土佐弁難しい過ぎる……辞書ガン見しながら書いとるのでなんかおかしかったら指摘頼みます……
そして重ね重ねになりますがお気に入り、誤字報告等感謝……
ホント誤字多過ぎて申し訳ない。
僅少しばかり時を遡った京某所。
秋無が目を覚ましたのより前。
ボロボロの中澤琴は漸く以蔵らの潜伏先を掴んだばかりであった。
半月もの間姿を晦まし、誰に頼ることもなく地道に根城を潰して行った結果、片手では数えられぬ程多くの攘夷拠点を潰してきた。
その中で以蔵らの組織……元土佐勤王党員を主体とする小さな集団の情報を掴み、寝食を惜しんで張り込む事数日。
姿を見せた酒気帯びの以蔵を惨殺せんとする衝動を抑え、首領の正体を掴む。
かくしてその時が来た。
以蔵が誰かに絡んでいる……
その姿、そのツラ、見まごう筈もない。
一応は同志、同胞。新撰組の隊長の一人。
秋無以外の同僚に関心の薄い琴も激昂するに十分な程。
「武田、おんしゃあ……!」
「おやおや以蔵さん、あれから姿を見せてないと思いましたが……」
「とぼけるんじゃなか! 怪我をしてた連中、無事だった連中。おまんに診て貰ってから様子がおかしい、どうしたがと問うても返答もない。何したがや!?」
「何と言われましてもね……目的の為忠実に働く真の志士として生まれ変わったとしか」
「あやかしいことを言うなや、それに儂は聞いとらんかったぞ。あん時襲った場には女子供まで居たやか……集団で居る時を狙うちゅうても関係なか者を巻き込めるか!」
「土佐最悪の人斬りとは思えない言葉だ、或いはあなた方の志などその程度でしたか?」
「キサン……!」
怒りを顕に以蔵が抜刀する。
向こうで潰し合ってくれるのは有り難いが……今日はそのつもりはない。
「待て待て、争うのは止めな。二人とも私がぶちのめす」
「……中澤さんですか。良かった良かった、近頃屯所に現れないので心配でしたが」
「御託は良い、お前がソレと一緒って事は裏切ったって事だよな」
「裏切るとは人聞きの悪い……本来浪士組は攘夷組織として集められた集団だったハズ。いつの間にやらそれが逆転し、治安維持と銘打って殺しを行う人斬り集団になった。流石にほとほと愛想が尽きたのですよ」
本来なら一度退き、組内に報じて裁きを待つのが正しいのだろうが……
壬生浪士以来の相棒を瀕死に追い込まれ、逆上した琴はもう止まらない。
「んん? 確か、あん男と一緒にいた……」
「岡田以蔵……アンタの事も殺してやりたいけどね、多分出雲の奴の方が頭に来てるだろうから譲ってやるよ。半殺しでひっ立てていく」
「出雲……嘘じゃ、あん化け物まだくたばっておらんかったか!?」
「ふむ……アレだけやれば始末出来たと考えるのは早計でしたか。神性持ちとは末恐ろしいですね」
「今頃アンタらを殺しに動いてる頃だろうさ、私は適当にやらせてもらう」
巨大な処刑剣を抜き放ち、切っ先……潰れて丸みを帯びた先端を突き出して二人と対峙する。
応えるように刀に手を添えた観柳斎を手で制し、以蔵は一歩前に歩み寄る。
今まで仕事をやり損なった事はない。
それが同じ標的に二度、確かに刃が食い込んだ相手を仕留め損なったのだ。
崩れかけの自尊心を回復させる為にも速やかに奴を始末せねばならない。
中澤琴、話には聞いていたが相手が剣士ならやりようはある。
「おや以蔵さん、貴方がやる気とは珍しい」
「おまんを殺すのは後じゃ。儂が叩っ切っちゃる」
「二人纏めて来てくれた方が私は楽なんだけどね」
「ほざけ!」
以蔵は刀を差したまま突撃、抜刀しつつ腰を落として逆袈裟に切り上げる。
同じく攘夷志士の河上彦斎、かつて太刀筋を一度見たのみで模倣していた。
琴は刀身を地に突き立てその進行を阻む。
初太刀ががりりと処刑剣と擦れ合い、即座に回り込んで追撃を計る。
その速度、剣筋の疾きたるや隼の如く。
……二つばかり惜しむらくは。
如何に剣の天才といえどただの人であったこと。
そして才に溺れ、磨くことを怠ったこと。
自身よりも強い敵との戦いに欠けていた、あまりに致命的な欠点。
盾のように視界を遮った刃の裏に、既に八尺の巨体はなく。
それを知覚したと同時に、屈んだ姿勢の伸びを込めた上げ突きが水月にめり込んだ。
小気味良い音と共に肋骨と、或いは背骨すら砕きながら以蔵は天高く吹き飛び、地に墜落して失神した。
げに恐ろしきや中澤琴の暴。
単純な膂力なら新撰組……否、日ノ本一であろう馬鹿力。
一撃で以蔵を無力化して尚余力すら残る剛腕であった。
「……ああ、だから言ったと言うのに。貴女と正面切ってやるのは無理があると」
「殺しちゃいないよ、辛うじてね。じゃ、次。早くしな」
「おお怖い怖い……そんなにせっつかず、文明人らしく交渉とは行きませんかね」
「興味無いね、死にな」
「ぬおっ!?」
前方に飛び上がり、空中で一回転。
重すぎる剣と巨体の質量に遠心力と重力を乗せた一撃。
ギリギリ刀を挟み込む事に成功するも勢いはまるで死なず、観柳斎は水平一直線に吹き飛ぶ。
幸いにも壁までの距離は近く、甚大なダメージと引き換えに再起には成功した。
刀は砕け、受け止めた腕も半ばでへし折れてしまう。
「素晴らしい。嗚呼、実に素晴らしい!」
「……気味の悪い野郎だ、こんだけやられて喜んでやがる」
「やはり貴女は私の理想そのもの! この鉄と火薬の時代に取り残された最後の神秘!」
「黙りな。 私は私だ。それ以上でも、それ以下でもない」
「まさか! ご謙遜ならさらなくても宜しいのですよ中澤さん……単刀直入に言います、私と組みませんか?」
仰々しく、態とらしく手を広げて胡散臭く琴を勧誘する観柳斎。
その顔は薄笑いこそ浮かべているが、瞳だけは真剣そのもので。
自らの目的に忠実な真性の狂人が持つソレであった。
「……結局お前は何が目的なんだ? 急に攘夷思想に目覚めるタマでもねぇだろ」
「決めつけは宜しくない。人生というのは案外劇的な__少しの刺激で反転する事もある」
「なるほど妄言しか吐かねぇか」
「とはいえ勧誘した身、真意を伝えるのが礼儀という奴ですか……そうですね……」
男は一度考え込むように俯き、言葉を選んでいく。
尤もどのような音の響きさえ琴に届くことはないのだが……
「……回帰、とでも言いましょうか」
「回帰だぁ?」
「ええ、神秘薄れ行くこの日本。最早私や貴女のような異端には到底生きられる世では無くなって来ています……夜の闇、明らかざる深淵、見えざる畏れを鉄と火薬が暴く……そんなのにはうんざりしているのです」
「それが私と何の関係がある」
「まさか、関係しかないでしょう。貴女の血、貴女の狂気、
「……知らないね、そんなのは!」
力任せの乱撃、手負いの武田に凌ぎ切れるモノでは到底なく。
数回の後に左腕、続いて右腕と景気よく引き千切れる。
「痛っ……酷いではないですか中澤さん、私はまだ貴女に敵意を向けてないというのに」
「お前の思想もやり方も何も分からん。分からんがお前は出雲を殺そうとした、出雲の敵だ。ならそれで十分、それだけでお前を千殺すに足る理由なんだよ」
「……残念です、交渉は決裂といったところでしょうか。なら仕方ない」
武田がそう呟くと何処からともなく二本の腕が飛んでくる。
それは凄まじい勢いながら彼の眼前で静止。
ソレに腕の切り口を押し付けると吸い付くように両腕は接合し、本来の姿を取り戻した。
二、三度握り直して感触を確かめると男は満足げに微笑む。
「……化け物か」
「そっくりそのままお返ししますよ、防御の上から腕を千切り飛ばさないで下さい」
「そうかい? 近藤や永倉なら幾らでもやりようはあると思うけどね」
「……それはまぁ、確かに言えてますね」
「だったらその首も取っかえられるか試してやるよ!」
絡繰は不明だが、どうやら単純な物理破壊程度は通用しないらしい。
だったら狙うべくは重要部位。
正中線に類する脳と心臓辺りを断ち切ってやる。
「生憎と流石にそれは苦しい。ですから此方も手を尽くさせて貰いますよそれ」
「「「「………………」」」」
「! 何だ、コイツら何処から……」
突如現れた四人の侍。
いずれも既に抜刀しており、それぞれ上下段から挟み込むように挟撃してくる。
生気のない虚ろな瞳に青白い肌を震わせ、その太刀筋は鋭くはなく、鈍くもない。
琴は錐揉み回転しながら飛びすさり、囲む四人を真二つに叩き斬りながら離脱する。
浅くだが頬の端が切れて血が滲む……羽織の裾で拭いつつ処刑剣を再び武田に向けた。
「うーむ……やはり普通の
「私らの相手には随分格不足なんじゃないか?」
「そう言いなさんな、彼らもまた攘夷を志した志士。新撰組と戦って散るなら本望でしょうよ……それに、実の所まだ終わってなかったりするので」
胴を輪切りにされ、内臓をブチ撒けた志士の身体が突然跳ねる。
残る上半身をバネに跳び上がり、粗雑に刀を突き出すだけの一撃。
しかし不意打ち十分。浅いながらも琴に一撃を入れ、反撃で粉微塵になって漸く停止した。
「痛ってぇ……なんだこりゃ、どうなってる?」
「……我が血統に伝わる秘技、死霊術。人や獣の屍を操り、時に蘇らせこそする相伝の技」
「なるほど、聞いた事がある。外つ国には魔術師ってのがいて……日ノ本にも僅かばかりまだ生き残っているかもしれないんだとか。アンタがそうってことか」
「生憎と自分以外のは見たことがないのですがね……行使には骸が必要ですし、使い難くて叶いません」
「その割にゃ大した強さでもないんだな、ご愁傷さま」
相手のボロ出しを狙って煽る煽る。
中澤琴は粗暴で考え無しに行動する人種だが、ただの馬鹿ではない。
あくまで足りない頭で考えに考えた末、力任せのゴリ押しを最適解としているだけである。
「素体があくまで並の志士ですからねぇ……ならこんなのは如何でしょう」
「■■■■……」
「……これがアンタの隠しダネかい?」
「薩摩の
更に数体の屍人形を呼び出し、その最奥に一際巨体の屍。
骸となって尚全身の隅々に至るまで筋骨隆々で今にも蘇りそうな程の気を放っている。
何とも悪趣味な野郎だ。
「……■■■■!!!!!」
声にならない絶叫と共に新兵衛が突っ込んでくる。
薩摩ってのはいつもこうだ。
何も考えていない、何も躊躇わない。
最速最短最大の一撃を以て全てを叩き割ろうとするのだ。
引くには既に遅く、躱すには近過ぎる!
選択したのは処刑剣を掲げての受け太刀。
彗星の墜落が如く天の一撃に屈んだ身体の撥条を総動員して対抗。
全身が軋む、骨が撓り、肉が千切れる。
これが人間の体から出る力なのか?
一体生前はどれ程殺したんだこの野郎は……
しかし幸いまだ体格の差がある。
八尺の巨躯の弾みと射程は伊達ではない。
一息に鍔迫り合いを制して薩摩隼人を突き飛ばし、剣を片手にぐるりと振り回す。
取り囲むように集まっていた屍人形どもは当然直撃に耐え切れず……一撃で木っ端微塵に腸を晒した。後は観柳斎まで一直線、単純かつ確実に上段から叩き割る。
「剛力無双といった所ですか……仕方ない、私も援護しますかね。ほら田中さん、寝ている場合ではありませんよ」
「そのまま死ね!」
「…………!!!」
観柳斎の指示に呼応し、寸前で復帰した新兵衛に阻まれて二人を押し潰すような形で鍔迫り合う。
しかしこの体勢なら有利なのは体格で勝る方__
力比べの天秤は徐々に琴の方へと傾いていく。
「……不味いですね、このままでは__」
「鍛え方が足りねぇな観柳斎。軍学ばかりで鈍ってんじゃねぇか?」
「……生憎と計画通りですよ!」
観柳斎は懐からほんの小さな小瓶を取り出すと、それを眼前の琴に投擲する。
正体は分からないが良いものではないのが明確。
避けようと後ろに離れたところで新兵衛が小瓶を叩っ切る。
浴びたのはその透明の数滴。たった数滴だけ。しかし。
脳の奥まで蕩けるような芳醇、理屈ではない程の酩酊に襲われて意識がぐらつく。
指先が心地良く痺れ、剣を持つことさえ叶わない。
「ッ……!? な……んだ、こりゃ……!」
「フゥ__良かった。いや本当に良かった、実際に効くかはかなり賭けでしたよ。ましてや正面から貴女に勝てるハズもない私に扱えるかも怪しかったのですが」
「クソッタレ……」
「何が起こったか分からないって表情ですね。幻想種、今は夢幻の神秘の粋。彼らは皆人智を超えた超常の力を持ち、時に人に仇無し暴虐の限りを尽くしました……そしてその度、人の勇気と知恵に敗れた。故、彼らの根幹には必ず致命的な弱点があるのです」
勝利を確信し、高らかに琴に語りかける。
這いつくばってそれを聴く琴には最早意識を保つ事すら許されない。
「例えば……
奇希神酒。
大いなる神に捧げるため、永い時を費やして造られた貴重な酒。
最早その造り方すらが喪われた神秘であり、二度とこの世に生み出される事はない。
それは人ならざる怪物や魔獣をも容易く陶酔させ、特に鬼種に分類される魔性に強く影響を与える。
あくまで人造の神秘たる酒。神に捧げる為の酒。
文字通り神より賜りし神酒には及ばず、酒呑童子がこれを呑んでも上等な酒程度にしか考えないだろうが。
それでも神秘薄き時代に順応した中澤琴にはあまりにも濃密な毒であった。
「人の理性を、人の未練が少し邪魔でしょうか……貴女には
死霊魔術、すっげぇ悪いヤツじゃん……ってなるから分かりやすくて良いと思う。