魔法戦が始まった。
魔力の攻防が入り乱れる。
そして、その間を縫うように迸る呪力が。
「ッ、ちょこまかと!」
ゾルトラークの奔流が森の中を駆け巡る。
幾本も、森の中を移動し続ける五条悟へと向けて。
蒼を発動し続け、中空で木の合間を器用に避けて、回避運動をしていく。
「メトーデ! やってくれ!」
二人で五条悟を追いかける、そのうちの一人。
メトーデは空に三つのゾルトラークの魔法陣を展開し、発動した。
(おっ)
正確に五条悟の行動軌道を読んだ攻撃。
五条悟はブレーキをかけ、それらの奔流をやり過ごす。
「そこだっ」
それにめがけて、トーンがゾルトラークを放った。
「蒼」
それが到達するほんの一瞬。
五条悟は時空を歪ませ、そこを瞬時に離脱した。
「チッ、どこまでもちょこまかと……!」
「……!」
歯を食いしばるトーン、そして動揺に息を漏らすメトーデ。
「ふう、やっぱりその『ゾルトラーク』は厄介だね」
五条悟は、中空に残る呪力の残滓を見ようとした。
純青の六眼が、そこに組み込まれた術式を読もうとする。
深く、洗練された術式。
『貫く』。ただそれのみに特化した術式だった。
それしか、五条悟の六眼は読み取れない。
ただただ、すべてを押し貫き消し飛ばすための術式。
それのみが込められたような、単純で極限の術式。
しかし、それに対する無下限の対処法を、五条悟は未だに編み出せていなかった。
無下限すらも貫く、その術式への対抗手段を。
今までたった三度を除いて、何者にも貫かれたことがなく、自らも疑ったことのないその無限の壁を打ち破る方法。
それを、この世界の住人は当たり前のように手にしている。
はじめてゾルトラークを喰らってから少し、五条悟は全力で思考を巡らせていた。その、魔法術式への対抗手段を。
いくら六眼をもってしても、術式を読めることと、それの対抗法を手にするのとでは、全く違う。
「まんまと分断されちゃったようだね」
しかし、その
五条悟は、軽口を装って二人に話しかけた。
「シュティレ持ってる
すると、トーンはぶっきらぼうに答えた。
「構わん。まずはお前をどうにかすれば、どちみちお前たちの合格はなくなる。シュティレは、その後でどうにかすればいい話だ」
「ふーん、随分な物の見方をするんだね。きみ、名前、なんだっけ」
「トーンだ」
「じゃあトーンくん。キミ、いくつ?」
「……?」
いかにも訝しげな表情を、トーンはした。
「時間稼ぎのつもりか? その手には乗らん」
そう言って、トーンはゾルトラークの魔法陣を展開する。
それと同時に、五条悟は呪術を行使した。
「っ! トーンさん、防御を――――」
メトーデが、とっさに口を開くその途中で。
ドコン、と鈍い音が響いた。
「――――――――!!」
トーンの意識は白飛びし、直後に横転し、真っ暗になった。
少しの、後頭部への灼熱だけを意識して。
白目をむいて、後ろ半身を地にめり込ませる。
そんなトーンの顔を、五条悟は手にしていた。
その姿にメトーデは目を見開いた。
五条悟は顔を上げる。
青色の六眼が、今度はメトーデを捉えた。
「っ!」
防御魔法、それをメトーデは中空にいくつも展開する。
そのいくつかが、ババンッ、と音を立てて震えた。
何かの攻撃が直撃した音。
しかし、メトーデはその正体を見ることができなかった。
五条悟は口を開く。
「あんたは相当優秀な魔法使いみたいだ」
トーンの顔を手にしながら、五条悟は口にした。
その目は、しっかりとメトーデに向けて据えられている。
「どうする? このままやってもいいけど。でも多分、あんたは僕のことをよく分かってるよね」
「……!」
少しの逡巡。
自らを少しでも見破られたことへの恐れが、メトーデをたった一瞬だけども、支配した。
その後、メトーデは口を開いた。
「……ええ。実力の程は、よく」
「じゃあ、こいつ連れてどっか行ってくれるかな。殺しはしない。君たちの合格の邪魔立てをするつもりもない」
そう言って、五条悟は立ち上がる。
しばらく、両者の見据え合いが続いた。
地に付すトーン、微動だにせず見つる五条悟、そしてメトーデ。
長く感じられる時間があって、五条悟が口を開いた。
「それでいい? 魔法使いのお姉さん」
「え、ええ」
メトーデは小さく頬に汗を流して、頷いた。
ふう、と息を五条悟はつく。
「じゃあ、僕はこれで。第二次試験の時に会ったら、またね」
そう言って、五条悟は音もなく姿を消した。
その術式の行使に、メトーデは立ち尽くす。
「人間……?」
ひどく長いと感じられるほどの意識の間。その後に、メトーデはようやく口を動かせた。
感じた、どうしようもないほどに異質なモノ。
そんな存在が行使する魔法。
メトーデは、その原理を、どれだけ見ても理解することができなかった。
人間の作った魔法には、必ず原理が存在する。
どんな魔法でも、高度な術式でも。必ず、人間の編み出した何かに基づくものが。
でも。今、目の前にいたその存在。
青い瞳の男には、それがなかった。
どれだけ見ても、見破れなかった。
それどころか、こちらが見透かされているようで。
それは、まるで、今まで幾度も見てきた、『魔族』の
しかし、漂わせるその雰囲気は、魔族の残虐性とは似ても似つかない。
「…………ふぅ」
メトーデは、ようやくため息をついた。
「…………トーンさん、大丈夫ですか」
自らを律するという究極の困難を成し遂げて、メトーデは足元の仲間にしゃがみ込んだ。
聖典を呼び出し、回復魔法を手に行使しようとする。
その手がわずかに震えていることに、メトーデはようやく気がついた。
そして、ぐっと手を握る。
「あの男は、一体」
心の底からの切実な疑問は、口から空に溶けて出た。
✕
轟音。
なぎ倒される木々。
空を貫く魔力の奔流。
「きゃあっ! きゃあああああっ!」
そして、ヘルファの悲鳴。
「おい! お前、あっちをやれ!」
指示を飛ばしながら、魔法を放つ男たち。
ゾルトラークが放たれ、ヘルファはそれを直前に展開した防御魔法で防御した。
「きゃあっ!」
どんっ、と衝撃で身体が後ろに吹き飛ばされる。
「ヘルファ!」
そんな彼女を、ちょうど後ろの位置にしたヒルフトは受け止めた。
しかしなおも襲いかかってくる魔力たち。
「くっ!」
それを、ヒルフトは全方向に展開した防御魔法で受け止める。
それから、飛行魔法を行使した。
「きゃああっ」
ヘルファの頬に強い風が吹き付ける。
「ヘルファっ、しっかりしろ!」
「ごっ、ごめんなさいっ」
「三級魔法使いだろ、実戦経験はあるはずだろ!」
「こんな悪意にまみれた戦場は知らないですっ!」
魔法飛び交う森の中。
分断されたヘルファとヒルフトは、またやってきた別のパーティによって襲撃を受けていた。
「ヘルファっ、ずっとお前を抱えて飛んでられん! 降ろすぞ、自分の身は自分で守れよ!」
「まっ、待って、まだ心の準備がっ」
「降ろすぞ!」
ざざーっ、とヒルフトは足から着地、
「ぐえっ」
そしてヘルファは尻から地面に落ちた。
「いっ、いたいっ」
「言ってる場合かっ! 構えろ!」
なんとかヘルファは立ち上がり、魔法杖を前に構える。
「うぅっ」
お尻の痛さを感じながら、ヘルファは魔力探知に集中した。
その間、まだ敵は襲ってこない。
様子を伺っているのか、それとも見失ったのか。
ヘルファの魔力探知に三つの魔力がひっかかって、すぐにそれは分かった。
(敵三人、向かってきてる……! あっ、ゾルトラークっ!)
魔力探知の一部が爆ぜて、飛んでくる感覚。ゾルトラークが放たれる時のそれだった。
「ぐうっ!」
バアンッ、と音を立てて、防御魔法がそれを受け止める。
同時、三つの魔力が同時にはぜた。
反射的に三箇所へ対し、ヘルファは防御魔法を張り巡らせる。
ドドドオッ、と魔法はそこで爆ぜた。
「くっ、くそおっ」
構築する二つの術式。
一つは右の敵、一つは真ん中の敵へ。
魔力を込め、放ち、飛んでいく。
魔力探知の中で、一つは外れ、もう一つは防がれたのが分かった。
(は、反撃しても、全然効果がないっ)
ヘルファは心のなかで悲鳴をあげた。
魔物との戦闘とも魔法使いとの模擬戦とも違う感覚。
手加減なしでの魔法戦。
反応速度も手段も異なる。
なにより、向こうは奪いに、殺しに来ていた。
(どっ、どうしようっ、どうしようっ!)
死の恐怖と処理すべき情報量で頭がパンクしそうになった。
なんとか防御魔法を展開して、その合間を縫ってなけなしの反撃をする。
でも、それで手一杯だった。
その間にも、敵はどんどんと近づいてくる。
視界は魔力で白み涙ぐんで、敵の姿を視認できない。
ただ、魔力探知で近づいてくることだけが。
三つのゾルトラークを構築して、ほぼヤケクソに真ん中の敵めがけて放つ。
「ぐあっ」
声を上げて、一つの魔力が消失した。
「っ!」
(やっ、やった!?)
なんとか、攻撃が功を奏した。
嬉しさが全身を襲って、思わず目を向けて、ヘルファはそれを確認する。
してしまった。
「あ…………」
自分が『人を殺す魔法』を撃って崩壊した肉塊が、そこには転がっていた。
「ぅ゙っ」
ほぼ反射的に、ヘルファは口を押さえて屈み込んだ。
収まりかけた目の涙が戻ってぼとりと地面に落ちる。
「あっ、やっ」
殺されそうになって殺し返すと、こうも簡単に人は殺せるのだと、ヘルファはこの時初めて自覚した。
そして、自らの魔力探知に、怒りに乱れた二つの魔力が向けられている事に気がついて。
(あ、今度は私、死ぬ――――)
それを、深く予感した。
胃の内容物がぎゅっと締め付けられて、ひっくり返った。
酸っぱいものが喉を突き刺しながら駆け上ってくる。
びちゃびちゃと不快な音。
そして、二つの魔法が放たれた気配がした。
「ヘルファっ、大丈夫か!?」
とっさにヘルファは顔を上げる。
ずいぶん遠いところからだった。
酸味の感じる口を動かして、ヘルファはその名前を呼ぶ。
「ヒルフト、さんっ」
ヒルフトは、自分に襲ってきた三人の魔法使いよりもっと向こうにいた。
その周辺には、攻撃魔法が使われた痕跡を感じる。
そして、のこっていたはずの二人の魔法使いは、うつぶせに倒れていた。
ヒルフトがやったのだと、ヘルファは直感する。
「あっ、おぇっ、ありがと、ごさますっ」
そんなヘルファに、ヒルフトは眉をひそめて駆けてくる。
「大丈夫かっ、ヘルファっ」
「い、やっ、すみまぜっ、ひとっ、ころしたの、これがはじめてでっ」
「何……!?」
驚きに目を見開くヒルフト。
「ずみ、まぜっ」
「いや、謝ることはない。殺人は禁止されていない。それより、早く行くぞ。魔力を隠蔽しろ」
「あっ、ぇ゙っ、わがり、ましたっ」
うなだれているヘルファの腕を持ち、立ち上がるのを助ける。
「おっ、二人とも、無事?」
そして、どこからともなく五条悟が姿を現した。
「サトル! 無事だったか! いや無事だとは思っていたが!」
「ぉぇっ、サトル、さっ」
「うわっ、ヘルファリバースしてる! 大丈夫!?」
「大丈夫じゃっ、らい、れふっ、ぅ゙っ」
「うわっ第二波」
びちゃりと吐いてしまうヘルファに、五条悟は軽口を叩いた。
「サトル、さすがに可哀想だぞ!」
「そうだね。ちょっと、ごめんへルファ」
そう言うと、五条悟はヘルファの額にトンと二本指を当てた。
「へ? な――――」
かくん、とヘルファの頭から力が抜ける。
その体をヒルフトはとっさに受け止めた。
「なっ!? サトル、何をした!?」
「ちょっと気絶させただけだよ。『ぐっすり眠れる魔法』」
「そんな魔法が使えたのか……!?」
「まあ、ほら行くよ。ヘルファの魔力は僕が隠蔽する。ヒルフトは、隠せるよね?」
「無論だ。行くぞ」
すると、ヒルフトの身体から発された呪力が、ほとんど完璧に体内に収められていく。
「へえ、やるじゃん」
ざざっ、と森の中をかき分けて、ヘルファを抱えたヒルフトと五条悟は走っていった。
「それで道すがらだけど、一つ聞いてもいいかな?」
「ああ、なんだサトル」
「ゾルトラークの話だよ」
「ゾルトラーク? なぜそんなものを?」
走って目元に包帯を巻きながら、五条悟は口にした。
「実は僕、あんまり表で活躍してなかった一族の魔法使いでね。一般常識に疎いんだ」
「それは見てればわかる」
「わかっちゃうかぁ」
はは、と五条悟は笑う。
「まあ、それで、そのゾルトラークっていうのが知らないうちに流行ってるみたいなんだよね。ヒルフトはそれについてなんか知ってる?」
すると、ヒルフトは訝しげに眉をひそめた。
「正気か? ゾルトラークはもう100年近く前からの魔法だぞ」
「げっ、そんなに?」
(うーん、やっぱりこの世界だと、ゾルトラークは本当に一般的な魔法なのか。その話をするまでもないほどに)
ヒルフトが言った。
「サトル、お前がどれだけ世間知らずかは知らんが、今の魔法の基本はゾルトラークだ。誰もが最初にそれを習う、一般攻撃魔法だ」
「そりゃ、すごいね」
五条悟は思考する。
(端的に言って、ちょっとまずいね。もうこれだけ当たり前のように普及してるなら、最早悔しいとかはないけれど。でも、普通の魔法使いなら、誰でももう僕の無下限を貫けるのか)
心のなかで五条悟は息をつく。
「この世界の魔法は随分進んでるみたいだ」
(呪術の洗練が個人主義の向こうの世界とは違うのか)
「いや、別にそうでもない」
「ん? というと?」
興味を掻き立てられて、五条悟は聞いた。
「ゾルトラークは人類の魔法ではない。その元は、100年前に存在した一人の魔族が編み出したものだ」
「魔族か」
まだ、五条悟はその魔族に会ったことがない。卓越した魔法と長い寿命によって、かなりの強さを誇る種族、だとは聞いたことがある。
しかし、その「ゾルトラーク」を魔族が編み出したと聞いて、それへの興味はなお強くなった。
「そうだ。その当時は、ゾルトラークは史上初の『貫通魔法』として名を馳せていた。どのような防具も魔法術式も貫いて、直接人体を貫く究極の魔法。今では防具による魔法耐性も向上した上に防御魔法もあるからそうではないが、その当時は多くの魔法使いや冒険者を一撃で屠った、『人を殺す魔法』と呼ばれていた」
「へぇ…………」
(道理で、あんな術式構造をしていた訳だ)
ただ、病的なまでに『貫くこと』、それのみに特化したような魔法術式。
汎用性も何もかも無視した、ただそれだけのための魔法。
その結果として、速射性、操作性までもが向上したというような。
「それを作った魔族っていうのは、随分と凝り性だね」
くくっ、と五条悟は喉を鳴らした。
今まで、五条悟の無下限を破ろうと試みたのは、すべて五条悟当人を貫かんがために動いていた者たちだった。
しかし、その魔族は違う。ただ、自らの魔法をより洗練するためだけに構築した魔法。それが、結果的に五条悟のそれすら容易く貫く次元にまで上り詰めた。
「その魔族はまだ生きてるの?」
「いや…………消息は失われていたはずだ。魔王軍と人類の戦果の中で、はたと消息が途切れている。一説には、中央諸国の方で、勇者パーティとの交戦に敗れたらしい」
「ふーん、そっか」
もし生きているのならば、会ってみなければなるない。五条悟はそう思って、口端を上げた。
そして、ぴたりと止めた。
目の先にあるものを認識して。
人の気配だった。
(人間? でも呪力を全く感じないな。隠蔽している? でも、それにしては――――――)
木々の先に、五条悟の六眼にちらりと呪力が見えた。
距離は、30メートルほど。
一人の人間が、どこかへと意識を向けている。
五条悟が距離を取ろうと、ブレーキをかけようとしたその瞬間。
どうっ、と音がした。
「うおっ!?」
ヒルフトが大きな声を出す。
それと同時に、五条悟は目の先の存在から、一瞬にして呪力が立ちのぼるのを確認した。
(まずったな。こっちも呪力を隠していて、向こうも隠していた。運の悪い鉢合わせか)
「動かないでください」
ギュンッと頭上を何かが飛んでいく音。
魔法ではない。
(シュティレか)
目の先には、長髪の魔法使い。
それがおそらく、シュティレの捕獲をしようとしていた。そんなところに来てしまったのだと、五条悟は理解した。
「しまった……!」
ヒルフトの動揺の声。
木々の間に、その魔法使い当人が姿を現した。
紫髪の、長身の魔法使いだった。
すでに、隠蔽をやめてこちらに杖を向けている。
「さ、サトルっ、どうする!?」
「待っててヒルフト」
そう言うと、五条悟は全術式を解除した。
そして、諸手を上げる。
「ごめんごめん!」
そして、軽い調子で口にした。
「わざとじゃないよ! こっちも魔力隠しててさ、敵から逃げようとしてただけ! 不意打ちしようとしてたわけじゃないよ! だから見逃して!」
「…………」
一瞬、あっけにとられたように、女の魔法使いは五条悟を見た
しかし、気を取り直して口を開く。
「…………証拠がありません。あなたたち、先ほども交戦していましたよね」
その紫の目が、油断なくじっと五条悟を見つめる。
(……へぇ…………)
五条悟は、心底から感嘆した。
(解放した呪力にほとんど乱れが見られない。それに加えて、そもそも隠しているのか。それにフォームにもブレが見られないし、杖先には文字通りいつでも魔法が込められるように、常に力を巡らせている)
それを目にして、五条悟は再び口を動かす。
「そんなことないよ。だって、君の魔力の隠蔽、完璧だったもん。気付けるほうがおかしいよ。それにほら、ね」
ぴっ、と五条悟は親指で後ろのヒルフトとヘルファを指した。
「こっちには怪我人もいるんだ。君みたいなのと戦えるほど万全じゃないって」
「…………そうですか」
(……敵意は収まったかな)
しかし、その魔法使いは決して警戒を解かない。
徹底された臨戦態勢に、五条悟はまたも感嘆する。
「それでは、十秒数えますのでこの場を去ってください。私もその間攻撃はしません」
「もちろん。ありがとね、紫髪のお姉ちゃん」
「…………」
どこか、微妙に曖昧な表情をする彼女。
それを傍目に、五条悟は踵を返した。
「それじゃ、行こ、ヒルフト」
「あ、ああ」
先にヒルフトを行かせてから、五条悟はゆっくりと、また女の魔法使いに向けて振り返った。
「君、名前なんて言うの?」
「答える理由がありません」
ぶっきらぼうに、感情のこもっていない声色で返される。
「いいじゃん。二次試験だと仲間かもしれないよ?」
「…………三級魔法使いの、フェルンです」
「フェルンちゃんか。僕は四級魔法使いの五条悟。よろしくね」
『四級魔法使い』のところで、一瞬だけ、そのフェルンという魔法使いは眉をひそめた。
「行ってください」
「はーい」
ぱたぱたと手を振る五条悟。
最後までつれないフェルンを背にして、五条悟は笑顔で歩いて行った。
そして思案する。
(最初、あんなこと思ってたけど……)
簡単に合格できる、という自らの評価を、五条悟は改めた。
(この試験、かなりやりがいがありそうだね)
「ねぇヒルフト、今日っていい日じゃない?」
「……? 何を言っているんだ、サトル」
背に背負っているヘルファを指差しながら、ヒルフトは抗議の眼差しを向けた。