浅葱の影   作:CATARINA

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一応秋無くんは芹沢派と言えなくもない感じ


今日の天気は血の雨時々力士

 そしてあの騒動から数ヶ月後__

 名を壬生浪士と改めた浪士組に俺は混ざる事になる。

 役職は勘定方。つまり金庫番だな。

 というのもこの壬生浪士、基本的に全国から募ったバラガキばかりであり。

 特に主体となる近藤の試衛館組は田舎侍も良いとこで金銭感覚は皆無。

 商人上がりの俺が財布の紐をしっかり締めてないと大変な事になる。

 無事に会津藩預かりの身の上となり、一先ず組織としてひと段落したのだが。

 

 早速隊士の一人が死んだらしい、しかも多分身内の犯行で。

 頼むからもうちょっと仲良くできない?

 死んだのは殿内義雄、ウチの中で芹沢、近藤に次ぐ派閥の持ち主だった。

 どう考えても権力争いの粛清である、ふざけやがって……

 

 勘定方、といったがウチに内勤の出来る知識人などほぼ期待できない。

 一応は芹沢配下の平間が勘定方として同じく働いているが、 俺は本業の店の経営と壬生浪士の仕事で二足のわらじなのだ。

 仕事を増やすんじゃねぇよ、殺すぞ。

 

「それで私に態々文句を言いに来たんですか?」 

「だってお前だろ?殿内殺ったの」

「まぁそうなんですが」

 

 人の心とかないんか?

 無いんだろうな。

 暫くの付き合いで沖田とは軽口を叩けるくらいの仲にはなった。

 コイツのこれが怖いんだよな、完全に人間を捨てたワケでもなし。

 普通に交流してダチになるくらいは出来るが、それはそれとして躊躇いなく殺せる。

 

「命令したのはどうせ近藤か土方か……俺は知らんが、知りたくねぇ。その上でお前よか数年長く生きて見聞を広げた先達として金言を授けてやろう」

「……何です?」

「お前は鋭い刃、壬生狼が絶対の一刀、そうかもしれん。だがな」

「……」

「主なき刃は振られる事すら出来ん、ただ鞘の中で朽ちるのみだ」

「それが本懐だと言ったら?」

「そう言われちゃ、何も言えねぇが……いつか理解出来りゃ良いな」

 

 俺は沖田だけじゃなく、近藤や土方にも怒りはするが根っこのところで弱きを助け強きを挫く、善なる精神を持ち合わせてる事は理解している。だから奴らとも仲良くしてるつもりなんだが……多分沖田は二人のどっちかが指示したら躊躇いなく俺を殺すんだろうな。

 それが分かってしまうのもまた嫌な話だ。

 

 さて、暗い話はおしまいにしよう。

 今まで着たモノままだった我々壬生浪士ですが、今回とうとう隊服の試作が出来ました。

 

 塵芥みたいな予算の中、俺が必死にツテを頼ったり頼み込んだりで何とか……

 本当に苦労したけど何とか用意出来そうな感じ。

 黒にだんだら模様と実に単純な羽織だが、全員で統一感のある衣装というのは大事なのだ。

 ほら着てみろ沖田。

 

「…………地味ですね!」

「いきなり文句を言うんじゃない、結構上等な生地使ってるし汚れも目立ちにくいんだよ」

「それに凄いぶかぶかです、袖とか余ってますし」

「寸法が俺基準なんでな、悪い。正式に決定すればそれぞれの丈に合わせっから……」

 

 普通羽織なんてのは個々人の体躯に合わせて採寸し、作るものだ。

 然しながらそれでは金が掛かって仕方ない。

 今回俺が発注したのは事前にある程度寸法を幾つか決めてそれを複数生産するモノ。

 一つ一つ受注生産するより余程安い……細かい所は後々合わせれば良いしな。

 小中大に、俺のだけは特注の特大サイズ……琴も多分別注だろうなぁ……

 

 黒なのは壬生狼どもはどいつもこいつも喧嘩っ早くてすぐ汚すから……

 返り血やら臓物やら酷いのだ。

 ある程度なら洗えるだけマシって事よ。 

 芹沢局長考案の浅葱色の服も悪くはないんだが。

 あれで切った張ったしたらほぼ使い捨てよ。

 もう少し予算に余裕が出来てからじゃないと厳しいんだよな……

 

 浅葱色ってと田舎者と馬鹿にする京人も居るが俺は嫌いじゃない。

 見た目にはさっぱりしてて清潔感あるしな。

 やってる事が如何せん血腥い集団だし、やはり清涼な印象は必要だろう。

 

 ん?

 

「組長!」

「嫌ってワケじゃないし怒ってもないんだけどその呼び方何なの?」

「顔じゃないですかね」

「おーおー、泣くぞテメー。恥もへったくれも無く泣き散らしてやろうか」

「成人男性の脅し方ですか……? これが……?」

 

 俺は金勘定が仕事で特に役職とかは特にないから一応ヒラなんだけど。

 歳上、目上の人間にも一切怯まず指示を飛ばし続けたら何か呼ばれるようになった。

 完全にヤカラの頭扱いである。

 何でだろ、やっぱり顔だろうか。

 我ながら強面も良いところで結構気にしてるのだが。

 

「顔だと芹沢局長も結構大概じゃない?何で俺は扱いがヤクザなの」

「怖いんですよ貴方、芹沢さんはしかめっ面の中に愛嬌がまだありますが……」

「差はどこにあるんだ?」

「体格と声色? 結構怒鳴るじゃないですか。」

「お前らが問題を起こすからな……」

 

 芹沢さんも滅茶苦茶悪人面なのに子供に人気あるんだよね。

 俺は泣かれる、辛い。

 顔はもう仕方ないだろ! 生まれつきだよ!

 壬生狼、見た目はボロっちいもののどいつもこいつもツラが良い。

 外つ国風に言うならビジュアル系というやつ。

 『壬生狼強面の会』(俺と芹沢さんの二人)としては非常にムカつくところである。

 

「それで騒いでどうしたの、予算でも空から降ってきた感じ?」

「芹沢局長が大阪の両替商から百両提供せしめたと……」

 

 すごい、本当に虚空から予算が湧いて出る事ある?

 適当に観望を口から垂れ流しただけなのに。

 仕方ない、外観そのままに色は浅葱の感じで……

 流石に予算を捻り出した局長の案を無視は出来ない。

 出来ないけど不安だ……とはいえ予算が増えたのは良い事でしかない。

 組織として最低限必要な拠点、制服、制度。 その辺を揃えるのに本当に苦しかったからな。

 

「それと組長は至急大阪に参じるようにと」

「俺が? 何で?」

「さぁ? 今回浮いた予算について直接話でもするのかと」

「……大阪には古いダチもいるし、たまにゃ良いか」

 

 春夏冬亭の方も順調だしな。

 左衛門が番頭の勤めを全うしてくれてるんで最近は週に二回程顔を出すのみとなっている。

 交際すっ飛ばしていきなり祝言挙げたのには驚いたけどな……

 何でも授かり婚なんだとか。大いに結構、めでたい事だ。

 一般に奉公小僧は番頭になるまで婚礼も許されん風潮とかあったからな。

 俺としちゃどいつもこいつも早くガキこさえて一族諸々俺んとこで働いてくれとしか……

 

「一通りの手配終わったら行くか、琴にも伝えとかなきゃな……」

「おーおー、お熱いですねぇ」

「何か勘違いしてるようだがアイツ、人がいないと飯も作れんからな。留守の間はお袋ん所で飯食わせて貰って……二日に一度左衛門の嫁さんに掃除頼んで……」

「扱いが飼い犬!?」

「犬コロの方が余っ程楽だよ……」

 

 京都に来るまではあらゆる家事を兄貴がこなしていたらしい。

 その兄貴は浪士組に追従して江戸に帰ってしまった。

 結果残ったのはツラが良くて化け物みたいに剣の腕だけは立つ、それはそれとして一人ではとても生きられない。社会不適合者のデカ女である。羅列すると酷いな、絶対嫁に行けないヤツだろ。

 


 

 という事で大阪に来た、ひと月くらいかかったけど。

 いやホント……降って湧いた予算の振り分けが超忙しくて……

 今はまだ数十人程度だから良いけどさ、いずれ規模をどんどん大きくしていくなら正直俺一人じゃどう考えても無理である。

 贅沢言わないから後一人……いや、本音を言うなら二人くらいは……

 

「おお秋無君、久しいな」

「芹沢局長。お元気そうで」

 

 ………………ホント酒臭ぇな。

 いつもの事なんだけどさ。この人酒抜けてる瞬間あるんだろうか。

 ちょっと……結構……滅茶苦茶粗暴な酒乱だけど悪い人じゃない。

 出自も比較的マトモだからか頭も回るし、以外かもだが腕も立つ。

 剣術もさることながらでっぷりとした恵体だから馬力があるんだよな。

 この間男衆で相撲取った時は危うく負けそうになった。

 普段から酒入れてなきゃもっと強いんじゃないか……?

 

「ん? どうしたのかね秋無君、呆然として」

「いや、局長ってずっと酒飲みっぱなしだからよく燃えそうだなと」

「秋無くん、もう無礼とか通り越してだいぶ怖いよ?」

 

 山南さんは真面目過ぎる。

 キチガイしかいない壬生狼に於いて貴重な常識人だし人当たりも良い。

 ツラも良けりゃ親切で性格も素晴らしい非の打ち所のない美男子だ。

 まぁ結構喧嘩っ早いところもあるんだけど、ウチじゃそれは普通だし。

 あのクソバカガムシンとかね、関係ない民家を何件薙ぎ倒してんだよと。

 

「ははは、言うじゃあないか秋無君。この尽忠報国の士、芹沢鴨。酒は我が血、我が命よ。」

 

 鉄扇に刻まれた盡忠報國の文字をひらひらと見せびらかすように扇ぐ。

 酒乱なのに何で怒らないか? それは芹沢局長が俺を割と重用してくれてるからだ。

 田舎侍の集まりである浪士たちじゃどう考えても経理など務まらぬ。

 そんな中降って湧いた勘定に強く、京を地元とする隊士____

 更に実家が太く、金子の援助もあると来たら局長は俺が大事で仕方ないのだ。

 個人的に仲が良いのも大きいけど、この人士族の出だから教養が深いんだ。

 『侍らしい教養を』と称して皆で短歌を作り……土方に全く才能がない事が露呈したり。

 相撲もそうだが案外楽しくやれてる。

 

「で、わざわざ俺を呼んだ理由は? 世間話なんかする為に呼ぶ人じゃないでしょう」

「ああ何、君に事務方ばかりさせて申し訳ないと思ったからね。ここで一つ実務の方で何か成果を出して貰えれば……分かるだろう?」

「………………?」

「『壬生浪士』は暫定の、仮の名だ。遠からず装いも新たに組織としての名も姿も変わるだろう。その時に君の立ち位置がどうなるかは、その仕事ぶりで決まる」

 

 なるほど。

 実績を作っておいて組織再編の時に俺を幹部として取り立てたいんだろう。

 

「別に俺ァヒラで良いっすよ。役職なんか持たなくても俺のやる事は変わりませんし」

「そういうワケにも行くまい、権力には発言力が伴うモノだ」

「俺は引かないんで。壬生狼の金庫番を任された以上、例えそれが近藤さんや土方さん。果ては将軍様に天子様でもウチの金子を勝手に使う事は許しません。勿論芹沢局長でもね」

「…………」

 

 試衛館出身者を中心とする近藤派、浪士組結成前からの同志である芹沢派。

 壬生浪士は二つの勢力にハッキリ分かれている。

 要は俺を自身の陣営に引き込みたいのだろう。

 だが俺には関係ない、誰が頭になろうがどうでも良い。

 壬生浪士を幕府直属の組織として認めさせ、秋無の江戸進出への足がかりとする。

 俺の野望はあくまでそれだけだ、土方などは近藤を幕臣にしたがっているが……

 あんなモノ、望んでなるもんでもないと俺は思うがね。

 

 出雲の発言は要するに『お前の側にはつかねーよ! 金は俺が管理する!』ということ。

 ともすれば宣戦布告とも取れる挑戦的な言葉、しかし。

 

「…………ハハハハハハハ!!!」

 

 壬生狼を束ねる長、芹沢鴨はただ笑った。

 

「……良い、やはり君には素質がある。その不遜、その我、強き信念に歪みなし」

「そりゃありがたいお言葉で」

「だがまぁ、考えてみてくれ。悪いようにはならない、決してな」

「仕事はこなしますよ、京でも大阪でも浪士共の狼藉は許すつもりもない」

「ああ、それで良い……さて、近藤らとそろそろ合流する筈だが」

「ん? 橋んとこにいるの近藤さんらじゃないですか?」

 

 近藤や土方。一般に試衛館派、近藤派と呼ばれる者たち。

 それら数人が橋向こうに屯しているのが見えた。

 早速向かおうとして……視界が影に呑まれる。

 六尺余りの大男。俺とすらかなり近しい上背に、目方は或いは並ぶか?

 数人ばかりの大力士が道に横なりに広がっていた。

 

 ただでさえデカい力士どもが横になるんじゃねぇよ。

 とはいえ一々目くじら立てても仕方ないので大人しく退けようとして……

 芹沢局長が鉄扇でそれを止める。

 ああ、揉め事になるぞ。

  

 数言話し合う間、力士どもの顔が見る見る赤く染まっていく。

 芹沢さん、何か一々癪に障る話し方するの得意だからな……

 とうとう焦れた力士の一人が手を振り上げて影が空を覆う。

 デカいな……

 掌がまるでちっちゃめのお膳くらいありやがる。

 

 だがまぁまるで話にならない。

 力士は言わば肉体の天才。荒くれ者を部屋で虐めに虐めて磨き抜く。

 町の華、町人たちの羨望の的。

 だが殺し合いにあまりに慣れてねぇ。

 力士が強ぇのはあくまで土俵という聖域に守られてこそなんだよ。

 

 振り下ろされた張り手を、鉄扇の一撃が叩き割る。

 素人め、喧嘩なら拳を握りやがれ。

 開手の指先ってのはどう鍛えても脆い。

 畳んだ鉄扇なんか叩き付けられちゃ粉々だろうよ。

 

「局長、やっちゃって良いんです?」

「ここで引いたら浪士組の名折れ。構わん、畳んでやれい!」

「了解」

 

 指を砕かれ、悶えて屈する力士の膝に飛び乗り、勢いのままに膝蹴り。

 うーん、顎の碎ける良い音がした。

 一人血塗れになってようやく自体を把握し、力士どもが臨戦態勢に入る。

 同時に橋向こうの近藤らも袖をまくって駆け込んで来るのが見えた。

 力自慢の力士たちでも、此方喧嘩上等の壬生狼。

 浪速者なんぞに舐められてたまるか、そう評するように。

 騒ぎを聞き付けた同心が駆け付ける頃には全ての力士が血溜まりに斃れた。

 この後滅茶苦茶慰謝料ふんだくった。

 こっちに非はないと判断されて賠償金を払わせる事になったからね、可哀想。

 最初向こうの年寄が三十両も持ってきて正直飛びつきたかったけど……

 俺は冷静に『いや、百両くらい出せるよね?』と恫喝した。

 結局計五十両と賠償と壬生寺で詫び興行を開かせる事に成功。

 芹沢さんは滅茶苦茶喜んでたけど……原因の元を辿ればこの人なのだが……

 

 

 

 

 まぁ、つまり。

 楽しかったんだよな。

 人もそんな多かなくて辛うじて管理出来る範囲だったし……

 血と炎に塗れた日々でも俺は楽しいと思えていた。

 だからまるで思いもしなかった。

 

 芹沢局長が殺されるなんて、この時は全く。




人斬り社不女、中澤琴。
一人では生きていけない生物になってしまった模様。
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