浅葱の影   作:CATARINA

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佳境。建御名方の過去。

そして誤字が多過ぎる(n回目)



誠意誠心を忘るるなかれ

 忘れ難き故郷。

 美しき葦原ノ国、素晴らしき出雲の郷。

 天上神は日ノ本を造れど、そこに人の子らを置き忘れた。

 祖たるスサノオに認められた父、オオクニヌシは見捨てられた生命と残った神とを束ね、豊かな国を築く。

 国創りの神たる所以とはこれによる。

 

 中国葦原を平じ、人と神との交わりも進んだあくる日、来訪する神あり。

 それは天上からの使い、即ち支配者たるアマテラスからの使者であった。

 その要求はまるで唾棄すべきもの、我々が支え育てたこの葦原ノ国を明け渡せという脅し。

 父はその怒りを抑え、まずは対話による交渉を試みた……

 

 元よりこの地は父が預かった地。

 それを天照などが横から掻っ攫おうなどまるで道理が通らぬ。

 

 先に派遣されたアメノホヒは父に感化され、地の神として下るを良しとした。

 更に派遣されたアメノワカヒコは父と親交を深め、もう一柱地に神が増えた。

 

 今でもまるで昨日のように思い出せる。

 穀物の神、そして天の国では名だたる弓取り。

 どうにもナヨナヨして、気に食わぬ。

 軽々しく近寄ってくるので叩きのめしてやった。

 

 次の日もまた、同じように。

 次の日、次の日、次の日次の日次の日……

 ……何時しか殴るよりも、言葉を交わす時間が増えた。

 

 妹と契りを結び、義弟になる事を嬉々として語りにきた。

 それが妙に気に食わなかったので、久しぶりにめいっぱい殴り付けた。 

 不思議と、不快はなかった。

 

 父大国主の威光、そして礼を尽くせば敵対者すら友誼を結べるという事実。

 それにこそ、輝かしい可能性を感じたのだ。

 

 

 平和な日々が続き、このまま何事もなく過ぎ去るような気すらしていた頃。

 天稚彦(義弟)が、天照によって殺害された。

 自ら与えた矢を投げ返しての射殺であった。

 

 天に向かって逆らうが如く、弓を放った事が罪だったのか?

 それとも、地に下るを良しとした事が罪だったのか?

 それはもう、分からない。

 何も分かりはしなかった。

 死を嘆き、涙を流す妹の姿を理解したなら。あとはもう。

 

 怒りだけが、この身に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、天照大神はさらなる遣いを寄越した。

 タケミカヅチ。

 天の国に御座す雷霆の神、戦の神、剣の神。

 

 最早野心を隠す気すらなく。

 力による支配こそを是とするつもりなのは、明白であった。

 

「天照大御神は仰せられた、この国は我が御子が支配すべきだと! それをどう思うか!」

「困るなぁ……僕は何事も平和であって欲しいんだけど。君もそんなカリカリしないで一緒にどう?」

「……これが葦原国の長とは。神らしからぬ日和見、かような者に任せるとは須佐之男様もどうかしている」

「僕ァ確かにこの地を管理してるけど? ()()なんて狭苦しい事をするつもりはなくてね」

 

 ふわぁと大きな欠伸を一つ。

 大国主としては天上神などと、事を構える気はない。

 そのような事になれば一体どれほどの被害が出るか……

 地は砕かれ、河は罅割れ、人々がどれだけ苦しむか想像すら出来ぬ。

 

「……欲しいと言うなら子に聞くのが筋、いずれ我が跡を継ぐ者ならば」

「事代主なる者は早々に天の威光に平伏したぞ」

「あ、いや。僕の息子にもう一人ね、納得いかない子が居るみたいで」

「ほう? ならば、それは何処に」

「うん、丁度君の真後ろかな。ご愁傷さま」

「は?」

 

 濃密で、身を砕く程の殺気。

 建御雷は咄嗟にその腕を刃に転じ、振り向きざまに切りつけようと試みるが……

 それはあまりに遅過ぎた。

 

 千人引きの怪力。

 剛力無双、比類無し。

 建御名方の一閃は建御雷の身体をひしゃげさせ、見るも無惨な姿へと変えた。

 トドメを刺すのは容易いながら、彼もまた天照の傀儡ならば。

 

「わぁー……派手にやったねえ」

「……すまねえ親父。俺、無理だわ……ちょっとお天道様ブチ殺してくる」

「止めはしないよ止めはね、面白くないのは尤もだから」

 

 

 

 分かっていた、どう足掻いても天照には敵わぬのだと。

 日輪の力宿す最強最大の神、そう与えられた輩であるのだから。

 例え戦神としての全てを掛けても届かぬ果てなのだと。

 

 それでも。

 それでもこの怒りを、理不尽をぶつけねば気が済まぬ。

 

 高天原に登った自らを止めんとする全てを破壊し。

 立ち塞がる天つ神共を鏖殺しながら、一直線に。

 空高く葦原を見下す太陽へと跳ぶ。

 

 壮絶な熱と光と、蒸発する程に身を焦がされながら。

 既に顔も身体も殆ど焼け落ちて、そんなのは最早大した問題ではない。

 唯一感じる左腕に目一杯の力を篭めて、日輪を落とさんとする一撃。

 

 振り抜いた一閃は____すんでの所で、建御雷に切り落とされて。

 自らの絶対だった怪腕が舞うのを見ながら、俺は地へと落とされた。

 堕ちたのは出雲より遠く離れた諏訪の地。

 瀕死の俺を諏訪に封じ、高天原との相互不干渉にて縛ったのもまた建御雷。

 

「……先に礼を失したのは此方……なれど貴殿に情けをかけられた」

「その恩がこの封印かよ? 天つ神ってのはホントイカれた感性をもってやがる」

「あのままではきっと貴殿は魂まで焼き滅ぼされていたよ」

「……それでも俺ァ、奴に解らせてやりたかった」

 

 テメェの欲望の為に踏みつけた者どもの怒りを……

 テメェの野望の為に死にゆく者どもの無念を……

 俺はどうしても、奴に叩き付けてやりたかった。

 

 

 

「……その怒りは、未来遙かまで取っておくが良い」

「いつまで待ちゃ良いってんだ」

「私は貴殿の父上に傷を介抱される過程で、人の子らを見たよ。下界に住まう、無知蒙昧な畜生に過ぎないとさえ思っていたが……中々どうして賢い」

「…………?」

「いつか、彼らは神を超えるよ。日輪の威光、山海の恵み……私の雷光の力さえ、彼らは手中とする日が来る」

「……何故、そう思う?」

 

 父の情け深さは建御雷の傲慢さを綺麗さっぱり洗い流し……

 天つ神としての無情さの薄れた彼となら、友とさえなれたろうに。

 ……結局のところ、自らの短慮さが招いた破滅であった。

 それがあまりに悔しくて仕方ない。

 

「決まってるだろう、アマテラス……あの、傲慢不遜強欲メスブタクソババアを」

「ぶっ……!」

「何かおかしい事言ったか?」

「いや、おかしくない……おかしくはないんだが……」

 

 一応、お前は天津神であり天照は上司である。

 関係性的には叔母に当たる神に対する物言いか……? これが……?

 

「弟が不良になって心を病み引き篭もりになった挙句、部屋の前で裸踊りをしたのが気になって出てきたようなアホ女だアレは、しかも弟の和解で子を設けている……神のソレは人のとは違うが」

「マジかよ……とんだアバズレじゃねえか」

「全くだ……暫く頭を冷やし、落ち着いて人と交わってみろ。いつか神々は忘れられ、その力は届かなくなる……そうなった時に地を支配するのは彼らだから」

「……そうだな、そうなる事を祈るよ」

 

 俺を貶める天つ神の工作により土着の神性と合一され、或いは存在すら抹消され。

 何時しか建御名方の名は薄れ、諏訪明神としての名のみを残すようになった頃。

 建御雷の言葉が事実だとやっと理解したのは、その頃だった。

 

 

 


 

 

 ______あぁ。

 

 夢を、見ていた。

 初めて見るような、懐かしい夢だった。

 建御名方、俺に宿る神性の記憶__

 

 腕を切り落とされたあの刹那に、全てを思い出した。

 彦斎と以蔵の抜刀は、建御雷のと同じで。

 そこに恨みはなく、ただ憐憫だけがあったから。

 

 ……俺はまた負けたんだな。あのクソ日輪サマに。

 

 空亡……日輪の力宿す妖に焼かれ、俺の身体は粉々に焼けちまった。

 九割九分九厘、或いはそれ以上。

 この身体は既に神としての存在に置換されている。

 

 秋無出雲という男の残骸は……骸すら焼かれ、塵が残るのみ。

 現実に、どう頑張ろうと身体が動かないのだ。

 切り落とされた左腕を除き、傷は癒えたがしかし。

 精神(こころ)が、敗北を認めていた。

 

 かつて天照の威光に屈してしまった建御名方の後悔が、この身を強張らせる。

 一度膝を折ったという事実がソレを補強し、絶対の関係を生み出している。

 

 俺自身もまた心が挫けてしまっているから。

 

 幾ら認めたくなくとも、感覚で分かってしまう。

 アレは琴だ。疑いようすらなく。

 ……踏み留まれなかった道の果て、ああも変質してしまうならば。

 それは、俺のせいだ。

 俺がアイツを歪めた。

 

 勝手に死んだから、呪いを残して逝ったから。

 怨嗟を抑える事すら出来ず、禍つ狂気に呑まれて至ってしまった。

 

 __どころか、そもそもの話。

 観柳斎の言葉を信じるなら、全て俺が元凶。

 俺が関わらなければそもそも……中澤琴は生涯自らの魔性と対面する事はなかったのだ。

 魔を自覚し、それを受け入れられて__失ったから。

 あらゆる全てを俺が与えてしまったばかりに狂った。

 奴の未熟な精神では、喪失に耐え切れない事など分かりきっていたのに。

 

 妄言だと切り捨てるか?

 容易いことだ、しかしそう割り切れぬ自分がいる。

 建御名方に引っ張られて、心が折れている。

 

 狂気に呑まれ、カルデアの皆に迷惑をかけ、逃げた先は本願寺跡地。

 今やクレーターのみが残る爆心地に、無意識のまま向かっていたらしい。

 

 ハ、俺も人の事ァ言えねえよな。

 アレコレ文句言っときながら、未練タラタラでみっともない。

 見上げれば黒き太陽、見下ろす全てを焼き滅ぼさんばかりに爛々と輝く。

 ぶん殴ってでもお前を止めてやりたいけれど、俺にはとても無理で。

 ただただやるせない気持ちだけが、そこにある。

 

 

 

『あーっ! 居たノブ居たノブ! 流石歴戦のノブUFOは目が良いッブね!』

『『『ノブノブノブノブノブ』』』

 

 ……お前らか、そんな大勢で何しに来たよ。

 

「決まってるノブ! 仲間を助ける為ノブよ!!!」

「………」

 

 俺にはもう、分からない。

 というより、もうどうでも良かった。

 必死に足掻いて足掻いて、その果てに。

 

 掴み取ったのはただの破滅だ。

 

 少しでも傷付かぬように、少しでも緩やかな終わりがあるように。

 そう願っていたハズで、そう想っていたハズで。

 結果として俺は、いっそう酷い未来を引き寄せた。

 

 かつての仲間は惨い死と苦痛の生を生き。

 愛した女は復讐に狂った。

 

「……精一杯やったんだ、やったんだよ。でも、駄目だった」

「駄目?」

「上手くいかなかったんだ、ミスっちゃならねえ最後の最期で俺は選択を誤った」

「んー…………」

 

 ノブギョーは一度俯き、こめかみをぐりぐりと押すと閃いたように顔を上げる。

 それは花が咲いたような朗らかさで、重苦しい雰囲気を忘れてしまう程に。

 

「前々から思ってたけど、組長はちょっと頑張り過ぎノブね」

「……どういう事だ?」

「何でもかんでも一人で抱え過ぎノブ、人に頼る事覚えた方が良い年頃ッブね」

「頼れたら苦労しねえよ、これは俺の問題なんだ。だから俺が解決しねえと……」

「それが傲慢ってモンノブ、人を助ける人には逆に助けて!って言う資格があるノブよ」

 

 …………考えた事もなかった。

 助けを乞う。そんなのはした事もなければ思い付きもしない。

 いつだって俺は助ける側だった、手伝う方だったから。

 返して貰うつもりで恩を売るような真似はしたくなかった。

 

「そんな難しい話じゃないノブ、組長が皆を助けたいと思うのと同じくらい。皆も組長の力になりたいと思ってるノブ! それはノブギョーもちびノブ達も同じノブよ!」

「ノブ!」「ノッブ!」「ノブノブ」

「…………」

「皆は計算が苦手ッブ、日々の金平糖の数さえ記憶してないからほっとくとすぐに取り合いの喧嘩を始めるし……責任感ってのがないから夜勤ちびノブは大体寝落ちしてるノブ」

「ノブッ!?」

「気付いてない訳ないノブよ……でも、ノブギョーも空を飛んだり大砲を撃ったりは出来ないノブ。皆が皆、得意な事、苦手な事があるから助け合う。仲間ってそういうモンノブ」

「……そうか」

 

 腕を組んで寸胴のような胸を張るノブギョー。

 その周囲には自慢げに湧くちびノブの群れ。

 

 ……誰にも頼れないと思ってた。

 だってこれは俺の問題だから……それに、奴らがいるとしっちゃかめっちゃかになるし。

 志士の会合潰すのに二人暗殺する筈が、結局二十数人殺す事になったり。

 経費の着服を誤魔化す為に使用目録を勝手に差し替えたり。

 新調した大砲に入れる炸薬を間違えて初日で吹っ飛ばしたような事もあった。

 

 なんか思い出したら腹立ってきたな。

 

「まだ渋ってるノブか……? だったら、これを返しとくノブ」

「こいつは……沖田のか」

「その()()に誓ったはずノブよ、答えはもう出てるんじゃないノブか?」

 

 沖田が遺した、浅葱の隊服。

 ついぞ俺が袖を通す事のなかった薄い青の装具は、新撰組(俺たち)の誓いの証。

 背に刻まれたの文字だけは、例え色褪せても揺らぐ事なく。

 

「まぁ色々思うところはあるかもしれないけど……単純な話ノブよ」

 

 託された羽織を握ったまま、俯く俺を諭すように話し掛けるノブギョー。

 その姿は揺らぎ、薄ぼんやりとした光を放ちながら羽織に手を置く。

 …………ああ、そうだな。

 ずっと単純で簡単で、分かりきってた事だったじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆と一緒の方が、ずっと楽しいノブ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、眩い光が視界を奪う。

 あまりに眩しくて、暗さすら感じる閃光。

 その瞬きはほんの一瞬ながら、心の陰りは確かに晴れて。

 

 再び拓けた視界には、ノブギョーの姿はなく。

 浅葱の羽織さえ失われて、代わりに握られていたのは見慣れた黒の羽織。

 コスト削減などとボヤきながら、ついぞ死ぬまで纏った俺の隊服。

 

 かつて失ったもの。

 失ったと思い込んでいたもの。

 

 それは俺の驕りだった、俺の諦観に過ぎなかった。

 見ないようにしていただけで、ずっとそこにあったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 カルデアのマスター達と元攘夷志士の精鋭、百人足らず。

 あまりに少なく、あまりに頼りない総力を挙げて一斉に蜂起する。

 ヨシノッブの援軍とは未だに合流出来ず。

 何百何千という屍の群れと日輪の灼熱に、徐々に押し込まれていく。

 

「熱っつい……!」

「……太陽が近過ぎる、そんな話になるわね。尤もアレが本物ならとっくに皆焼け死んでるだろうけど」

「縁起でものうこと言うなや……しかし、こう熱いと体力が持たん」

「暑いというより熱いの、気温で言うなら……五十はあるか?」

 

 ましてや時代は江戸時代。

 現代よりも遥かに冷涼な気候……その時を生きた者たちにはこの暑さだけで致命の域。

 志士たちに息の上がってない者は一人もおらず、既に剣を取り落とす者も少なくない。

 状況は圧倒的に不利のままであった。

 

「ボンジュール、カルデアの皆々様。ご機嫌いかが? そろそろ苦しいんじゃあありません?」

「余計なお世話じゃ! 撃ち殺せ!」

「おっとと、痛いものは痛いのでね。避けるだけ避けさせて頂きますよ」

「何しに来たの……!?」

「いや……苦悶に歪む面を拝みに来ただけです、それと一つ耳寄りな情報を」

 

 ニヤリと嫌らしく笑う観柳斎の表情を見れば、それが妄言である事に疑いはない。

 それでも無尽蔵に湧き出る屍どもを駆逐し、疲労した頭に直接その言葉は差し込まれる。

 

「あの日輪、空亡ですがね……少しずつ落ちてきてるんです、さっきより熱くなったと思いません?」

「何じゃと……!? あんな焔の塊が落ちてきよったら、そりゃあ……」

「はい全滅です、綺麗さっぱり焼失して終わり! やがて人が消え、その痕跡さえ焼け落ちた世界に再び神秘が花開くでしょう……人理の焼却。お手本となる先駆者には深く感謝ですねぇ」

「そんな事が、可能だと?」

「可能ですよ? アレは八百万の神々を片っ端から食らった化け物ですから……霊基の質はビースト相当か……或いは上回っているでしょう。堕つる日輪の劫火、この特異点のみならず、ありとあらゆる並行世界すら焼き滅ぼして新たな秩序の糧となる、何と素晴らしい事か!!!」

 

 大仰なジェスチャー……多分クセなのだろうが。

 天を仰いでの高笑い、その隙に銃砲が観柳斎を捉えるも笑い声止むことなく。

 必死の抵抗を見せる一同を嘲るように、しゃあしゃあと解を述べていく。

 

「お察しだと思われますが止めたいなら方法は……」

「単純ね、分かりやすいわ」

「それは何より……尤も数千数万の屍人形どもを超えてこれたら、の話ですが」

 

 遅滞戦術において、死霊魔術ほど優れた魔術もそうないだろう。

 半ば不死身の兵を作り出し、新たな屍は兵器にさえなりうる。

 戦いが長引けば長引く程に有利を得る神秘の粹なのだ。

 江戸の大火での死者は九十万を優に超え、無限とさえ思うほどの兵力を供給出来る。

 魔力は霊脈で補い、一帯の死者をいつでも起動出来る万全の構え。

 生前の死因たる以蔵が居たとしても、負けようがない。

 

 

 

「…………それは貴方が加勢しても同じ事!」

「おお、良く気付いたモンだ。腐っても隊長か」

 

 天空から剛拳一閃。

 振り下ろされた拳は僅かに観柳斎を掠め、頬をザックリと切って空振る。

 巨躯の男であった。

 身体は分厚く、恰幅の良い男であった。

 ともすれば太り肉にすら見える程に。

 

 真黒の羽織は引き千切れんばかりに張られ、その袘に一切の傷なし。

 黒金の下駄に黒鉄の銃、ともかく全身黒ばかりの男であった。

 

 骸を漁って骨まで残さぬ黒烏、守銭奴に名高くは秋無出雲。

 隻腕の金庫番、推参。

 一方の観柳斎は焦るでもなく笑うばかり。

 

「今更何をしても遅いんですよ、組長。今回は私の勝ちです」

「……何か勘違いしてんじゃねえか?」

「はい?」

「勝ちとか負けとか……正直そんなのは二の次なんだよこっちは。お前を殴り飛ばす為に来てんだ俺ァ」

「正気ですか……? この後に及んでその余裕があると? 此方の兵力はお分かりで?」

 

 知るか。

 俺はやると決めたら必ずやるんだよ。

 お前をぶん殴ると決めたら必ず殴る。

 琴を助けると決めたら必ず助ける。

 

 これ以上もこれ以下も認めない。

 それを為すまで止まらぬを自らに命じている。

 

 兵力……兵力ねぇ……

 何百?何千?

 何万ってのはハッタリだろう……見栄っ張りのテメェは出来るなら最初からやってるはずだし。冥界の主が如く権能を持つような格も、お前にはない。

 つまりは精々が数千程度なんだろ? 同時に出せんのは。

 ほら、顔に出た。やっぱしホントのこと言われるとカチンと来るんだろうよ。

 

 

「……まぁ、確かに兵力差は酷えモンかもしれないな」

「おや意外と素直、理解が早くて助かります」

「これじゃあんまりだ、一方的にすぎる」

「うんうん、よく分かってるじゃありませんか」

「…………ウチのは一人一人が百人力、フェアじゃなくてすまねえが」

「……はい?」

 

 先に始めたのはそっちだからよ。

 今更文句はなしで頼む。

 

 さあ、俺ん中に残った秋無出雲の燃え滓よ。

 最早形を成す事すら出来ぬ幽鬼よ、たった一度。

 一回だけで良い。

 許されるならもういっぺん、あの頃みたいに。

 笑ったり怒ったり、泣いたり出来た、あの時を。

 

 

 

 

 

 虚空に漂う朧気なそれを、確かに掴む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『……誠は、ここに在り

 

 

 




勘定ノブギョー
秋無出雲があの日失ったモノ。
失って尚、捨てられなかったモノ。
つまりジ・エンドの個体とは限りなく似た別の個体である、と言える。
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