前回との温度差が酷い……
銀荊はフサアカシア、つまりミモザの事です。
「最近ノッブと秋無さんの距離が近いです!!!」
「声デカ……」
「どうしたの沖田さん」
沖田総司、享年二十六歳。魂の叫びであった。
サーヴァントとなって暫く、かつての仲間とも再会し、共に戦い、時にすれ違いながらもかつての時を取り戻すが如く、誠の下に集った新撰組の隊士達。
しかしながら、いつになっても現れない一人の男に沖田は不満を隠さずにいた。
秋無出雲……恐らくは参謀や総長当人すら認める実質的な新撰組のNo3。
……本人は絶対に認めないだろうけれど。
壬生浪士からの古参幹部であり、組織運用の中核を成している彼は間違いなく上役なのだが……
新撰組など、彼とその部下なしでは防具一つ買えないチンピラ集団であるから。
「秋無さんとノッブばっかり二人で行動してるじゃないですか、それに引き換え私はこの人斬りと一緒」
「シバくわよ。鏡見たらどうかしら」
「わぁすっごい美人が映ってます」
「マスター、一発良い? 鞘付きだから」
「うーん……まぁ、たまになら」
「ぐわああああああ!?」
鞘付きの長刀が凄まじい勢いで顔にめり込む。
予告があったから辛うじて軽傷で済んだが不意打ちなら顔がメシャメシャである。
乙女の顔に傷を付けるとはこれだから攘夷志士なんてのは……
「関係性的にも私が秋無さんと行動すべきだと思うんですケド……二人でなんかコソコソしてるんですよ最近、おかしくないですか?」
「……知らない、自分で聞いてきたら?」
「それが出来ないから困ってるんじゃないですか……」
ろくでなしの、狂った人斬り集団にあってただ一人。
一人だけ、ただヒトであろうとした人。
周りの幸福を祈り、友と笑い、仲間の死に純粋な涙を流すような。
たった一人だけ、ただの人間だと言ってくれた人がいた。
攘夷志士や隊士たち、それこそ試衛館からの幼馴染らでさえが私を……
沖田総司を文字通り、一振りの刀のように捉え、そう扱った。
それは苦ではない。
寧ろ自らそう在ろうと努めたが故に。
自ら望んだその扱い。触れたモノを切り刻む薄刃のような在り方。
だと言うのに。
『また殺すも殺して……おお酷え。取りあえず風呂入って来い……』
『だァーッ! オメーまた羽織破きやがったなバカタレ! 次から天引きにするぞ!?』
『全員安心して好き勝手食えよ、俺の奢りだぜ!!!』
私は見て、そして知ってしまった。
人情、義理、善性。そういったカタチの無いものだけで生きる事が出来る人間を。
それは、どこまでもヒトデナシの私にとってあまりにも眩しく映って……
……彼と一緒にいれば私も、人として生きられるのかもしれないと。
そんな淡い希望を抱いた時には、もう遅かった。
彼にはとっくに心に強く刻まれた人が居て……
それは私にとっても信の置ける、美しい心の持ち主だった。
少なくとも私のような化け物よりもずっとお似合いの。
だからその想いを表に出す事はない。
既に諦めたハズの想いだった。
その、ハズだった。
真夜中、こっそりと一人寝台を抜け出す影に気が付いた。
織田信長……カルデアに来る前から不思議な縁を持つ英霊。
一応は、友人であるというか腐れ縁というか。
ともあれ付き合いの長い者である。
それがコソコソと一人、拠点から抜け出していくことに違和感を覚え……
その後ろを気付かれぬように尾行していく。
これでも暗殺者適性もあるし、かつては尾行して闇討ちなど日常茶飯……ッ!
ズキリと痺れるような頭痛、思わず呻き声をあげそうになるのを堪える。
……この特異点に来てから、というより秋無に出会ってからこうだ。
時々思考に霞がかかったような感覚に陥り、頭痛と共に何も考えられなくなる。
暫くすれば治りはするのだが……
しまった、距離を離されてしまった……確か、この先にあるのは……
愛宕山に作られた拠点、か?
ちびノブ達の保養地であり、今は確か秋無が詰めている筈の……
一体こんな所になんの用で……
入口でちびノブらに何かを伝えた後、入っていく信長を追い侵入する。
ちびノブの警護体制は正直言ってかなりザル……
身長の低さに加えて単純に目も悪く、その上サボりがちなので死角が多い。
三交代制シフトを採用してはいるが、夜勤担当は多くが居眠り中。
休憩二時間実働六時間の筈だが、実態としては半分以上が爆睡状態である。
……組織としてどうなのか、と思うのだが。
束ねる長が長なので仕方ない部分もあるのだろう。
何だかんだ甘い人である、隊士らの着服に頭を悩ませつつも最後には許してしまうような。
ちびノブらには尚更甘い……良くも悪くも子供のように純粋なところが刺さったのだろうか?
子供好きだからなぁあの人……顔が怖いからめちゃめちゃ泣かれてたけど……
しまった、思考が明後日の方に……
と言っても拠点はそう大きくない、人が居るとしたら多分だが浴場か執務室だろう。
「ノッブ〜ノッブ〜」
「アレは……ちびノブの……」
ノッブUFOの一体だったか。
確か重傷を負って秋無と一緒に湯治を……そうだ、この子なら知ってるかもしれない。
「もし、そこのちびノブさん」
「ノブッ?」
「貴方たちのリーダー、組長さんが何処にいるか知ってますか?」
「ノブ! ノッブノッブ」
ビシッと凛々しい顔で彼方を指してくれる。
深手を負っていたとの事だがその様子さえまるでなく……
信長などは『放っておけば治るじゃろ』程度の扱いしかしていないし。
「ノブノブノブノ!」
「ん……? 顔を顰めて……鬼みたいな……もしかして秋無さんですか?」
「ノブ! ノブブ……」
「お風呂に入っていたら……追い出された」
「ノブ……! ノォッブノブ」
「大っきいノッブ……? いや、つまり」
信長本人の事か?
え。
お風呂に?
「一緒にいるって事ですか……!?」
「ノブ」
言葉もそこそこに一直線に駆け出す。
まさか、まさかとは思うが、そんなことは……
脱衣場に飛び込めばきちんと畳まれて置かれた大柄な男物の服と、乱雑に脱ぎ散らかされた黒い軍服。
持ち主は、言うまでもなく。
ひっそりと、息を殺して裏から浴場の方へと周る。
そして私は、見てしまった。
二人して混浴している、どころではない。
アレは____
「とにかく、軽んじられてる気がするんです、最近!」
「やる気は結構だけど、空回りして足引っ張らないでよね」
「頑張る気があるのは良いんだけどね……」
肩で風を切って歩く。
暫く探索を繰り返せど、未だにあの一度しか姿を現さない夜叉なる敵。
単純に正面からの戦いで優劣を決めるならまだしも、姿すら見れないのならそれ以前なのだが……
焼け野原になった江戸の街を練り歩き、十把一絡げの雑兵を蹴散らして安全を確保。
時に物資を手に入れれば同行するちびノブらに預けて持ち帰る準備をする。
……とどのつまり、八つ当たりである。
自分のような人でなしには、叶わぬ願いだと分かっていた。
情に深く、誰よりも長くずっと傍にいた琴に敗れたのは自然な流れだ。
破れ鍋に綴じ蓋というか、あの二人の関係性にまるで隙はない。
なのに……ああ、なんかムカつく!!!
立ちはだかる一切合切を切り刻み、言葉にしがたい鬱憤をぶつけていく。
ノッブに先を越されたという苛立ち。
自分の知らぬ所で秘密裏に何かを企んでいる疎外感。
何より、あんなにお似合いの人がいるのに浮気しますかねフツー……
よりにもよって織田信長、第六天魔王、衆生の敵。
その生涯も人間性も正しく怪物、人でなしのそれ。
馬鹿馬鹿しい、これじゃ私の一人相撲だ。
化け物のままじゃ貴方の傍に入れないから、諦めようとしたのに。
誰でも良かったりするのだろうかあの男、女の敵め。
信長はアレだ、琴のような無垢な愚者でも無ければ真っ当な善性も持ち得ぬ。
人でなし具合で言えばそれこそ、最たるモノでは?
それでも、そんな事を気にしないっていうなら。
それなら、だったら。
私でも、良いじゃないですか。
私が誘った時はあっさり袖にしたクセに……
「ッ…………!!!」
ああ、クソ、またか。
だんだん、酷くなっている。
頭が割れそうだ、頭蓋の中身が膨らんで弾け飛ぶような。
視界が眩む、立っていることすらが辛い……!
「沖田さん!?」
「大、丈夫、です……!」
「そうとは思えないけど……」
大丈夫と言ったら大丈夫なのだ。
雑念で剣が鈍れば守るべきものも守れない。
平常心を取り戻せ。
そもそも、おかしな話である。
別に秋無が誰とねんごろになってようが……それは自分と関係ないじゃないか。
……いつか琴さんが召喚されたらチクってやろ。それくらいは思うのだが。
ガムシャラに走り、切って、切って、斬り続けて__
気が付けば眼前には、目当ての標的が立っていた。
彦斎や、マスターの姿はない。
「ハハ、何だ。今日は妙にツイてますね」
「…………」
「秋無さんから聞いてますよ、不意打ち上等だって。気が合いそう……あ、そういや戦うなって……」
言葉もそこそこに背後からの強襲。
不意打ちなら脅威なのだろうが、ネタが割れていれば大したことはない。
視線が切れた瞬間間近に移動し、常に背後を取るように戦う。
この敵の特徴はそれだけだ、単純明快。大した事はない。
刺突、切り払い、移動、刺突、切り上げから切り下がり、前方に向かうと見せて移動……
視界から消えたら必ず背後に、そして幾らかの溜めが要る。
そして直後にはほぼ確実に、刺突を狙ってくる。
僅かな攻防、初回の交戦でその弱みを見出す沖田は紛うことなき天才。
剣に愛された天性の人斬りであるから。
最初は防御主体だったところにカウンター、瞬く間に攻防が逆転。
次第に攻めに移行した沖田へと戦局は傾く……が。
……攻めきれない。
押しているのに押し切れない。
有効打になる刹那でリズムを崩され、明確な傷を与えられない。
「やりにくい……」
「…………」
「何とか言ったら! どうです!?」
叩き付け二回、これまたすんでの所で凌がれ……
反応が異様に早い、その上此方の手を読んでいる?
剣士同士、太刀筋は時に言葉より如実にお互いを伝え合う。
動きを予測する中で次第と伝わってくる後悔、痛恨、怨嗟。
ズキズキズキッ……!
「チッ……こんな時に……!」
「…………」
堪え難い程の頭痛、目眩がして動悸が落ち着かない。
それはまるで病に倒れたあの時のように、身体の自由を奪っていく。
流れ込んでくる感情の奔流が、刃の鋭さを奪っていくように。
生半可な攻撃では仕留めきれない、ならば……
「沖田さん!」
「! マスター! 宝具を使います……!」
どこからか駆け付けたマスターを見やり、必殺の決意を固める。
極度の集中、イメージするは絶対破壊。
神速の三連撃、万物を貫き穿つ。
「一歩、音越え…………」
加速、既に常人の目に捉え得ぬ程の速度。
サーヴァントの膂力と敏捷は人に許された業を超越する。
「二歩、無間……」
身体を引き絞り、掲げた刀を極端な力で突き出す。
放たれた矢の如く真っ直ぐ、揺るぎない軌道で。
三歩____
「止まれ馬鹿ッ!!!!!」
え?
絶叫、野太い声。
突然の叫びに驚いた私はその体勢を崩し、発動に失敗する。
なれど既に加速は十二分な程成されてしまい、三段突きは放たれる。
否、これは……これは違う。
私じゃない、私は失敗した、なのに……
いや、違う、これは私の……私が……
ビキッ……! ビキキッ!!!
頭が……割れる……何……!?
呆然とする私を無視し、心無き夜叉は魔剣を放つ。
沖田総司の三段突き。
迅き剣は理を外れ、三度の刺突を同時に存在させる。
それは磨き上げた剣技の到達点、以蔵など他の剣士には再現不可能な無明の剣。
それを、寸分違わず放たれ____
「あ____」
「…………」
間合いが近過ぎる、その上身体の自由が利かない。
回避不能。 これを食らったら、間違いなく死ぬ。
__否、それで良いのかもしれない。
何故か身体がそれを受け入れている。
眼前に迫る不可避の死を、私は冷静に認めようとしている。
ここで死ねば、楽に…………
ドガンッ!!!!!
「……ああ、クソ。本当……世話の焼ける……」
「……え?」
気が付けば、目の前に立ちはだかる巨躯の大男。
かつてその背に纏った黒の羽織は存在せず、誠の文字も刻まれていないが。
ただ、朱に染まる着流しを見て、零れ落ちる臓腑を眺めていた。
身体を貫かれて、心臓を跡形もなく消し飛ばされる。
口からも身体からも凄い血が……血の……
がらんどうになった胴体から臓物を溢れさせながら立つその姿を
三段突きが秋無の身体を穿つその感触を、私は。
身体が、それを経験している。
あ。
思い出した。
そうだ。
私は。
私が。
この人を、殺したんだ。
忘却の果て、刻まれた沖田総司の歴史の淵、自ら封じた最悪の記憶。
掘り起こしてしまった彼女の精神は深淵へ落ちて行く。
「あー……流石にキツい……!」
霊核を破壊される、サーヴァントにとって致死のそれ。
存在そのものが砕けたようなモノだ、今この瞬間すら身体が消えていくように。
それでも。
それでも、止まるわけにはいかないから。
左腕の顕現にともない傷が急速に癒えていく。
使いものにならなくなった秋無出雲のソレを■■■■のモノへと置換し、再度立ち上がる活力に。
ゲホッ……! ア"グガァッッ……!!!
死にそうな不快感、自身が擦り切れて摩耗していく痛み。
自らの意識が書き換えられて行くような、内臓のひっくり返る喪失感。
ビキビキと自分の中で何かがヒビ割れていくような……砕け落ちる音を聞き流す。
全て無視して食いしばり、左腕を叩き付けた。
千人力の怪力が空を切り、爆煙で視界が切れる__
同時に影を呼び出し、一同を逃がしつつ、自身は気絶した沖田を確保。
クソ、こうなると分かってたから嫌だったのに……
マスターにもバレちまっただろうなこりゃ……
沖田は現実に直面しました、2d6でSAN値チェックです。
2d6→11(ホントに回した) 一時的な狂気または不定の狂気を発症します。
今日で終わろうと思ってたんですがストックがまだ一つだけ残ってるので明日も投げます。
その方がキリ良さそうだし、弾がある限り読者に共有したいタイプ。
そしたら二週間くらい時間貰いたい……途切れ途切れで申し訳ないけど。
順調なら一日3000前後くらいのペースなのでその辺アテにして貰えれば。