(やっと見つけた)
蒼による瞬間移動で五条悟は姿を表した。
視線の先にあるのは首謀者の根城。
あの魔族たちがやって来た場所。禍々しい魔力がこびりついた場所を、五条悟は目にしていた。
そこに感じる魔力は、あの魔族の体に埋め込まれたものと同じ。
そこは丸い屋根をした造船所だった。禍々しいほどの強烈な魔力をそこから感じる。
扉を無下限呪術で開け、蒼の瞬間移動で侵入する。
(……いない)
魔力の残りはある。しかし、そこに姿は見当たらなかった。
空気がチリッと張り詰める感覚が五条悟の鋭い勘に触れる。
五条悟は瞬時に無限を建物を覆いつくすまでに広げた。
爆薬だった。
床の下に、数キロもの爆薬が設置されていた。そしてそれはすでに点火している。
六眼はそれを察知し、無下限呪術でそれを封じ込めた。
(どこまでも姑息だな。嫌になる)
ぎゅっと手を握って、地中で起こりかけた爆風を完全に封じ込める。
呪力探知、魔力感応、六眼を駆使して、改造された造船所の周りをぐるりと眺め回した。
大量の本棚。地面にも積まれている本。天井から吊り下げられているサメとシャチの骨格標本。そのほかにも、あらゆる生物の標本たち。
魔法についての覚え書き、複雑な魔法陣の描写、魔法についてのありとあらゆる知識本。
学者が静かな研究のために改造したかのような造船所。それ一つ見ただけでは、何の違和感もない。
真に重要なものは巧妙に隠されていることを、五条悟は察知していた。
今、自分が踏んでいる床の下。
そこから、どす黒いほどの呪力がにじみ出ていることを、五条悟は感じていた。
術式を行使し、木の床を無理やりこじ開ける。
その下には階段があった。
(呪霊?)
歩を進めると、まるでそれと見まがうほどのものだった。
ありとあらゆる人間の、『解剖』。
人間を
そして、それを
改造人間。そうと言っていいほどの代物が、その部屋の中心に据えられていた。
分解した骨の中で都合のいいものを組み合わせ、肉をつぎ足し、一つの生物を作り出している。
爆風が吹き飛ばそうとしているものはこれだった、と直感した。部屋の一部が黒く焼けつき、奇妙な匂いが漂っている。
(この真ん中の改造人間は、もう死んでるか)
その改造人間も、部屋の中に転がっている部位も、全て攫われた年齢層と一致していた。
若い青年と、少女。
目算で十体以上。
(
何かを、企んでいる。
聞くところによると魔族は個人主義。かなりの力の差か、よほどの利害の一致でもなければ群れることはしない。
ましてや、魔王という圧倒的統治者の存在の死後は、魔族はほぼ完全に小さなコミュニティに分裂したと聞く。
(その状況で人数が必要な事をしたいなら、こういう事になるか)
自らの手で、言うことを聞く軍勢を創り出す。
(早急にゼーリエに報告する必要がある。もしかしなくてもとても不味いことが起こってる気がする)
地下室から出、扉に手をかけた途端、動きを止めた。
(いるな)
コツンと扉を指で弾く。
その瞬間数多の魔力の気配が爆ぜた。
四筋の魔法が放たれ、建物に直撃。それらすべてを巻き込むような爆風が広がる。
「やったか?」
外の魔族の一人が声をかける。
「呪力探知には――――」
ほかの魔族が口を開こうとした途端、その首が断絶された。
造船所の周囲にいた四体の魔族。わずか三秒で、五条悟は一体を除くすべての首を落としていた。
ぼとん、と砂浜に三つの首が落とされる。その後に、どしゃりと一体の魔族が地に組み伏せられた。
それは男性の頭に角をはやした魔族だった。無限を広げ、その動きを完全に拘束する。
「オマエ、誰に言われてここに来た」
「ッ……!?」
魔族は目を見開き息を詰まらせる。
「いや。人間としての自我はあんのか? 名前は?」
魔族は答えず、体に魔力をみなぎらせる。
五条悟は魔族の右脚の腱を切断した。
「ぐ――――ッ」
「名前は?」
さらに語気を強めて五条悟は質問をする。
「ッ、し、しら、ない!」
「記憶がないのか?」
「なんの話だ、知らないっ、そんな、ことはっ、はあっ」
(嘘をついているかも分からない。体に聞く)
魔族の精神構造は人間のそれとは異なるらしい。嘘をつくことに抵抗が全くない可能性がある。
六眼を凝視し、魔族の体に目と魔力感応を凝らす。
(こいつに魔法がぶち込まれた痕跡はない……二度証拠は与えないってワケか?)
「ねぇ君。死にたい?」
「たっ、助けてくれっ。た、助けてくれたら、俺は何もしないッ」
「ほんと? なんでもしてくれる?」
「す、するっ。だ、だから……!」
「少しでも逃げようとすれば殺す」
「わ、分かったっ……!」
魔族の体の拘束を解く。
すると、魔族は五条悟の顔色を窺うようにゆっくりと立ち上がった。疑問の顔で、五条悟を見つめる。
(本当に歯向かってこない。力社会というのは本当か)
魔族が口を開く。
「お前は……戦士なのか」
「いーや。魔法使い。ああ、魔力ね。今はワケあって隠蔽してるだけだから。本当はもっと沢山あるよ」
(ま、嘘なんだけど)
「…………」
納得できない、というような顔をしつつも、魔族はそれ以上口を開くことはしなかった。
「で。誰に言われてここに来た?」
「だ、誰にも言われていない」
「一番魔力が高いのは君だよね。指揮系統のトップじゃないの?」
「知らない。分からない……ただ、人間の気配がしたから、襲おうとしただけだ」
「ほんとに? 見たところほかの魔族と君は、魔力じゃ圧倒的な差があるわけでもない。だとしたらなんであんな数で群れて、ちょうどいいタイミングで僕を襲った連携までしたの?」
「だから、俺は」
ピタリ、と魔族の首元に五条悟は手刀を添えた。
「……ん? 続けてよ」
「………」
魔族は目を大きく見開いて、五条悟の手を震えんばかりに見つめる。
五条悟は、なんの動揺もなく口にした。
「嘘じゃなければ、首をはねることはしないよ。ほら、続けて?」
「お、俺は……」
ごくり、と魔族は唾液を飲む。
「し、知らないんだ。本当に。だから、た、助けてくれ……」
「…………」
その表情を、五条悟は見た。
言葉では嘘をつこうとも、そうでなかったとしても、顔に浮かび上がる汗の玉や心臓の鼓動は嘘をつかない。
その情報から総合して、五条悟はその魔族が本当に嘘をついていないと判断した。
今度は、その魔族の体内の魔力と呪力の巡りに目をやる。
魔力はともかく、呪力の巡りに違和感がある。生物としての呪力の巡りに、この魔族はよどみがあった。さらに脳にもいじられている痕跡がある。
「約束通り、君は助けてあげる」
「え」
トン、とその頭に手をやった。魔族は意識を失い地に倒れ伏す。
「はあ。これだけ情報をやって、僕に辿れないとでも思ったのかな」
荒い感情の籠った呪力をみなぎらせて、五条悟は再び掌印を結んだ。
✕
千本の魔力の針が宙に出現する。
それは一斉にヒルフトへと狙いを定めて襲いかかった。
それだけではない。
前から横から、さらには後ろに回り込んで、長身の針がヒルフトを貫こうとする。
防御魔法を全面展開する。
針は容赦なく突き刺さり、防御魔法に先端を貫通させた。
「…………!!」
防御魔法の全面展開は数十秒もしていられない。そもそも質量攻撃には弱い。
しかし更に針は突き刺さってくる。
(このままでは防御魔法そのものを破壊される)
今度は魔法陣を全面に展開し、一気に針を
魔族がそれを回避するのに合わせ、ヒルフトは弓矢を放つ。
「ッ」
魔族の脇腹を矢が貫く。
(この人間の魔法、魔力の変動がないだけに探知しにくい。でも、それだけかな)
自らの魔法に、魔力を注ぎ込んだ。針の魔法が空間に大量に出現する。
最大限の『
幾重にも分岐した魚の群れのような。圧倒的な剣山の弾幕が背後から姿を現す。
(手数では圧倒的に、こっちのほうが上)
魔族はほくそ笑んだ。
ヒルフトは眉をしかめる。
(防いでも防いでもキリなく湧いてくるか)
問答無用の全体攻撃を実現する魔法。それだけで消費の多い防御魔法の全面展開を強いられる。
もし魔力が切れてしまえば、その瞬間で死が確定する。
「腹を括る必要がありそうだ」
頬に汗を垂らし、戦斧の握りを強く握りしめた。
両腕に渾身の力を込め、振り上げる。
魔族は身構えた。その眼前に戦斧の刃が迫る。
強烈な金属音。束になった剣山がそれを受け止めた。
(投擲!?)
しかし飛来したのは斧だけ。
直後、ヒルフトが肉薄する。
「ごっ――――」
蹴りが魔族の腹に炸裂した。
(素手――――!?)
魔族は目に見えて動揺する。
「ふっ」
ヒルフトは小さく息を吐き、斧を回収する。
それを再び魔族向けて振りぬいた。
ガキインッと高い音が響く。
斧は剣山によって受け止められていた。
「魔法使いのくせに素手でやってくるなんて、面白いね」
魔力の針たちが、ヒルフトの背部向けて襲い掛かる。しかし肉薄をすれば、やってくるのは後ろからだけ。
後方に展開した防御魔法により、針は阻まれた。
しかし、魔族の手に一本の長い針が握られる。
ヒルフトは腕に渾身の魔力を込めて、魔族の顎を殴った。
両者ともに苦悶の声を上げた。
ヒルフトの脇腹を針は貫き、魔族の脳が揺れる。
そしてより意識が明瞭だったのは、ヒルフトの方だった。
その一瞬の隙に斧を手にし形を変える。それが成したのは、短刀の形だった。
魔族の首に、それを突き刺す。
「がっ」
ヒルフトの腕を、魔族が握った。
魔力の剣山たちが一斉にヒルフトを向き、胎動する。
「ふッ」
ヒルフトは息を吐いた。
肉を切り裂く音。
刃が動かされ、鎖骨、胸部、腹部に至るまでが切り裂かれる。
ぐらりと剣山の魔法が揺れた。
もうこれだけの数を保つほどの余力はない。
しかし、ヒルフトの背を、数十の魔力の針が突き刺していた。
「ッ……!!」
全身を発火するような痛みが包む。
しかし、意識を保つ。魔力を込め強化した腕を動かし、もう一度、今度は心臓へ。
「がっ……!!」
その腕を、新たに出現した針が突き刺していた。
(クソッ……!)
「あははっ、面白い魔法だったわ。まるで戦士みたいな戦い方」
魔族は狂ったように、目を見開いて笑った。
(この、人間ではありえないほどの身体強度。これが魔族)
ヒルフトは苦悶に眉をひそめた。
魔族の首から腋にかけてボタボタと血が流れている。しかし魔力操作によって、深いところは止血されていた。
再び、数十の針が出現した。
ヒルフトの四肢のあらゆるところを、剣山が貫く。
「ッ……!!」
「襲撃にきてよかったわ。質のいい肉が楽しめそう」
魔族は口に手をやって笑う。
「それにしてもあなた、狂ってるわね。人間は魔族より、痛みに敏感と聞いていたのだけれど」
「家庭の事情でな。ほかの人間よりは苦痛に強いと自負している」
苦痛の中で、ヒルフトは口角を上げた。
「それで、針を使う私に生身で肉薄までしてきたの?」
「残念ながら、生身とは言っていない」
「なに?」
ヒルフトの全身に、魔力が満ちた。
「!?」
それを察知し、魔族はとっさに距離を取ろうとする。
しかし、ヒルフトはその腕を手にしていた。
ヒルフトの全身に発動されたのは、『
それはヒルフトそのものを媒介にした魔法。
魔法は巨大な
「あっ……!!」
鋭く成形された魔力が、魔族の全身を貫いた。
頭部、心臓、下半身、全てに至るまで。
「おかげで新しい武器のイメージができた」
苦痛の中でありながらも、ヒルフトは不敵な笑みを作った。
魔族の心臓が最後に一度だけ大きく胎動し、停止する。
「やっぱり、くるってる、わ」
呆けたような顔をしながら魔族は言う。
その魔族の体から、だらりと力が抜けた。
ヒルフトが魔法を解除すると、そのままずるりと地面へと落ちていく。
「はあっ、はあっ、げほっ」
ヒルフトは地面へ着地した。吐いた咳には血が混じる。
全身を突き刺さしている魔力の針は、魔族が死んでもなお形を残していた。
(俺の魔力を吸って形を保っているのか……)
「ぐっ……」
苦悶の顔で、何とか体に刺さっている針を、一本一本抜いていく。
それごとに傷を魔力で抑え、止血。
痛みに薄れる意識を瀬戸際で保ちながら、目の前の魔族に意識をやった。
「……?」
ヒルフトは違和感を覚えた。
(体が崩壊しない……?)
魔族の体からは粒子が漂っていた。しかし、体がほどけていない。
その胸に、手をやる。
しかし、鼓動は感じなかった。
(魔力が離散している。心臓も停止している。確かに死んでいる。しかし、なぜ体が消えない……?)
魔力探知の端で、ヘルファの魔力が爆ぜていた。目の前の魔族よりも、そちらを優先する。
(助太刀を……)
しかし、どさりとヒルフトは膝をついてしまった。
(思ったより重要器官を貫かれている……)
思った通りに、体が動かない。
体中に魔力を巡らせる。動かない筋肉を無理やり刺激し、立ち上がる。
杖を斧の形に成形して、ヒルフトは引きずるようにヘルファの方へと歩いて行った。
もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)
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五条悟が全てをねじ伏せバトルしまくる
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上二つをいい感じにバランス取った話
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好きにやっていいよ
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そんなことよりプリン食べたい