浅葱の影   作:CATARINA

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あまり描写してませんが近藤と組長は個々人では結構仲良いです。
局内だと三番目に良く飲みに行きます。


京江戸ぶらり珍道中

 

「やはり酷いのか?」

「ああ、最悪も最悪__よくもまぁ今まで隠し通してたもんだ」

 

 数日がかりの二日酔いもやっと覚めた頃。

 局長室で向かいあうのは近藤と俺。

 二人とも険しい顔を崩せそうになく……いや、当たり前か。

 

 沖田の病状が悪化した。

 した、というよりしていた、と言うべきか。

 何故俺は気付けなかった?

 何故俺は見抜けなかった?

 

 可愛がっていた妹分、新撰組最強の剣、それが悲鳴をあげていたことに。

 

「目利きをしくるとは、俺も耄碌したかね」

「そう言うな……秋無くんが見付けてくれたお陰で生き永らえてるんだ」

「飲み過ぎてガンガン痛む頭が一発で覚めたからなぁ……何日か顔出さねぇ、それ自体はないでもなかったから油断してたぜ……俺の失敗だ、申し訳ない」

「頭を下げないでくれ……昔から強がる所があったからな」

 

 とにかく酷い状態だった。

 局長をはじめ、他のメンツにはそれだけ話してある。

 実態はどうだったって?

 ……動くことも出来ず、血と吐瀉物と排泄物に塗れて死にかけてたなんて言えるか。

 アレでも一応女であり、年相応の人間である。

 他人に知られたくない痛みくれぇ誰だってあるのさ。

 少なくとも現場を見て、処理を済ませた俺以外は知らねえで良い話さ。

 

「……申し訳ない、療養先にアテはないだろうか」

「俺に聞くかい……まぁ京大阪はナシだ、ツラが割れ過ぎてる。それから医者の質を考えりゃ、田舎の過疎地域も駄目だな。人の往来があり、かつここから遠く離れた場所……俺のツテだと江戸、浦賀、博多の辺りか、だが九州は志士どもの巣窟、必然的に関東のどちらかだろうよ」

「……江戸か、遠くなるな」

「どうするよ、沖田の奴が素直に聞き入れるとも思えねぇ。お前は足手まといだから引っ込んでろ……なんて言ったら錯乱して俺をぶっ殺しにくるぞヤツァ」

「……それは流石に俺がやろう。秋無組長に頼みたいのはその移送の付き添いだ」

「構わねぇが、流石に江戸までの往復は時間がかかるぜ……行きはともかく帰りは飛ばしてひと月くれぇか」

 

 京都で馬を借りたとしても、病人の沖田を乗せてかっ飛ばす訳にもいかない。

 必然行きは大方徒歩と大差ない程度の進行になるだろうし……

 向こうにも数日は滞在する必要があるだろうから、早くともひと月。

 

「そんなに長く俺がいなくて平気かね」

「ハハ、皆で何とかするさ。何ならもう半月ほどゆっくりと行ってくれ」

「マジ? 余裕あるな、新しい勘定方とか入る感じ?」

 

 だったら俺は超ありがたいんだけど。

 

「そういう訳じゃないが……君は働き過ぎだ。たまには仕事から離れて羽を伸ばしてくれ」

「性分だ、仕方ない……とはいえたまにゃお言葉に甘えるかね、留守は任せたぜ」

「ああ、中澤くんにも宜しく頼むよ」

「おう……あ、土方には気を付けろよ、隙を見せたら予算の着服を試みるぞ」

「……そんなにか」

「そんなにだよ……局長は土方に甘ぇからよ、齋藤辺りに監視して貰うが吉だと思うぜ」

 

 

 

 

 

 

 という訳で江戸に登ってきたぜ……何年ぶりだ?

 意外と言うか沖田は結構素直に着いてきた。

 局長直々に戦力外通告されたようなモンで堪えてると思ってたが……

 或いはそんな余裕すらないくれぇ消耗してるか、だな。

 

「体調はどうだ? 好調って事もないんだろうが……」

「心配してくれてありがとうございます。でも今はずっと気が楽なんです、少なくとも床に伏せってるよりは」

「薄暗ぇ部屋で病に倒れてたら気も滅入っちまうよな……だいぶ巻きで来たが平気そうだ」

 

 こうして見てると酷い重病人ってのが嘘みてぇだぜ。

 チャキチャキ歩く後ろ姿は初めて会ったあの時と何ら変わらず。

 抜き身の刃のような覇気も陰りはない。

 

「流石に日ノ本の総本山。爺ちゃん先生も名医だが江戸にはもっとすげぇ医者が何人もいる……今じゃ外つ国の医療技術も凄まじい早さで広まってるしな。案外ケロッと治っちまったりして」

「そしたらお祝いしなきゃな、沖田は食いたいモノあるか?」

「いや別に……皆で行けるなら何でも良いんですがね」

「なんだつまんない。どうせ出雲の奢りだから遠慮なんか要らないんだぞ」

「聞こえてっぞテメー、お前だけ自分で出させるからな」

 

 まぁー別に構わないんだけどな。

 最近商売の調子が良過ぎて困ってるくらいなんだ。

 大阪やここ江戸に開かれた競鶏場からのアガリも滞りなく届いている。

 

 新撰組という組織の運営費は常に火の車だが、俺自身の懐は潤ってる。びしょびしょだ。

 隊士全員に高級鰻重なんか出したところでちっとも痛くないくらいにな。

 だから遠慮なんかせずにワガママを言って欲しいのが本音なんだが……

 元々我の薄い奴だからな、急には浮かばんか。

 しかし快復した先を考えておくというのは良い、少なくとも悪い未来を思い描くよりずっと良いさ。

 沖田の病気も治って、なんかよく分からんが誰も死なずに倒幕派に完勝。

 有り得なくは無いだろ……何事も前向きに行こうや。

 

「未来を見据えることは大切だ、どんな時でもポジティブハート」

「ポジ……?」

「ほっときな沖田。コイツは私らが外つ国語が分からんのを良いことに煽ってくるぞ」

「マジですか、見損ないましたよ」

「勉強しろ、藤堂を見習え……野郎、辞める直前俺に英語習いに来たぞ」

 

 二ヶ月くらいで最低限日常会話出来るくらい習得していきやがった。

 この向上心が他の隊士にもありゃなぁ……

 きっとこれから訪れる英国、米国、仏国人とのやり取りも楽になるだろうに。

 

「というか出雲、他も使えるんだっけ?」

「蘭語、清語、英語……最近仏語も分かるようになってきた」

「マメですねぇ……」

「言葉が使えなくて商機を逃すなんて許されねぇ。前皆でやった冥土喫茶は意外と外国人にも人気があったしな……わざとらしいくらい古典的な様式が逆に物珍しかったらしい」

「私ら日本人も平安に建てられた寺とか有り難るし似たようなモンかね?」

 

 何にせよ俺にとっちゃ好都合だ。

 何せ地元民……意味としてはともかく、現地の人間のお墨付きだ。

 異国情緒はまだ稼げる余地のある新雪の野、大事に育てていくぜ。

 

「さぁて、ちと早いが沖田の預り主のとこ行くか。俺のダチでな、こっちの競鶏を仕切ってる」

「面白そうだね、私も見物したら……流石に兄貴んとこ顔出すか……」

「そういや江戸住みだったか。良いんじゃねぇの? 何なら二、三日行ってこいよ」

「やだよ、そんなに目を離したら出雲が取られちゃうじゃないか」

「お前は何を言ってるんだ」

「いや、要りませんけど」

「正論だが言い方があるだろ沖田ァ……」

 

 面白くなかったので指先で脳天を突く。

 左衛門が扱うような武道には局部鍛錬という言葉がある。

 身体の一部を繰り返しイジメにイジメ抜き……破壊と再生の後強化する。

 俺の人差し指もまた、膨大な計算を算盤でこなし鍛え抜かれた玉鋼の指よ。

 

「ぎゃあああ!? 頭蓋が凹む……!」

「本気でやってねぇから安心しろ、果物くれぇなら抉り抜くぜ」

「私が言えた事じゃないけどどういう身体してるのホント……」

「知らん、何せ出雲ノ神の……ん?」

 

 通りがかりの宿屋が燃えてやがる!!!

 火事と喧嘩は江戸の華……なんて言われる程の江戸の日常。

 少し離れていても熱を感じる程の大火事……こりゃ相当危険だ。

 ……いつだかの地元を思い出すぜ。

 

『火消しはまだか!? まだ中に人が……』

「! 出雲!?」

 

 消化用の桶から水を被り燃え盛る建物に突っ込んでいく。

 聞いちまったらよぉ、やるしかねぇだろ。

 突入してすぐに荒れ狂う炎に晒されて顔を顰める……だが、この程度なら。

 一拍置いて再度轟音。

 俺に続いて誰かが入ってきたらしい。

 

「何だアンタ!? 危ねぇぞ!」

「そういう君も先んじて入ったろう? ここは広い、ここは僕が探すから上を頼む」

「……なるほど、心意気やヨシ。 死ぬなよオッサン!」

 

 階段を駆け上がり、燃える襖を吹っ飛ばしながら生存者を探す。

 一部屋、二部屋、三部屋……

 今のところ息のある者は見当たらない。

 

「誰かいねぇか! 誰か……!?」

 

 そして見てしまった。覆い被さるように倒れる母親とその下で息を潜める子供が三人。

 まじぃ、そういや今の俺隻腕だった。

 一度に運べるのは一人……

 建物の延焼具合からして、往復する時間はない。

 ……此方に気付いた幼子と目が合う。

 

「大丈夫だ、今助けに来たぜ……!」

「熱い……!」

 

 建物の構造を確認、突入角からして向こう側が表か。

 一か八かにゃなるが、やってみる価値はあるだろ……!

 

 窓を開け切れば子供は通せるはず。

 子供三人を誘導しつつ、母親も近くに寝かせる。

 ガキの体力じゃ長くは持たない、だから最短最速で降りるのみ。

 

「良いかチビ共、おじちゃんを信じろ!」

「「「へぁ!?」」」

 

 抱え上げた子供を窓から宙に放り投げた。

 一人二人三人、しっかりと角度と高度を調整して高く高く。

 続いて母親を背負い……俺らはここを通れない、だから押し通る。

 急加速して吶喊、巨体の大質量を以て焼けた壁をぶち抜く!

 飛び出した瞬間大量の空気を取り込んだ火が爆発的に膨張。

 宿は跡形もなく木っ端微塵に。

 

 そのまま地面に落下……寸前で自分の身体を挟み込み衝撃を吸収。

 即座に母親を手放し、降下してくる子供を見上げる。

 

「琴!」

「応!」

 

 一人目を下に控えていた琴が回収、続いて二人目は俺が受け止め……あ、ヤバい。着地地点がズレてる。

 高く投げ過ぎた三人目の子供があらぬ方向へと落ちていく。

 抱えた子供を急いで下ろし、走るが不味い、向かいの屋根に落ちる!

 

「屈んで下さい!」

「!?」

 

 突然の言葉に弾かれたように身体を縮こませる。

 屈んでなお四尺はあろうという巨躯を踏み台とし、沖田が跳ねる。

 新撰組で最も身軽な剣士であろう彼女の身のこなしは病に侵されて尚、健在。

 空中で子供を確と掴むと衝撃を与えぬよう緩やかに着地した。

 

「……良くやった!」

「世話が焼けるんですから……コホッ……」

 

 唇の端から無理の代償として流しながら、新撰組は江戸での活動を見事成功させたのだった。

 

 

 

 

 

 

「あー……流石に受け身なしで着地すっと身体が痛いぜ……」

「アンタも無理するから……とりあえず沖田は寝かせてきたからね」

「助かる。今の沖田があんだけ動いたんじゃ相当身体にキテるだろ……行くのは明日だな」

 

 一先ず予定していた宿へと退避。

 骨が少し軋んだ、痛ぇ……

 金棒や木刀で殴られるのは日常だが、自由落下ってのは自分の体重がモロに来るからな。

 三俵を超える俺からしたら相当な破壊力だ。

 まぁ、後に残る怪我でもなし。

 親子四人揃って無事、一階の方でもオッサンが数人助けたらしいが……名乗るでもなく去ってしまったという。

 

 俺? めちゃくちゃ売名した。

 いや嘘だけど、流石にここで名前を広めるのは無茶だ……

 

()()様。お客様がお見えです」

「客だぁ? 別に誰も呼んじゃいないぞ」

「見れば分かるからとにかく呼んでくれとの事で、壮年の男性でした」

「心当たりねぇ〜……まぁ良いか、ちょっと沖田ん事見といてくれ」

「任された。流石の私でもそれくらいなら大丈夫だぞ」

「ヤバくなったら女将に言って近くの医者を呼べ……」

 

 一体どこの誰だ……?

 そもそも泊まる宿についてはだれも知らないはずだ。

 名前だって当然偽名、今俺らが江戸に居ることは新撰組でも幹部しか知らん。

 俺も沖田も琴も立場が立場、攘夷志士だらけの江戸じゃ羽織も着れねぇ。

 情報が漏れねぇようにそこそこ気を配っちゃいるんだが……

 

「やぁ」

「あ、あんときのオッサンか。無事だったか」

「不幸中の幸いかな……きみの方も随分とご活躍だったそうで」

「まぁな……にしてもなんでここが分かった?」

「色々ツテがあるのさ……良ければ話したい。新撰組組長の、秋無出雲くん?」

「……ほう、随分優秀なツテなんだな」

 

 バレテーラ。

 

「だったら良い店教えてくれ、アンタ地元の人間だろ?」

「……言っといて何だけど随分冷静だね君」

「わざわざ言い当てといて襲うでもなく正面から訪問してきたんだ。少なくとも敵意はないって考えるのが自然だろうよ……なにより殺し屋が()()()()刀なんぞで押し入ってくるかい」

 

 男の鯉口は縄で十時に固定されている。

 あれではどうやっても抜けまい、他の武装があるでもなしに。

 歩き方は確かに剣士のそれではあるが、随分と鈍った印象を……

 少なくとも俺らのように日々人を切って生きる者ではない。

 

「……なるほど、良く人を見ている。評判通りというワケだ。」

「こっちの素性は割れてんだ、アンタも名乗りくらい頼むぜ」

 

 俺の予想、多分偉い人。

 見ろよあの前髪。相当な身分じゃなきゃ許されない跳ね方だぜ……

 いや、どういうくせっ毛? 近藤さん並だぞ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだね、まずはお互いを知るところから始めようか。僕は勝海舟__君たちの一応上司……なのかな?」

 

 




死にかけ沖田(死にかけ)

勝海舟も出たので話の畳み方まで見通せてきたかな……
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