浅葱の影   作:CATARINA

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今日も新撰組はお金が無い


当たり前の問題←何故誰も気付かない?

 祝・新屯所。

 西本願寺に陣取ってた攘夷志士どもには丁重に去ってもらった、この世を。

 軽傷者こそ出たがこっちの死人はなしで完勝。

 どうせ話通じないし殺し合うしかないんだよなぁ。

 本人の話通りヒラクチの奴は居なかった、いたら両手じゃ足りんほど死んだだろうな……

 琴の奴は息巻いてるが、足洗うならそれで良いんじゃねぇか?

 人死が出ないに越した事はねぇよ…… 

 

 西本願寺に併設された新たな新撰組の屯所。

 予算はまぁ、滅茶苦茶頑張ったから大丈夫って事で……大丈夫じゃないけど……

 活動資金だったのか奴らの金が残されてたのも良かった、改築費用もギリギリ。

 街各所への順路も短縮され、一層治安維持に力を入れられるぜ。

 

 ひと段落する間もなく近藤局長らが帰ってきた……随分な大所帯だな。

 近藤さんがわざわざ『参謀』という役職を作ってまで引き入れた伊東甲子太郎を始め、新撰組の名が売れた故にわざわざ江戸から集まってきた新参たち。

 一気に三十人以上仲間が増えたよ、当然問題も発生するんだけどな。

 

 局内会議……帰還した局長らとお互いの近況報告、伊東さんらの紹介。

 新しい屯所、部隊編成の見直し、近代訓練の採用……

 極めて建設的な会議が粛々と進み、さぁ解散といった所で俺が立つ。

 ああ、このまま帰せたなら良かったんだがな……申し訳ねぇ。

 

「……話の区切りも良いし、発言宜しいか」

「秋無組長……やはり話さなきゃ駄目だろうか……」

「残念ながら、な……改めてだな伊東参謀。勘定方取締……転じて内勤組の統括を任されてる秋無出雲だ、組長なんて呼ばれはするが正規の役職じゃねえ、好きに呼んでくれ」

「……なるほど君が……秋無くんはどちらかというと鉄火場に向いてそうに見えるが」

「人は見かけによらねぇモンさ……まぁ俺の事はどうでも良い、本題だ」

 

 話の枕もそこそこに本題へと誘導する。

 何せ緊急の問題なのだ、新撰組存亡の危機なのだ。

 重々しい空気感を申し訳なく思いつつ、俺は口を開く。

 

「………………金が、無い」

「「「「「……はい?」」」」」」

()()んだよ、予算が。ウチは増えるも増えたりとうとう二百人、このままじゃ来月の給金すら払えるか怪しい……江戸組の隊服だけでもう限界、防具も買えん」

「……いやしかし……確かにそうかもしれないが、そこまでなのか? 屯所も新たにしたのだろう」

「それでは此方をご覧下さい、へいお前ら。隊長方にアレを」

「「ウス」」

 

 そう言って襖の向こうから出てきたのは勘定方を務める俺の部下たち。

 手に何やら紙切れを持ち、会議に参加している隊長一人一人に手渡していく。

 

「……これは?」

「ここ半年の、ウチの出納記録だ。見て貰えりゃ分かると思うんだが、明らかに目減りしてるだろ」

「……確かに……この急激に増額してるのは……」

「俺が他所で稼いだ分で補填した時の記録……追っかけ追っつけなのが分かるだろ?」

 

 酷いモンである。

 賜った二百両は最早影も形もなく、残高が右肩下がりに下落しているのが分かる。

 ただでさえ苦しいところに一気に増員。無理だろ。

 

「知っての通りウチの財源といえば二つ。お上からの給付、商家からの寄付があるワケだが、最近内府様からの支払いが悪くてな……人数を増やしたのはこっちの都合だからこれ以上は出さんとの事らしい」

「なるほど、厳しいな……」

「……しかしよォ、それにしたってこの衰退ぶりは異常だぜ。秋無、お前が管理しときながらこの惨状は一体何があったんだよ?」

「……お前らが躊躇いもなく活動中に無関係の家や民を巻き込むからだよバカタレ」

 

 新八はイマイチ理解出来ていないようだ。

 疑わしきは叩っ切れ。

 新撰組のバラ(バカ)ガキ共に染み付いた、ふざけた倫理が問題なのだ。

 少しでも怪しいなら切る、匿ってると言い掛かりをつけて民家を壊す。

 滅茶苦茶である、どちらが世を乱してるのか最早分からん。

 

「賠償に詫び料、雑に扱った装備の修繕費……」

「それを捻出するのがお前らの仕事じゃ……」

「因みに色街で遊んだ費用を経費に付けようとした馬鹿もいる、しかも初犯じゃねえ」

「…………」

 

 馬鹿が、金のことで俺に逆らえると思うなよ。

 

「そして我々の狼藉が、商家からの寄付を渋らせているのも事実だ」

「……なるほど、狼藉者に出す金子はないと」

「流石山南さんは話が分かる、元々ウチのやり方って評判悪いから尚更にな」

 

 商家からの寄付……言ってしまえば、カツアゲである。

 隊を率いて乗り込み、脅迫まがいに金を引き出す。

 断った場合には放火、打ち壊しも辞さない雰囲気でな。

 当然実際にはやらせない、前はやってやがったが俺が止めさせた。

 とはいえそんな脅しで金を出させているので、突然連絡が途絶える事もしばしば。

 更に金を払っているのに禁門の変を未然に防げず、多くの家屋が焼けた事も反発に繋がってるのか……

 

「新撰組に金を出す価値はない、そう思われ……言わば、舐められてるワケか」

「参謀の言う通り。禁門の変以降大きな事件が起こっていないのも問題だ。しかも京都見廻組とかいうウチにとっての目の上の瘤、幕府の正規部隊がいやがるのも厳しい」

 

 お互いの領分は一応分けている、守る気はどちらもないが。

 そして民からしたらどちらも刀を持ったおっかない侍。

 だったら少しでもマトモそうな方に一任したいというのが当たり前である。

 

「という事でまず、やり方を変えようと思う」

「やり方?」

「いきなり脅すのは時代遅れだ、まず紳士的にこう言うのさ。『新撰組のタニマチにならないか』とな、証文を発行し、支払った店にはそれを掲げさせる。普段の巡回経路に加入した店を組み込み、警備を兼ねる」

「……それは良いとして、皆が皆加入するようには思えないな」

「そりゃな、それならそれで。俺たち全員でその店に通い詰めるのよ、客としてな」

 

 帯剣した厳しい、名の通った気狂い人斬り集団。

 新撰組と知らぬなら、その風貌は浪人と大差ない。

 そんなのが頻繁に出入りしてみろ、一般の客はみるみる減っていく。

 

「あとは向こうから入りたいと言い出すまで続けるだけだ、簡単だろ?」 

「ひでぇ」「最悪」「人の心ないのか」「仮にも治安維持する側がやって良いやり方じゃない」

「ごちゃごちゃ煩いな……仕方ないだろ金が無いんだから」

 

 一応副次効果もしっかりあって、必ず加入者の店先を通る道程を組む都合上、各隊の巡回経路が明確になるのが強みだ。

 今まで新撰組の巡回は各隊長のさじ加減だったが、共通の規格を設けるべきだったしな。

 さらに経路が分かれば経過時間で現在地も推測出来る。

 緊急招集などの時に、巡回組の位置を大まかに把握出来ているのは大きい。

 

「此方は既に試験的に実行しているが、隊士からは概ね好評だ。局長らも帰ってきた事だし、この先一、二月ほど様子を見てから正式に採用するつもりであるからあしからず。とはいえ、この手法で利益があがってくのは先々の話になる、取り急ぎ金が必要な今に対応しなくてはならない。そこで……」

 

 そう言って部下たちに目配せ、意図を察した二人が襖の奥から更に何かを持ち出し、各員に配布する。

 

「……何すかこれ?」

「メイド服だ」

「………………はい???」

 

 我が起死回生の秘策。

 それは新撰組の面子を俺が新たに準備している店で働かせる事だ。

 ジャックの奴に見せられてビビっと来たね、コイツはウケる。

 外つ国の古風な給仕服、日本にはない異国情緒は京の雅さと対照となり映えるだろう。

 ジャックからあるだけ買い付けたモノを、馴染みの呉服屋に無理を言って複製させた。

 材質こそ違えど見た目には遜色ない……質感は向上さえした高級給仕服よ。

 

「異国の服なのは分かりました、分かったんすけど……」

「なんだ?」

「俺たちに渡してどうするんです?」

「そりゃお前らが着るんだよ、ウチで働いて財源確保だ」

「……マジすか」

「交代制で凡そひと月からふた月、当然通常の見回りと非番は確保した上になるけどな」

 

 新撰組の隊員、素行はともかく全員マジでツラが良いからな。

 面食いの京の奥様方の心をガッチリ鷲掴み。

 市民との距離感も近付けて好感度の向上にも寄与。

 我ながら一縷の隙もない考えである。完璧だ。

 

「一つ良いかな秋無くん」

「はいどうぞ」

「私が無知なだけかもしれない、しかしこれは……女性用じゃないか?」

「そうですが」

「そうですが、じゃないんだが……」

「ちゃんと寸法は各々の羽織を基準に合わせてある、抜かりはない」

「いや何で女装する事になってんだよ!?」 

 

 そりゃ物珍しいからに決まってるだろ。

 良く鍛えられた色男たちが異国式の格好で女装する……

 嵌る奴は絶対嵌る、新たな商機だと自信を持って言える。

 商人としての勘だが、百五十年後にはきっと世間に爆発的に広まるはず。

 俺たちがその先駆けとして世界に名を刻むのだ。

 

「因みに抵抗は無駄だぞ、既に近藤局長には話を通してある」

「なっ!? マジですか近藤さん!?」

「いや……私もどうかとは思ったんだが財政難は火急の問題であると言われてしまってな……しかしだな秋無組長。普通に考えて……トシや新八にこの格好は似合わないと思うのだが……」

「そういうのを好む手合いもいるのさ、俺を信じてくれ」

「うーむ……」

「やらなきゃこの先の活動に明確に差し支えるぞ、少なくとも新規組の防具は無理だ」

 

 未だ渋る局長を尻目に向き直ればあら不思議。

 

「アレ、なんか少なくない?」

「永倉さんたちなら二人が話してる間に逃げちゃいましたよ? そして今、秋無さんが振り向いた瞬間に土方さんが部屋から飛び出して行きました」

「何っ!? うおマジか、どんだけ嫌だったんだよ。逃がさんぞ畜生」

「あ、秋無さん。私からも一つ良いですか?」

「ん? 何だ?」

「私と中澤さんの奴はまた装いが違うように見えるんですが……」

「ごわごわした服だな……何これ?」

「テイルスーツ? だかなんだか、それも外つ国の給仕服だ。男用のな」

 

 男衆が女装なら女組は男装だよなって事で。

 二人とも滅茶苦茶美人だし行ける行ける。

 

「私はまぁ普段からこういう格好なんで文句はないけどさ……」

「安心しろ、元から異論は認めん。俺は馬鹿どもを捕獲してくる」

 

 はははは、逃がさんぞ。

 

「さぁ新撰組観察班! 隊長どもに日頃の恨みをぶつけてやれぃ!!!」

 

 

 

 

 

 


 

 京の外れ。

 屯所から真っ先に逃げ出した永倉は籠に乗っていた。

 徒歩での移動は目立つ、逃亡するにも遠すぎては問題がある。

 籠を使って京外れの宿場に二、三日。

 冷静になった近藤局長辺りが止めてくれるだろ……

 

 ぶらりと羽を伸ばすつもりで休むのも悪かない……

 出雲と俺は同い歳という事もあり、屯所でも特に気安い仲だ。

 中澤? アレは別だ別。

 それゆえ対立し、乱闘に発展する事も少なくないんだが……

 アイツ素手だとクソ強いんだよな……

 七尺の長身に異様な目方、これで武の心得は何も無いらしい。

 単純な話、生まれながらに身体の才能が凄まじいんだが。

 それの反動なのか、恐ろしい程剣の方はからきしだが……

 

 奴の行動が新撰組の為になっている事は局長の近藤を始め、誰もが理解している……しているが、それとこれとは話が違うのだ。

 何が悲しくてあんなおぞましい格好をしなければならないのだ。

 

 ぶらぶらと揺られて半刻程、暖かな陽気にうつらうつらとしていた所で急に籠が止まる。

 その振動でやや目を覚ますも、意識は再び微睡みの中へ落ちていく。

 

「次は、西本願寺〜。西本願寺〜、新撰組の方はお降り下さい〜」

 

 ん?

 何か聞いた事のある声、そして行先。

 嫌な予感に驚いて籠を開けてみれば見知った顔。

 

「あ!? テメェ山崎!!!」

「どもっす永倉隊長。恨みはないんすけど組長の命なんで……」

 

 いつの間にか運び手が観察の山崎に変わってやがる!

 行く先も何処へやら、京外れから見知った市中へと爆走中。

 

「クソ! 下ろせ! 俺は女の格好なんかしねぇぞ!!!」

「諦めて下さいよ、もう原田さんも土方さんも捕まってるんで……」

 

 畜生、下ろさねぇならぶっ壊してでも……

 

「何処へ行くんだ?」「うお!?」

 

 げぇ!? 秋無!!!

 

「あー……少し、旅をしたくなってな……」

「一人用の籠まで用意してか? 優雅な事だぜ……」

 

 秋無が呆れたように呟いたすぐ後、にわかに籠が持ち上がる。

 馬鹿(秋無)が持ち上げて掲げるように保持していると気付くのに時間はかからなかった。

 

 

「うおおおおお!?!?!? 何をする気だ!?」

「絶対に逃がさん、諦めてメイドになりやがれ!」

 

 雄叫びと共に万力が如き剛力で挟み込む。

 ミシリミシリ、木材と鉄で出来た籠が歪み、ひしゃげ、圧縮されていく。

 なんて無茶を……

 

 秋無出雲という男は自らを弱いと風潮するが、こと純粋な膂力なら新撰組で随二。

 その気になれば容易く素手で人体を解体する程の腕力。

 甘い性格と人の良さが殺人を防ぎ止めているだけである。

 

「ぐえぇぇぇ!?」

「ヌゥゥゥゥアアァ!!!」

 

 かろうじて圧死しない程度、脱出不能の状態で一切の身動きを封じられた永倉は自らの運命を呪い、そして既に捕縛済みであろう同志を思い涙を流した。

 

 

 




オチは感想で某伝説の野菜人って言われて何となく思いついたモノ。
今更ですがパロネタやメタネタがザラに出てきます、作者の手癖です。
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