浅葱の影   作:CATARINA

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ちびノブの真っ当な戦力化とかいう一部鯖の特技。



恐怖! 闇夜に蠢くちびノブ!

 江戸特異点、某所。

 

 生存者の拠点からある程度離れた所にそれは存在した。

 雀蜂、ヤクザ、チンピラ……新宿特異点から排斥された、時空の漂流者。

 異世界へと飛ばされた彼らはその多くがこの世界の化け物の餌食となり……

 僅かな生き残り達は寄り集まり、小さな集落を築いた。

 

 僅か十数名ながら……一応はボロボロの銃や装備で武装した集団、戦力はそれなり。

 何より時は幕末の末、近代兵器を持つ彼らの優位性は揺るぎない。

 焼け野原に見つけた辛うじて使える廃屋が彼らの城であった。

 

「……とうとう時は来た、明朝に近隣の寺を襲撃する」

「数は?」

「少ない。三十程……武装している者は数人といったところだ、造作もない」

「なら計画通りに……半分は正面、半分は裏から入り迅速に制圧する。抵抗するなら容赦なく殺せ……」

「このボロ屋ともおさらばか、愛着が湧いてきたんだが」

「ならお前は残れ、俺はゴメンだ……いつ化け物が湧いて出るか定かじゃねえ」

「冗談だろ……俺だってこんな地獄は嫌に決まってる」

 

 この世界に落とされてからの月日はそれぞれ違い、一年の者から数週間の者まで様々。

 しかし皆、この生活に嫌気が差しているところは共通であった。

 街で幅を利かせ、無辜の民を脅しまくって暮らしていたあの頃……かつての栄光が忘れられず。

 地獄の中で多少なりマトモな暮らしを求めて大きな賭けに出る事となる。

 

 賭け、とは言うものの相手自体は大したことがない。

 寧ろ問題となるのは制圧後……奪った拠点を解放すべく襲撃するだろう侍どもの方だ。

 制圧戦自体はロクな武装もない守備を蹴散らすのみ、その後は……

 

 酒や食い物、女……!

 かつては容易く手に入り、今や追憶の彼方にしか存在しないモノ。

 安全で雨風凌げる寝床、それを得るために何人の犠牲が出た事か……

 必ずやる、やり遂げるというその覚悟を以って再度気合いを入れ直し……

 

 

 

 突如一人の頭部が、弾けた。

 ドス黒い血と脳漿、骨片を撒き散らしてばたりと倒れた比較的歴の浅いチンピラ。

 それに気付くと同時に雀蜂やヤクザらが一斉に警戒態勢に入る……が、時既に遅し。

 

「ぎゃああ!?」

「ごぼえぁ!?」

「げほっ……!」

 

 薄暗い部屋、僅かな光源、奪われ。

 一人、また一人と屍へ姿を変えていく。

 恐慌状態の誰かがパニックで引鉄を引き、誤射で更に倒れ。

 その声さえも聞こえなくなるのに時間は掛からず。

 最古参の雀蜂リーダー、残るはたったの一人。

 

「チッ……なるほど、失敗か……」

 

 闇に紛れて蠢く何か、一体だけでないソレに取り囲まれていると理解し、失敗を悟る。

 ……都合良く話が進む時ってのは大抵……大抵上手くいかねぇんだよなぁ。

 ココ最近勢力の拡大といい、計画の流れの透明さといい、ホント……

 

「……来いよ! こちとら新宿の野良犬! タダじゃ死なねぇぞォ!!!」

 

 得体の知れない強襲者に対し、精一杯の虚勢、吠える。

 気配のする方へなけなしの弾丸を狂ったように撃ちまくり抵抗を。

 ヤケクソだなんだと笑われようとやらずにはいれられなかった。

 

『……ノッブ!』

「…………畜生……!」

 

 奇妙な鳴き声一つの後に額を撃ち抜かれ。

 倒れたところに無数の白刃が迫るのを緩やかに見た。

 一太刀、二太刀、命尽きるするその時まで止まぬ刃の雨。

 小さく鈍い刀身は即死させる事すら叶わず、最期の最期まで恥辱と苦悶、恐怖に苛まれながら雀蜂のリーダーが絶命したのは、一分も後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、上々上々」

「人の心とかないんですか?」

「志士どもよりずっと低俗な賊だからな、殺せど心はまるで痛まねえよ」

 

 簡単な指示しか出来ないちびノブ達。

 なら簡単な指示だけで動けるようにすれば良い。

 少し前から一帯で目撃されていた近代のチンピラ共……近隣の拠点からそれなりな被害が出ていた事もあり、組織だった集まりがある事は予想出来ていた。

 だから俺は一帯にありったけのちびノブを放ち、命じたのだ。

 

『ここから一里程の間に悪そうな奴らが居たら容赦なく始末しろ』と。

 ちびノブの戦闘力はサーヴァントがうっとおしく感じる程度……

 生身の人間ならそりゃあ抵抗のしようもないだろうさ。

 

 結果ロクでもない算段を立てていた雀蜂やゴロツキ共を一掃しつつ……それなりな装備の入荷に成功する。

 どれも傷付き、辛うじて動くといった具合だが……

 銃は不慣れな素人を英雄すら殺す兵へと変える。

 これを分配して各拠点にバラ撒けば自衛力があがり、その分他に戦力を投入出来る……

 

「任務を遂行したちびノブ達は臨時ボーナスの金平糖と有給を楽しんでる、誰も損は無い」

「だから奴ら無駄に凝ったリゾートチェアに寝転んどったのか」

「そういう事、いやあ本当に使えるなアンタの分身共は」

「……反応に困るんじゃが! あの見た目のをマトモに戦力に数えるのはお前らの時代の嗜みか?」

「ふむ、前例があるような……待った、当ててやろう。高杉の野郎だろ、奇兵隊のクソ共」

「何で分かるんじゃ……」

 

 アレが一番得意なやり口だもん。

 素人を訓練してゲリラ化した遊撃隊として運用するやつ。

 こっちとしちゃ普通の民との区別もつかねえから死ぬほど厄介なんだよな……

 奴らと違ってとりあえず殺して……とはいかないのが公権力側の悲しみだぜ。

 幸か不幸かモロ地元民の俺がいたのがツイてたところで。

 簡単によそ者が紛れられる程甘くねぇよ。

 

「実際かなり脅威なハズだ、気付いたら増えてて、兵科はやたら多く、一体一体は普通に常人なら対抗のしようもないくらいには強い……行動パターンがシンプルなのも、兵站が簡単と考えりゃプラスか」

「サーヴァントが面倒だと感じるくらいの戦闘力はちゃんとあるからなぁ」

「それよそれ、今まではある程度守りに入ってたがこっからは攻めていこう。少しでも防衛戦力を引き抜けるように今回回収した銃器は各拠点に振り分けて配備しておく」

 

 使い方は……都度教えれば何とかなるだろう。

 規模に応じて一〜三丁、マガジンの予備は一つ二つしかないが……

 それでも戦えない民が自衛するには十二分な火力だ。

 

「ノブギョー、各地拠点の様子はどうだ?」

「悪くないノブね、今のところ大きな襲撃も上がってないノブよ」

「今回の掃討作戦で北エリアの敵性存在……尤も、百鬼どもや死ねずの屍共はまだ跋扈してるが……他の世界からわざわざおいでなすった面々は無事に皆殺しという事だ」

 

 この世界の化け物共と違って雨が降ろうが別に甦ったりしねえからな。

 本格的に動き出す前に間引くだけ間引いとくに限るぜマジで……

 今回ばかりは流石の俺も戦力としてちゃんと戦わなきゃならん、サーヴァントだし。

 となればその間ウチの商会は司令塔を失っちまうワケだが……

 

「頼めるな、ノブギョー」

「はいノブ! 組長がいない間でも誰一人飢えさせたりしないッブよ!」

「当然……ちびノブ達に金平糖を支払うことも欠かさずにな、新しいちびノブが入ったら必ず雇用契約書にサインを……まぁ奴らは二行以上の文章は読めないんでアレだが……」

 

 体裁というやつだ。

 雇用主と労働者の関係にある以上、そこを明確にしなければ立ち行かない。

 特に斥候として極めて優れたノブUFOはもう少し欲しいところ……

 資格取得補助がある事を改めて伝えてちびノブらのやる気を底上げしなければ。

 

 見た目はこんなだが、一年間俺がここにきた時からずっと一緒の部下である。

 俺のやり方や思考をよく理解してるし、頭も悪かない。

 マトモに言語会話が成立しない並のちびノブよりはずっと他所とのコミュニケーションにも向くだろう。

 商会は民草の今の暮らしを最低限支える事が目的の組織だからな。

 

「ノッブ!!」「ノブノブ?」

「ああ、お前らも頼りにしてるぞ。ノブギョーを支えてやってくれ」

 

 少し小柄な勘定ノッブ達、ノブギョーと合わせてちびノブとしては珍しい内勤特化の個体たち。

 実に頼りになる自慢の部下だ……もう少し計算を早くしてくれっと嬉しいんだが。

 

 

 

「目下の目標は百鬼全員の殲滅……それも雨が降る前に全員な、今のところ一度も成功していないが」

「とはいえ雨が降る度に復活してしまうのでは?」

「……いや、奴らはお互いがお互いの存在を担保している。ソイツが江戸城の陰陽サマの見立てだ。」

「だから同時に始末すれば倒せると」

「仮定だが、現実的な範囲の策だ。何より俺たちに他に出来ることはねぇ」

 

 実の所、一度も倒せたことの無い個体もいるのだ。

 首魁たる大嶽と、神出鬼没の夜叉。

 大嶽は単純に強過ぎる、ちびノブじゃ相手にもならねぇし……

 何度か試したが酷え事になった。

 夜叉は……実際、一番問題なんだよなぁ。

 場所を絞れない……つまり、他四体がどうにかなっても奴がイモ引いたら駄目って事だ。

 とはいえやるしかねえわな。

 

「…………総員、清聴ッ!!!」

「「「ノブ!!!」」」

「我らが最終目標は無論、奴ら五体の排除……そして全ての問題の最終的解決!!!」

 

 この世界はまさに空を覆い隠し、晴れることなき曇天。

 幾ら生き残ってもこれでは心も沈む、ただでさえ失ったモノが多過ぎるのに、明日を夢見ることすら許されねぇ。

 そんなのは嫌だね、認めてたまるかよ。

 

 集合した当直のちびノブ達に語りかける。

 独逸式のスタイルが好みだと言うなら合わせてやろう。

 戦意高揚に僅かでも寄与するというなら尚更。

 

「幕府残党、志士残党、そして我ら秋無商会は索敵と探索。最優先標的は夜叉とかいうクソ女!!!」

「クソ女て……」

「奴を始末しなきゃまず始まらん! 続いて残り三体、板橋に座する首魁以外を殲滅するフェーズへと移行する」

「ノブッ!」

「ん、どうしたそこの」

「ノブ、ノブノブノブブ! ノッブブノノブ?」

「なるほど、良い質問だ。安心しろ、奴らは確かに手強い……しかし実際の戦闘はこれらカルデアの者らが協力してくれる、お前達はいつも通りシフトを遵守し仕事に励めば良い。他には?」

「凄い勢いで巻き込まれましたね……」

「まぁ元々やらないという選択肢は無さそうだし」 

「やっぱりおかしいじゃろ、何でアレで会話が成立しとるんじゃ」

 

 雑音を聞き流し、俺は拳を振り上げて更に叫ぶ。

 

「丸々一年……一年も待ったのだ! 民はいつ愛する者を失うかも分からぬ恐怖に晒され涙を流し……我らもまた、今日の反攻作戦に至るまで多くの同胞を失ってきた」

「ノッブ……」「ノブブブ……」「ノブ!」

「今度こそ奴らを、世を乱す不届き者共を排除する! 我らは今まさに振り下ろされんする握り拳だ……固く、強く、悲しみと怒りを込めて奴らを誅する裁きの鉄槌なのだ!!!」

「「「「「ノブッ!!!!!」」」」」

 

 拳を振り上げた俺の真似をし、全てのちびノブ達が同調して拳を突き出す。

 ……うん、完璧だ。

 良かった、事前に台本を考えてきたカイがあったってモンだぜ。

 

 このテの演説は単純な思考回路を持つちびノブ達に……そして後ろで聞いていた志士どもにも良く効く。

 幸いにも知能は同レベルらしい、都合が良いな。

 

 

 

 

「沖田よ。お前んとこの組長、どっかの国でカルト軍隊とか指揮しとらん?」

「美大に落ちた歴とかないかしら」

「そんな事は……そもそも生前は……うーん……」

 

 カチコミをかける前、総会を締める時、禁門の変にて全員が前線へ立つ刹那……

 参ったな、よくよく考えたら同じような事をしていた気がする。

 近藤より我が強く、土方より理性的、山南よりも浪漫を理解する秋無らしいやり口であった。

 商人という生き物の口の匠さを、マスターらは再確認する事となるのだった。

 

 

 

 

 

『組長、南方向から雨が降り始めました』

「……そう都合よくはいかねえよな、仕方ない」

 

 せっかくの機会、このまま畳み掛けられたら最高だったが……

 ま、贅沢は言うまい……マスターちゃんに、古馴染みの人斬り共、信長公にちびノブ達。

 独りでの戦いさえ覚悟していたあの時に比べりゃ随分マシになったんじゃねえか?

 

 一年も停滞していたが、ようやく光明が見えてきた。

 カルデアのマスター……やはり鍵となるのはお前らのようなイレギュラーって事かね。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「……幕府の様子は?」

「まぁ、ぼちぼちってとこか……勝のオッサン筆頭に何とか纏まってるぜ」

「そうか、心強いな……」

「アンタにこんな事言える立場じゃねえが、いつまで腐ってんだ?」

「今更……今更どの面下げて戻れようか」

 

 

 

 その端正なツラ引っ提げて戻れば良いだろうに。

 色褪せた葵の紋々が、まだ人々に求められてんだから。

 

 

 

 

 




ちびノブは普通に人を殺すというマイナー知識。
FGOしかやってないとマジでイメージ出来ない気はする。
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