浅葱の影   作:CATARINA

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新撰組の隊長でも存在感薄いあの人。
個人的には史実のムーブがトチ狂ってて好きです。


標的 新撰組の金庫番

 

 「一体何なんじゃあんバケモノは!」

 

 先日出雲を狙った辻斬り……岡田以蔵は荒れていた。

 依頼を受けた時にはあくまでただの商人、戦力は幹部には劣る。

 不意を打てば始末するのは容易い……そう話された筈であったが……

 単純な肉体強度に、士族でない故の柔軟性。

 恥も外聞もない変則的な戦い方に以蔵は苦戦を強いられ、あえなく撤退。

 依頼は失敗……当然金は入らず、先日の負け分を取り戻すには至らない。

 しかしそんなことはどうでも良い。

 肝心なのは仕事をし損なったという事一点である。

 

 今まで一度として仕事を失敗した事などなかった。

 自身は剣の天才である、だというのに……

 帯刀すらしておらぬ一商人にしてやられた、その恥辱。

 大きく欠かれた自尊心に押し潰されるように以蔵はヤケ酒を決め込むのだった。

 

「以蔵……その辺に……」

「何じゃ! 儂に文句があるがじゃ!?!?!?」

「……いや、そうじゃないが……」

 

 攘夷志士の同志ら十数人、土佐勤王党の残党であり、土佐にも京にも居場所なき流浪人。

 そこに長州や薩摩などから漏れたはみ出し者どもが合流。

 主となる攘夷団体から依頼を受ける以蔵を中心として再起の為に潜伏。

 いつか必ず勤王党を立て直さんと誓い、臥薪嘗胆の日々を過ごしていた。

 しかしその以蔵が敗北……本人は否定するが、当の暗殺対象に返り討ちにされてしまった。

 幸い大きな怪我もなく、休養すれば再び動けるようになるだろうが……

 逆に言えばその間出来ることは限られ、彼らの信用も下落した。

 以蔵が腐るのも無理はない。

 

「じゃけど、ウチで一番腕が立つおまんでも歯が立たんかったじゃろ」

「やかましい! 負けた訳じゃない、見逃しただけじゃ!」

「結局失敗しちまってるしな……一か八か、全員で囲んでみるか?」

「止めた方が良い、あん男普段は一人歩きなぞほぼせん。大抵えらいでこう女の剣士ば連れちゅーよ」

「新撰組幹部の中澤琴だろう、詳しい事は知らないが少数の特攻部隊を率いてる……」

「あー! 黙っとれ! 儂がどいつもコイツも切り捨てちゃる!」

 

 それが出来ないからこうなってるんだろうが。

 皆思っても言えない、言えるはずもない。

 その気になれば以蔵は容易く全員を皆殺しに出来る。

 腕は立つが頭は悪い、集団の頭にはとても向かぬ男。

 そのような男を担がねばならぬ事に皆辟易していた。

 せめて武市先生が生きておられれば……

 

「何だ、随分小汚い所に屯しとるのですねぇ」

「!? 誰だ!!!」

 

 見知らぬ声が響き、一同は揃って警戒心を剥き出しにする。 

 右に左に見渡せど声の主はなく。

 ただゾッとするほどの冷気が背筋を凍らせんばかりに貫いていた。

 

「なにかお探しで? ワタクシは皆様の後ろですが……」

 

 いつの間にか背後を取られている。

 振り返った全員の背、以蔵の眼前に突如として男は現れた。

 すらりとした長身、胡散臭い微笑、相手を値踏みするような態度。

 何よりもその羽織……翻る浅葱の隊服が、一同の警戒を更に強めた。

 

「新撰組か!?」

「ああ、ええ、流石にご存知でしたか。貴方がたのお仲間も何人となく捕らえましたからねぇ」

「どうやってここを突き止めやがった……」

「ふむ、言うまでもないでしょう。そのお仲間にお聞きしたのですよ」

「馬鹿な、我らの同志がそう簡単に口を割る筈がない」

 

 盲信めいた信頼。

 彼らの想像を遥かに凌駕する責め苦を与えるのが新撰組の拷問。

 特に出雲が外つ国のやり方から学んだ水責め……

 顔に木綿布を乗せて水をかけ続けるというアレは凄まじい。

 

「ま、此方にもやり方というのがあるのです……ああ、ご心配なく、私めそちら側の人間ですので」

「何?」

「元より新撰組に最早未来はありませんから。勝ち馬に乗っておくというのは当然では?」

「……そうだとして、我々がお前を信用する理屈は何もない」

「それは確かに……だったらそうですね……そこな方、以蔵さん」

「あ?」

 

 観柳斎は一人未だ酒を呷る剣士に問う。

 まるで警戒していないかのようでいて、その実すぐさま自らを斬れる位置。

 なるほど天性の剣士だ。惜しむらくはそれを専一に磨かなかったこと。

 怠け者の性根と暗殺に歪んだ思想が剣を曇らせている。

 

「何ゆえ貴方程の剣士が、あの男を。秋無出雲を始末し損ねたか分かりますか?」

「……武器じゃ、刀が悪う」

 

 マジかコイツ……

 その場にいた殆どは呆れ返った。

 確かに暗殺対象の秋無は人智を超えた剛体の持ち主なのかもしれない、しれないが……

 それを刀のせいにする暗殺者など何処にいるだろうか。

 というか普通思っても言えぬ、見苦しい言い訳にしかならぬのだから。

 

「その通り!」

「は?」

「あの肉達磨を切り捨てるにはただの業物ではとてもとても……アレは純粋なヒトではありません、言わば神の寵児。出雲ノ神の気まぐれながら確かに神性の一端を保有している。幾ら以蔵さんが天才的な剣豪だとしても、人斬りの剣では歯が立たないでしょう……そこで」

 

 観柳斎はひと振りの刀をずいと出す。

 反りは浅く、またその長さも一般的な打刀と大差ない。

 なれど物ノ怪になど理解の浅い攘夷志士らにさえ分かるほどそれは古く、言うならば霊幻新隆で__

 鞘越しでさえ多くの血を啜ってきたであろう風情を醸し出していた。

 

「この古刀、歴は平安。担い手は名も無き侍。源氏の棟梁に同行し、鬼を討った郎党の一人」

「随分古いな……しかし当時の刀といえば太刀。これはどう見ても打刀の長さだが」

「戦いの中切っ先が折れたのを打ち直したと聞きます、なれどこれは確かに鬼斬りの剣。かの酒呑童子や大嶽丸のような名のある魍魎ではなくとも、確かに鬼種の生き血を啜ったのです」

「御託はえいき、早う寄越せ」

「ええどうぞ」

 

 刀を手渡された以蔵は暫くソレを見つめた後、鞘から抜刀。

 刀身もまた古びた鈍色の光を放っており、素晴らしい業物という事もないが……

 

「……悪うない。けんどこれだけじゃ信用出来んのう」

「そうじゃ! おまんも新撰組の隊長なら儂らの同志も何人と手に掛けとる」

「ごもっともで。潔白の証明……という事でもないですが、代わりに中澤の方は私が請け負いましょう。貴方がたはただ秋無を始末する事に全霊を注げば良い」

「請け負うと言ってもな……アレも強いぞ、単純な武力で量るなら秋無よりずっと厄介だ」

「その辺はご心配なく、これでも身内ですから。弱みというのは理解しております……そうだ、貴方がたにも教えておきましょうか。秋無出雲という男を確実に始末する方法を、ね」

 

 胡散臭い男はねちっこく笑う。

 その笑顔には彼にとって秋無がただの思想敵対者というワケでもなく……

 少なからずの私怨、そして破滅を願う歪んだ愉悦が滲んでいる。

 しかし窮した攘夷志士らにそんな事はどうでも良く、迷う事なく男の言葉に耳を傾けた。

 

「万全を期すには準備もまた重要です。いつものように以蔵さんを送り込んでバッサリ……とは行きませんからね。皆様にも存分に働いて頂きたい」

「……当たり前だ。俺たちだって勤王の徒、全霊を尽くそう」

 

 以蔵に依存して腐り切っていた郎党らもまた再起する。

 初心に返る。志だけを胸に京、或いは江戸に登ったあの時の熱。

 必ずあの邪智暴虐なる新撰組の鴉を討ち取り、維新を成すのだ。

 純な志が蘇り、僅かな邂逅だけで観柳斎は彼らの信用を勝ち取ってしまった。

 

 

 

 元より甲州流軍学を修めた秀才の武田観柳斎が加わった勤王党残党。

 無秩序な辻斬り集団から統率された危険集団へと急速に変貌していく。

 


 

 

 

「出雲、お腹空いた。何か食べてかない?」

「逆に聞きたいんだが。お前は腹空かせてない瞬間があるのか?」

「失敬な、ちゃんとあるぞ……食後とか……」

「……もう何も言わんぞ俺ァ」

 

 出雲が岡田以蔵に襲撃されて早二ヶ月。

 襲撃者の素性は不明だったが、様々な剣術を見境なく扱うその様からして恐らく__といった所で正体が明らかとなった。暗殺者なのにバレてるのか……と呆れたのは言うまでもなく。

 しかし今更であった。出雲当人を狙った襲撃など珍しくない、月に一、二度はザラにある。

 死亡した攘夷志士の遺体を漁った事による怨恨。

 勘定方を始め、新撰組の内勤殆どを統括する立場。

 何より商人として露出も多く、隊と行動する他幹部より狙いやすい。

 

 出雲に集中するのも当然と言えば当然である。

 多くは返り討ちにし、殺害もとい捕縛していた中で逃げられた相手。

 その程度には以蔵を認識している。

 裏を返せばその程度としか認識していなかったのだが。

 

 いつも通りの巡回……今日は内勤組も特攻隊の者もおらず二人きりだが。

 

「最近色々順風満帆過ぎてなぁ……そろそろ振り戻しでロクでもないことが起きそうで怖ぇよ」

「珍しく弱気だな……そんなか?」

「そんなだ。我ながら自分の商才と豪運が恐ろしいね」

「その割に結構運悪い気がするけど……」

「……悪運強いってところか。何だかんだ最後にゃ上手くいく、途中はまぁ……」

 

 戦闘面でもこうなんだよなぁ。

 やたらと敵に狙われる……ならまだしも。

 まるで吸われているかのように攻撃が食い付いてくる。

 

「この間沖田やガムシンと奇兵隊の……誰だったかが潜伏してるとか言う宿屋にカチコミ掛けたろ」

「ああ……結果は普通にガセで影も形もなく……と思ったら普通に攘夷志士が出入りしてて棚ぼただったヤツ」

「あの時は酷かったぞ、狙いもなく乱射された弾が全部俺んとこに来た」

「……本っ当今更だけど何で生きてんのそれで」

「知らん、貫通力のヌルい拳銃弾ばかりで良かったとしか……」

 

 ボヤボヤ駄弁りながら歩いて半里程。

 特に無秩序な巡回の中で、無意識に足は生家の前へと歩む。

 生家といってもここで生まれてないんで言葉が正しいんだか分からんが……

 

「! 兄さん、それに義姉さんも」

「よう游雲、今日は休みか?」

「いやぁ……妻がですね、そろそろ産気付きそうなもんで……」

「早ぇモンだな……えーっと、六人目?」

「ああいや、産婆様が言うには双子らしいので」

「七人かよ!? すんげぇな……人体の神秘って奴か」

 

 夫婦仲が宜しいようでお兄ちゃん嬉しいぞ。

 親父が亡くなってから一年と少し、突然本店を継ぐ事になった游雲も最初は随分あたふたしてたモンだが……最近はようやっと大商人としての格というのが出始めたように思える。

 

「……ホントよくやってるよお前は」

「兄さんに言われるのも不思議だけどね……身一つで飛び出して、たった一代で京でも上から数えた方が早いくらいの豪商だ。しかもまだまだ若くてこれから幾らでも……ホント凄いよ、僕なんか……」

「止めろ止めろ、謙遜はお前の悪ぃ癖だぞ。お前が俺の真似を出来ねぇように、俺もお前の真似事は出来ん。今着いて来てる従業員どもは皆お前を見込んでるんだ、卑下しちゃ奴らに悪い」

「当初はどうにか父さんの代わりになろうと藻掻いて足掻いて……全然駄目だったからね、兄さんに『親父になろうとするな』って言われてからずっと気が楽になったよ」

 

 当たり前だ。

 俺らの親父、秋無大吾郎は正真正銘本物の大商人。

 善人だが聖人ではない、清濁併せ呑んだ希代の豪商。

 游雲は人が良すぎるからな……

 

「! おじちゃん!」

「おー! おじちゃんだぞ〜いやぁデカくなったなぁ……」

 

 游雲の長女である桜、今年で四つの可愛い盛り。

 

「そういや来年が七五三だったか……悪りぃ、完全に忘れてた」

「いやいや無理もないって、組の仕事に店の運営、無理し過ぎなくらいでしょ」

「なぁに軽い軽い、働けば働くほど寧ろ活力が湧いてくるってモンよ」

「おねちゃんおねちゃん、高いのして!」

「ハハハハ、任せろ。今日はいつもよりずっと高くしてやるぞー」

 

 琴の馬鹿力を遺憾無く発揮した高い高い。

 上に放り投げられた桜はまるでゴマ粒のように小さくなるとその場にストンと落ちてくる。

 最初は止めようとしてたが、喜んでるし……まぁ良いか……

 琴も下手を打つような奴じゃない。

 それにしてもおねちゃんねぇ……

 

「……シッ」

「ぎゃああああ!?」

 

 不躾な俺の思惑を察してか、剛拳一閃。

 メキリと嫌な音がして首が軋む、しぬぞ。

 

「良いだろ別に呼び方くらい!」

「俺たちゃもう二十七だけど良いのかそれで……」

「アンタが老け顔なだけじゃない?」

「ひどい」

 

 つかの間の安息、こんな日がずっと続けば尚良いなぁ……

 

 

 

 

 

 

 からんころんと勢い良く何かが転がってくる。

 落し物か馬が何か蹴っ飛ばしたか……

 火のついた球体、見ずとも分かる火薬の香り。

 

「伏せろ!!!!」

「え」

 

 一拍遅れて炸裂。

 凄まじい火炎が秋無の店先を諸共吹き飛ばした。

 出雲は游雲を、琴は桜を咄嗟に庇って爆発をモロに受ける。

 爆心から遠かった琴は破片を僅かに食らったのみだが、二人の姿が見えず。

 

「痛ってぇ……!」

「うぅ……おねちゃ……」

「! 桜! 怪我ないか!?」

 

 見てわかる怪我こそなくとも殺意の籠った爆発は幼子にはあまりに酷で。

 衝撃と混乱が勝ったか、子は泣くでもなくただ呆然としていた。

 中心にいた二人の安否もさることながら……琴は桜の背越しにソレを見てしまう。

 走ってきた馬車が突如止まり、乗員が荷台の布を勢い良く跳ね飛ばす。

 嫌に冷たく無機質で、多数の口と歯車持つ機械。

 

 鈍色に輝くそれに見覚えはまるでない。

 初見の、理解出来ぬ絡繰装置……

 しかしそこに秘された殺意、濃厚な破壊力だけを歴戦の勘が察知した。

 乗員の一人が備え付けられた取手をぐるりと回した瞬間、鈍色の銃口が火を吹く。

 

 ガトリング砲。

 後の世に機関銃と呼ばれる火器、その起源と呼ぶべきモノ。

 拳銃より威力に長けた弾丸を全自動(フルオート)で射撃する心無き殺人兵器。 

 琴に向かって放たれたのはそう言ったシロモノであった。

 

 咄嗟に大剣で防ごうとして__爆発の勢いでそれがあるべき所に無いことを理解する。

 既に弾丸は眼前まで迫っている。

 回避、不可能。防御、非現実的。

 私のすべき事は__

 

 先程庇ったのと同じようにその巨躯に幼子を隠し、凶弾に背を向ける。

 人を虫螻のように擂り殺す狂気が飛来する中で琴は笑った。

 あーあ、これは死ぬなぁ……

 拳銃で撃たれたのを防いだ事はある、それとすら比較にならない威力、密度。

 幾ら鍛えたとはいえ耐えられるモノではない。 

 

 ……まぁ悪くなかったかな?

 人でなしとして生まれ、ただ殺す事でしか自らの価値を見出だせなかった自分が最後に幼子を庇って死ぬ。随分と贅沢な死に様ではなかりうか。

 悪くない、実に悪くない。

 

 惜しむらくは一つくらい。

 押し掛けてきた素性も知らぬ素浪人に、兄と同じかそれ以上気を配ってくれた友人の事。

 あのお人好しを残してしまうのがどうも惜しい。 

 心配だ、いつかその甘さが災いして死ななきゃ良いけど。

 

 少しして背中に銃弾が突き刺さる。

 それはあまりに致命的で、無慈悲に命を削り取っていく。

 身を引き裂かれるような痛みの中、懐の小さな命だけは守り抜かんと。

 百か二百ほどの銃撃、漸く弾切れとなり弾幕が途切れた頃中澤琴は血溜まりに倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再構成、我其レヲ認メズ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バジュリッ、とても気分の良いとは言えない水音。

 人体という血の水袋に弾丸が食いこんだ嫌な響き。

 連続して弾丸の衝撃が響き、百程も連なってやがて止んだ。

 

「は?」 

 

 何かがおかしい。

 いや違う、私は今さっき確かに__ 

 だが実際に今生きて、どころか傷一つなく。

 ならさっきの音は、衝撃は一体。

 

 困惑の中振り向けば、そこにあったのは最悪の光景。

 七尺ばかりの大男は巨体でもって仁王立ち。

 琴と桜に飛来する幾百もの弾全てをその身で受け止め、しかし男は未だ立っていた。

 新撰組の屍漁り、鴉の異名の由来たる黒染め羽織を朱に染めて、なれど男は倒れず。

 軍勢一つを瓦解させる程の弾丸を放って尚、標的は健在。

 困惑する攘夷志士らは咄嗟に逃走を測り、馬牽く同志に撤退を進言……

 その前に銃声二発。出雲により二人とも眉間を撃ち抜かれ、脳漿をぶち撒けて即死した。

 

「……やけっぱちだったが案外……割と当たる、な」

「出雲!」

 

 私には分かった。壮絶な血の香り、死がそこまで迫ってきている喘鳴。

 このままだと出雲は確実に死ぬ。

 駄目だ、それは駄目だろう。

 こんな所で死ぬなんて、そんなの許される訳が……

 

「ああ、えい位置じゃ。死ね__」

「__!?」

 


 

『あの忌々しい出雲という男は圧倒的な吉兆に守られています、現実の改変すら伴う異様な幸運。如何なる攻撃も殺意も、全て彼にとって最も都合の良い展開へと置換されてしまう。正攻法で始末するのは貴方でも難しいでしょう』

『なら、どうするがじゃ』

『まぁまぁ急かさずに……ただ、彼は一般に()()()()、そう認知されています』

『???』

『__彼は無意識に自らの幸運を周りに分け与える、与えてしまう。不都合な現実を捻じ曲げ、代償としてその身を盾に望む未来を呼び出す。だから狙うなら集団で、纏めてです。彼と彼の守りたいモノ全てを侵せば、その吉兆も脆く崩れ落ちるでしょう』

 


 

 

 

 

 

 突如として出雲の眼前に抜刀した男が現れる。

 人相は知ってる、一体何処から……いや、そんな場合じゃない。

 

「やめろ!!!」

「おんしに恨みはないが、これも仕事じゃ」

「……ハ、大変だな、おたくも……」

 

 上段から大振りの袈裟懸け一閃。

 威力だけを重視した隙だらけの攻撃、万全なら回避は造作もなかろうに。

 平安の世から遍く神秘を否定した刃は出雲ノ神の寵児にも確と届く。

 肩口から脇腹まで、間に挟んだ左腕諸共切り裂かれ、悲鳴もなく秋無はその場に倒れた。

 

「おい、なに寝惚けちょる! 撤収じゃ!」

「! そうだった! 行くぞ!」

 

 控えていた生き残りに声を張り、走る車に飛び乗ると岡田以蔵はその場から離脱した。

 数十もの銃創に、致命的な刀傷。

 奴らを追わねばならぬと分かっていながら、私は動く事が出来なかった。

 

「出雲……! 出雲!!!」

「………………」

 

 血を失い過ぎている。

 刃に食い込ませた左腕は半ばで断ち切られ。

 断面からは血に混じって腸が見え隠れさえしている。

 

 致命傷だ……なんて酷い傷を……

 

 

 

 

 

 ____美味そうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う!!!!!」

 

 私は一人絶叫する。

 自らを律するように檄を飛ばさねば狂ってしまいそうで。

 血塗れの出雲を担ぎ、口で袖ごと左腕を咥えながらひたすら医者に走る。

 死ぬんじゃない出雲、私はまだお前に何も返せてない。

 死なないでくれよ……

 




二人ともキナ臭い感じになりましたが、今回はここまで。
組長の凶運が凶たる所以はこういう感じです、禍つ運。
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