浅葱の影   作:CATARINA

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誤字が多過ぎる()

いやマジで、平均三件くらい毎回頂いてます。
まことにまことに有難く……


明けまく惜しき可惜夜を

「ん……」

 

 目が覚める。

 嫌に身体が重い……外は真っ暗だから、まだ夜の筈だが……

 ……あ。

 

 

 

 

 うわあああああああ…………!

 やった、やってしまった。

 弱味につけ込むような形で致してしまった。

 

 どうしよう、コレ後で琴さんに殺されるんじゃ…………

 

 いや、気を強く持て。

 それくらいは覚悟の上だった筈だ。

 彼を殺しておいてどの口が……というのは承知の上で、真っ向から迎え撃つと決めたのだ。

 

 ……よくよく考えたらあの二人、別に籍入れてないですしね。

『今更そんな括りで縛られるような関係じゃねえ』とか何とか……

 二人ともカッコつけては居たけれども。

 実際は嫌に気恥しいからというあまりにもしょーもない理由であった。

 酔っ払って前後不覚になった本人から聞いたので間違いない。

 しょーもない……! 良い歳して高校生みたいな恋愛しやがって……!

 

 それはそうと、想定外だったのは体力の差である。

 琴さんがアレなのは有名だが、この人それに着いてけるんですよね。

 こればかりは私が悪いのだけど、死ぬかと思った……

 

 

 

 さてと。

 じゃあ後はお任せしますかね。

 

 起こさぬようひっそりと寝台を抜け出し、刀と羽織を纏う。

 色褪せた浅葱の羽織、握り慣れたひと振りの刀。

 ……これ以上迷惑はかけられないから。

 

 コソコソと見張りの合間を縫って囲いを抜け出し、いざ向かわんとした所にそれは居た。

 

「……こんな夜更けに珍しいわね」

「ああヒラクチの……やっぱり夜行性だったりします?」

「はァ……何考えてるのか知らないけど、止めなさい。多分ソレは秋無を傷付けるだけよ」

「あ〜……分かります?」

 

 参ったな、誰にも気付かれずに行くつもりだったのだが。

 

「アレは私の責任、私の咎です。決着をつけるなら私一人でやりたい」

「その身勝手さが彼を傷付けると分からないのかしら?」

「……だとしても、今の私は彼の傍にいる資格がないんです。私の勝手が秋無さんと琴さんを傷付けてしまったから……それを絶った後なら、少しは顔向け出来ると思えるから」

「……なるほど、やっぱり馬鹿ね貴方」

「馬鹿で結構……それで、良ければ通して貰いたいのですけど」

 

 速力には自信があるがヒラクチの彦斎を撒けるかは微妙なところである。

 何せその執念深さたるや知らぬ者は居ないほど……殺ると決めたらあらゆる艱難辛苦を踏み倒して対象を殺す。

 人斬りとしてはある意味尊敬出来もするのだが。

 

「……何度も言うけど、本当に良いの? 決死と必死を履き違えてるようだけど」

「必ず殺す、その覚悟は貴方も理解出来るでしょうに」

「寝床に戻ってさっきみたいに縋り付いてたらどうかしら、その方がずっとお似合いよ」

「冗談でしょ……自分の後始末くらいは自分でいやちょっと待って今何て言いました?」

 

 待ってくれ、今なんかとんでもない事言われなかったか。

 

「え、もしかして見てたんですか……!? いつから……!?」

「んー……押し倒したは良いけれど経験ない生娘がピーピー喚いてたところからかしら」

「ほぼ最初からじゃないですか!?」

 

 最悪である。

 よりにもよってコイツに……いや、誰に見られてても良いワケじゃないのだが。

 

「別にそれくらい気にしないわよ」

「こっちが気にするんですが!?!?!?」

「……意外ね、結構甘えるタイプだったとは」

「うわああああああああ!? 忘れろクソォ!!!」

 

 ぶんぶんと振り回した刀は虚しくも空を切り、かすりもせずに躱される。

 このままでは不味い、私の名誉の為にもここでこの蛇女を始末しなければ……

 

「というか何で覗いてるんです!? むっつりですか貴方!!!」

「いや……普段通り警備してたら声が漏れてきたから……離れで良かったわねホント」

「ぎゃあああああああ!?」

 

 そのまま半刻弱もチャンバラを繰り広げるも冷静さを欠いた剣は彦斎に当たるハズもなく。

 この身に焼き付いた病弱の呪いが早々に体力を奪い、地面にヘバる。

 くそう、くそう。

 

「ちょこまかと、すばしっこい……」

「貴方が冷静さを欠くからよ……そのままヘバってて貰えると助かるけど」

「……なんです? もしかして私を足止めしようとしてるんですか」

「言ったでしょう、貴方の事はどうでも良いけど秋無が傷付く」

「ほーん……あのヒラクチが随分と甘くなりましたねぇ」

「私、彼の実家と商店に寝泊まりしてたのよ。あのお人好し一族のとこに」

 

 ああ…………

 なるほど、そりゃ丸くなるはずだ。

 毒気を抜かれるどころではない。

 彼とその周り特有の、息苦しい程光放つ善性。

 世の中の悪性全てを信じぬような、お人好しの性を抱えた一族。

 多分フグの肝を秋無家で干しておいたら半日で解毒出来るだろう。

 

「すっかり牙を抜かれたわ……最期は体重までモチモチしてたし」

「運動不足なだけ……琴さんは何でアレで太らないんですかね」

「…………それ以上に動いてるからじゃない?」

「あー……可哀想な秋無さん……」

 

 彦斎がちらりと離れの方を見やり、全てを察する。

 最期……秋無家の居候であった彼女にも、終わりは訪れた筈。

 

「どんなに変われたと思っても、罪はその身について回る。新たな体制に移行した世界でも、誰も彼もを容易く斬り殺してしまう人斬りは疎まれ……過去の罪で処断された、それだけよ」

「……殊勝な事です、白刃を受け入れるとは」

「私が死ななきゃ家族に危害が及ぶかもしれない。それが全てだった、それで迷わなかった」

「……本当に丸くなったんですねぇ」

 

 皮肉な事だ。

 蛇と恐れられた人斬りは真に守るべきモノを得て忠犬が如き最後を迎え。

 壬生狼の狂犬は悪蛇が如く恩人を刺し殺して悔いだけで終わってしまった。

 

「…………罪はついて回る、だから私は行かなくちゃ行けないんです。私がやらなきゃならないから」

「貴方にまでそれを求めたつもりはないけど……」

「もう十分です、もう十分……報われました。倒錯した私の想いを、あの人が受け入れてくれると分かったから、それだけで私は報われてるんです……彼を志半ばに殺した私に、これ以上を求める資格はない」

「……」

「私は幸せになっちゃいけない、それが『沖田総司』に相応しい末路だから」

「……寂しいわね、でも否定しないわ」

 

 彦斎はそう呟くと身を退けて道を開く。

 

「行くなら、行きなさい……その終わりまで強制する気はないから」

「おお、物分りが良い。いやぁ、秋無家の矯正プランは凄いですね」

「煩い……彼に説明するのは私なのよ……」

「……それならもう一つ、頼まれてくれますかね?」

「……何? 厄介事はもう懲り懲りなんだけど」

 

 いや何、今ふと思い付いた程度の事なのだが。

 切りたいと思った物、()()()()()を切り伏せる神威の抜刀。

 それを以てすれば、ここに置いていける気がしたから。

 

 道半ばで斃れた私の呪いが、あの人に届くように。

 

 

 


 

 

 

「ん……ああ、居た居た」

「…………」

「ま、私が来るとしたらそりゃ試衛館かここだと思ってたんですよ」

 

 

 

 小石川が伝通院。

 小高い地に置かれた荘厳な寺院は徳川将軍家の菩提寺として知られ……

 新撰組、壬生浪士の前身、浪士組が結成された地でもある。

 

 秋無は確かに古参幹部であるが……あくまで京都に辿り着き、壬生に拠点を定めてからの隊士。

 なればこそ、江戸で結成した浪士組の事は知らなかったのも無理はない……

 

「ずっと悔いてましたから、秋無さん達を巻き込んだ事も、出来損ないの自分の身体も。そもそも、浪士組として私たちが京都に向かいさえしなければ、誰も不幸にならなかったんじゃないかと」

 

 何をなすでもなく、ただ腐るのみという末路でさえあろうが。

 少なくとも秋無や琴は…………

 浪士組無くば秋無たちが出会うこともないのだろうけれど。

 不思議とどんな生き方をしてもあの二人は巡り会ってそうな気がする。

 

 そればかりは、素直に妬ける。

 

「まぁ、此方の事情とかはどうでも良いですよね。やりますか」

「…………!」

 

 神速の踏み込み、鍔迫り合う。

 流派は同じ、どころか同一人物。

 魂だけの影法師と、魂無き骸。

 お互いに引けぬが故にぶつかり合う。

 

「と言っても此方は動きも見慣れてるんですが、自分ですし」

 

 転移能力を得た分のアドバンテージなど誤差のようなモノ。

 優れた剣士の戦いに於いて、()()()()が出来ない不利は圧倒的で。

 瞬く間に手傷で圧倒、凄まじい勢いで寺社の外郭ごと切り刻んでいく。

 迷いはもうない、痛みも、悲しみも、何もかも。

 

 異様な程の覇気に沖田の骸は、夜叉は混乱する。

 それは捨て身の覚悟、明日を顧みぬ人でなしの剣。

 命を惜しむようになってからとは比較にならぬ。

 勝利よりも排除こそを至上とする、沖田本来の戦い。

 

 自らが折れても後を継ぐ仲間が確かにいる。

 遺した想いをきっと理解してくれる人がいるから。

 今はただ、一体の剣鬼として____

 

 ()()、人として得た全てを切り捨てた。

 後も先もここにはない。

 故に之が沖田総司の完成系、心を与えられたが為に成り得なかった真なる無明。

 

 心挫けた剣士が素体では到底対抗のしようもない……

 単純な差し合いで敗北する事を悟った鬼は魔剣の構えを取る。

 無明の剣の行き着く果て、真なる三段突き。

 

 転移により放つ瞬間を測らせず、その間合いは自在の必殺剣。

 生前のそれよりも曇った刃は、それでも放たれれば防御不能で。

 三歩踏み込み刺突、三度の突きが沖田を捉える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜叉にとって計算外だったのは一つ。

 沖田には最初から避ける気も、防ぐ気も無かったという事。

 必殺の刃、即ち必ず殺す一刀……なれど、殺した程度で止まる程人の心は柔ならず。

 身体を、心臓を、霊核を貫かれて、沖田は笑った。

 

 秋無さん、得意だったなぁ。

 素手の格闘稽古の時、誰一人として我流の男に敵わないという悲しみ。

 それは偏に剛力と狂気によるもの。

 如何なる痛打も巧打も、男を止めるには足らず。

 サーヴァントになって尚、切られながら殴り抜くのを得意とする凶暴性。

 

 回避不可能な技を放つその瞬間、避けられなくなるのは双方共通である。

 三段突きが不発に終わって尚、動かぬ身体に気付いた事で辿り着いた答え。

 貫かれながら前へ。

 ただ前へ踏み込む。

 

「一歩、音越え」

 身体が軋む、指先から力が抜けていく。

「二歩、無間」

 粒子が如く少しずつ、消えていく。

 核を破壊されたのだ、当然……

「三歩、絶刀____」

 

 生と死の狭間にあって、私の心はかつてなく凪いでいた。

 心清らかに、迷いも惑いもなく。 

 最悪のコンディションにも関わらず、その切れ味はこれまでになく研ぎ澄まされていて。 

 

「……無明、三段突き」

 

 静かに、音一つなく。

 三度の刺突はこれまでに無いほど滑らかに打ち込まれた。

 悲鳴をあげる事すらなく、敗北を認めた骸は朽ち果てていく。

 

 

 

「自分の横恋慕の始末くらい、自分でやりますよ。ほっといて下さい……ったく……」

 

 務めを果たした。

 後は、彼らに任せるだけ。

 心配などしようもない、数多の特異点や異聞を覇してきたマスターである。

 鬼すら泣いて逃げる百折不撓の新撰組の金庫番である。

 

 

 

「……今度こそ、少しは恩を返せましたかね?」

 

 この程度で許されるとはとても思わない。

 自らの罪は、咎は到底__

 それでも、ほんの僅か。

 私の細やかな勝利が彼の一助となるのなら。

 

 

 

 私はひと振りの刀として、やはり生命を捨てられると思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、ほんと。

 どいつもこいつも勝手な事をしやがる。

 勝手に居なくなり、勝手に戦って、勝手に満足しやがってよ。

 

 どうすんだよバカタレ、俺一人にキレ散らかした琴の相手させる気か?

 ホント新撰組の隊士って約束とか守れないから迷惑しちゃうわよ! ったく……

 

「マスターちゃん、カルデア式の召喚術だと……向こうに戻りゃ元通り、なんだよな?」

「……うん、稀に例外はあるけど」

「なら平気か……よーし! 切り替えてこ切り替えてこ、沖田のお陰で敵はラスト一体! 雨が降る前にイクゾー!」

 

 デッデッデデデデン!

 

「何今の!?」

「そりゃ効果音だろ、SE音量0にしてなきゃ鳴るよ」

「ええ……」

 

 後は板橋の処刑場でモジモジしてる近藤をブチ殺せば完了って寸法よ。

 ハハハ、総戦力ですり潰してやるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………なぁ沖田。

 今更、今更よ。こんなモン俺に渡してどうしろってんだ。

 

『ここに、置いていきます。私の心、私の信念。あの人に与えられた全てを返す為に』

『上手くいく保証はないわよ、食いしばりなさい』

 

 彦斎はその夜、沖田を切った。

 その迷い、心、矜持すら。

 あらゆるモノを切る神威の剣はそれを断ち、そして切り落とした。

 たった一つ、アイツの残滓を残して。

 

 それは登るお日様と同じくらい見慣れた、浅葱の隊服。

 小柄な沖田に合わせて拵えた服は、特に刺突の動きを遮らないように出来ている。

 当然、その背にはの文字がありありと刻まれていて。

 ……それでも俺には、その単語を認識出来ずにいるから。

 

「……ハァ」

 

 ホント最後の最後まで、手のかかる妹を持つと苦労するぜ。

 

 




ケジメ案件。
許されたのはそれはそれとして自分の始末は自分で付けたかった沖田。
組長は一人で病む。
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