浅葱の影   作:CATARINA

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誤字報告、感想などなど深く感謝……
もうちょっとだけお付き合い下さい。


問題児四人、だから最悪

 三月半ば、正式に伊東参謀らの脱退が認められた。

 藤堂や齋藤ら十四名を引き連れて新組織の発足……

 しかも思想的には敵対派の攘夷側、外聞は最悪だよな。

 案の定内部でも土方を始め一部隊士の反発を招いたが、近藤局長直々に許可を出した事が知られると渋々ながら皆沈静化していった。このカリスマ性が新撰組を辛うじて組織として保ってるところはあるよなぁ……

 

 更にとうとう近藤局長の幕臣への取り立てが決まった。

 名実ともに士族の身分って事だ。

 うん、全然嬉しくねぇな……

 いや、土方らは滅茶苦茶喜んでるが……要は俺らみたいなチンピラすら取り立てなきゃ持たないくらい幕府の基盤がガッタガタって事なんじゃねぇか?

 俺たち幕府方、つまり佐幕派と攘夷志士どもの倒幕派。

 薩摩、長州、土佐辺りが見事に団結しやがったばかりに勢力は甘く見て拮抗、下手すりゃ不利。

 それが新撰組の()である、笑えねぇ。

 

 近藤局長が幕臣となった事で俺たちゃ家臣と、それが気に食わない永倉が激昂してやがる。

 気持ちは分かる、分かるぜ。

 念願叶って舞い上がる土方も咎める事は出来ない、それくらいは許されるだろ。

 一方で俺たちゃ近藤さんの部下でこそあれ、家臣になったつもりはねぇ。

 とはいえここで揉めても仕方ねぇんだよな……

 

 という事で永倉……と原田を呼び出して連行。

 前ならここに藤堂も居たのになぁ……寂しいぜ。

 

「んだよ秋無、俺ァ今虫の居所が悪いんだが」

「だから誘ってやったんだろ……にしてもこの面子で藤堂が居ねぇのは寂しいな」

「仕方ないっすよ、流石に今はね……」

 

 こういう面子で飲る時は安酒屋に限る。

 お座敷でもてなされるような上品さは不要なのだ。

 とりあえず酒と適当な肴を頼み、熱燗で駆けつけ一杯。

 夕暮れには未だ寒さの残るこの時期、身体に染み渡るぜ……

 

「クァ~久しぶりに独りの時間だぜ」

「そういや中澤はどうしたんだ?」

「置いてきたよ、泣き喚きながら『私を捨てるのか!?』とか騒いでたが流石にな……俺とてたまには気の休まる時間が欲しい時もある」

「組長昔ウチの嫁さん笑ってましたけど人の事言えないんじゃ」

「いやホントにそうだと思うわ。基本的に一日中視界に居るからな……」

「重ぇな……幸せそうでなによりだが」

 

 良い奴だし、心から愛してると言えるのだが。

 それはそれとして重すぎるんだよな……もう少し自立しても良いと思う。

 

「まぁそりゃ後だ。新八よォ、お前の気持ちも分かるがあんま土方に突っかかってやるなって」

「……昼間のか、悪いな」

「怒っちゃいねぇよ、俺だって急に家臣扱いされたら面白くねーぜ……とはいえ最近のヤツは舞い上がってる所があるからな。自分の願いが立て続けに叶うもんで楽しくて仕方ないのさ」

「近藤局長を、大名にねぇ」

「ハハハ、絵に書いた餅だ。そうだな、或いは大戦でもあれば別だが」

「……大戦か」

 

 そう、大戦。

 それこそ佐幕派と倒幕派の進退を決めちまう程の戦いが。

 そこで戦果を挙げたなら或いは、という話だが。

 

「……組長」

「なんだ?」

「俺らより頭の回る貴方に聞きたい、実際のところ状況はどうでしょうか」

「……そうだな、三割は血の雨、六割は屍山血河ってとこか」

「戦火は避けられねぇか、流石に」

「無理だろうな……既に江戸や京へ佐幕派を煽る為、浪人どもが集まりつつあるらしい、狙いは俺たち幕府方を蹴散らして天子様の奪還、旗印として担ぎ上げ皇軍として江戸に凱旋__賊軍となった幕府本軍を皆殺しにするってとこか」

「なるほど、なるほど……最悪だ……」

 

 京でも、江戸でも、今までの政権をひっくり返す程の大戦をするんだ。

 あんだけ酷かった禁門ん時の比じゃない。

 なによりあの時とは立場が違う。

 一反乱でしかなかったアレの比じゃない、相手は訓練された軍隊だ。

 近代化された装備、兵士で固めた本格的な。

 場馴れを加味しても圧倒は不可能だろう、どちらが勝とうが何人も死ぬ。

 侍、軍人、町人、百姓。女子供に老人まで一切の容赦なく。

 

「……開戦時期は?」

「……そうだな、俺の予測でしかねぇが年明け頃か?」

「そんなに早ぇのか」

「奴らからしたら俺たちゃ悪しき幕府の尖兵、士族は旧い悪習の象徴さ。それに甘んじる民もまた、奴らにとっちゃ倒すべき敵でしかねぇ。幕府憎けりゃ江戸の全てが憎い、ってか」

「……年明け」

「……左之助、家族が心配か?」

「! ……分かりますか」

「ハハ、お前は顔に出やすい。齋藤を見習った方が良いと思うぜ」

 

 いつもヘラヘラしてるようで全く笑っちゃいない。

 ウチで一番の鉄面皮で仕事人だ。

 まぁ、アイツが尊皇攘夷に興味があるとは思わなかったけどよ……

 

「……逃がしてやろうか?」

「……どういう事ですか」

「お前らなら言いふらしたりしねぇから話すが、俺んとこに足抜けの相談が沢山来るんだよ」

「本当か? 事実ならえらい事だが」

「誰だって死にたかねぇだろうよ、若いのは特にな」

「……今何人くらいが?」

「そうだな、四、五……くらいか。山南さんが殺されてから、ウチの士気はガタガタだ。そんでもって伊東さんらが離脱……俺はなんとか宥めてたがもう無理だろうな」

 

 戦って死ぬ覚悟のある者も、仲間に切られて死ぬ覚悟などない。

 土方の恐怖政治がとうとう限界を迎え、新撰組は崩れ始めている。

 逃げれば殺される……が、居ても確実に死ぬならば、一か八かで逃げ出すのも仕方ない。

 最早どんな言葉でもアイツらを引き止めるのは無理だろうよ。

 

「今はどうしてるんですか?」

「……時期を待て、と。新撰組が、組織としてのカタチを成せない程の打撃を受けたその時。追っ手を出す余裕が霧散したその時に逃げろと説得した所だ。嫌な話だが」

「……考えたくもねぇな」

「そん時の為に京からの離脱手段、隊士の家族の疎開先を裏で探してるんだ。お前さんの妻子も入れようか?」

「………………すいません、お願いしても宜しいでしょうか」

「OKOK、気にすんな。もし生き延びたら俺らの話でも孫や曾孫に話してやれよ」

「何だそりゃ……」

「もし倒幕派が勝ったなら俺らは賊軍、後世で好き勝手言われちゃ面白くねぇだろ。誰か一人二人、俺たちの戦いがどんなだったか、知ってくれてりゃ先に逝った奴らも浮かばれるってモンだ」

 

 俺は侍じゃない。

 名誉などどうだって良い、商人にあるのはただ利益の追求のみ。

 しかし、先に逝った仲間はあくまで侍として死んだのだ。

 だったら死に際くらい格好つけさせてやるのが情ってモンだろ?

 

「ま、暗い話はこのくらいにしようや。幸か不幸か俺たちゃまだ生きてる」

「……全くだ」

「そうっすね……大将、酒三つ……また熱いので良いですか?」

「おう、じゃんじゃん頼め。今日は奢りだ、朝まで飲むぞ……それはそうと、一つ聞いて良いか左之助」

「? なんすかかしこまって」

「普通聞く事じゃないとは分かってんだが……お前、アレだ、カミさんとどうだ」

「どうって……」

「俺が悪かった。アレだ、どのくらい同衾してる?」

「あー…………」

 

 申し訳ねぇ。

 俺が下手に遠回しな聞き方をしたせいで全く伝わらなかった。

 そして普通他人に話すことじゃないというのも理解してるんだけども。

 流石に弟分どもにゃ聞けねぇし、土方や近藤は結構アレだから……

 

「うーん……週二もあれば、多いくらいじゃないすか」

「嫁が生きてた頃は俺も大差ない感じだが……何故そんなことを?」

「やっぱか……そうだな、そうだよな……それくらいだよな……」

 

 俺がおかしい訳じゃなかったらしい。

 その事実に心底安堵すると同時に恐怖する。

 

「……俺さ、今日久しぶりに一人って言っただろ」

「言ったな」「言いましたね」

「……そのまんまの意味なんだよな……マジで久しぶりに……」

「「oh…………」」

 

 まぁすげぇ哀れみの目。

 同情するなら休みをくれ、半年に一回で良いから完全に一人の休日……

 

「……一応。一応聞くんすけど()()()くらい?」

「……最低で五。本当に死ぬ……」

「うお……凄ぇなお前……」

「だれかあのバカに常識を教えてやってくれ、床で死ぬ気はないぞ俺」

「何だってそんな……」

「何って言われてもな……」 

 

 まぁある程度予想は出来る。

 生まれの呪いから奴は俺が食いたくて食いたくて仕方ないんだろう。

 それを必死に堪えようとした結果、代替として性欲がイカレだしたと。

 ……食い殺されて即死してないだけで、じわじわと生命を貪られてないか。

 

「というか元から()()でしたよね。実際いつからなんです?」

「いつってのも、正直良く分からんのだよな。二人とも真っ直ぐ歩けないくらい酒を入れては同じ家に帰るわけで……そんなのを繰り返してりゃまぁ……気付いたらズルズルとって感じ」

「そればかりは責められん、ましてやお前らの体格じゃな……」

 

 琴は八尺、俺は七尺。

 当たり前だが人智を超えた異様な巨躯である。

 実際俺もアイツ以外に自分よりデカい人間は見た事なかったし。

 俺よりデカい琴からしたら尚更である。

 ……多分、多分だが、俺以外だと圧死か食い殺されると思う。

 破れ鍋に綴じ蓋、奇跡的な噛み合いというヤツだ。

 

「前はここまでじゃなかったんだよ前は……」

「最近露骨に疲れてる感じありますしね……」

「分かるか? 元々週五で三回くれぇだったんだけどな」

「あんま変わんなくないすかソレ」

「休みがあるかどうかって全然違うぜ……全休日の前晩とか朝までとかあるぞ」

「ひどい」

 

 オデノカラダハボドボドダ!

 背中は引っ掻き傷だらけだし、ギリギリ見えないだけで身体中噛み跡だらけである。

 出雲ノ神の恩寵に拠るモノか、超人的な回復能力のある俺ですらこれである。

 銭湯とか行けないくらい中々ヤバいんだよな……

 

「マジでどうにかならねぇか……俺が死んだら新撰組は終わりだぞ」

「随分と大きく出たな」

「だって誰も経理の後継居ないもん、内勤組と実働部隊の擦り合わせする奴もいねぇし、そもそも俺自身が財源の一つを担ってんだぜ……それを知ってか知らずか志士どもにツラも割れたしよ」

「まぁ実際、人が減ったのもあってほぼ全員が替えの利かない人材になりつつありますよね今。こんなのでやって行けるのかは正直疑問っすよ」

 

 あーやだやだ、真面目な話になるとすぐ辛気臭くなっちまうな。

 数杯程度じゃまだほろ酔いにすらならん。

 色々飲みたいし二軒目に移るか……

 

「あー藤堂のイッキ芸がないと面白くねぇな」

「……思ったんだがよ、寝床変えたわけじゃねぇだろ。御陵衛士と新撰組(ウチ)は別に表立って殺し合う仲でもない訳だが」

「確かに、抜けてからも時折伊東さんが局長のとこに来ますからね」

「……呼んでみっか?」

「マジすか」

「呼ぼう、呼ぼうぜ。折角潰れるなら道連れにしてやった方がオモロい」

「よし乗った、行くか藤堂ん家」

 

 勘定を済ませ酒気帯びの大男三人はかつての戦友の家へと赴くことに。

 戸を叩いて出てきたのは既に風呂等も済ませ早々に寝る支度を済ませた藤堂であった。

 

「何です急に……うわ酒くさ、飲んでるんですか」 

「まだ飲んだウチに入らねぇよ……ほら来い、俺の奢りだからよ」

「いや、明日早いんで僕は「問答無用!」うわっ!?」

「ハハハハ、一人だけ逃げようなんてそうは行かねぇだろ藤堂」

「諦めて全員で潰れましょうや」

 

 組を離れて二週間程で忘れちまったか?

 新撰組集団戦術、敵は常に数で潰せ。

 三対一以上を基本として袋叩きにするのが俺らの常なのだ。

 

 俺との会話に気を取られている隙に永倉と原田が両脇から抱え上げ連行。

 最初こそバタバタと喚いていた藤堂も三軒目の頃にはすっかり出来上がっており、上機嫌のまま得意のイッキ芸を披露する始末。

 ____当然、俺を含めた全員。多分だが藤堂も……は翌日に地獄のような二日酔いを持ち込み、酷く叱られはしたのだが。

 それでもこんな楽しい日々が続けば良いと。

 叶うはずのない願いを惜しんじまうのは我儘だろうか。

 

 




なんだこの飲みサーみたいな緩い集まりは……と思ったけど年齢的に最高齢の組長、永倉すらアラサーとかマジ?

身長2.5mの人食い鬼に毎日貪られている男に悲しき今____
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