浅葱の影   作:CATARINA

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少し短め


尽忠報国の士

 ……………………

 

「ん……」

「あ、目ぇ覚ました」

「……痛ってえ」

「当たり前だろ、切られたんだから……」

「琴か……どうなったんだ、俺は?」

 身体の感覚が鈍い。

 出血から未だに回復出来ていないのだろう。

 

「気絶してから二刻くらい? アンタが相打ちにもつれ込んだあの子、浪士組でも一、二を争う剣士なんだよ。それを素手でノしちゃったからこっちは大騒ぎよ」

「いや、俺の負けだろ」

 

 先に気絶したのは俺の方である。

 それに俺は最後の一撃を自ら外した。

 弾と共に勝ちを放棄したのだ。

 

「……決まったのは初見だったからに過ぎん。二度はない」

「まぁ、だろうね。それでも客観的に見て……勝ち名乗りを上げる権利くらいはアンタにあるよ」

「女子に勝った、それで何を勝ち誇るんだよ」

「お、差別か?」

「区別だよ、お前と違ってあの子は普通だ。体格で上回った俺が相討ちなら実質負けだろ?」

「ひどい」

 

 滅茶苦茶痛いがもう動ける。

 我ながら丈夫な身体に感謝だな。

 ふらふらと立ち上がり家から外に出れば先の喧騒が嘘のように静まり返っている。

 それでも数人の人影を見遣り、目当ての相手を捉えて隣にドカリと座り込む。

 

「……ああ、貴方ですか」

「元気そうだな、自信無くすぜ」

「空元気ですよ……正直今も転がり回りながら吐き戻しそうです」

 

 そりゃそうだ。

 自身の数倍はあろうかという大男の投げを食らったのだ。

 体格差を加味すれば、即死でもおかしくない。

 

「喧嘩で負けたのは初めてだ」

「奇遇ですね、私もです」

「なるほど、偶然ってのは怖ぇな」

 

 煙管に火を入れようとして、臓腑に傷を負っているかもしれない怪我人が隣に居ることを思い出して止める。手持ち無沙汰になってしまった煙管をくるくると回し、懐にしまい直す。

 

「……おや!これはこれは目が覚めたか」

「……?」

「芹沢鴨、今は一応私たちの隊長と言えるのでしょうか」

 

 なるほど話に聞いていた責任者。

 すぐさま立ち上がろうとするのを手で制される。

 

「ああいや、そのままで良い。傷が痛むだろう。にしても君は強いな、本当に商人かね。」

「それなりに修羅場は潜ってきたモンで。」

「素晴らしい、実に素晴らしい。君はまさにこの国を背負うに相応しい若者だな。」

「はぁ……」

 

 胡散臭ぇ〜!

 商人の俺にさえそう感じる髭面の巨漢、いやまぁ俺ほどじゃないが……

 

「君は商いに来たのだろう?無論、最初は歯牙にもかけなかったが……君の戦いぶりを見て気が変わったよ。君のような者と関わりを持てるなら寧ろ此方が金を払うべきところだ。」

「そりゃ有難いが……」

 

 ふと気になるのは俺が撃った男。

 腕が完全に千切れてしまっていた以上、最早剣は握れないだろうが……

 

「そういや、俺が撃った男は大丈夫だったのか?」

「ん、彼か? 問題ない、既に始末はつけてある。逆恨みで襲われるような事もないだろう」

「……殺したのか」

「我ら浪士組は尽忠報国の士、というのに一商人に因縁をつけて返り討ちにあったなどどう報告すれば良い?幕府の顔に泥を塗るような真似をした彼には去って貰う……当然だろう?」

 

 なるほど理には適っている。

 理に適っているが、正直なところ同意しかねる。

 確かに逆恨みされて襲撃するなど、やらぬとも限らぬ。

 とはいえ、その可能性があるだけで__殺そうとはならないのだ。

 侍と商人。その死生観の違いである。

 何より。

 

「勿体ねぇ事をした」

「何?」

「腕を撃ったのは失敗だったか。健康な若い男……人工として売りゃ二、三十両の価値はあった」

 

 人命もまた、重要な資産である。

 役に立たないならせめて資金になれ、それが俺の思う真実なのだ。

 

「……ハハハハハハハハ!!!」

「何です急に笑い出して」

「これが笑わずにいられるかね沖田君! いやぁ、実に愉快だ。君、本当に浪士組に来ないかね? 都合良く欠員も出たところだったんだ」

「お江戸の組織でしょう貴殿らは。俺ァ京の商人、いずれは江戸や横浜、大阪なんかにも店を出したいモンですが。ちょいと俺にはまだ早くてね。」

「ハハ、それがだね。ご上洛の終わりと共に我々は江戸に帰参する予定だったが……京の惨状を見て我々にはまだすべき事があると考えてな。尊皇攘夷派へと我らを変換しようとしていたが、志を共にした同胞と暫く留まることになった。君の力を借りられるなら尚良いのだが……」

 

 なるほど。

 幕府の組織だった浪士組を尊皇攘夷組織に変えようとは大胆な策だ。

 そりゃ反発も起きるだろう。

 

 俺の方に参加する利点はほぼない、皆無と言って良い。

 しかし、浪士組の狼藉は不逞浪士と大差ない。

 それを制御出来たら?

 自前の商売の保護、それにその他商会へ恩を売れる。

 これは大きい、この京でのし上がるにはあまりにオイシイ。

 

「……考えておく、今すぐという訳ではないんだろ」

「ああ、色良い返事を期待するよ。商売に関しては後で使いを出そう、浪士組への参加とは別として末永く付き合わせて貰えればと思う」

「感謝する、芹沢殿」

「さて、今日は帰ると良い。本来なら怪我をさせた君に見舞いを出すべきなのだろうが……」

「要らん要らん、その代わりウチの店を贔屓にしてくれ。それで釣りが出る」

「そうか……沖田君、お宅まで付き添ってやりなさい」

「えー……何で私が?」

「怪我させたのは自分だろうに……此方の秋無さんとは恐らく長い付き合いになる。今のうちにお互いの非を認め合って関係を修復しておく事だ」

 

 別に歩けない程酷い傷じゃないんだがな。寧ろ此方の剣士さんの方が重傷だろう。

 生まれが生まれだからか、治りも早い。 このくらいなら二三日で塞がる。

 

「秋無出雲だ、まぁ呼び方は好きにしてくれて構わん」

「はぁ……沖田総司です、宜しくお願い____アダダダダ!?」

 

 ぎこちなさげに手を差し出す沖田の手を握り返す、少し強めに。

 それはそれとして急に切りかかって来た事を許したワケではない。

 ガキめ、少し痛がると良い。

 

「ちょ! 手が砕ける! 折れちゃいます!?」

「加減は心得てる、へーきへーき」

 

 男女の差や鍛え方の差はあれど、人の身体がどの程度耐えられるかは良く知っている。

 何人ものやくざ者や浪人で試したから間違いない。

 

「ぎゃあああああああ!?」

「すまない、そこら辺で止めてはくれまいか」

「ん? アンタは確か……」

 

 さっき俺の流れ弾が当たりそうになった人。流れ弾が当たりそうになった人じゃないか。

 

「近藤勇、そこの総司とは昔馴染みでな……」

「なるほどアンタが近藤ね……さっきは悪かった、早撃ちは精度に欠けてな」

「いや、逸らさなくても当たりはしなかっただろう。ただ少し、総司は早合点なところがあって……私を害そうとしたと勘違いして貴方に切りかかったのだろう」

 

 勘違いで殺されちゃ堪らん、コイツめ。

 

「グゴゴゴゴゴゴゴ……」

「なるほどね、しかし考えても見て欲しい。俺ァ勘違いで殺されかけたんだぜ、腹と脚も切りつけられて、コイツは無傷で無罪放免ってのは……そりゃ通らないだろ?」

「……そう言われたら、確かに……?」

「近藤さん!? そこは諦めないで下さいよ早く助けて!? 可憐で儚い美少女剣士沖田さんの腕が危険なんですが!!!」

 

 あんな化け物じみた動きして何が可憐で儚いだコノヤロー。

 

 更に腕を捻り上げて肩と肘の関節にも苦痛を与える。

 さて、どのくらい持つかな。

 

「ンギャアアアアァァァァ!?!?!?」

 

 

 

 


 

 ふう、少しは気が晴れたかな。

 

「容赦ないねアンタ……」

「殺されかけたのをアレで済ましたんだぞ、だいぶ温情だろ」

 

 腕を捻り上げた沖田はその後完全に女を捨てた面と声で喚き散らし……

 最早送迎がどうとかいう段階ではなかったので代わりに琴が同行している。

 酷く痛めつけたが折ってないので相当手緩い方なのだ。

 終わった後に怪我させるのは流石に違うからな……

 

「というか、良いのかい? そりゃ頼んだのは私だけどさ」

「気にするな。それにああも啖呵切ったら戻れないだろ」

 

 壬生村を立つ時の話だが。

 

『あ、あと私、今日からここじゃなくてコイツの家に泊まるから』

『おいまて聞いてないぞ俺は』

『今初めて言ったし』

『もしかして会話を成立させる気がない?』

 

 近藤たちからは特に異論のなかったモノのごく一部……

 何人かの浪士からは連帯を崩すことを咎めるような叱責があり。

 琴はそれを『お前らの視線は精液臭いんだよッ!』と一蹴したのだった。

 

 いやまぁ、うん。

 同じ男として、多少なり彼らには同情する。

 この中澤琴という女、とんでもなくツラが良いのだ。

 今は男装なんかしているが、身長に目を瞑って普通に娘らしい格好して街に繰り出した暁には男女問わず倒れるんじゃないか。一昨日飲んでた時も女人だけの集団から声掛けられてたし。

 美人が男装したら美男子なのである、世の中は不平等だ。

 そんなのが閉鎖空間にいたら欲情くらいしても仕方ないというもの。

 ただ、それに反比例するように凄い口が悪いし、気が強い。

 得物を見れば一目瞭然だが、大半の男より腕っ節も勝っているときた。

 ともすればそれさえも男女を問わず惹かれる要素なのやもしれないが。

 

 実際男所帯で何かと思うところがあったのだろう。

 沖田? アレは……そうだね、アレは何だろうな。

 人でなしの何かというか。

 素直に女として見れる男は相当な大物だろう。

 極々短い関わりでもその異常性は嫌という程味わったからな。

 

 別に部屋も余ってるし。

 店を構えた直後は住み込みだったが、最近新居に移ったばかりである。

 春夏冬亭の方は左衛門に任せようと思っていてな。

 番頭から店主に更に格上げ……となりゃ、嫁くらい娶るだろ。

 その場合俺が邪魔になっちゃいかんし……多方向展開している俺は俺で仕事が立て込んでいるのでそろそろ春夏冬亭の自室じゃ手狭になりつつあった。良い機会だ。

 

「迷惑にならないか?」

「今更……この間飲み明かして俺の顔面に吐き散らす前に言ってくれたら尚良かった。」

「それは、すまん……」

「気にするなって……ほら飲みに行くぞ、どうせ俺に払わせるつもりだったろ?」

「……行く!」

 

 現金なヤツめ、まぁ良い。

 結果だけ見れば商談としちゃまずまず、ちと切られたがまだ許容範囲。

 わざわざ壬生村まで来たかいはあったというモノよ。

 

 

 

 

 

 

 

 




鴨さんのRPめちゃんこ難しいね……
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