浅葱の影   作:CATARINA

3 / 68
壬生狼との出会いから


こマ? ガラが悪過ぎるだろ……

 いざ来たぜ、壬生村。

 

「やれぇー! 殺せー!」

「お前に全額賭けてんだ! 負けんじゃねぇぞ!」

 

 うーん、乱世乱世。

 コイツら頭おかしいのか?

 

 半裸にひん剥いたボロボロの男二人。

 栄養状態も悪そうでなるほど、何処ぞの脱藩浪人か。

 それに木刀を持たせて殺し合いをさせ、それを囲んで酒盛りをしている。

 最悪も最悪である。

 かの戦国時代に悪逆の限りを尽くしたと伝え聞く三悪の梟雄、松永久秀でさえここまではやらんだろうに。

 

 暫く遠巻きに観察していると良い振りが入り、食らった方はゆっくりと地に倒れ伏した。

 ありゃ助からんな、恐らくは首の骨が折れたか。

 そして肩で息をしつつ人を殺めた罪悪感からか震える浪人を、浪士組の一人が刺殺した。

 聞こえる声から推測するに、負けた方に金を賭けていた腹いせのようだ。

 何なのコイツら、人の心とかないんか?

 えーマジで話しかけ難いんだけど、助けて左衛門。

 (あいにくそこにおりませんで……)

 だよね。心の中で突っ込まれてしまった。

 仕方ない、商人は度胸!

 

「ああ? 何だァテメェ?」

「ええどうも、俺ァこの京でケチな商売やらせて貰ってます秋無と申します」

「商人? 商人がこんな所に何しに来た」

「いやさ、何でも将軍様のご上洛が為、浪士組の皆々様がここ壬生に滞在しているとお聞きしましてね。京のチンケな商売人なんざ内府様にお目通りする機会もないモンで。ちょいと御用聞きなどさせて頂けないかと遥々やって参りまして」

 

 滅茶苦茶睨まれてるわ。

 いや俺も多分同じ立場なら訝しげに見るし仕方ないんだけどさ。

 

「必要ねぇ、帰りな」

「さようで、ならば去る前に中澤殿にご挨拶させて頂きたく」

「中澤に?」

 

 ん?流れ変わったな。

 

「アンタ、中澤とどういう……『お、来たかい出雲!』

「中澤殿、一昨日ぶりだ」

「何だ今更畏まって水臭い。同い歳だし琴で良いって言ったろ?」

「……そりゃ助かる。早速悪いが素行悪過ぎだろこの集団、不逞浪士の集まり?」

「江戸の方で腕が立つなら身分や素性は問わない、って集められたからねぇ」

 

 それ体良く追い出されたのでは。

 将軍様のご上洛を口実に不穏因子を京に打ち捨てたんじゃないか。

 失敗したかもしれん、そりゃ多少素行が悪いのは覚悟してたよ。宿が取れなかったからって街道に大焚火するような気狂い集団とは聞いていたけども。

 それにしたってここまでのイカれに、捨てられた犬コロのような立場とは。

 

「正直見たとこ商売がどうとか言える感じじゃあないぞ」

「コイツら三下の事は一先ず無視しな。浪士取締役付きの芹沢か、実質的に今の三番隊を率いてる近藤辺りなら話も通じる筈さ」

「それなら良いんだがな……」

「因みに宿取るのに失敗したのが近藤、大篝火したのが芹沢ね」

 

 駄目じゃん。

 とはいえ責任者がいるなら話は早い。

 ____が、このまま立ち去るワケにもいかないか。

 明らかな敵意、それを感じ取れない程鈍くはない。

 

「琴、悪いが先に話を通して貰えないか、どちらでも良い。俺ァ此方の方々と少し話がある」

「? そうかい? まぁ確かに都合良く空いてるとも限らないし良いけど……」

 

 首を傾げながら村外れへと消えていく琴をみやり、改めて先の浪人と対面する。

 最初此方に向けていた猜疑心は今や敵意に、ともすれば殺意に変貌していた。

 このまま立ち去ったら帰る時か何処か、油断した所で切りかかって来そうだな……

 そう直感し、先手を打った。明らかに害意のある視線を見れば判断が正しかった事は一目瞭然。

 

「さっきから随分と此方を睨んでいるが、一体何の御用で?」

「お前、中澤と何の関係だ?」

「何の関係でもねぇよ。道で会って酒を奢っただけだ、俺としちゃ余計な揉め事は抱えたかない。アンタが今、一体何を腹に据えかねてんのかは知らないが引いてくんねぇか?」

「断る」

 

 まぁここまで来たら引かないわな。

 とはいえ俺も揉め事は避けたいのだ。

 増してやこれからお得意になるかもしれない組織の人間。

 どうにか丸く収まる方法を……

 

「まぁまぁ、せめてその殺気の理由を教えてくんな。話もできやしない」

「お前を疑っている。上手く口で騙して我ら浪士組を嵌めようとしているのではないか?」

「滅茶苦茶な理由だな……それで切られちゃ堪らん」

 

 恐らくだが、これは建前。

 何かと適当な理由を付けて俺を脅したいんだろう。

 侍が商人を脅す理由なんて大体一つだけどな。

 

 男は刀を抜き、切っ先を此方に向けて嫌らしく笑う。

 体格は悪くない。俺は素人だが、多分剣術の心得もあるんだろうな。

 

「有り金置いて命乞いしろ。額によっちゃ生かしてやれるぞ?」

「ありがちだな……侍ってのは単純な生き物で羨ましいよ」

 

 やっぱりか。

 そうだよなぁ、欲しいよな、金。

 こんなチンピラ集団じゃ、纏まった金を持てるワケもなく。

 金が入ればすぐに使い切り、入り用ならそこらから徴収する。

 実にらしい、大雑把でくだらない生き方だ。

 

「侍ってのはいつもそうだよな」

「あぁ?」

「その腰のモンを光らせりゃ商人(俺たち)が何でも言う事を聞くと思ってやがる。自分たちだけが……自分たちは許されるとさえ思い込んでやがる」

 

 気に食わねぇ。 全くもって気に食わねぇんだよ。

 

「何の代償も支払わずこの秋無から上前はねようってか?ソイツはあんまりにも都合が良過ぎるってモンだろうが。いつだって何処だって、儲け話とくりゃ火の中水の中。海の向こう、或いは糞みてぇな戦場にだって行く。此方も命張ってんだ、そんなナマクラで脅せると思うな。ガキ」

「…………」

 

 湧き上がる怒りのあまり、男の顔は紅潮し瞳から輝きは失われる。

 ギリリと歯軋りを鳴らす音が此方に聞こえてくるようだ。

 明確な殺意。誇りを損なわれた侍崩れからすれば、この生意気な商人は最早殺すしかない。

 多くの浪人が携帯する打刀と違い、合戦で扱うような太刀。それを天高く構えている。

 所謂大上段、余程自信があるのだろう。

 

「……先の言葉訂正する、お前を殺さなきゃならなくなった」

「そうかい、面子ってのは厄介だよな。ここまで虚仮にされた挙句五体満足で見逃した__なんて仲間に見られちゃもう生きていけん。恥ずかしくて死んじまわぁ」

 

 一周回って頭が冷えてきたのだろう。

 言葉遣いがやけに丁寧になる、たまにあるよなそういう事。

 

「我が名は〜〜〜〜……生国は東北が会津なれど薩摩が流れ者に師事してきた。故に我が太刀は大上段より一撃にてお前を「あらよっと」……は?」

 

 甲高い音三回と共に男の右手首が吹き飛ぶ。

 周りも驚き二人をまじまじ見直せば、商人の男は既に短銃をしまい込むところで。

 あらら、もう刀は握れねぇだろうな。

 

「ひぃ!? う、腕が!? 僕の腕が!?!?!?」

「悪い、話があんまり長いんで撃っちまった。人を待たせてるしな。」

 

 というか君、素の口調だと僕なんだね。

 いや分かるよ、舐められそうだもんなぁ。

 でもよぉ油断し過ぎじゃねえか?

 俺ァ別に侍でも外つ国の騎士様でもねぇんだよ。

 商人だ、俺は俺が生き残る方に……有利な方に賭けてんだ。

 何が悲しくて喧嘩の強いお前らと真正面からやるかね。時代を考えろ。

 

 早抜きには絶対の自信がある。

 昔横浜の異人商へ買い付けに行ってな。

 そん時ゃまだ異人が今以上に珍しいんで……やはり皆対応に困ってな。

 俺も俺で一先ずしたい取引が済んだんで帰ろうかと思ってたんだが。

 言葉も通じぬ異国の地で迷ったのか、随分困った様子の異人の男が居てな。

 放っておいても良かったが、俺はお節介焼き。どうも見てられん。

 たどたどしい蘭語で話し掛けたら全然通じなかった。

 とはいえそこはまぁ、アレよ。

 感受性と気合、そして相手と会話しようという意志!

 暫く雰囲気で話して気のいい奴なのは理解したし、折角こんな遠い国まで来てくれた異人さんに楽しんで欲しかったんで花街に直行。二人で天地がひっくり返るまで飲んだ。

 そしたら次の日奴の元締めらしい提督さんがバチ切れしながら見付けてくれた。

 後で知ったんだが遠く海の向こう、あめりかの軍人だったらしい。

 ハチャメチャに怒られて……俺も左衛門に結構苦言を呈されたが……

 そん時に仲良くなって奴に託された拳銃だ。

 

 今となっちゃ少しばかり型落ちの銃だが、銃身を切り詰めて隠し持つには十分。

 そもそも商人が巻き込まれる規模の争いで六発以上撃つこともそうあるまい。

 ……そういや俺、三発撃ったんだが。

 一発は腕、もう一つは刀。あと一発は何処に?

 

「おい誰か! 流れ弾を食らった奴はいないか!?」

 

 銃身の切り詰めと速射優先の撃ち方はこれが怖い。

 あらぬ方向に飛散した弾が他者を傷付けかねないのだ。

 咄嗟に射線とか考えてる余裕もなかったしな。

 

 銃身が向いていた方向を見れば、ガタイの良い優男。

 そしてそれを庇うように若い剣士が抜刀した状態で立っていた。

 よく見ると背後の壁に弾痕が残っている。

 まさか弾を空中で切ったってのか。そりゃ一体どんな腕前なんだい。

 とはいえ、幸い怪我人はいないようだ。良かった良かった。

 

「危険な真似をしてすまない、そしてアンタ。助かったよ、名は____」

「止めろ総司!!!!!」

 

 あ?

 その瞬間__まさに、瞬き一つの間。

 抜刀していた剣士の姿が眩み、目の前に現れる。

 速い、というよりも迅い。

 

 咄嗟に仰け反って背中から倒れる。

 情けなく転がる俺の眼前を刀身が貫いた。

 避けられたのは偶然だ。

 丁度虫けらが人の初撃を避けたような、そんな幸運。

 

 そのまま脚で地を蹴り、弾くようにして起き上がりつつ二発発砲。

 今度は標的を違うことなく放たれた弾丸は真っ直ぐ剣士に向かい、呆気なく切り落とされた。

 マジで言ってる??? 貸本屋で読んだ御伽噺かよ!?

 

 今ので五発。この銃の装填数は六発で、再装填にはとんでもない手間がかかる。

 武器の有利は最早ないようなモノ。だが、やるしかない。

 

 すぐさま羽織を脱ぎ、広がるようにして二人の間に投げる。

 一瞬視界が切れ、僅かに思考する時間を稼ぐ。

 景気よく引き裂かれていく上物の羽織。クソ、安かないんだぞ。

 俺が選んだのはやはり蹴り。但しただの蹴りに非ず。

 両足を踏み切って跳躍、そのまま揃えて突き出す飛び蹴り。

 

「俺の体重凡そ三俵。食らって無事な奴ァ居ねぇよ!」

「ッ……!」

「うおっ……クソ!!!」

 

 確かに命中した、命中したが感触が軽い。

 当たる直前に後ろに跳ばれた、アレでは威力は半減以下。

 更に引き際に俺の脚に刃を掠め引いて行きやがった。

 傷は浅い、しかし出血と激痛は馬鹿にならない。

 「ここで決めなきゃ、男じゃねえだろ!!!」

 

 痛む脚を無視し、前へ踏み込む。

 向こうの方が体勢は崩れている。立ち上がるより俺が早い。

 丁度都合良く前屈みで居てくれるしな!

 胴体を挟むように抱え、上体を力いっぱい跳ね上がる。

 咄嗟に刃を脇腹に突き刺して止めようとするが無理無理。

 人斬り浪人共に会いに行くんだ、サラシくらい巻いてる。

 刃を防ぐ事は叶わずとも、威力を減じ、臟が飛び出すのくらいは防ぐ。

 

 剣士の身体が宙に浮き、乗り上げるような形で目が合う。

 宙に浮いた以上完全に身体の制御は奪われている。

 だというのにこの剣士の目は__まるで死んじゃいない。

 太腿で俺の首を挟み、そのまま捻じ切ろうと力を掛けてきた。

 だが、遅い。

 

『Good、goodネイズモ。このpositionに入ったラもう勝ちハvery easyヨ。』

 

 ダチが教えてくれた、俺の体格を最大限活かした技。

 

「!? ちょっと待っ____

「直伝! パワーボムッ!!!」

 

 脚を掴み、そのまま前に力いっぱい倒れ込む。

 七尺の身の丈と、三俵を超える質量。

 その全てで叩き付ける!

 

 ドッガォォォオンッッッ!!!!!!!

 

 砲撃のような衝撃と轟音。

 それが一組の人間から発せられたと一体誰が思うだろうか。

 炸裂した破壊力は壬生村全域を揺らすかのような幻覚さえ起こし。

 土煙の中、叩き付けられた格好で剣士は悶絶していた。

 これに驚いたのは秋無の方である。

 

 気絶すらしないか……!?

 最低でも()()()気で____ともすれば殺めても仕方ない。

 それ程までの覚悟を持った一撃だった。

 そのまま懐から再度拳銃を取り出し、剣士の額に突きつける。 

 

「ハァ……ハァッ……クソ、痛ぇな畜生……!」

「……早く殺したらどうですか?」

「あぁ?」

『止めろ!双方止めるんだ!』

 

 視界の端から誰かが駆け込んでくるのが見える。

 

「早くしないと止められますよ、そうなれば貴方に勝ち目はない」

「……どういう価値基準なんだよ、お前は」

 

 ああ全く……

 よく見りゃコイツ、女子じゃねぇか。それに俺よかずっと若い。

 左衛門とさして変わりやしねぇ……

 だというのにこうもあっさり命を諦めるかよ。

 

「それとも撃てないんですか? 他人から剣を奪う事は出来ても命までは奪えないと」

「……舐めんな」

 

 撃鉄は既に起きている。

 後は引鉄を引くだけで、この女剣士は脳漿をぶち撒けた死体になるだろう。

 

 

 

 

 

 俺は______

 

 

 

 銃を天に向かって放ち、快音だけを響かせた。

 正真正銘弾は空、万策尽きた。

 

「……何故です?」

「俺ァ、商人だ。(お前ら)と一緒にするんじゃねぇ……!」

 

 絞められた事による酸欠、パワーボムの反動。

 何より出血が限界で。

 俺はそのまま意識を手放した。

 




戦闘スタイルは銃撃とプロレス技。
その都合時々横文字が出てきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。