浅葱の影   作:CATARINA

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かなり話が動いて終わりが見えてきた


荒神よ、日輪を呪え

 

「いやぁ本当にご苦労さまでした、ここまで見事にやり遂げるとは私めも流石に……」

「アレは……随分と懐かしい顔じゃ」

「始末つけたのは貴方だったわね……やり損ねてるじゃない」

「なわけあるかい、儂は確かにこん手で十文字に叩っ切ったや」

「……じゃあアレもサーヴァントね……人理ってのは見境ないのかしら」

「ある訳ないだろ……俺だって反英雄としての亡霊だぜ?」

「聞こえてます、聞こえてますからね。少しくらい誰か庇ってくれないんですか」

 

 何で?

 このメンツからしたらお前の評価ドブ以下なのは当たり前だろ。

 新撰組からも志士からもクソカスとして悪名知れ渡ってんだから。

 

「流石に傷付きますよ私、これでも新撰組にいた間は真面目にやってたのに」

「それはホントに、そう。相対的に他が酷過ぎたしな……」

「分かりますよ。覚えてます? 松原くんが性懲りもなく人妻に手ェ出して……」

「……悪い、いつのだ?」

「えーっと、アレですよ。寝取られた旦那が幕臣、しかも割と偉くて……」

「あーっ! キレ散らかしながら屯所に火ィ付けやがったあのクソオヤジか!!!」

 

 あわや新撰組全体ガァン!で責任取らされるハメになりそうだった所、向こうが放火なんかしたから……ガンガンッ!

 有耶無耶のウチにあっちが悪い事にガァン!!!なって()()()()()として処理したんだっけ。

 あん時お上に説明行脚したガァンッ!のは俺と観柳斎だった。

 

「あの組長、地の文の最中に発砲するのは良くないと思うんです私」

「いや隙だらけだったから……確かに読者に迷惑かかるしやめるわ……」

 

 相も変わらず気持ち悪い身体してやがるぜ。

 弾も斬撃も通用はする、するのだが凄まじい勢いで治っちまう。

 治るってか、直るって感じか?

 

 今の俺も大して変わらねえと言えば変わらねえんだけどな。

 

「で? 何でわざわざ殺されに来た?」

「殺されに? まさか」

「いやだって、お前この面子にこのタイミングで鉢合わせて殺されないと思ってる?」

 

 楽観的過ぎない?

 正直俺ァお前の目的が不明なのとマスターちゃんの教育に悪い事以外でお前を生かす理由ないぞ。

 可能なら今すぐにでも八つ裂きにして死体を本願寺の門に晒してやらァ。

 

「……まぁ、そうですね。何はともあれお礼といったところですか」

「礼だ?」

「ええ……先程皆様が破壊した大嶽を始めとした新撰組の屍人形たち、お楽しみ頂けましたか?」

「まぁまぁってとこだ、躊躇いなくフルスイング出来るってとこは気に入った」

「それは何より……実のとこ、私も作ったは良いものの困ってまして……というのも、皆さん我が強過ぎるんですよね、起動した途端に私をめちゃめちゃに叩きのめして勝手に暴走しまして」

「あ、分かった。馬鹿じゃろコヤツ、何処となくミッチーと同じ気配がするもん」

 

 流石に明智殿と同じにするのは失礼だろう。

 コイツは所詮小悪党、死体弄りが趣味のクソッタレに過ぎねえし。

 

「それで? 作って終わり……ってなワケじゃないだろ?」

「勿論、主目的は時間稼ぎ……それとこの地に宿る怨嗟を濃縮する為ですかね」

「……本当に悪趣味な事ね、それだけの為にかつての仲間を……」

「オマケですよ、彼らの未練に合わせてチューニングしてあげたんですから。寧ろ感謝して頂いても宜しいのでは? 私としても新撰組を辱めるというのは心が踊る演目だったので、ついつい凝ってしまいました」

 

 どっち付かずの蝙蝠が、自らの二面性を死ぬまで恥じた。

 死線を越えたハズが、僅かな生き残りに自分を含めてしまったと悔いた。

 時に自らの終わりすら認められず、化け物に堕ちても止まれず。

 恩人を手に掛けた罪悪感から、二度と誰とも向き合う事叶わぬ。

 

「調整したのは私めですが、あの姿形は皆さんの末路ですよ。自らの負の感情がその姿を化け物に変貌させ、望まぬ虐殺へと駆り立てたのです……ま、生前とそう変わらなかったでしょう」

「怨嗟、ね……琴の事も、それで何か弄ったのか」

「ああ、分かります? ……さて、では真打登場と行きますか」

 

 観柳斎が指を鳴らすと、何処からともなくソレが落ちてくる。

 優に十尺は超えてるだろう巨躯、生え揃った一対の巨角。

 生まれもった魔性、歪みの果てにねじ曲がった存在そのもの。

 俺の魂はそれが、確かにかつての盟友である事を証明してしまっていた。

 

「……酷い姿ね、狂い果ててここまで堕ちたか」

「ヤバいぞアレ……お竜さんの見立てだと神性も帯びてる」

「元は人間じゃろうに、何があったらああなる?」

「話してる場合じゃなさそうだね、来るよ……!」

 

 狂乱と憤怒、憐憫と怨嗟。

 渦巻く怒涛をそのままに、津波が如く衝撃で押し寄せる。

 霊基の格は神霊並か……? なるほど、なるほどね。

 流石は他の世界に干渉する程の大怪異、サーヴァントとは比較にならない神秘だ。

 当然、真っ向勝負なんざ以ての外……

 

 

 

「秋無さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 んな訳ねぇだろ、ボケ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『荒神よ、日輪を呪え(タケミナカタ)』ッ!!!」

 

 

 

 

 

 飛びかかってくる化け物に、敢えて前進を選ぶ。

 威力は速度と重さ、相対速度が高まり、詰まった間合いにこそ最大の破壊力がある。

 苛立ちを隠しもせず振り抜いた剛拳は、怪物の頭部を穿ち、跡形もなく消し飛ばした。

 

「「「…………は?」」」

「……やっぱりな、違うだろ観柳斎。弱ぇ、弱過ぎるだろコレじゃあ」

「ワォ……それでも一応、並のサーヴァントなら相当手こずる強さなんですが。先程まで皆様が必死にやり合ってた個々人と大差ない戦闘力はあるハズなんですけどね」

「知るか、今俺はムカついてるんでよ……聞きてぇのはテメェの悲鳴と命乞いだ」

 

 超音速の踏み切り、観柳斎の胸ぐらを掴みあげて身体を吊る。

 こっちの腕じゃ、すぐに死んじまうからな。

 タケミナカタは使わねえ。

 

「で? ホンモノは何処にいる?」

「何処と言われましても……」

「この世界に来てから、ずっと奴の気配は感じてた。だがその位置が分からねぇ、テメェの仕業だろ」

「一体全体何処へやゴブフェ!?」

 

 そうかい。

 なら思いつくまでテメェを殴る。

 思いつかなきゃそのまま死ね。

 どうせすぐ再生するんだろうが……身体じゃなく、精神を蝕む痛みってのを教えてやるよ。

 殴り飛ばした観柳斎を拾い、再び殴り抜く。

 再び、再び、再び、何度も、何度も何度も何度何度何度何度何度何度何度何度

 

「秋無さん!」

「ン……」

「…………」「…………」

 

 俺の後頭部に銃を突き付ける信長と、刃を首に這わせる彦斎……

 ……そうか、俺はまた呑まれかけてたか。

 ちょいと気ィ抜くと直ぐにこうだ、もう身体が滅茶苦茶だからかね。

 

「……悪い、迷惑掛けた。もう醒めたよ、大丈夫だ」

「ったく、お主もお主でやっぱり狂っとるのう……」

「そりゃ、裁定者じゃなきゃ狂戦士待ったナシだもん俺」

 

 さてと、観柳斎の方は……

 

「お構いなく、隙が出来たのでこっちも漸く直りましたから」

「化け物が」

「貴方が言いますか……とはいえ頃合いですかね、宜しい! それではご覧に入れましょう!」

 

 観柳斎は大仰に手を開き、天を仰ぐように掲げる。

 一々動きが癪に障る野郎だ……

 

「改めましてお見事です、カルデアの皆様! そして我らが猛き組長! あなた方のご活躍によって見事に江戸に災禍を齎した百鬼は討たれ、無限に続く夜は明ける!!! 必要だったのは数多の衆生の生命にその魂の艱難辛苦、怨嗟怨恨、()()()()()()()! ここに儀式は再現された!!!」

「…………何が言いたいんだ?」

「言ったでしょう、お礼ですよ。皆様のご協力なくば完遂出来なかった……」

 

 唸り声のような鈍い音と共に分厚い雲が拓けていく。

 江戸を焼いた戦火が訪れたその日から、一度として明ける事なき闇夜の雲。

 それが薄れていく事に、歓喜する者がいた。

 浅草寺や江戸城に残った多くの民は殊更、涙さえ流して……

 数年越しの日輪の光を、その目で、その身に感じ。

 

 

 

 その後で漸く、異様な程の近さに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 雲の向こう側にあったのは澄み切った空に非ず。

 空を覆い隠す程巨大な焔の巨塊が地を這う衆生を見下ろしていた。

 

 それは太陽。それは日輪。

 百鬼夜行の過ぎ去りし朝に訪れ、全てを焼き払う終わりの光。

 

「人も、妖も、神仏さえ飲み込み焼き滅ぼす日輪の輝き。これこそ私の求めた完成形!!!」

 

 ……最早、観柳斎の戯言など耳に入っていなかった。

 一目見ただけで分かっちまったから。

 どんなに姿形が変わっても、俺の魂がそうだと伝えてくるから。

 

「かつて私は失敗しました……無理もない、何せ強引な施術で彼女を変性させようなどと。今更思えばあまりに軽率、あまりに愚鈍、怪物に必要だったのは実に単純、()だったのです」 

 

 地を駆ける、僅かでも加速した後に踏み切って跳び……

 それでも、人に過ぎないこの身では空を翔ぶ事は出来なくて。

 

「彼女は愛ゆえに狂い、愛ゆえに堕ちた! 狂気のまま目に映る全てを殺し、全てを穢し、全てを食らった果て、八百万の神々さえもその餌食にしてしまう程!!! 私には出来なかった! 感服致します組長、貴方は遂に成し遂げたのです!!!」

 

 生まれた時からずっと寒くて。

 心が凍えてしまいそうだったから。

 届かぬと知ってても手を伸ばしてしまう。

 

「これなるは日輪さえ喰らった果て……」

 

 太陽の光はあまりに眩しくて。

 その表面が僅かに揺らいだ燃える風が俺を撫でた。

 たったそれだけで身体は焼け焦げ、隅から炭化していく。

 身体が溶けるような灼熱に晒され、力なく地に落ちる。

 

 

「百鬼が去りて夜は明け、天空に陽が登る。日輪が力を宿す妖の名は空亡。百鬼夜行を終わらせる超常の妖怪。世界を焼き滅ぼし創り直す為の終わりであり始まり也!!!」

 

 

 

 

 全部、俺のせいだ。

 お前を一人にして、勝手に満足して死んだから。

 代わりに怒る事すら、否定したから。

 俺の身勝手がお前を狂わせた。

 

 

 

 

 

 ごめん、琴。俺_______

 

 

 

 

 

 

 

 


 

「秋無さん!!!」

「捨ておけ! 今はとにかく撤収じゃ撤収……マスターの身が大事よ……!」

「残念だけどそうした所で、何処に逃げたら良いかしらね……」

「おい!? 何じゃあありゃ!?」

「以蔵さんとにかく今は皆を引かせないと……戦線も崩壊してる、このままじゃ話にならない」

 

「おっと、逃がしませんよ」

 

 観柳斎が手を翳せばわらわらと。

 先程まで地であった骸どもが無限に湧き出てくる。

 十、百、千……瞬く間に一帯を覆うほどの屍が立ち上がり、虚ろな瞳を向けた。

 

「……何て数じゃ、何人死んだらこうなる……?」

「何せ日ノ本中の侍どもが殺し合い、その全てが炎に呑まれましたからね……とりあえず二千程出してみましょうか」

「二千って……そんなに出されたら戦うどころじゃ……」

「……最悪、私たちで隙を作る。その間にマスターは離脱して」

「そんな事言われても……一人でここから何処に行っても仕方ないでしょ……!?」

 

 揉めてる間にも凄まじい勢いで屍の兵どもは増えていく。

 選択の余地は____

 

「……天逆鉾よ、空と海の狭間を貫け!」

「!? 龍馬!?」

「マスター! 信長公! ここは僕らが押し留める、その間に態勢を立て直してくれ」

「待たんか、それなら儂も残るぞ! お前らだけに良え格好させるか!」

 

 以蔵は慌てて龍馬を引き止める。

 勤王党の同胞を始め、攘夷を志した志士らの大半は既に亡く。

 自らが寝込んでいる間に命を散らした友人との再会は、以蔵にとって僥倖。

 故にこそ、突然の別れに納得などしようもなく……

 

「そうもいかない、生者の君は此処でやるべき事があるハズ。分かってるだろう?」

『そういう事だ、イゾーはさっさと帰ると良いぞ』

「……クソ、どいつもこいつも儂にばかり……!」

「……ごめんね、以蔵さん。マスターを頼むよ」

「別れの言葉は言わん、()()()()にも言っとらんからな……引くぞマスター!」

 

 真の姿を解放した白竜とその乗り手は波のような屍どもに突撃していく。

 それらが身に纏う焔は必然、身一つの吶喊を是とした彼らにも引火していく。

 消えることの無い火、魂さえ焦がす怨嗟の炎に身を焼かれながら……

 

 かくして幕末の英雄たちはかつての同胞と魔術師を逃がす事に成功する。

 

 

 

  

 




降る雨は彼女の涙。
盛る焔は彼女の怒り。



『荒神よ、日輪を呪え』
タケミナカタ。建御名方の神性を降ろして千人引きの怪力を身に宿す。
常時発動型宝具だが、出力調整が可能で通常時はそこそこに抑えている。
正気を失う恐れアリ、使い過ぎ注意。
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