「各隊近寄り過ぎるなよ! 距離を維持しながら削ってけ! 隊長不在の特攻と五番はマスターを保護!」
「ふむ。弱小人斬りサークルとは言ったが、集団での練度は悪くないの」
「ハ、お褒めに与り光栄だよ……生憎俺たちゃ生き急いでたんでね、なんせ毎日毎日殺しの訓練ばかりしてたロクデナシ。切った張ったの実戦だけなら、戦の世よりずっと経験してるのさ」
幕末。
日ノ本に於いて最も『人が人を刀で斬る』が横行した時代。
そんなクソみたいな歴史の中にあって、名を残す程度には__殺すも殺したりしてるからな。
理性のない木偶の坊どもに押される程腕も士気も低くねえよ。
単純に押し寄せ、殴る蹴る斬る。奴らに出来んのはその程度だ。
幸か不幸か禁門の時に嫌ってほど経験したぜ……
複雑な阿弥陀籤のように道が入り乱れた京都は、とかく集団に都合が悪い。
角の度に分裂、分裂、分裂……そうして減ったところを一小隊単位で殲滅する。
土地勘ないと大変だね、地の利って本当に凄い。
「無理するなよ、逃げ回って数が減ってから幕末オープンゲットでござるよ」
「秋無組長、混ざってます混ざってます。それだと分裂しちゃいますよ」
「小隊でバラバラに分かれて再度合流して殲滅してるし、大体同じだろ」
そして隊士にはほぼ全員銃も持たせてる。
警戒して侵攻速度を落とせばハチの巣よ、ワンチャンに賭けて突進するしかないだろ?
まぁ、隊長クラスは全然話聞いてくんないけどね! 奴らは剣一本でどうにかなるし。
「よーししっかり抑えとけお前ら……奴ァ俺が始末する」
「ハハハ……始末するとは大きく出ましたね!」
「お前とはタイイチで決着付けたかったんでな……あん時ゃ、お互い邪魔入ったろ?」
「なるほど確かに……珍しく気が合うようで」
発砲、真っ直ぐに突き進む鋼の弾丸が観柳斎を捉え、その頭を弾き飛ばす。
真っ赤に熟れたザクロのように脳漿を撒き散らした後に、逆回ししたかのように再生。
吹き飛んだ脳片、眼球から血液に至るまで、全て治るのに二秒足らず……
俺にゃその二秒が必要だった。
治るとしても一片無くなってんだ、視界も途切れてるだろ。
死体の山を轢き潰しながら一気に肉薄する。
結局俺ァ近寄らなきゃ駄目なんでな。
「ッ!? 近……」
「前線に出な過ぎて鈍ってんじゃねえか軍学者さんよォ!?」
「逆に貴方は出過ぎなんですよ! 特攻隊長と二人で最前線に飛び込む内勤とか馬鹿でしょうが!」
それは! そう!!!
でも俺が前張った方が人死なねえんだもん。
合理的に考えて、その方が良いならそうするだろ。
「隻腕でこれですか……本当に馬鹿げてる」
「お前さんみたいなインテリエリートと違って叩き上げでね。生まれは京都の路地、育ちは海千山千の爺婆共に揉まれて成り上がってんだ……お前には
かつての新撰組……その隊長から末端の平隊士まで、皆が共有した狂熱。
熱に浮かされて狂う、非現実的な大望を見据えて敢えなく散った馬鹿ども。
それでも皆、焦がれていた。
何者でもない自分を、仲間を肯定したくて。
何かを成してこそ自らを慰められると思っていたから。
だから吠えた、願った、望んだ。
浅葱を纏ってなお、壬生の狼共は飢え続けていた。
幕府に忠義を誓って尚、俺たちはそうだった。
忠犬ならず狂犬、狂犬どころか狂狼のままで。
誇り高く飢え続けた果ての破滅であった。
馬鹿馬鹿しいと笑うか?
全くもってその通り、その通りさ。
商人として俺は、秋無出雲の正気はそれを無駄だと理解していた。
いつか破滅が訪れる事も、損切りせねば自らも巻き込まれる事も。
……商人でしか無かった俺が、最後まで一緒にいれないだろう事も。
それでも楽しかった。
楽しかったから、俺は終わりを悔いてない。
人々の悪意に翻弄されただけだとしても、あの日々だけは嘘じゃないから。
「飢えなどと、粗暴な言葉で誤魔化すのも大概にしなさい。貴方はただ愚かなんですよ」
「分かってんじゃねえか! そうだよ!」
んな事ァとっくに分かってんだバーカ。
それでも良いさと開き直ってんだよ俺たちは。
無駄に賢しいお前は、ついて来れなかったみたいだが。
「ゴボッ!? ガブッ……!? クソ、流石に接近戦は厳しい……」
「サボったツケだ、片腕の俺にも勝てねえか!?」
「元から無理なんですよっ……ええい!」
抜刀を受け止めて弾き飛ばされる。
案外パワーあるな、意外ちゃ意外。
「この京都の地でも、多くの血が流れた……! 多少の補給は効くでしょう!」
「まぁ殺すも殺したり、だからな」
「死霊魔術の真髄とは、屍を素材に作り替える事……死体を糧に、この身体も再構成する……!」
観柳斎が地に触れると幾つかの死体が掘り起こされ、奴目掛けて一直線に突進する。
銃撃で一つ二つは妨害出来たが、幾らか突破した屍は観柳斎に呑み込まれ、その姿を歪めていく。
取り込んだ骸の分体積と質量を増し、肥大化した体躯で此方を見下ろす観柳斎。
膨らんだ水死体のような醜悪な風貌は、野郎の内面を表してるようだな。
「ハ、随分お似合いの格好になったじゃねえの!?」
「この結界の主は貴方! 前に出たのは失敗でしょう、貴方が倒れたら最早維持は出来ないはず!」
「やれるモンならやってみろよクソが! 丁寧に三下のセリフを吐きやがって」
巨大化なんて露骨な負けフラグだぜ。
振るわれる大刀を受け止める。
ガードの上からざっくりと切られ、鮮血が舞う……
パワー……出力が段違いだ。なるほど随分と面白えマネが出来るんだな……
「この地に倒れた剣豪の腕! 或いは武術家の躰! これぞ至極の戦闘体なりや!」
「借りもんでイキってんじゃねえよ……! どんなに良いボディでも使い手がお前じゃあな」
「小賢しいッ……!!!」
確かに良い腕だ。今の俺程じゃねえが少なくとも、筋力は元よりずっと上だな。
だがよ、そこに技がねえ。術が、業がねえんだよ。
ただの豪剣じゃ俺に血を流させる事は出来ても、命には届かねえ。
建御名方の体はそんなにヤワじゃあない。
迫る剣を防ぎ、躱し、受け流して……段々と攻撃の精度が落ちていく。
鍛えぬいた技なき振り回しは、結局のところやけっぱちの大暴れに過ぎず。
そういったのばかりを相手にしていた新撰組の喧嘩番長にはとても通じぬ。
「……やっぱりな。お前、前の方が強かったぜ」
「何……!?」
「精彩を欠きすぎ、それに余裕なくなり過ぎだろ」
「……それならっ! これでどうです!?」
京都中に散っていた屍人形の残りを自らに集中。
その総数は既に千と少し程度に減少していたが……その全てを飲み込み、骸の巨人が形を成す。
死体が寄り集まった人型の巨大な妖……下手したら万単位でこれやってたのかもな。
「……
「なるほど極の番ってやつ『違います、色々不味いのは止めて下さい』」
何だよ、次はてっきり領〇展開してくれんのかと思ったのに。
ヨシノッブは徳川将軍だし新陰流使えるから、何とかなると思うんだが。
「ま、そろそろケリ付けようぜ。あんまり待たせたくないからよ」
「やはり珍しく気が合いますね……ホント嫌になりますよッ!」
百近くもの死体で作られた巨大な剛腕、それを頭上から振り下ろされて。
それでも俺の心はびっくりするくらい凪いでいた。
だって全然ピンチに感じないモンね……なんせ俺にゃ頼れる仲間がいるからよ。
「ブッ潰れよッ!!!」
『……ああ、随分と醜悪な姿だ』
『無理もありません、何せ核となっているのがあの男……心根はやはり見目に出ます』
「ん、ようやく来たか」
地に叩き付けられる刹那、屍で埋まった空が切り開かれる。
おお、流石。ホント強いね二人とも、頼りになるよ。
でも遅えよ、遅過ぎ。
マジで来なかったらどうしようかと……
「秋無くん。流石にね、流石に僕らは近藤たちと顔合わせたくないんだ」
「藤堂くんはやはりあちらですか……うむ、良かった安心出来ますな。心置き無く暴れられる」
「ッ……! 伊東参謀に……服部殿も……!?」
良かった良かった、断られても執拗にスタ連したかいがあった。
折角全員集合なんだからさ、やっぱし来て欲しいよねえ。
「滅茶苦茶迷惑だからねアレ……他誰かにやったりした?」
「そこまではやってない、二人には無理にでも来て欲しかったから……」
「まぁまぁ、嬉しい事ではないですか。死後の今になって彼に頼られるとは」
「アレだけの事があって尚、誠の旗を掲げるとか頭おかしいよキミ。しかもその旗でわざわざ僕らの事も呼ぼうなんてさ……随分と傲慢が過ぎるんじゃァないかい?」
「でも来たじゃん?」
「ハハハ、許されよ秋無殿。伊東先生は素直じゃないですが、内心凄く嬉しいハズですから」
「……こんな事が、こんな茶番が、許されてなるモノかッ!?」
許されるんだよなぁコレが。
言ったろ? 例え志を違えても、あの日々に嘘はなかったと。
想いだけは、決して揺らいでないから。
「ノッブ〜ノッブ〜!」
「お、ノブUFO。でかした、良く持ってきてくれた」
切り落とされた建御名方の左腕。
お陰で色々酷い目には遭ったけどよ……やっぱ、決める時は決めないと。
借りるぜ、
腕を切断面に再度接合、じんわりと痺れと狂気が流入してくるが想定内。
さあさあ皆様お立ち会い、やっぱりフィニッシュムーヴはド派手にやりてえよな?
「遺言は短めにな、言い終わる前に死んじまうだろうから」
「ふざけるのも大概にしなさいッ!!!」
虚空から閃光、魔力の弾丸。
濃密な殺意の籠った光を避けながら再度肉薄し、外殻の上からぶっ叩く。
硬いは硬いが、堅さが足りねえ。
鍛え抜かれた堅牢さではなく、ツギハギで補強したガラクタの身体だ。
その証拠に俺の殴打に耐え切れず、一発事にボロボロと剥がれ落ちていく。
打てば打つほど中の本体にもさぞ響くだろうさ。
鎧の上から殴り殺した志士の数なんざ数えちゃいねえし。
その程度で防ぎ切れるほどヌルい打ち込みはしない。
「的だぜ馬鹿が! 現場に出ねえからそうなるんだよ!!!」
「いえ、そうでもありませんよ」
「あ?」
瞬間、積み上がった骸の巨躯が弾け飛ぶ。
超至近距離まで接近していた秋無は咄嗟に防ぎ……それゆえに隙が生まれてしまった。
視界も絶たれたほんの僅かな空白、崩れ落ちる屍を掻き分けて中から観柳斎が一直線に突っ込んでくる。
単純な斬撃は通らない、故に一点集中……
魔力放出により爆発的な加速を生み出し、確実に剛体を貫く。
更に刺突の瞬間、手元で更に魔力を放出。
刺突に更なる速度と鋭さを与え、刃は素通りするかのように身体に食い込んだ。
その筈、だった。
『……全く、彼の傲慢には頭が下がる。まさかこの私を囮に使うとは』
「!?」
目の前にあるのは心臓を刺し穿たれて転がる秋無の屍、そのハズが。
突き出された刀は半ばで叩き折られ、ただ虚空を切るばかり。
その下手人はニヤリと観柳斎を嘲笑すると、随分と重そうな扇で優雅に自らを扇ぐ。
刃をへし折ったのもまた、その鉄扇であるのだと示すように。
『久しぶりじゃあないか、君……いかんなあ、現場に出る人間として鈍りが過ぎるんじゃないかね』
「アナタは……!」
『おっと、良いのかね。目を離して、どうやら秋無くんは既に間合いのようだが』
「……ッ!?」
もう遅えよ。
背後から観柳斎をクラッチし、腰を入れて天高く持ち上げる。
似てたろ? 身の丈以外のパッと見は結構近しいから。
それにお前は何度かしか会ったことねえだろうから……効くと思ったんだ。
新撰組強面の会の絆は永遠に不滅、いやぁホント頼りになるや。
「やれやれ、まさかとは思うがこの
さて、遺言は聞いてなかったが、詰みなのはもう分かるよな?
安心しろよ、もう仲間じゃねえから……キッチリ落とすぜ。
「スリーカウントは聞けねえぞ!!!」
「クソッ____」
たっぷり持ち上げてから真後ろに叩き付ける。
戦場に架ける人間橋。
恐らくは、人類史上最も美しい投げ技。
凄まじい勢いで大地を叩き付けられた結果、頭部の破砕と共に核となっていた魔力塊……
つまりは聖杯を弾き出され、観柳斎は沈黙した。
やっぱし、大技で決める時ってのは気分が良いよな。ハハ。
ジャーマンの別名は人間橋。
やっぱりプロレス技ったらいつかはやりたくて……
次回の更新分が今んとこ白紙も良いとこなので多分明日なげらんないです。
明後日か明明後日か……申し訳ない。
珍しく土日の方が忙しい日程で間に合わなかった……