浅葱の影   作:CATARINA

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いつもの。
話のオチがワンパターンすぎるという問題……


売られた喧嘩は買うしかない

 

 

 

 

 

 

 

 ______寒い。

 仄暗い闇の中に居るようだ。

 額に当たる凍てつく雨が体温を奪っていく。

 俺の身体はどうなっている……

 手足も、指先も、何もかも動かない。

 声をあげることすら満足にいかない。

 

 ああ、寒い。

 最期にそんなこと一つ思って俺は最期の吐息を吐いた。

 

 

 

「この辺だ! この辺から声がしたんだよ!」

「そうは言っても……貴方、冬の雨はお身体に障りますよ」

「待ってくれ、もう少し……! 居た! 誰がこんな酷い事を……」

 

 寒くて、寒くて仕方なかったのに。

 抱き上げられたその時、熱を与えられた。

 

「大丈夫、大丈夫だぞ。きっと助かる、諦めるんじゃないぞ」

「お医者様を……いや、この場合は産婆様も……?」

「何だって良い! とにかく雨の当たらない所に行くぞ!」

 

 ああそうだった。

 俺はこの時死んだのだ。

 一度人として死んで、熱を分け与えられて蘇った。

 ずっと俺には熱が欠けていた。

 人と関わる事でその熱に当てられて、その余熱で生きてきた。

 

「お前は出雲ノ神様の落し子に違いない。このくらいじゃ死ぬはずがないだろ」

 

 ああ、そうだよな。

 そうだ。

 俺は秋無出雲。

 秋無大吾郎の息子、出雲が大国主大神の寵児。

 こんな所で死んでる場合じゃない。

 

 

 

 俺を抱えて走る彼に今はただ感謝を。

 あの時俺を拾ってくれたから、俺はまだ走れそうだ。

 さて、やるか。

 死ぬまで走って、あとは流れで……

 

 自分の命よりずっと大切に、守りたいモノが出来たから。

 死んでる場合じゃねえんだ。

 

「____頑張れよ」

 

 やるだけやってみるよ。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 知ってる天井だ。

 多分馴染みの医者先生の家。

 

「…………」 

 

 傍らには座ったまま俯く沖田の姿。

 何やってんだコイツは……

 ……大方、俺の見舞いにでも来てそのまま寝落ちしたのか?

 この部屋は随分暖かいからな……

 

「よっ……うおっ!?」

「ん……?」

 

 起き上がろうとして手を付き、上手く力が入らずに転がる。

 随分動いてなかったらしい。俺ァどのくらいくたばってたんだ……?

 

「……よう、おはようさん沖田」

「……おはようございまふ秋無さん……ふぁあああ……」

 

 酷いツラだ、うたた寝というか普通に爆睡してやがったな?

 

「…………」

「…………?」

「…………秋無さん!? 先生! 先生ー!!! 秋無さんが目覚めました!!!」

「うお……病み上がりにその絶叫は効くぜ沖田よ……」

 

 

 

 

 

 

「奇跡だ、今回ばかりは流石に駄目だと……」

「マジすか」

 

 先生曰く、恐らくもう起き上がる事は無いだろうと……

 生命活動こそしていれど、人として再起する余地の無いほどの傷だったらしい。

 それでも懸命な判断と施術で俺を永らえさせてくれた先生に頭が上がらない。

 

「……当たり前だろ、儂は親父さんがお前をここに運び入れてきた時から診てるんだぞ」

「ハハハ、何度救われたか分からない」

「あの時も酷かった、親父は慌てるばかりにウチの雨戸をぶち抜いて入ってきた。やれ押し込み強盗かと思えばずぶ濡れの傷だらけ、寧ろお前が怪我人だろうなんて風貌でお前さんを差し出して来たからなぁ」

「実にらしいや、秋無大吾郎。京随一の大商人」

「……勝手だが、儂も銀狼の助平爺も、お前さんの事は息子のように思っとるよ。何せ古馴染みが何より気にかけてた長男坊だしの……どうせまた無茶をしにいくんだろう?」

「ああ」

 

 身体が鈍っているが、殺意はマシマシ。

 あの腐れ志士どもを一人残らず血祭りにあげてやらぁ。

 

「無茶はするなよ、何せひと月も昏睡してたんだからな……」

「ひと月か……ひと月……ひと月!?」

「その間ずっと局内でも皆心配してましたよ……仕事は幸い皆さんが上手く捌いてるみたいですけど」

「何たる損失……俺のひと月は並の商売人の十年に相当するぞ、攘夷志士どもめ生かしておかん」

 

 出雲は激怒した。

 必ずかの邪智暴虐なる攘夷志士どもを除かねばならぬと決意した。

 出雲には攘夷が分からぬ。

 出雲は、京の商人である。

 

「そういや、琴の奴はどうしたんだ……俺抜きで大丈夫だったか?」

「中澤さんは……」

「どうした歯切れの悪い、まさか飢え死にしたとは言わんだろうな」

「いや流石に、そんな事はないと思いますが……」

「ああ、儂が引き継ごう。出雲よ、落ち着いて聞け。お前さんが心配する中澤さんはな、お前をここに運び込んで以降姿を見せていないんだよ……アレだけ強い子なら、心配する事でもないだろうが」

「…………そうか、なるほど」

 

 

 

 ああ、そうか。

 馬鹿だなぁお前。

 俺が死んだと勘違いしたのか? 勝手に仇討ちでもするつもりだったか?

 世話の焼ける野郎だぜ……全く。

 

「今回の件悪いが俺に一任してくれ。近藤さんらには悪いが……」

「……何故? 皆二人が襲われた事にはいきり立ってますし、協力してくれそうですが……」

「ありがとな。でもま、そういう理屈の話じゃねぇんだ」

 

 色々と理由を付けて気を逸らそうとしたけどやっぱ無理だ。

 

 俺や琴を狙った。それはまだ良い。

 殺してるんだから殺されることだってある。お互い様だよな。

 でもよ。  

 

 奴らは游雲を、桜を巻き込もうとした。

 俺らだけじゃない、俺の大切な仲間を諸共殺そうとしやがった。

 次は誰だ、左衛門か? 紫鬼たちか?

 ああ全く、全く最高だよな。

 

 笑っちまうよ、怒りで。

 あんまりにもムカつくモンで口角が吊り上がって仕方ねぇ。

 今回は。今回ばかりは多分無理だ。

 捕まえる事は出来ねぇ、というより考えも出来ない。

 多分俺は次に奴らを見た瞬間爆発する。

 志士どもの最後の一人が恐怖に震え、苦痛と絶望の中でくたばるまで止まりそうもない。

 

「新撰組隊士として__なんて甘い事が出来そうにないんでな」

「………そこまで言うなら、近藤さん達には内緒にします。けれど……」

「?」

「もし駄目そうならすぐ呼んで下さいね。最強の沖田さんなら千人力ですから」

「……ハ、全く……いや奇妙なモンだ、ガキにしか見えなかったお前が今はずっと良い女に見えるよ」

「え、やっぱしそういう目で見てたんですか」

「いんや全然、そういう冗談のつもりで言った」

 

 サラッと妄言を吐き、沖田は勢い良くすっ転ぶ。

 たわいも無い会話だが、それが良い。

 これから殺戮の限りを尽くすというなら尚更。今はいつも通りボヤけているくらいで。

 下手人は岡田以蔵とその一派、攘夷志士の一団……というならアテはある。

 なるたけ頼りたくはなかったが無理そうだ。

 あくる朝日が登るまでに奴らの息の根を止める。

 そうでもなきゃ狂っちまいそうだからよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺としちゃ、場所を教えてくれりゃそれで良かったんだぜ?」

「気にしないで、ケジメはケジメ。明らかに無関係な人間を巻き込むような狼藉、見逃す訳にはいかない」

「真面目な野郎だ……しかし、お前の分まで残してやれるか分からねぇよ」

 

 京内某所。

 真夜中の街道を秋無と河上の二人は歩んでいた。

 今でこそ春夏冬亭の用心棒である河上も、元々は攘夷志士の一員。

 土佐勤王党の面々と直接の関わりこそないにせよ、知らぬ者もいないほどの人斬りである。

 となれば奴らの根城や溜まり場についても何か聞き及んでいないか。

 無論、断られる可能性さえあっただろうが……意外にも快諾、どころか。

 自らも同行を申し出るまでとなり、二人してまずはたまり場へと赴く事に。

 

「攘夷志士も一枚岩じゃないって事か」

「薩摩、土佐、長州……大抵は日ノ本至る所からこの京や江戸に集まった浪人の集まりよ? 全体が秩序立てた行動を取れるはずもない事は貴方にもよく分かるんじゃないかしら」

「そりゃそうか、ましてや元々薩長は険悪。目的は同じとしても一朝一夕で蟠りは解けんなぁ」

 

 再燃した怒りを宥めつつ、頭は実に冷静そのもの。

 土佐勤王党の残党など、攘夷組織の中では末端も末端。

 その多くがそれぞれ別個に活動するか、他へ移籍した事を考えれば尚更だ。

 そんな組織が何故ガトリングなんて代物を持ち出してやがるんだ?

 

 裏で絵を描いてる野郎がいる、ソイツは以蔵なんかよりずっと頭が回るし、ずっと顔が広いとみたね。

 何せガトリング砲は俺だって欲しかったのに手に入らなかった珍品中の珍品。

 アメリカでもまだ作られたばかりの最新兵器であり、ジャックの奴ですら未だ納品出来ていないんだとか。

 

「彼処よ。私の知る限りあの酒屋で一日中腐ってるはず」

「どうしようもない奴らだなホント……さて、まずは丁重にご挨拶させて貰うか……」

「挨拶ったって、まさか正面からやる気?」

「これをやるのは久しぶりだ……独立したての頃、シマを奪おうとするボケ共に良くやったモンだ」

「ちょっと、答えになってない__」

「まま、見てろって。京都っ子の喧嘩ってのをよ」

 

 見るからな安酒屋、今は雨戸が閉まっているがそれすらボロボロで……

 破壊痕をみりゃ分かる、コイツを一度ブチ壊したのは琴の奴だ。

 力任せに大剣で戸を引き裂いたんだろ、ナマクラ故の捻れた様な切り口が証明してる。

 

「そら、よ!お邪魔……!」

 

 掛け声と共に雨戸を蹴り破る。

 粗雑に補修されただけの木片は、秋無の膂力を受け止めるにあまりに頼りなく……

 辛うじて戸としての体裁を守っていた前回と違い、今度こそ粉微塵になって砕けた。

 

「……!」

「お、ビンゴ。お前さんあの時馬車を牽いてた奴だろ、死んだと思ったか? ところがぎっちょん、生きてるんだなこれが……じゃ、早速で悪いが死んでくれ」

 

 入ってすぐで棒立ちしていた男の首に銃口を押し付けて吹き飛ばす。

 拳銃っての威力が低い。三間も離れたら致命傷を避けちまう程に。

 しかしなんの装甲もない素肌に密着して撃ちゃ変わらねぇよ。

 ぶらりと肉と骨を剥き出しにして捻れて死んだ。

 

 ここまで来てようやく戦闘態勢に入る志士ども……

 正直言って拍子抜けって感じだ、数もそんなに居なさそうだし。

 ま、敗残兵の敗残兵。個々の強さは頭打ちでも無理はない。

 大方あの岡田以蔵が戦力の大半を占めてたんだろうな……

 

 このご時世、誰だって銃くらいは持てるようになってきた。

 奴らの数人も咄嗟に拳銃を構えてるが、構えが悪い。

 銃口はフラつき、狙いは散漫な上初弾の反動は逃がせない。

 嘘みたいに弱いなコイツら、撃ったこともないのだろうか。

 この現代、未だに刀を振り回す事しか出来ない感じ?

 それが許されるのは一握りの強者だけだろ……

 当たるヤツだけ先んじて射殺し、弾が飛び交う中じっくりと再装填。

 二回も繰り返せば死屍累々、皆血塗れになって転がるばかり。

 

「ヨシッ、あとは生き残ってる奴を適当に拷問して親玉を吐かせるとするか」

「……今更」

「ん?」

「今更になって皆がみな、貴方を一人にしないかが分かった気がするわ」

 

 容赦がない。そして誇りもない。

 何せ士族でない、侍ではない。

 淡々と合理的に、なるべく容易く敵を皆殺しにする。

 商人だから。人を数字でしか見てない人間でなくばこんなことは出来ない。

 

「んー……お、お前さん脚に食らっただけか、運が良いな。俺の相棒と岡田以蔵、俺ん事斬ったあのバカタレ……何処だ? 場合によっちゃ見逃してやっても良いぜ」

「…………」

「……ハ、真面目なこった」

 

 秋無はニッコリと笑うと志士らの強い結束に感心し、うんうんと頷きながら脚を振り上げる。

 ゆっくりじんわりと、非常に緩やかに。なれど万力の力を込めて。

 鉄下駄でもってその顔を踏み躙る。

 出雲の体重凡そ三俵、病み上がりで多少減れど人より獣の方が近しい恵体。

 

「______」

「早くしろよ、今日の俺はいつもみたいに気が長くねぇぞ」

 

 急かすように助言した後一度脚を持ち上げる。

 潰された志士はといえば散々たる模様。

 頭蓋はとうに踏み砕かれ、骨と脳が綯い交ぜとなり、眼窩から既に脳漿が垂れ流しになっている。

 既に致命傷、しかしその苦痛たるや想像すら出来ず……

 

「…………」

「…………ハァ……その心意気をもっと別の事に使ってりゃあよ……」

 

 感心半分呆れ半分、何とも言えない顔で思いっきり踏み砕く。 

 

「……どうしようか、情報源が居なくなっちまったぞ」

「何で殺したのよ……」

「ムカついてたからに決まってるだろ、一応俺ァ死にかけたんだぞ」

 

 何だか妙にムカッ腹が立つんだよ。

 雨霰と撃たれまくった時に頭にも食らったからか……?

 何処となく短気になった気すらする。

 とはいえ今回ばかりは正当な怒りだろ……結局何も分からずしまいか……

 よっと。

 

 最後の一発、彦斎の背後ににじり寄ってきた人型を撃ち抜く。

 同時に彦斎も抜刀……俺の後ろにもいた感じだなこりゃ。  

 

「どういうこった? コイツら……どう見ても死んでたよな?」

「頭を弾け飛ばせ、首から上が千切れても生きてるなら別かしらね」

「蜚蠊じゃあるまいに……何かおかしいぜ、こりゃ」

 

 何も喋らない、何も感じない。

 最初こそ、口が堅いばかりだと思っていたが……

 アレをやられて呻き声すら上げないってのはありえない。

 

 辺りを見て見りゃ、死屍累々だった志士どもがぞわぞわと蠢いていた。

 

「気持ち悪りぃな、なんだコイツら。薩摩かよ」

「貴方にとっての薩摩隼人はこれと同じなのかしら……」

「アイツら撃っても死なねぇじゃん、正直人か怪しいってんなら変わらんぜ」

 

 人として死んでても動くって事か……なら、動けなくしてみりゃ良いんじゃねえか?

 

「閃いた」

「……ロクでもないオチじゃないでしょうね?」

「……とりあえずここは全部吹っ飛ばそう、灰になっちまえば流石にくたばるだろ」

「吹っ飛ばす?」

「それ、逃げるぞ」 

 

 腰袋から取り出した球状のソレに火を付け、彦斎を突き飛ばすように外に。

 一拍遅れて轟音と閃光、室内全てが弾け飛んで紅蓮が舞う。

 人肉の焦げる最悪の香り、新撰組(オレら)にとっちゃ常だがな……

 

「流石に丸腰で来ちゃいない……便利な時代だよな?」

「……イカれてるわよ貴方」

「今更……ん?」

 

 違和感というか、直感というべきか。

 顔を顰めるような名状し難い心のざわめきに脳が痺れる。

 燃え散る灰、それに混じって何かが流れている。

 何かが一つの方向へ向かい続けている。

 

「……根拠はないが、どうや当たりを引いたらしい」

「? 何が見えてるのか知らないけれど、私には何も……」

「まぁ着いてきてくれ、無駄足ならそれはそれだ」

 

 ……嫌なことに、こういうカンは当たるんだよなぁ。

 

 

 




格下には超強い男
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