「はじめまして。あなたがゴジョウサトルね?」
そこではすべてが凪いでいた。
存在するあらゆるものが静止していた。
すべては永遠の時を得て、永劫に保たれ、悠久の時を享受するまでそこに存在し続ける。
そして、目が眩むほどにきらびやかだった。
「お前の家にあるものを見てきたよ」
すべてが停止した中に立つ
この世のすべてを享受したかのような力の体現。
この世界に生まれ落ちたというだけで、全ての均衡を破壊してしまう存在としての重量感。
「そう。とても素敵だったでしょう? 私の研究成果は」
くすりと、その対面にいる者は笑う。
優しく指同士を合わせて、まるで語りかける母親のような声色で、彼女は口にする。
「あれが私の研究テーマなの。人間を知りたくて。あなたもとっても興味深いわ。よかったらお話させてくれない?」
とてもきれいな笑み。少女のようなかわいらしい微笑。
人間の中でも、これほど優しい表情は見られないだろうと思わせるような。
しかし五条悟はその根源を見抜いていた。
「言葉を選んだ方がいいんじゃないのか」
「…………どうして?」
男の全身に、全てを飲み込まんとする力が沸き上がった。
解放された蒼の瞳が、人の形をした人ならざる者を見据える。
「今際の際だぞ」
空間が捻じ曲がる音がする。
五条悟の姿が掻き消える。
甲高い金属音が響いた。
交差した大剣が手刀を受け止めていた。
直撃し外側の剣がパキパキと音を立てている。
風が追いつき、衝撃波が吹き荒れた。
しかし、黄金と化した周囲は揺れることすらなかった。
唯一自由な空気を、最強が震わせる、
「今まで沢山クズを見てきたよ。人間で。保身クズ、高慢なクズ、ただのクズ、腐ったクズどものゴミ集積所。でもこれだけのクズを見たのは初めてかな。人間じゃないってだけで、ここまで生き物ってぶっ飛んでクズになれるんだね」
剣にヒビがはいる。
結んだ掌印に込められたのは、蒼。
「術式順転」
空間が、ねじ曲がる。
それはソリテールの遥か後方。
全てを飲み込もうと、蒼く光る。
バツンという音とともに、ソリテールの体は後方に吹き飛ばされた。
「安心したよ。どうしてフェルンとかヘルファみたいな優しい奴らがこんな職業をやれているのか分かった」
右手を空中に構える。真っ赫な虚空が渦を巻いて形を成し、無限の『発散』を蓄えた。
「イカれてなくてもいいくらいに、心を痛めなくてもいいくらいにクズだ」
術式反転赫。踊る五つの虚空が一斉に放たれる。
轟音、そして衝撃波。
呪力の噴煙の中から、砕けた青い結晶が散乱した。
「素晴らしいわ」
崩壊した防御魔法のの中で少女は恍惚と笑う。
その眼の中には、底知れない興味と計り知れない狂気が渦を巻いていた。
「初めて見る魔法ね。やはり人類のそれじゃないわね。独立した系統なのかしら? それとも、あなたはもしかして魔族?」
「生憎、
「そう」
二十の魔法陣をソリテールは展開した。
それが
一斉に二十門の破壊の魔法が飛び出した。
五条悟は鈍い色の防御術式を展開する。
「それは魔力で作ったものじゃないわね?」
一度だけでは止まらない。
ゾルトラークは更に、何度も防御術式を叩きつける。
留まることを知らず、なおも、まるで嵐のように。
受け止めた防御術式がグラグラと揺れる。
「あなたの不可視の防御魔法は
五条悟の呪力が減っていく。
防御術式の複雑な構造に呪力がどんどんと吸われていく。
しかし攻撃の嵐は止まらない。
その中で、五条悟は静かに口を開いた。
「やっぱ長生きだから、思考回路がおばあちゃんなのかな」
「?」
男は、トントンと頭を指さした。
「何年前のトリセツ読んでんだよ」
その姿が掻き消えた。
最強の手刀。
瞬間移動は、音速の壁を破り空間を横断する。
「……!」
ソリテールの細い左腕が、宙に踊っていた。
鮮血が、散る。
五条悟の殺意はなおも終わらない。
返す手刀が、今度は頸へと向かった。
ソリテールは呆気にとられたような表情をする。
しかし、その目は何もないはずの空中へ向いていた。
五条悟は察知する。
先ほど吹き飛ばした、あの存在の魔力を。
瞬時の回頭。
手刀と何かの衝突。
力のぶつかり合いが、爆風を巻き起こした。
「速かったね」
五条悟の無下限と衝突したのは、流線型の黄金の剣。
漆黒の軍服に身を包んだ長身。風に吹かれて揺らめく金の髪。
頭部からは、天を突くような角ばった角が伸びていた。
「ソリテール。こいつはお前とは相性が悪い」
その魔族、黄金郷のマハトは、距離を取りながら口を開き、淡々と少女へ告げた。
「そのようね。でも、あなた一人で簡単にできるほどの相手でもないみたい」
「分かっている」
二人の魔族が、一人の男の前に立ちふさがった。
「肉団子の産物二人相手に、どこまで戦えるかしら?」
少女は男へ向かって軽口を言った。
しかし、その顔は聖母のように微笑んだままに。
それに対して、五条悟は叫んばかりの笑顔で応じた。
「相変わらず頭おばあちゃんだな。ビックリしたよ」
『最強』は狂気を含んだ笑みをたくわえて、掌印を構える。
「お前ら二人で、戦いになると思ってるその頭に」
彼の手に蒼が籠った。
「どうするつもりだ? そっちの魔法は当たらない。無下限を破る方法もゾルトラーク以外にない。それにここは僕の領域の中だ。絶好調で術式を使える」
「そうね。たしかに、ここでは分が悪いかもしれないわ」
ソリテールの魔力が胎動する。
周囲に何十本もの剣が出現した。
「だからこそ興味深い。知らない魔法、知らない戦い方。研究テーマとして、これ以上のものはないみたい。だからこそ、たくさん、観察させてもらったわ」
ソリテールの細い指。
それがゆっくりと動き、空中に結ばれる。
五条悟は目を見開く。
その指が、片手の掌印を結んだところを。
「あなたたちの魔法は、こう使うんでしょう?」
それは帝釈天印。
ぎゅ、と祈るような動作で、悪魔は仏の真似をする。
「
魔力か爆ぜる。
魔法によって形作られた呪術戦の頂点が、場に展開された。
漆黒の領域は、深淵を表す心象風景。
五条悟の青い目は瞬時にそれを解析する。
効果は完全な領域。必中必殺の領域そのもの。
ソリテールの実力に見合っただけの、完璧な領域展開。
「…………!!」
(なぜ魔法使いが領域を)
そう考えるが、かつてゼーリエという前例を見た事を思い出す。
数多の疑念を押しのけて、五条悟は目を据える。
領域に、ソリテールの魔法が発動された。
「
「!!」
術式命令が空間に起こる。
そこへ五条悟は相殺のため無量空処の術式命令を集中する。
しかし、五条悟の四肢には剣が突き刺さっていた。
(――――閉じない領域による相殺ができていない!?
僕が――――押し負けた?)
嘗て無限のお試合でフリーレンと拮抗していた。
その上、目の前にいるのはフリーレンと同格以上の魔族二体。
無量空処による相殺は、限界を迎えていた。
(なるほどな)
――――簡易領域の展開。
それが瞬時に
しかし、一瞬の押し負けの間に。
マハトの
五条悟の左手が、黄金に光る。
「……!!」
ゴリゴリと簡易領域が削れていく。
更に、簡易領域の表面にまで
五条悟を囲む簡易領域の結界に沿って、黄金が進む。
左手の黄金も、少しずつ侵食されていっていた。
「術式反転、赫」
下へ。
領域の地面へ向かって叩きつける。
結界の表面にヒビが入った。
「させないわ」
ソリテールの周囲に剣が数十本出現し、一斉、五条悟へ向けて飛ぶ。
「赫」
しかし五条悟、継続。
衝撃波とともに、領域の穴が深まる。
ソリテールの剣は、無下限により五条悟の前で止まった。
しかし、黄金は更に、五条悟の肘までを侵食していた。
更にマハトが地を蹴る、
黄金の剣を五条悟へ振り下ろす。
五条悟は回避をした。
直前まで展延にて受けようとしていた彼の顔に動揺が広がった。
(――――展延……?
いや、魔法で再現したのか。
領域が展開できるのなら、展延もできるか)
「――――面白くなってきたね」
五条悟は、ただ笑う。
「――――――赫!!」
領域の内側に、終に風穴が空いた。
ソリテール達が妨害に動く。
しかし遅すぎた。五条悟は瞬間移動により外部へ脱出。
そして、手に渾身の赫い拳に力を込めて。
「シッ!」
外殻を、衝撃波が吹き飛ばした。
結界が、崩壊する。
二人の魔族が、空間に戻り来た。
「そんな結界の領域じゃ、直ぐに使い物にならなくなるよ?」
不敵に、五条悟は言う。
「あら。そちらこそ、左手が使い物にならないんじゃないかしら」
「どうかな」
五条悟は手刀を左腕に振り抜いた。
鮮血とともに、黄金が切り落とされる。
すぐさまボコボコと音を立てて、左腕は再生を始めた。
「いかれているな。いくら再生するとは言え、自分で切り落とすとは」
マハトがそう口にする。
「お陰様でね」
落ちた手を五条悟は拾った。
投擲し、ソリテールへ向けて飛ばす。
「!!」
蒼による加速を利用した投擲はソリテールの脇腹をえぐり直撃した。
「っ……!」
「やっぱりな。領域展開直後は魔法使えねえんだろ。猿真似でやろうとするからだよ」
蒼による引き戻しで、黄金の腕を手に戻した。
「さ、こっちも武器ゲット。これで互角だろ?」
くるくると腕を弄びながら、五条悟は言った。
「仕切り直しだな」
もし続きを書くとしたらどちらがいい?(2026/02/15より)
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