『Ready__Set』
「Okay」
『Fire!』
合図と共に発砲。
一、二、三……次いで五連で配置された的を貫いていく。
合計八発撃ったところで弾が尽き、交代したスライドが再装填を促す。
空っぽの弾倉を放り投げ、台上に置かれた次のマガジンを挿入。
後退したスライドを戻して初弾を銃身に送り込み、再度現れる的を射抜いていく。
段々と速度は上がってきているが、まだ追い付ける、まだ……
最後に出てきたのは明らかに巨大なエネミーを模した的。
獅子面に翼と蛇の尾を持つ怪物は、それぞれにターゲットサイトが着いている。
なるほど? 撃ちまくれって事か。ならお言葉に甘えまして……
蛇の頭にワンマガジン撃ち込んだ後に再度装填して翼の根元を貫く。
最後のマガジンを掴み、不要となったモノと取替えながら獅子の眉間を貫いて……
カキャッ!!!
ありゃ……
半ばのところで不発、給弾不良。
後退したスライドとの間にひしゃげた弾丸が食いこんでる。
こりゃ駄目だな……
手で大きくバッテンを作ると、シミュレートのVRが解除され辺りの風景が溶けるように戻っていく。
カルデアの一角、射撃訓練場。
「いやぁ、面白いな現代の銃ってのは……」
「そちらの銃はかなり歴史の古いモノですがね」
「外で言うと1911年……俺からしたら四、五十年後のシロモノだぜ? すげぇよ」
連射出来て、簡単に当たり、再装填も素早い。
こんなのをどいつもこいつも持ってる世の中だ……そりゃ荒れるよな。
槍刀でシバキ合う時代の後にゃ、こんな凄いモンで殺し合う。
殺しの効率化とは即ち更なる死体の山……
ホンット人間ってのは殺しが大好きな生き物だよ。
「だが、このオートマチックってのにはやはり慣れないな……」
「君、無意識なのか反動を肘で逃がしてるだろ?」
「……元々片手で撃ってたしなぁ。分かっちゃいるんだが癖は抜けねえよ」
撃った時の反動を利用して次の弾を押し出してるんだっけ?
ホント凄え、考えた奴は間違いなく天才だな……
しかし、その分反動を身体でしっかり受け止めねえと弾が引っかかっちまうワケで。
ビンテージクラスの古いリボルバーに慣れきった俺には中々難しい。
「俺はやっぱアンタが持ってるようなヤツが扱い易いな」
「これかい?」
「ああ……俺らの時代よりちょっぴり進んだ未来。使い勝手だけ良くなったヤツだろ?」
拳銃を携えた英霊__ビリー・ザ・キッドは愛用の一丁をクルクルと回す。
銃の逸話だけで名を上げた英雄、俺なんかとは腕が違うんだろうが……
「しかし、銃に含蓄がある人が来てくれて嬉しいよ。ここだとそう多くないからね」
「コイツはただの民を人殺しに変えちまう。言わば殺意……闘争そのもの簡便化……そりゃ、コイツらが生まれて以降の人間を英霊として呼べないワケだ。ごく一部の例外こそあれ……」
誰でも簡単に、抵抗なく、気軽に人を殺せる。
弾丸の猛威の前ではいかなる豪傑も関係ない。
弾を切り払うような化け物でも、いずれ当たるその時まで撃ち続けたらはいおしまい……
「そんなのをバラ撒くったぁまさに死の商人だな、アンタも」
「おや、これは誰でも身を護る力を得たという意味でもあります事よ? 貴方も騒乱の時代を生きた英霊ならば心当たりはありませんか?」
「…………」
「力なき民、虐げられた弱者……そういった者にも抗する力を与える、文明とはそういうモノです」
「……なるほどね」
拳を開けばダチを作れる、握って殴れば誰だって殺せる。
包丁一つで天上のような料理を創る者もいれば、殺戮の限りを尽くす者もいる。
ソイツが人間の在り方だ。
お狐さんの言うことは間違いないだろうよ。
「尚更、カルデアの職員は射撃訓練をすべきだと思うがな」
「職員にかい?」
「そ。この組織、世界救ったんだろ? 完全に役目を果たした後に来たんで、ちと申し訳ないんだが……」
「そればかりは時の運だからね」
「思うに、次の敵は世界そのものだぜ。普通に考えりゃ、古今東西から一騎当千万夫不当の化け物みてーな英霊がぞろりと集まってんだから……カルデアを警戒する輩が出ない筈がねえ」
性善説を確信したくなるような、あの甘いマスターには考えも及ばぬだろうが。
俺はね、一応酸いも甘いも噛み砕いた上で心善しを是としてるだけだから……
力無き臆病者、愚かな群衆がどう考えるかも分かっちゃうのよ。
誰もが感謝する、誰もが尊敬する。現代の神話、救世主の訪れを……
で、そのうち気付いちまうんだ。
その救世主は、今最も世界を滅ぼし得る力を持っているのだと。
無知ゆえの、愚鈍ゆえの恐れや怯え。
或いはその性質を悪とする者の邪念。
そういったものにカルデアが晒されないというのは、少しばかり希望的観測がすぎるからな。
何せ俺ちゃん無辜の怪物持ち。ちょいとばかし民草の悪意には一家言あるモンで。
「だから武器を取れと? 彼らは僕らと違い殺しには慣れてないだろうに」
「マスターの手を汚させたくないなら慣れとけって話。大人の責任だろうが」
少なくとも、いざその時ってなったらしっかりブチ殺せるようにはしとくべきだ。
人理凍結の直前に、いっぺん襲撃も受けてるんだろ?
敵が魔術師とは限らない以上、鉄と火薬のシンプルな暴力も頼るべきだと思うぜ。
「旧所長殿はこういうの疎いだろうから……ダヴィンチ女史と新所長殿に打診してみるか」
「あの人に? 甘ちゃんというならそう変わらないように思えますが……」
「甘ちゃんだが、デキる男の風格がある。必要ならそういう決断もイケる男とみたね」
実際、ガタガタになったカルデア残党メンバーを率いて二度目の人理救済を成した長なのだ。
俺たちの見立て以上に肝が据わってるだろう事は間違いなかろうよ……
「さて、折角だし他も見て良いか……オススメある?」
「オススメですか、例えば?」
「そうだな……例えばデカくて大胆なヤツだ、敵を纏めて蹴散らせるような」
「大きくて……大胆…………」
「抽象的過ぎるか?」
我ながらざっくりとしすぎだと思うんだけどな。
ある意味、商人としての御手並み拝見っつーか……
客自身も形に出来てないオーダーに、どれだけ応えられるか?
「やはり大胆さ、となれば
「ほう」
「前にお預かりした貴方の銃……どちらもかの国のモノでしたわね? やはりお気に入りで?」
「……古いダチから譲り受けたモンでな。特に拘りがあるでもないが……」
「ええ、ええ! そのような縁も大事にすべきだと思いますわ、ならばやはり此方を」
ゴトリと台上に置かれたのは無機質な黒の小銃。
冷たく闇に吸い込まれるような照らない漆黒の一本からは、確かな殺意を感じる……
太過ぎる銃身から見て、それが散弾銃である事くらいは想像がつくが……
手に取った瞬間、吸い付くように良く馴染む。
散弾銃自体、生前に数回触れただけで。
それも隻腕になってからだから、とても実射など考えもしなかったのだが……
「かつてアメリカに存在した一人の武器商人。武器を、技術を、世界の至る所に流した者が造り出した傑作ですわ。当時既に時代遅れだったレバーアクションを採用、切り詰めた銃身と徹底的な軽量化、それながら高強度の素材を使用する事で確実な動作を補助……」
「……小さいな、装填数は三発ってとこか」
「ええ、戦闘中片手で味方を引き摺りながら……或いは片腕を失って尚戦い続ける勇士の為に設計したと」
右手で構えて発砲、反動は凄まじいが押さえられない程でもない。
指をレバーのリングに通し、銃をぐるりと回して排莢すれば、瞬く間に三連射。
再装填もまた、身体で挟み込みながら片腕で容易にこなす事が出来る。
「……なるほど。認めるぜ、アンタとは良い仕事が出来そうだ」
「ありがとうございます、宜しければ其方差し上げますわ」
「良いのか?」
「お近付きの印です。どうぞご贔屓に」
「なら遠慮なく貰ってく……ん、もうこんな時間か。改装工事の手伝いにいかねえと」
散弾銃を片手に二人の英霊に手を振り……出る間際にやはり気になって問う。
「……この銃の作者、詳しいのか?」
「存在自体は有名ですわ、しかしその実態は多くの憶測で語られたモノばかり」
「……」
「未開の地に文明を齎した最後にして最新の開拓者、兵器という死を世界にバラまいた死の商人……」
「冤罪も甚だしいね、結局のところ使い手の問題だろうに」
「全くですわ」
剣も槍も銃も、兵器としてそこに在るだけだ。
それで何を為すのかは……担い手の意志次第であり。
刀に全てを託した志士が居た、銃を交渉具とした商人がいた。
……人間、そんなもんさ。
「正確な姿や経歴は伝わっておりませんわ、大柄な男性とも、時に幼い娘とも」
「娘っ子がこんなのを扱ってるってのは嫌な話だな……」
「ただ一つ、Jという名だけが後の世に伝わるばかりに」
「…………なるほどね、面白い話だった。じゃあな」
「うん。次は銃使いのサーヴァントで交流会とかしようか」
「ではまた、いつでもお待ちしております」
ハハ……死の商人か。
実にらしい、実にお前らしい在り方じゃあねえの……
こんな場所なんだ……今度会えた時は倒れるまで飲もうぜ、
十五時過ぎ____
ギリギリまで作業してたから危ういところだった。
流石に油やらで汚れた手で子供たちに触れんからな……
「出雲〜」
「来たか、チビ共」
「来たのだわおじ様!」
「おじちゃん?」
「そんな歳はいってないような気がするのだけど」
「HAHAHA、大丈夫さ。お前らからしたらそりゃ俺らはジジイだろうさ」
「ゑ、それだと私もババアってコト…?!」
「中身考えろバカタレ」
「わぁッ……!」
「泣いちゃった!」
ぞろぞろと琴が引き連れてくるチビチビな子供サーヴァント達。
英霊の子供時代だったり……幼子の姿で登録された者だったり……
まぁ、色々だ。面白えよなサーヴァント。
「よしよし、泣かないで琴ちゃん」
「いずもがいじめるよォ」
「なみだは、よくない。 いじわるやめる?」
「意地悪なんてそんなご無体な事言うなよ……大人の恋愛ってのは痛みを伴うモンなのよ」
「……はわわ、何やら大人の雰囲気なのだわ」
まァ俺も精々三十の小僧っ子だけどねェ?
一般的には番頭から店持ちになったら随分早い出世の歳というか。
齢十四で独立したのがそもそもおかしな話ではあっからなぁ……
強面が良い方に働いた希少な例だね、若いってだけで舐められるから。
「まぁ良いさ。ほら試作品だがプリン? ってのを作ってみたぞ、甘い茶碗蒸しだなこれ」
「「「わーい」」」
「良い香り……!」
「バニラエッセンスを拝借した、めちゃくちゃ甘そうだが程々に抑えてある」
「おれのも あるか」
「勿論さ、ほら運んでやりな……力が強いんだから友達の役に立たねえとよ」
「うん」
ニィッと笑って半獣の少年……今はアステリオスと呼ばれる者は、友人らの元へ大量の甘味を運ぶ。
カルデアなぁ、古今東西の英傑が揃ってるから当たり前というか……
俺よりデカい奴がそこまで珍しくないんだよな。
井の中の蛙って気分だぜ、かのペルシャ王とか純人間なのに十尺は優に超えてやがるし。
「出雲出雲、私のぶんは?」
「ちゃんとあるに決まってるだろ……用意しないと盗み食いしだすし」
「……いや、子供からは盗らないぞ」
「前科考えてみろっての」
丁稚奉公のガキに色々作ってやると傍からちょいちょいと盗み食いするじゃんお前。
それ加味して作ってるよ? 作ってるんだけどさぁ……
子供の分からガメるってのは人としてどうなのよ。
「私を何だと思ってんだよ……これでも人の親やって変わったんだぜ」
「本当かァ? それなら随分とキくセラピーだったみたいだがよ」
「本当だって……アンタに見せられなかったのが、心残りだけど」
「…………だァーッ! 一話ごとに毎度毎度重い雰囲気にするのやめない!?」
「出雲」
「……駄目か、茶化して誤魔化そうと思ったんだが」
多分、俺以外の全員が考えてる程琴は馬鹿じゃない。
こう見えて思慮深く、それでいて情に厚いタイプなんで。
内心では結構、色々考えてんだから……
「怖かったんだ」
「何がだ?」
「好きだよ出雲、
「…………ああ、なるほど。そういう事か」
「私は鬼だ、人でなしの化け物は……愛すれば愛する程、それを壊したくなっちゃうから」
鬼種の魔を背負わされて生まれ落ちた琴が背負う業。
愛情と食欲、破壊衝動の類いを混合してしまうという欠陥。
当然その対象は、俺のみとは限らず……
「……逃げたよ。逃げたんだ、私。怖くて仕方なかったから」
「……そりゃ、逃避とは言わねえんじゃないか」
「そうかもね、それでも……ホント、どの面下げて戻ったんだか」
…………気の利いた言葉なんて、思いつかねえわな。
逃げたどころか知りもしなかった俺に、何も言う資格はねえからよ。
俯く相棒に寄り添ってやるくらいしか出来なくて。
「ごめん、出雲……」
「……良いぜ。十九時から飲みに行くからそれまでなら……少しは残せよ?」
全損すると流石にリスポーンに時間かかるんだ。
まぁ、無理なら無理で断り入れれば良いと思うんだが。
そういうのに理解のある面子だからな今回のは。
「……ありがと。愛してる」
「ん、俺もだ」
剥き出しにされた牙を見て、それでも恐怖すらがない。
ハ、我ながら既に狂ってやがるな……
……腕一本くらいは、残りゃ良いんだが。
組長と琴ちゃんは普通にえらい共依存。お互いに滅茶苦茶重い。
大國主の恩寵:EX
吉兆と創世の力を宿す加護、その最上位のモノ。
オオクニヌシの器であり、寵児たる出雲は凄まじい恩恵を得る……が。
彼の在り方によって恩寵は変質し、周囲に無尽蔵の吉兆をバラ撒くモノとなっている。
齎した幸運に応じて『振り戻し』として不幸が訪れるのはご愛嬌。
自身にターゲット集中(3T)+スター集中度を極大ダウン+防御力アップ×3を付与(1回,2回,3回、3T)+全体のクリティカル威力極大アップ(3T)