した。
×
「がはっ」
魔族は外れた顎から血を垂らして首を垂れた。その頭に、五条悟は足を乗せる。
「ッ…………!!」
魔族は両足をつぶされていた。
立ち上がることもできず、地に伏せるしかない。
ギリリ、とその歯が折れんばかりに食いしばられる。
「で、仲間の数と配置は?」
魔族の手に魔力が込められた。五条悟へ向かって攻撃を放とうとする。
バスンと音がした。
「ッ――――――!!!」
魔族の体がガクガクと震えた。魔族の左腕が切断され血が噴き出す。
五条悟は無慈悲に言葉を紡ぐ。
「ずっと動いてなかった理由は? なぜ今になって襲撃を始めた?」
「あ、あてっ、まてっ」
魔族は必死に外れた顎を動かす。
「早く言わないとやっちゃうよ? まあ言わなくても――――」
「はっ、
「え」
五条悟は呆気にとられたような顔をした。
「話すの?」
「はあすっ、だかあ助けてくえっ! 首謀者は――――」
その時点で、魔族の口は止まった。
「どしたの。首謀者は?」
「っ、くっ、ッ……!」
「!」
五条悟はその首に目をやった。
(漏洩を防ぐ魔法か)
魔力を得た五条悟は、そこに組み込まれた体内の魔法術式を感じ取ることができた。
そこに手をやり、魔力を流し込む。
ほんの小さな音がして、魔族の首元に入れられていた魔法が解けた。
「がっ、はっ……」
「で? 首謀者は?」
「しゅぼうっ、しゃ、あ゛っ」
げぼっ、と魔族の口から血が吐き出された。
五条悟の目の中で、魔族の生物としての微弱な呪力が一気に増大した。
それは何か技を繰り出そうとしているものではない。生物が死する時に発する大量の呪力。
五条悟は瞬時にその体にあるものを六眼で凝視する。
そこに、巧妙に隠された魔法の気配を感じ取った。
(まずったな。魔法を解除したら同時に証拠隠滅をするタイプか)
呪力と違い、魔力は六眼では見られない。魔族の体の中に隠された魔法術式は、簡単には察知することはできなかった。
魔族の体から粒子が立ち上っていく。
(魔族の死んだときに起きるっていう魔力の霧散)
しかし、五条悟は違和感を覚える。
魔力の霧散が終わっても、そこにある体が消滅していなかった。
「………?」
圧倒的な違和感。
ヒルフトに聞いていた魔族の死後とは全く様相が異なっている。
死んでしばらくたっているのに、体が消えていない。ただ、魔力が離散しただけ。
その頭部を覆っている兜を五条悟は取った。ガランとその場に鎧を放る。
眉間に小さく皺を寄せた。
六眼は、魔力の抜けきったその亡骸を、『人間』だと言っていた。
外れた顎も、切断された腕も、全てその場に残っている。その組成は、今やすべて『人間』のものだった。
そして、地に付した『人間』の脳がいじくられた痕跡も、六眼は正確にとらえていた。
「…………」
(まさか、
一瞬、五条悟はヘルファとヒルフトの方を見る。
そこには、交戦している二人の姿があった。
(あっちは大丈夫そうか)
目を離し、脚の下にある死体を凝視する。
そこに組み込まれていた致死の魔法はすでに役割を果たし消失していた。
しかし、一目見た時点で、五条悟はその術式と、構成していた魔力の感覚を完璧に記憶していた。
五条悟はその場から掻き消えた。
魔法すら見せられなかった魔族、可哀そう……
ちょっとずつ五条悟が謎に近づきます(もう原作既読の方々は大体分かっているかもですが……)
もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)
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五条悟が全てをねじ伏せバトルしまくる
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フリーレンぽく人の心を知りながら旅をする
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上二つをいい感じにバランス取った話
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好きにやっていいよ
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そんなことよりプリン食べたい