浅葱の影   作:CATARINA

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壬生狼は治安がクソ悪い、組長も例外ではない。

攘夷志士どもは大使館に放火とかしてるし誤差やろ……


幕末弱小放火サークル

「さァお前ら、間違っても自分や隣の奴に火ィ付けるんじゃねえぞー!

焙烙玉は一人二個まで、申し訳ないが足りない分は個々人でコツコツ回って火付けしてくれ」

「「「えー!」」」

「えー!じゃない!あるだけマシだと思わんかい全く……」

「懐かしいですねぇ、流石にここまで派手に放火するのは初めてですが」

「やられる方がずっと多かったしなぁ……たまには気分転換に良いだろ?」

 

 新撰組の古強者ばかり、総勢五十余名。

 秋無の旗によって呼び出された一同は速やかに自らの役割を理解し、次々と道具を手に散っていく。

 

 新撰組に所属した者を全て列挙すれは優に三百を超えるだろうが、ここに居るのは皆初期も初期の隊士。

 今回の面子は壬生狼時代を共にした古参ばかり呼んだ。

 なんせどいつもこいつも例外なくキチガイばかり。

 悪逆非道に残虐無情、正直やらかしだけで鈍器みたいな本になる。

 そーんな連中ばっかりなんでね……放火くらいは正直躊躇わないんだわ。

 

 ましてやこの発展した都市、大元辿りゃ志士共が発展させた場所だろうに。

 幕府方が負けた先の未来都市とか、別に俺らからしたらなんの情もないよね。

 

 

 

「という事でそろそろ吐いてくんない? 俺らだって好き好んで火ィ付けてるワケじゃなくてさ」

『ギャハハハハハ!!! 燃やせ燃やせェ!!!』

『ヨシッ俺の勝ち〜! 一発で三人しか燃やせないとかヘタクソだなぁお前はホント』

『うるせえ! おい次だ次! なるべく固まってるところ探すぞ!』

「どう見たって楽しんで放火してるだろうが! 気狂い共め!!!」

「仕事を楽しむのって生活を豊かにする上で大事な事だよ思うよ?」

 

 今で言うとワークライフバランスだっけ?

 俺らの頃とか仕事仕事仕事!だったって考えたら、きちんとお休みを大事にしててとても偉い。

 丁稚のガキとか左衛門が有給取らないからマジで苦労したよね当時……

 

「貴様らに話す事はない! 腐敗した幕府の狗どもめ!」

「……聞いたか琴、何でコイツら急に俺たちの事褒めたんだ?」

「多分褒めてないとは思うけど……ま、何も言えないよな」

 

 正論も正論、事実陳列罪は国家反逆罪に等しい重罪だぜ坊ちゃん。

 俺たちはそりゃ幕府の犬コロだよ、壬生狼って言いますワンワン。

 でもなんでそんな強気なのかなぁ……コッチはアンタの生殺与奪握ってんだぜ。

 

「奇兵隊どもってのはまぁ結束が固いは分かるんだけど、居所教えてくれたらそれで良いのよコッチは。言ってくんないなら片っ端から火ィ付けて燻り出すだけだけど……面倒じゃん? 死人も多いし」

「言うべきことは何も無い……!」

「あっそ、別に俺らは正義の味方でもないし黙秘権行使した所でどうしようも無いんだが……仕方ない」

 

 右に左にキョロキョロと。

 手の空いてそうな面子を上手いこと捜索し……文字通り右往左往している隊士を見付ける。

 壬生狼時代をベースに呼んだからか、どいつもこいつも身なりの汚い浪人まがいの集団にあって、場違いな程鮮やかな浅葱色の羽織を守った若い隊士……

 ありゃ、間違えて来ちゃった感じかな……俺の送信ミスなんだろうけど。

 

「Heyそこな若き隊士クン、確か池田屋の暫く後、五番隊に入った子だよね?」

「組長! これは一体……?」

「ごめんね、古参だけ呼ぶつもりだったんだけど間違えちゃった……壬生浪士って名前で活動してた頃だからさぁ、そのカッチョいい浅葱の羽織も着てなかった頃なのよ俺ら……」

 

 ま、丁度良いか。

 誰にだってハジメテはある訳で、死んでから新たな経験を積めるなんて滅多にないぜ?

 

「とりあえず、その松明貸せ島田」

「何でだよ、自分で用意してないのか?」

「新人に手本を見せなきゃならねえだろうが……ゴタゴタ抜かすとテメェに火ィ付けるぞ」

 

 良く焼けそうだしね君、マジで糖類は控えた方が良いと思うよ俺……

 何で永倉が虫歯で死んだんだろうな、どう考えてもお前の方が適任だろ。

 

「後は油……油……お、ありがと源さん」

「…………」

「随分懐かしみのある光景だって? それはほんとにそう、いつの間にか付ける方より消す方が多くなったからねぇ……奇しくも相手は散々やってくれた奇兵隊なんだから、人生……いや全員死んでるけど、不思議な事もあるもんだ」

 

 古参幹部たちと和気あいあいとした会話の後、可能な限りの笑みで若隊士の方へ向き直る。

 右手に松明、左手に油の詰まった陶器壺。

 何とも昔懐かしく、望郷の念を……一応地理的には京都にいるのに故郷を偲びたくなる。

 

「顔怖」

「秋無さんそのわざとらしい笑い方止めません? ずっと怖いんですけど」

「理不尽だ……」

 

 人の五、六人程殺して喰らった後、次の標的を見付けた瞬間の化け物と形容される新撰組組長の笑み。

 商人として真っ当にやってる時は自然な笑いが出るのだが……いつになっても此方は直らず。

 新撰組強面の会(所属二名)は伊達じゃない。

 

「さて、まず始めに放火についてなんだけど……」

 

 手にした松明で思ッッッ切り奇兵隊士をブン殴る!

 火がついてるというだけで、実際コレは棍棒のようなモノだ。

 凄まじい衝撃に意識を飛ばされ……奇兵隊士は力無く地に転がす。

 大丈夫? 死んでないよな……? 息はあるな、ヨシ!

 

「とまぁこんな風に、人ってのは中々燃えない。建物もそうなんだが、意外と燃え広がらないように先人の知恵がよくよく働いてやがるからな」

「生木とか使ってるとね……梅雨時は本当に火がつかないんだよな」

「そそ……そこでこの油を使うのよ。ベットリドロドロで、一度点火したらもう消えない」

 

 風が吹いても雨が降っても、火達磨のまま川に飛び込んだ志士さえそのまま焼け死んだぐらいに。

 調合方法は……内緒って事で、危ないからね。

 実は地元の古い友達に教えて貰ってたり。やっぱり蛇の道は蛇、ヤクザ者はこういうの得意だよな……

 

「たっぷり塗ってな……じゃ、やってみよっか」

「……私がですか!?」

「何度かやりゃ楽しくなるよ、習うより慣れろなんてよく言うだろ?」

 

 差し出した松明を前に硬直する若い隊士。

 やっぱりアレだね、新撰組が比較的クリーンになった頃に入ってきた子だから……

 攘夷志士と繋がってる疑いがありゃ、商家に火ィ付けて回ったなんて信じらんないだろうな。

 

「待て!!!」

「お、ビンゴ。ボスのお出ましじゃあないの、久しぶり高杉クン。髪切った?」

 

 カルデアじゃなるべく顔合わせないようにしてたからねぇ。

 見たらブチ殺しちゃうもん。

 攘夷志士ってもね、境遇がぼんやり似てる龍馬とかさ。

 後は俺のことをずんばらりと切りやがった以蔵とか……

 その辺とはね、仲良く出来ない事もないんだよ俺。

 

 だけどお前は無理だわ。

 巻き込みに巻き込み京都に大火を放ったテメェらだけは許せないから。

 

「…………ッッ……!」

「回復が早い、判断も悪くない。良く訓練されてやがる」

「ッア……!? ヴア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?!?!?」

 

 昏倒した奇兵隊隊士が起き上がろうとした所で放火。

 ベタベタと張り付く油は転がった程度じゃとても剥がれず、一瞬で火だるまに。

 見てよコレ、起き上がりざまに俺の事切ろうとしてきたよ。

 こわー……これだから嫌なんだよね志士って。

 

「……人でなしめ」

「俺たちに言う? お前ら忘れてないか、自分らが何してきたのか」

「必要だからそうした、少なくとも自分たちのしてきた事に悔いはないさ。君たちと違ってね」

「やっぱり不思議だよなぁ、あの時とはまるきり逆の配役だもん……」

 

 あの時はね、放火するお前らを止めるのが俺らだった。

 というより()()()()ってのが正しいのかね?

 そこからはずっと火を消してばっかりだった。

 革命の火、変革の灯、世を乱す志。

 ソイツらに小便ぶっかけて回るのが新撰組の仕事だったしね。

 

 足元で転がる焼死体……あ、まだ死んじゃいないか。

 それに煙草を押し付けて一気に吸う。

 人肉の焦げる嫌ァな香り、ホント懐かしいよね。

 

「ッハァ……不味い、ライターの代わりにくらいゃなって欲しいんだが」

「悪趣味な事をする」

「火力も微妙だよな、奴のがマシだぜ、お前さんのダチ公のよ。確か名前は久坂__」

 

 瞬間、高杉が狂刃を放つ。

 新陰流皆伝の腕前を持つ高杉は紛うことなき剣の達人。

 濃密な殺意を込めた一刀は……それゆえに精彩を欠き、半ばで鉄下駄に止められる。 

 そのまま脚を捻り、下駄の歯を噛まして刃を折ろうとする。

 しかし高杉は即座に刀を手放すと逆手で発砲、秋無の頭部を抉り鮮血が舞う。

 

「痛ってえな……! 人をそう易々と撃つんじゃねえよッ!!!」 

「チッ……!」

 

 突き出された腕を担ぐように一本背負い。

 形式だった柔術や柔道のソレと違う喧嘩殺法、故に落とすのは頭から。

 二百キロ近い筋肉の塊の跳ね、空に吸い寄せられるように跳ね上がった高杉の身体は、再度重力に引かれて地へと墜落していく。

 落とされながらも切り付けた一刀により、辛くも拘束から逃れた高杉だったがその傷は重篤。

 お互い額が割れ、血を勢い良く吹き出しながら吠える。

 高杉に追従する奇兵隊隊士たちもまた、その憤りをまるで隠そうともせず。

 

「ハ、ハ!!! 手ェ出すなよ壬生狼共! コイツは俺の獲物だ!!!」

「言ったな! 言いやがったな……! 他人の痛みを、まるで意に介さないお前らが!!!」

「なァにが痛みだい、気狂いのままに街を焼き、衆生を斬り殺した馬鹿が馬鹿みたいに死んだだけだろうが!」

 

 痛みか、痛みね。

 やっぱ駄目だァ……コイツらの頭ん中が一ミリも理解出来ない。

 一見すると美しい友情、絆、何処ぞの主人公みてーな思考に聞こえはするけどさ。

 実際幕末の()()()っていうなら、俺らは仇敵かい?

 結構結構、カッコ良いねえ。

 暇そうでホンット羨ましい。

 

「吉兵衛、サエ子、高嶺、権左と慈朗、若松、吟醸太夫……」

「……何の話だ?」

「吉兵衛は幼馴染でよ。八百屋の後なんか継がずに大成してやるんだとか大騒ぎしてる馬鹿だった。ま、結局ん所大人しく収まるところに収まったんだが……権左、それと慈朗は兄弟で、俺の店をおっ建てた棟梁の見習。独立したら俺の店は全部自分らで建てるってんでな、試しに家一つ作らせたら大したモンだった」

「だから何の話だと聞いているんだ!!!」

「……まぁそうだよな、覚えちゃいないかそりゃ」

 

 分かっちゃいない。

 見えちゃいない。

 理想に目が眩んで、その足元で踏み躙られる皆をまるで気にしない。

 

 お前らが殺したんだろ。

 

 街に火を放ち、小銭を奪う為に斬り殺し、凌辱して辱めた後に惨殺して……

 何が倒幕だ、何が正義だよクソッタレ。

 

 

 

「ああそうさ! 志なんて宙ぶらりんな言葉一つで、お前らが食い荒らした者共の事なんざ!!!

大義の為なんてお題目で虐げた弱者の事なんざ!!! 覚えちゃいねぇよなぁ!!!」

「!」

「彦斎の奴を拾った時だってそりゃ思ったさ、だが奴の根っこには善性があった。確かなモノが……龍馬や以蔵だって、多分そうなんだろ。思想は違えど、日ノ本を良くしたいという思いがそこにはあって……」 

 

 最早秋無は憤怒の表情を隠さない。

 新撰組組長、内勤取締。或いは京都の大商人。

 秋無出雲にとって、目の前の仇敵はシマを荒らした仇敵に他ならぬ。

 

「面白半分で何もかもを引っ掻き回すテメェだけはよ、俺ァ許せねえんだわ……」

「……其方も、攘夷の志士を何十と虐殺した身だろうが」

「知らん。民を脅かす()()を何匹踏み潰したとか、覚えてねえぞ?」

 

 俺の愛用の鉄下駄はね、下手な妖刀よりも志士どもの血を啜ってるよ。

 壬生狼に入るまではこれでも両手で数えられないくらいしか殺してなかったのにな。

 

「まぁ、良い。幸いマスターちゃんは見てないし……ここなら殺し合っても誰も文句は言わねえだろ。あ、高杉以外も来て良いぞ、ちゃんと全員纏めて地獄に送り返してやるから」

「ほざけ! 返り討ちにしてやる!」「そうだそうだ! 街に火を放つのは其方も同じだろう!」

「地獄に、か。中々面白い冗談じゃないか?」

「ハ、ハ」

 

 膝に手を置き、足を振り上げ踏みしだく一撃。

 空を切り、四股を踏む格好のそれは地を砕き、濃密な殺意を五体に染み渡らせる。

 

 もう良いだろ。

 言葉でなんとかなる馬鹿なら、大使館や京に火なんざ付けねえ。

 ようやくお前をブン殴れると思うと、俺ァ止まれねえんだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……新撰組内勤取締、秋無出雲。御用改メだぜ、犯罪者共」

 

 

 

 




今更だけど禁門の変って読みたい?
ずっと設定ベースだけあったんだけど、敢えて本筋と絡めなかったんだよね。
生前序盤の組長が笑えなくなるから……なんか緩い感じで書くつもりだったからさ。
真面目に書くと重くなると思って……その後内部粛清とかで更に重くなったけどね!

オマケ
『嫌いなモノ』

組長……提出物の期限守らない奴、帳簿誤魔化す奴、備品壊す奴、攘夷志士。

『具体的には土方とかね、後は土方とか土方もか。うん、ホントアイツね……マスターちゃんはガッコの提出物とかちゃんと出してたか? マジで大事な事だから気を付けた方が良いぜ、ああなるから』

琴ちゃん……新撰組、幕府、攘夷志士。お昼寝(勤務中)の邪魔をする奴。

『新撰組……と、それを見捨てた幕府も、志士どもも嫌いだ。出雲にも言ってるけど、私から目ェ離さないでねマスター。奴らと二人きりになったら私どうするか分からないからさ』
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