ぐだぐだフィルターまるで機能してなくて笑ってしまう。
ちびノブがいて本当に良かったよ……
「いやぁ、久しぶりだなマスターちゃん。背ェ伸びた?」
「……あー、初めまして?」
「親戚のおじさんですか貴方は、それに初対面ですよね?」
「ん……まぁそうだな、よく考えたら初めましてだった」
あまりにコテコテなボケに全員転びそうになる。
「改めまして。姓は秋無、名は出雲。昔は新撰組で金庫番なんかやってた者だ」
「仁義切りやめましょうよ、ただでさえ顔がカタギじゃないのに」
「慣れてんだよ……ま、気軽に組長とでも呼んでくれ」
「やっぱりヤクザなんじゃ……」
「うーんやっぱし辛辣だねマスターちゃん……」
傷付くぜ、慣れてるけど。
沖田に彦斎、其方は織田信長と。
まぁ俺の方は前に会ってるんだけどね。
「アレ意外と反応薄い? 歴史の超有名人物がまさかの美少女じゃけど?」
「沖田も彦斎も同じだろうが……別に驚きやしねえよ……」
世界の半分は女で……いや、このモノローグは前にやったな。かさ増しだと思われたらヤバいからやめとこ。
「まぁそっちの穀潰しの飼い主で……そこのバカタレ共々世話になってるな」
「穀潰し……」
「あの、私たちの扱い雑じゃありません? 感動の再会とか期待してたんですけど」
「こんなモンで十分だよお前らじゃ……さて、お前ら。ここに来てどんくらいだ?」
「どんくらいって……今まさに来たばっかりだけど」
なるほどねぇ。
それじゃなるほどさぞ驚いたろうな、この江戸の惨状に。
「俺は一応、ざっくり一年くれぇここに居る。その上で分かってる事を共有しようと思うが……」
「助かります、組長さん」
「おうよ……さて、まずは此処について話すか……」
京都の田舎者でも流石に知ってる、言わずと知れた江戸の名所……
俺も琴と来たことくらいはある。仲見世の食いもんを全て制覇すると息巻いてたり……
そんな観光地は今や元攘夷志士共の溜まり場だ。
言うほど数は残っていないがね。
かつての凡そ一割ちょい程度だろうか?
辺り一帯は見ての通り焼け野原……化け物を蘇らせる黒い雨に消えない炎。
戦うすべを持たない者は大抵がここや江戸城の周辺……
一部僅かに戦火を免れた極々限られたエリアで生き延びている。
ざっくり元幕府軍は江戸城、元攘夷軍は浅草寺……という具合だ。
江戸全体の人口も大体同じようなモンで、十人に九人は死んだろうな……
「ほんの僅かだが残骸に住み着いてるようなのも居る……とはいえ、毎日何百と死んでばかりだろうが」
「この状況でもか?」
「……集団に馴染めねぇ者ってのは何処にでも居るもんさ」
「……食料や物資はどうしてるの?」
「瓦礫から拾ってきたり……戦える者が外から探してくるのが殆どだ。それもウチの業務……は、後から説明する」
「一面焼け野原といっても、外へ逃げる事くらいは可能なのでは?」
「ま、見た方が早えわな。着いてこい」
四人を手招きして誘い、敷地内の五重塔へ誘導する。
立派な塔だが今はここで尤も重要な見張り台。
精々数十m程度の塔がその役目を果たしちまうんだから嫌な話だ。
「ういうい、悪いけど上がって良い?」
「秋無殿! 勿論です、して妖討伐の首尾は?」
「ああ、近付いてたのはクソッタレの蝙蝠野郎だ。ありゃ索敵範囲が広いからな……探索部隊は今のところ会敵してなさそうかい?」
「お陰様で……秋無組の皆様が提供してくれた奴らの巡回経路図無くばとうに餓死者が出ていたかと」
「ある程度気まぐれの差はあるし、時にイレギュラーに動く事もある。用心はしとけよ」
「は!」
奇妙なモンだよなぁ。
ちょっと前まで殺し合ってた攘夷志士共が俺に頭を下げてやがる。
ここに来てプライドを捨てられないような奴はとっくに死んだから、当たり前か。
五重塔を登り、最上階へ。
はァ……これが江戸なんて信じたくねえよな。
「どうだいマスター、コイツが今の江戸だ。観光は出来なそうで申し訳ねえが……」
「……酷い」
「一面……殆ど何も無いじゃないですか……!? 一体何が……」
「見ろよ。重要なのは奥だ、ずーっと奥な。武蔵国の方も、西方も、海の上すら……分かるか?」
「……嘘でしょ。全部、燃えてる」
そ。
ぐるっと江戸を囲うように消えねえ炎が囲んでやがる。
あの向こうがどうなってるのかは知らねえ、とっくに全部焼けちまってるかもしれないが。
何せ生きて帰った奴がいない。海の上まで燃えてやがるんだぜ?
何処にも逃げ場はねえ地獄ってのが江戸の今さ。
「消えない炎、晴れない空、降りしきる黒い雨……地獄だってもっとパッとしてら」
「…………こんな事を聞くのも、何じゃが。一体、何があったらこうなる?」
「そればっかりは俺も人づてに聞いた事になっちまうが……攘夷軍と幕府軍の話を擦り合わせるとして……まずこの世界ってのはどうやら根本的に失敗したらしい」
「失敗?」
「……防げなかったんだよ、大戦。緊張の糸が弾けてパァン! ……終わりだ。幕府と志士共は江戸でぶつかり合い、何千何万を巻き込んで殺し殺されの大惨事、見事両軍壊滅と」
「……それだけで、こうはならない」
「うん、まぁ、そういう事だ。あの化け物共に、雨と炎……色々おかしいだろ? 悪いがそれも後で纏めて話す」
「重要そうなとこは何でも先送りじゃの~」
「許されよ、魔王殿。ここじゃ人目もある、重要な事を話す訳にも行かねえのさ」
んーまだ時間かかっかなぁ。
本来ならマスターちゃんらを紹介しねえといけないんだが、奴も忙しいからなぁ。
塔を降りて雑談を交えながら本堂へ赴く。
「……聞いてなかったけど組長さん」
「ん、答えられる範囲なら何なりと」
「あの沢山のちびノブたちは何だったの?」
思い起こされる先の光景。
数機のノブ戦車にノブUFO、何時だかみた黒羽織のちびノブまで……
それだけでなく、浅草寺の一角には数十程のちびノブが控えているのが見えた。
信長が露骨に嫌そうな顔をしていたので間違いない。
「俺の部下。気付いたら増えに増えて……総合なら百と半ばくれぇ?」
「多過ぎじゃろ、なんでそんな事に……」
「知らん、この世界に来て直ぐに何匹が付いててな……気付いたら増えてた」
「よく統率出来ますね……」
「ちゃんとした雇用制度を定めて日当金平糖二つで雇ってるからな。ノブUFOとか戦車とかの特殊技能持ちは手当有、労災の対応実績もあって年休は115日(シフト制)+有給。装備支給で資格取得補助制度もある」
「生々しい労働条件だ……」
「金平糖って……下手したらこの世界じゃ金より手に入りにくいんじゃ……」
「降るだろ黒い雨、アレは結構な魔力を宿しててな……降る度に溜めて例の消えない炎で煮詰めて……」
「何に使っとるんじゃこのバカタレは」
考案したのはちびノブの一体なんだけどな……
鉄人ノッブを自称する調理担当のちびノブだ。
そうして出来上がった結晶をお茶ノッブが着色、加工し、ノブギョーが分配する。
今のところトラブルは起きていないので大丈夫だと思うんだが……
ん、どうしたノブギョー。
「ん? マスター達もウチの組に入りたいノブ?」
「……いや別にそういう訳じゃ……」
「ウチは基本給金平糖二つからスタートッブ、技能給も別にあるッブよ」
「無駄に凝ってるの……」
「良かったら一つ食べてみると良いノブ!」
そう言ってマスターに手渡したのは虹色の結晶体。
煮詰めて残った高純度な魔力を固め、視覚で楽しめるように鮮やかに彩る。
多数の角を持つ金平糖はそれこそ口内に刺さるのでご用心。
口に入れればほんのり甘く、ちびノブ達には大人気。
まって「マスター」
「うわ誰だ今の!?」
「いやおかしいおかしいおかしい、これアレじゃろ、ガチャの……」
「……すいません、面接お願いしたいんですけど」「マスター!?」
「ふむ……何か資格とか免許はあるノブ?」
「大型免許持ってます」
「マーヴェラスノブ! 後で組長との稟議に持ち込むノブ!」
「……用心棒とか不要かしら?」
「残念ながら穀潰しを雇う余裕はない」
「…………穀潰し……」
実際用心棒としての仕事なんてほぼないようなもんだからな普段。
基本的に左衛門とか游雲のガキと遊んでたろお前。
別に良いのよ? 寧ろ業務外の子守りまでさせて悪いとは思うけどね?
「秋無、そっちがおまんの言ってた異邦人か?」
「お、仕事は良いのか? 俺が言うのもなんだが随分忙しいだろうに」
「少しばかり時間を取るくらい構わんや……何も無い所だが、休んで行ってくれ」
背後から秋無に声を掛ける者。
やけに親しげな声色と、周りの志士らが頭を下げている事から指導者のようなモノか。
しかし、あれ、よく見たら何処かで見た事あるような……
「…………貴方、以蔵じゃない」
「ん……おまん、ヒラクチのか……!? 確か死んだちゅー……否、さーばんとちゅう奴か、秋無同様に……なら、そこな新撰組の野良犬もさーばんという事でえいか?」
「大正解……あ、マスターにも紹介するぜ。此方今の攘夷軍を束ねてる岡田以蔵さん……まぁお前らも知ってるよな?」
「「「「……誰だよ!?!?!?」」」」
四者一様、回答が揃う。
確かに見た目は自分らの知る以蔵が僅かに歳を重ねた程度の……
然しながら、その雰囲気はまるで違う。
岡田以蔵というのはアレだ、クズでノロマで自信過剰でギャン厨の酒カスで……
少なくとも目の前のソレからは、社不のオーラが漂ってこないよう思える。
何があったのだ?
「ん……もしや、儂も召喚されとるんか」
「まぁー多分、こうならなかった方のな。昔と変わらねぇ頃だろうよ」
「得心が行うた。なるほどなるほど、確かにその頃の儂とじゃ比較にならんじゃろうよ」
「いやホント……何があったの?」
「何が、ねえ……」
「……ああ、辛えだろうから俺から言おう。この世界の根底にも関わる事だし」
一瞬で以蔵の目が曇り、僅かに遠くを見つめる。
そりゃ、奴にとっちゃ苦い思い出だろうよ。
「幕府と志士がやり合った、その話はしたよな?」
「ええ、私たちの未来でもその可能性はあった筈でしたが……」
「勝海舟やらが上手くやったワケだ、しかしこっちはそうならなかったらしい。その上この有様だ……幕府と志士どもが暫くやり合った頃か? どっからともなく化け物が現れた」
「それがさっきの?」
「ああ、今んとこ確認されてる五体……どいつも雑兵どもの手にゃ余る……とはいえそれだけならまだ良かったが……」
奴らは強い。一体一体が一騎当千といった具合だが、サーヴァント相当の戦力……つまり、さっきみたいに上手くハメりゃちびノブでも仕留めたり、足止めくらいは出来る。
幕府にも攘夷志士にも、サーヴァント相当の強者はそこそこいた。だからこそ何とかなるかもしれない……
そう思っちまったんだろうな。
最悪の時ってのは、常に悪い事が連なるモンだ。
「化け物どもに対抗出来たと思った瞬間、降ってきたらしい」
「……あの雨。倒した筈の化け物が蘇ったように復活してきた」
「雨だけじゃねえ、
お互い殆どの戦力を喪い後退。
気付けば朧日とやらは居なくなってたらしいが、炎と雨はそのまま。
蘇った化け物共も残されて、戦える奴だけが皆殺しと。
「……悪い、少し席を外して良えか?」
「悪かった。嫌な事思い出させちまったか」
「……すまん」
「…………攘夷側の被害は特に酷え、以蔵からしちゃダチも仲間も、自分らの上の奴らも皆やられちまったからな。」
「……ああ、だから」
「普段はあんなでも、やるしかなかった。それが今のヤツさ……優しくしてやってくれ」
向いてないなんて分かっていても、自分しかいないから。
自分しか頼れない者がいるという現実が、以蔵を今の姿にした。
「ま、こんなもんだ俺らの話は。暗い話になっちまったな、大丈夫?」
「……うん、大丈夫。凄く酷いってのはよく分かった」
「まさか江戸がこんな事になってるとは……結構色々見て回りたかったんですけどね……」
「何で観光気分なのよ貴方……」
「鉄道とか興味あったんですよ、秋無さんが京都から繋ぐ計画立ててたり……」
「せっかくもう一度舞い戻ったってのにそれどころじゃない、泣けるぜ……」
俺が死んでから三、四年くらい経過してるからなぁ……
生きてりゃ上手くいってそろそろ線路や車両の開発には成功してそう。
本当に惜しいなぁ、完成した暁にはどれだけ商いが加速したことか。
あと俺の知名度というか、認知もマシになるかね。
評判とかどうでも良いんだけどさ、後世でサブカルとギャンブルを司るって神社に祀られてるらしい。
……悪役扱いはともかく、そっちは流石に思うところあるぞ。何でだ……?
「ま、そりゃ良いや。マスター達はこの特異点を解決しに来た……その認識で良いか?」
「はい、と言っても何処から手を付けたら良いか……」
なるほどね。
確かに来て早々アレだし、この世界に分かりやすい王、親玉なんかが君臨してるわけでもない。
尤も俺ァ誰の差し金かは薄々感じ取ってんだがなぁ。
そうだな……とにかく動き出して身になることをするなら……
「マスター、一つ提案がある」
「何?」
「……ウチの業務についても、話しておこうと思ってな」
「「「ノブッ!」」」
連れ歩くちびノブ達が一斉に敬礼をした。
ふと思ったんだが、何故服も敬礼も独逸式なんだろうなコイツら。
勘定ノブギョー
何故か組長に着いてきた個体。
かつての京の記憶も保持しているようだが……?
通常時はノブギョーのみだが、必要な時には二体の勘定ノッブが分離する。
綺麗なイゾー(異聞の姿)
泉に落ちてしまった個体……というのは当然嘘。
仲間を喪い、たった一人で戦う間に成長せざるを得なかった男のifの姿。