浅葱の影   作:CATARINA

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サブタイトルふざけようと思ったんだけど、流石にね……


我が衣、浅葱の影

 

 ここに旗を立てる。

 

 俺たちの道は分かたれた。

 殺し、殺され、死に、死なれ……

 衝突と離別を繰り返し、脆くも崩れ落ちた牙城。

 その果てに得たのは空虚なる破滅、無情な終わりだとしても。

 

 ここに旗を立てる。

 

 あの日々は、嘘じゃなかったから。

 全部全部引っ括めて確かな思い出が。

 誓った願いだけは、無駄じゃなかった。

 

 だから、旗を立てる。

 

 俺は信じる。

 この想いが皆に届くと。

 仲間たちが、来てくれると。

 深く刻まれた絆が、確かな真だと信じる。

 

 

 

 

「……驚きました、まさかこの期に及んでソレですか? 来るかも分からない奴らに?」

「来るさ」

「立場とか分かってます? 奴らは貴方を裏切り、殺した。あまつさえその存在を貶め、怪物と蔑んだという事実は、覆しようのない真実なんですよ?」

「……それでも来るさ、来ないハズがねえ」

「埒が明きませんね……まずは小手調べから、参りましょうか」

 

 観柳斎が手をかざせば、地から屍が起き上がる。

 数百もの、不死の兵。

 その身を焼く怨嗟の炎は生者を拒絶し、苦痛に喘ぐ死者は道連れを欲する。

 死と焔の軍団が、俺たちを押し潰さんと駆ける。

 

 

 

 

 

 

『総員、撃て!切り込め! 真の士族たるやを見せ付けてやれ!』

「! 勝さん! それにヨシノッブさんも!」

「遅くなってすまない、マスター殿。説得に中々骨が折れた」

「どうかご容赦を、慶喜公……いや、その姿で出てこられてもすぐには動けませんて」

「そればかりは仕方ない……しかし、信じてくれて良かった」

「大政奉還を受け入れた事、貴方はずっと悔いてましたから。それを知らぬ幕臣などほぼ居ませんよ」

 

 江戸城から出撃してきた侍たち、二百と少し。

 志を違え、お互いに幾度となく殺し合った双方。

 しかし今ばかりは__後ろに在る、力無き民のため。死んでいった同胞のため。

 ここに初めて、二つの勢力が轡を並べる。

 過去の遺恨よりも、少しでも明るい未来のために。

 志士と合わせて総数三百程ながら、決死の覚悟を決めた不退の軍である。

 

「おお……内府と志士が戦線を共にする……土方さん辺りが見たら憤死しそうですね」

「奴ァ嫌がるだろうからなぁ……」

「ならばその前に、そうですね。諸共全て呑み込んでしまいましょうか」

 

 ぱちりと指を打ち鳴らせば更なる大群。

 百どころか優に数千は超えるような屍の大軍勢。

 勢というよりは波、大津波となって天高く積み上がっていく。

 

「さて……これならどう対処しますかね、皆様」

()()? 馬鹿言え、そんなモン必要ねえよ」

「……はい?」

 

 燃え盛る亡者の怒涛が迫ったとしても、不思議とまるで焦りはない。

 あるのはただ、澄み切った空のように凪いだ心のみ。

 既に手は打ってある、後は結果を座して待つだけさ。

 

 どかりと座り込み、煙草を咥えて天を見上げる。

 ……お前、ガラでもなく禁煙してたらしいな。

 意外っつーか……俺ァ未だにお前がちゃんと人の親やれた世界線あるのが驚きだよ。

 俺の知る中澤琴ってのは人斬り社不鬼女だからなぁ。

 

 文字通り眼前に……鼻先を掠める程の距離で炎上する屍が迫る。

 煙草をかざそうとして……ギリギリのところで切り刻まれて消える。

 おいおい何だよ、折角火元が近くにあったのに。

 

 一太刀、二太刀……まるで元よりその空間に何ら存在しなかったように全てが刻まれて。

 亡者の波が剣戟の嵐に割れていく。

 モーセってのはこんな気分だったのかね?

 

 

 

『一体どんなクソ度胸してるんですか、そんなに吸いたい?』

「当たり前だ、何年ぶりだと思うよ……」

『…………まさか、本当に呼ばれるとはね』

「俺だってそんなつもりは無かったぜ……けどよ」

『?』

「……実の所、そろそろお前らの出番を作らねぇと尺が持たない……ほら、PU(ピックアップ)ガチャの残弾の為にはやっぱりこの辺で新撰組全員集合といかねえとな……〇セングルに怒られる」

『メタい!!!』

『止めて下さいね組長、世界の意思に消されますよ』

「ん、ありがと山崎くん……あ”あ”あ”〜」

 

 禁煙明けの一吸い、気が狂いそうになる。

 

 人間は所詮アルコールとニコチンに支配された奴隷なのだ。

 馬鹿馬鹿しい、私は何故禁煙などという愚かな事を……

 清々しい気持ちだ……心が洗われていく、無念無想とはこの事……

 

 飛びかかってきた屍人形の一体を片手で握り潰し、吠える。

 

「人が最初の一服を味わってるところだろうがッ!!! 殺すぞ!」

「秋無くん、雑念まみれだよ……」

「というか普通に吸ってるけど禁煙は良いのかよ禁煙は」

 

 まぁやろうと思えばいつでも出来るじゃん?

 簡単だよ、もう八回もしてる。

 そもそも動機がね、社会的常識に基づいて(嫁が妊娠中だから)禁煙してた訳で。

 それが無くなった今、俺を止める者はいないのだ。

 

「ま、来てくれて嬉しいぜ皆……そこでクソ気まずそうにしてる二人もな」

「…………」

「秋無組長……」

「色々話したい事もあろうが、後にしてくれ。とりあえず俺は血が見たい気分だ」

 

 当然観柳斎の奴のな。

 

「……なんと愚かな、信じられない……ホントどの面下げて来たんですか」

「…………私たちは道を違えた、全て此方の身勝手で……だけど、彼が呼んだなら来ない理由はないんですよ」

「嬉しい事言ってくれんじゃねえの沖田よォ……何だかんだ来る辺りお前らも素直じゃねえな」

「……俺たちの過ちは最早取り返しようもない、だがな」

「それでもアレだけ言われちゃ、来ざるを得ないでしょう」

 

 当事者の沖田がアレなのに二人とも重く捉えすぎだろ……

 俺は死んだけどお前らはその報いで琴にギタギタにされたんだろ。

 なら終わり、恨みっこなしでやってこうぜ。

 今までだってそうしてきたんだから出来ないハズがねえ。

 

「友情・努力・勝利とか本気で信じてるタイプですか? この状況、三流人斬り集団が幾ら集まったとてどうにもなりませんよ……」

「そりゃ信じもするさ、それにまだ出揃ったなんて言ってねえ」

「? 一体何が……」

「お、隊長格が集まって漸く来たか……遅刻だぞオメーら、十分前行動は社会人の基本だぜ」

 

『めんどくさいパワハラ上司みたいだ……』

『呼ばれて来たけど腹減ったから帰って良いか?』

『自分内勤なんですけど何でここに』

 

 士気が低いなぁ……

 いや、よく考えたらいつもこんな感じだったような……

 

 ぞろぞろと連鎖召喚されてくのはかつての同志たち。

 平隊士含めて二百人程度の()()人斬りサークル、だからこそ。

 上と下との距離感が近いアットホームな職場なんでね、こういう事が出来る。

 全員も全員に招集かけりゃ、否が応でも集まるワケよ。

 

「……幻霊程度の野良犬共が、群れれば勝てると?」

「この旗は俺たちの誓い、俺たちの志、俺たちの誠。だから呼べる、だから集まる」

「秋無さんが呼んで来ない人、ってのもあんま思い付かないんですけどね」

「うーん……鴨さんは微妙かもなぁ……」

「「「あぁ……」」」

 

 このシチュでは絶対来ないでしょあの人。

 意地でも近藤とかと顔合わせたくないだろうからね。

 でも鴨さんをピン刺しで呼んだら悪態つきながら来る気はする。

 

「……それと招集確認を私にも飛ばすのは止めて貰えますか、さっきから脳内にずっと通知音が響くような違和感があるんですが。どういう仕組みなんですソレ」

「ん……? あ、お前だけCCに入れたままだった」

「わざとですよね組長?」

「ワザとだけど? 俺がそんなミスすると思うか?」

「人の心とか無いんですか貴方」

「ねぇよ、アイツが食っちまったからな」

 

 中指を天に突き立てて笑う。

 俺の身体も心も奴が平らげちまったからなぁ。

 それでも足りないらしいから、後は俺の全部を賭けるしかねえ。

 あの馬鹿野郎を助けんのに、テメェが邪魔だ。

 

「しかしながら、体力も魔力も無限ではないでしょう? その宝具……相当消耗すると見ましたが、私は後数十万の屍をひたすら遠距離からぶつけ続けますよ。貴方が力尽きるまでね」

「まぁ確かにな、合理的に考えりゃ誰だってそうする」

 

 俺ァ別にそんな偉い英雄なんかじゃねえからよ。

 実際のところ、コイツらを呼んで維持するのは結構厳しい。

 ましてや薄れた『秋無出雲』を酷使してるんだ、楽な筈がない。

 

 ()()()()()()な。

 

 この世界に埋まってる死者の数、何万だ?何十万か?

 テメェの独りよがりに殺すも殺したり好き勝手やりやがってよ……

 悪いヤツだ、没収だぜ。

 

「この江戸は最早私の魔術工房に等しい! あらゆる所から骸を掘り出し、あらゆる時に使役出来る……! 全てはこの時の為の下準備……あなた方は最初から詰んでいる!!!」

「……お前なぁ、耄碌しちまったのかよ」

「……はい?」

 

 やっぱりずっと引き篭って死体弄りとかしてると老化が早いのかね。

 当たり前の事実を受け止められてないわ。

 江戸……江戸ねぇ……おかしな話だと思わねえか?

 

「よくよく考えてみろよ。ここには新撰組局長が居る、副長が居る、総長が居る」

 

 順繰り指を指しながら、一人一人確認する。

 ここまでフルメンバーで勢揃いするなんて中々ねえぞ。

 総会ん時でも結局何人かは巡回してるし……幹部会もサボるし……

 

「そんでもって各隊長とその隊士が居る……それこそ一番隊から、五番隊だってな」 

「!」

 

 観柳斎は俺に指で指されて苦虫を噛み潰す。

 多分お前は嫌がるだろうからなぁ……現代風に言うなら効いてて草って奴か?

 

「ちと離れてるが特攻隊長(中澤琴)が居て……此処に、内勤取締(秋無出雲)まで揃ってると」

「…………だから、何だと言うのです。この後に及んで」

「いや、おかしな話だと思わねえか? こんだけ新撰組が揃ってんだぜ」

 

 俺たちゃ新撰組。

 幕末の世を守ったチンピラ侍モドキ。

 世を乱す攘夷志士どもを嬲り殺し、民の平穏を守る。

 そんなロクデナシ が勢揃いしてるんだぜ。

 

「ここに新撰組が居る、ここで新撰組が戦ってる……ならここは、()()だ。そうだろ? そうに決まってる、そうじゃなきゃ俺が認めねえ」

「一体、何を言って……」

 

 掲げた旗を、力いっぱい地に突き立てる。

 俺たちの心に刻まれたあの憧憬、決して薄れる事はない。

 

 世界が一瞬、眩い光に包まれ……やがて、全てを呑み込んでいった。

 

 誰からともなく目を開ければ、そこに広がるは雅な街並み。

 焼け野原、何もかもが吹き飛んだ江戸の成れ果てとはまるで違う。

 ……それは懐かしき京の街並み、俺たちが共有するあの日の幻想そのもの。

 駆け抜けた俺たちの夜が嘘だったなんざ、誰にも言わせねえよ。

 

「おお、奇妙なモンだな……夜空に太陽が浮かんでら」

「……まさか、固有結界ですか!? 魔術の極致を、貴方如きが……!?」

「つまり好き勝手世界を改変するモンだろ? 結構得意なんだわ、そういうの」

 

 ま、俺一人じゃ流石に無理だけどな……

 此処に『新撰組』が揃ってるからこそ、例外的に可能。

 共有する心象風景が皆に在るからこそ、ほん僅かな一時だけな。 

 

「さて、見ての通り今やここは京都だ、江戸を焼き払った戦火なんかとは無縁の地だぜ」

「……チッ、なるほど……そういう事ですか」

「流石に頭は回るな……んじゃ、後は上手いこと死んでくれや」

 

 出来ないよなぁ、補充。

 だって何万と死んだご自慢のお江戸から隔離されちまったわけで。

 

 さて、お前ら。なるべく死ぬんじゃねえぞ。

 あんまり死なれると維持出来なくなりそうだしな……

 

「あーそうだ、一つ良い事教えてやるよお前ら」

「何ですかこのタイミングで、意味ある話なんでしょうね」

「あるある、滅茶苦茶ある。後ろに控えてるあのヨシノッブ様、当然将軍なんだが……」

 

 珍味な姿になって尚、将軍としての責務を果たした。

 散々だった幕府と志士を同じ戦線に置けるのは間違いなく偉業だぜ……

 

「この世界、皇族も全滅してっからさぁ……将軍様は実質的に次の天子様ってワケだ」

「……そういや、外戚とはいえ血は入ってんだったか?」

「おう、だから……」

 

 俺たちの後ろで巨大な旗が翻る。

 確か壊滅した志士どもが必死こいて守ってきたんだったか?

 まさか役に立つ日が来るとは誰も思わなかっただろうに……

 

 

 

 

「錦の旗ってやつ。良かったじゃねえの、勝てば官軍だぜ」

「……それは尚更、奮わねばならないな」

「だろ? んじゃ、いつものやってくれよ局長」

「…………君の旗だ、音頭は君が執るべきだろう」

「あそう? じゃあお言葉に甘えて……」

 

 

 

「誓いは彼方に! 誠は此処に! 新撰組ィ!!!」

「「「「「応!!!」」」」」

 

 ハッハッハ、蹂躙せよーッ!

 

「秋無さんそれ違う固有結界じゃないです?」

「一回やってみたくて……駄目だね、俺じゃあんな上手く響かないわ」

「ええ……」

 

 よく考えたらcv付いてないし。

 何かしまんない感じだけどまぁ、その方がらしいだろ。

 

 

 




『誠の旗』

ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:1~?人

新選組隊士の生きた証であり、彼らが心に刻み込んだ『誠』の字を表す一振りの旗。
新撰組組長たる彼の招集は、かつて浅葱を背負った全員に届き得る。
それは例え袂を分かった者、志を違えた者でさえ例外でない。

近藤と違って全員のスペックが大きく低下、隊長でさえ幻霊程度に格落ちするが……
旗を起点に創世の力を叩き込み、固有結界として『幕末の京都』を呼び出すことが可能。
環境バフにより全員を大きく強化する弩級のクソムーブを可能としている。

固有結界持ちって最近全然おらんくて寂しいよ作者。
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