浅葱の影   作:CATARINA

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過去一長い、頑張ったよ。

琴ちゃんのメイン回。


鬼は鬼子でされど人の親

 という事でようやく終わりが見えてきたな……マジで……

 

「なんか私さっきの記憶ないんだけど……何で?」

「疲れてんじゃね? マスターちゃんも怒涛の展開でびっくりしたんだろ」

「そうかなぁ……ハロウィンで慣れたつもりだったんだけど」

「…………」

 

 何か言いたげなノッブにジェスチャーで口止めする。

 流石にマスターちゃんの手前、一応カルデアの仲間をブッ殺したとは言い難いのよ。

 俺にとっちゃ奴は生きてる価値もないゴミムシだが、そうじゃない奴も多いだろ?

 少なくとも奴らの仲間からしたら……或いは、勝者たる奴らの末裔であるマスターら、現代人。

 ソイツらからしたら確かに奴らはアレで英霊なんだろうから。

 

 所詮俺ァ反英雄だよ、つーか新撰組そのものがか。

 

「さぁあの城除けばラストだラスト! 大江山……なんか、語るに落ちてるなぁコレ」

「既視感というかオチが分かるというか」「デジャヴじゃの」

「誰が居るかこんなに分かりやすい事もないね、あんのババア……余計な仕事増やしやがる」

「仲悪ィよなぁお前らホント……ま、鬼の中の鬼と人として生きた鬼じゃそりゃ合わないか」

 

 酒呑童子……言わずと知れた大化生。

 知名度なら大嶽丸と二分するくらいなんじゃないか。

 そんな超大物……反英雄というかもう怪物すらカルデアには在籍してる。

 

 うん、やっぱちょっと見境無さすぎない?

 

 神話の怪物とかゴロゴロしてんだよねココ……ミノタウロス、いやアステリオス君何かの良い子も居るがね。

 正直なところどうしようもないクソッタレすら受け入れちまうのがカルデアの脆弱性だ。

 あの山菜みたいな髪した陰陽師すらまだマシな方であって。

 正直なトコ、かの商人気取りの征服者やライオンハートなんかの人格破綻者。

 蛇の女神や丑御前なんかのバケモンは信用しかねるところがある。

 マスターちゃんは人が良いからそのままでいて欲しいけどね。

 カルデアがマスター、藤丸立香以外に奴らは御せないだろうさ……

 

「琴さん、やる気だね……」

「向かい合ったら殺し合いかねんくらい仲悪いんだよね……巴殿なんかとは仲良いのに……」 

 

 因みに頼光殿とも相性悪い、めちゃんこ悪い。

 ウチの嫁、なんつーか平安組にとっての地雷過ぎない?

 偶然三人が顔合わせた時はなぁ……すんごい気まずかったね。

 引き取りにきた金時殿やら綱殿やらね……

 

 『お互い、大変ですね』

 

 面倒な女を抱えた者同士、多くは語らない。

 お互いお互いに同情し、無言のまま引き摺って帰る。

 はてさて、よりにもよって一番苦労しそうな場所だが……

 

「あ、来ましたね」

「どうも、ご無沙汰してます」

「おお、最年少コンビ……いや、沖田もいるしトリオか」

「本来Fate(この世界)だと天保十三年生説を採用してるんですけどね」

「メタい事言うのは止めなさいっての……横並びの方が分かりやすいだろ」

 

 因みに年齢を今一度整理すっと……

 藤堂、齋藤、沖田が五つ下。

 後は原田が一個下で……琴と永倉が俺とタメだな。

 

「因みに近藤は沖田より十歳上で、土方の生まれ年を倍にした時俺より二つ大きくなる。近藤と土方の年齢差が一つの時、俺と土方の年齢差は幾つになるかな?」

「なんですか、めんどくさい数的判断の問題?」

「いやまぁググッたら答え出ちゃうんだけど……皆も暇なら考えてみてね」

 

 とまぁ、そんな話はそこそこにしてだ。

 

「いやぁ嬉しいぜ、この面子なら気兼ねなくイジり倒せるからな……」

「人の心とかないんですか?」

「だってさァ、齋藤が何かクールキャラみたいのやってんのオモロいだろ……藤堂も藤堂で真面目過ぎるしよ、何だお前復讐者って……マジでお前らそういうとこよ?」

 

 齋藤はアレで結構情に厚いし、割り切って考えんのが苦手なんだよな。

 藤堂はもう真面目過ぎ。優等生気質とも言えるが、良くここでそこまで真っ直ぐ居られるよな……

 

「そんなんだから二十控えて尚、二人揃って童貞のまんまだったんだろうが」

「「ブーッ!?!?!?」」

「飲む打つ買うをコイツらに教えんのは苦労したぜ……ま、近藤や土方みたいにやり過ぎるよりはな、寧ろさっぱりな方が可愛げもあるってモンだが……」

「……まぁ、おかげさまで……なんですが……」

「僕らの尊厳とかないんですかね……!?」

 

 無えよ、馬鹿め。

 多少は近藤や土方みたいに不真面目に生きりゃな……

 原田や永倉はその辺上手くやってるタイプなんだが。

 

「えぇ!? 二人ともですか!? 羽織着る頃にはあんな肩で風切ってたのに!」

「あとこれは俺の主観だが、死ぬまで処女拗らせてた奴に笑う資格はねぇぞ」

「グワァァァーッ!? あらぬ方向から流れ弾が!?」

「当たり前じゃろ、何で張り合おうとした?」

 

 基本的に新撰組の中でのアレコレの全ては俺の耳に入るからな。

 新撰組内勤取締ってのはそういう事よ。

 監察組とは即ち、何処にでも居て何処にも居ない。

 京一帯に広がる俺の草の根ネットワークと併せて、あらゆる情報を一手に収集していた。

 

「俺に口答えするのは別に構わねえが……その気になりゃ全員の性癖をカルデア中にアナウンス出来る立場ってのを理解ってるよな?」

「惨い脅し方だ」

「因みにカルデア内の情報も収集してるぞ。マスターちゃん、提出物の期限は守ろうな……新所長がちょっとポンだから忘れてるのをいい事に、マイルームの机の三段目に隠してるレポート。後で出しとけよな」

「…………そんな、マシュにも言ってないのに」

 

 マジでホントそういうの頑張った方が良いよ。

 サボり癖というか、なぁなぁにするのがデフォになっちゃうから。

 俺はさ、商売人だからそういう所細々やるの苦手じゃないんだが……

 新撰組は基本田舎のチンピラ侍モドキの集まりだからね、どいつもこいつもってとこだから。

 帳簿を何度事後承認したか分からねえぜ俺ァ……

 必要なら幹部会とかで話せば良いと思うんだけど、稟議通してから使って欲しいわよ。

 

「モタモタしてんな! 私はもうぶち殺したくてウズウズしてんだ……!」

「我らが陛下が殺戮をお望みだ、行くぞ下僕共」

「誰が下僕じゃ……なぁ、最近儂の扱いまで雑じゃない? 第六天魔王よ? 日本一の知名度ある武将よ?」

「出雲はアレだぞ、余所行きだとまだ丁寧だけど自分のモノにした途端に扱いが雑になる。ソースは私」

「「最低だ!!!」」

 

 おっと流れ弾、自傷覚悟とはいえ痛いな。

 

「今度は俺の尊厳が吹き飛び始めたな……その言い方だととんでもないクズみてぇじゃねえか」

「私もなー! 最初はまだ尊重されてたのになー! ……一週間もしたらこんな感じよ」

「オメーはそもそも突っ込み所が多過ぎるんだよマヌケ、最低限身の回りの事が出来てから権利を主張しろ」

「自分のって……私の事もそういう目で見てたんですか!?」

「久しぶりだなその下り……そりゃ少なくとも今は見てるが……」

 

 昔はともかく、な。

 流石に今はちゃんと覚悟決めて正面から向き合ってるつもりだよ俺ァ。

 残念ながらマスターちゃんにもやれないくらいにはな。

 

 代わりと言っちゃ何だが彦斎とかどうだろ。

 ちょっと……結構……凄い……まぁ、アレなとこあるけど、良い奴だぞ。

 身内贔屓込みならギリギリ及第点だと思う! 辛うじてな!

 

「さっさと本題入ろうぜマジで! このままだと導入で三千文字行っちまう!」

「……まぁ、ぼやぼやしてる内に着きはしたんですが」

 

『死ね!!! 虫ッ!!!』

『あーあー! 牧場臭くて敵わんわぁッ……!!!』

「神話か?」

「呆然としてる場合ですか……止めに行かないと……」

「じゃあ齋藤よォ、お前アレに割って入れよ。次の瞬間消し炭だぞ」

 

 頼光殿が武器を振るう度に風が巻き起こり、地が焼け、雷霆が空を裂く。

 それと正面から相対しながら瓢箪の剛撃や爪の一閃で封じるは酒呑童子。

 

 平安の化け物共が一進一退、辺りの一切合切を粉砕しながら荒れ狂う。

 都合の悪い事に、止め慣れてそうな平安のお侍が誰一人いない……

 誰かー! 男の人呼んでー!

 金時か秀郷殿呼んでくれェー!!!

 

「いやヤバすぎヤバすぎ……どうしようねコレ……」

「……ここは組長、宜しくお願いします」

「鬼かテメェ。確かに俺ァ丈夫だが、普通に痛いことは痛いのよ?」

 

 とりあえず見で良いでしょ、今すぐ命賭ける事もあるまい。 

 無策で彼処に突っ込むとか馬鹿のやることだぜ……とりあえず片方がくたばってからフクロにしねえ?

 

「ハハハハハ!!! 二匹纏めてとは好都合だッ!!!」

「ヤベェ、そういや居たわこっちにも馬鹿! しかも特上のヤツ!!!」

 

 馬鹿でかい刀身を振り回し、揉み合う二人に突貫する八尺の鬼がまた一匹。

 日ノ本最後の神秘、生き残りの鬼種。中澤琴参戦である。

 

 地を砕き、海を裂くような剛力の振り下ろしを頼光殿は刃の峰で、酒呑童子は脚で蹴り上げるように受け止める。ぶつかり合う三騎のサーヴァント、鬼種ばかりの大乱戦。

 その衝撃は一帯を震わせて天すらを割る。

 覇王色でも纏ってんのか奴らは……マジで勘弁してくれ……

 

「まぁ、琴が負ける事はないだろ。とりあえず様子見かな……」

「それはそう」

「結果的に一番楽な仕事になりそうですねココ」

「なぁー。儂、あのデカ女が戦っとるとこ見た事ないんじゃが……」

「私も……頼光さんも酒呑も相当強いサーヴァントだし……加勢した方が……」

 

 ふむ……そういや、マスターは今んとこ琴が荒れてる時は居なかったんだっけか。

 カルデアに来てからヤバイ時は基本的に俺が張り付いてるしな……

 たまーに通りすがりの人に手伝って貰う事とかあるんだけどね、白黒陰陽師とか。

 

 琴はまぁ……馬鹿なんで搦め手にはそこそこ弱い。

 あと鬼種のクセにかなり近代の存在だからか、魔術なんかの干渉も割と効く。

 対抗出来るサーヴァントが居ないって事は多分ないと思うんだよね、複数なら。

 

「お前らに質問、新撰組で一番強え剣士は誰だと思う?」

「私ですね!」「……永倉さん?」「……申し訳ないけど同意で」「何でですか!!!」

「まぁ、意見分かれるけど概ね近藤、永倉、沖田だと思うんだよな」

 

 齋藤は強いけど、正面からの殴り合いならギリ一枚劣るかな。本人も自覚はあるだろうし。

 あとアイツの剣は暗殺、或いは護衛。

 相反する二つにこそ適正があると俺は思ってる、だから気に病む事ァねえんだが。

 

「じゃ、単純な強さで一番強いのは?」

「琴さんですね、間違いなく」「……それ、俺に聞きますか?」「……ああ、そりゃ良く知ってるのか」

「……まぁ、こんな感じだ。弱みもあるし、色々問題もあるが……少なくとも真っ向勝負で奴に勝てる生き物はそうそう居ねぇよ、俺が保証するぜ」

 

 幸いアッチの二人は頭に血ィ登ってるから完全に行動が単調になってる。

 だったら問題ねえ、どんな希代の大英雄サマが相手でも問題ねえよ。

 

「やっちゃえアヴェンジャー!」

「そんなコミカルに言う事なの……?」

「まぁ見てなってマスターちゃん、多分そろそろ動きが……ん?」

 

 商人として鍛え上げた俺の眼が、視界の端で揺れ動くナニカを捉える。

 ぷるぷると震えるその姿は……カルデアに住まう他の鬼。

 酒呑童子の後ろに着いて回る童のような茨木と、馴染み深い巴殿。

 

 多分だが巻き込まれたんだろう……手当り次第に鬼種が呼ばれてると見た。

 ……こりゃあさっさとケリ付けた方が良さそうだな。

 流れでドンドン増えてくとカオスになるし、作者がキャラクターを捌き切れない。

 

 一瞬、ほんの一瞬。三者の気が逸れた刹那を狙って飛び出す!

 狙いは一直線に、取り残された二人に向かって。

 

「よし、届い___グアアアアァ!?!?!?」

 

 閃光。

 天高く降り注いだ雷が俺の身体を焼く。

 食い縛った歯を打ち鳴らし、血液は沸騰、肉が焼けて細胞と細胞すらがバラバラになるような衝撃。

 一瞬飛んだ意識を、努めて再起させる。

 

「秋無殿!? その……あまりにも無理では……!?」

「申し訳ない! 巴殿! ちょいとばかし余裕無いんで……!!!」

 

 二人を抱えて走り抜け、ちらりと騒動を振り返ればなんということでしょう。

 今度はマスターたちに降り注がんばかりに妙な液体が飛来する。

 強い酒精の香りに濃密に練り込まれた魔力の気配、おいおいおいおい……

 

 周りの被害とか、まるで考えてねえなクソがッ!!!

 藤堂だの齋藤だのは反射的に打ち払おうとするが駄目だ。

 ありゃあかの酒呑童子が宝具の一つ。

 触れたモノ全てを蕩けさせてぐずぐずに溶かしちまう鬼の毒酒。

 

 

 

 

 

ばぁーっと降り注いだ鬼ノ酒は

 

それにれた者を区別せず、一切合切呑み込んで

 

人も、英霊も、何もかも溶かし尽くした

 

 

 

 

 

 

 …………よし、久しぶりに上手くいったらしい。

 何でかなぁ、いっつもこういう時俺ばっかりなんだよね。

 どうしてこう、不運と踊っちまうんだろうな……泣けるぜ。

 

 

 

 降り注ぐ死の雨に身構えた一同は、しかし急変した光景に首を傾げる。

 傍らには同じく混乱する巴や茨木の姿。

 そして視界の先に映るのは、濁流が如き酒に呑み込まれる秋無の姿であった。

 

 


 

 視界の端で神便鬼毒に呑み込まれた秋無を尻目に、中澤琴は二人の狂鬼と対峙していた。

 

「おや、避けて大丈夫なん? すっかり溶けてしもうたみたいやけど」

「ハハハ、お前は秋無出雲という男を知らんな。ありゃほぼ毎日私に食い殺されてるんだぞ、それでもまるで折れやしないような化け物だ。この程度どうって事ない」

「……随分と信頼してはるのね」

「そりゃな……」

 

 勝手に救って、勝手に依存させて、勝手に死んでった。

 まぁ、愛も憎も相応にあるよ、そりゃね。

 

 でもまぁ、それはそれとして。

 死んでまで他人の世話を焼くために、死後すら売り渡した真性の大馬鹿野郎。

 あの京一、或いは日ノ本一のお人好しは……

 少なくとももう二度と、私を置いてく事などないだろうから。

 

 信じてやるってのも出来た女らしいだろ?

 

 はてさて、常々ダル絡みしてくる半裸の鬼女と馬鹿みたいな紫ウシ乳女。

 出雲の視界に入られるとムカつくんだよな……あんだけ搾ってるのにたまに見てるし……

 私の方がおっきいんだが? どついた所でそれはそれ、これはこれ……等とはぐらかしやがる。

 沖田は許すけど他まで良いとは一言も言ってないんだが私。

 あの敗走が趣味の尾張の田舎大名はマジで何? 妙に仲良くて腹立つ。

 

「というかお前ら何で私に絡んで来るんだ? そりゃこちとら喧嘩上等だけどさ……」

「何を言うのです、虫の戯れ言など聞くはずもありませんでしょう?」

「おっといきなり差別かよ? 平安ッパリらしいね……」

 

 源氏武者って人の話聞かないから嫌なんだよ……

 こんなのが一時権力を握ってたのに持ち直した先人は立派だね本当に。

 

「虫、虫ってさ……そもそもアンタ、自分の事は棚に上げちゃいないかい?」

「!」

「丑御前、だったか? 皮肉なモンだね、退魔の英雄その人が鬼子だってんだから……」

 

 瞬間、空間を切り裂くような斬撃が掠める。

 辛うじて処刑剣で受け流し、凶刃が食い込むことこそ無かったが……

 流石は伝説の怪異殺し……このままだとちょっとばかし不利か?

 鬼退治の逸話が盛られに盛られてやがるからな……相性ってのはどうしようもないから。

 

「ああ、ええよ。そのまま潰し合っておいてや」

「ッ!!!」

 

 向かい合い、お互いに再度ぶつからんとした瞬間。

 割って入った酒呑が私たちの身体に……骨に、触れた。

 人体を文字通り骨抜きにしちまうおぞましい業、後世にも名高い鬼というだけはあるか……

 平安なんて神秘の全盛期だもん、出涸らしみたいな私とはそもそも存在が違うと。

 

 ……でもね、骨抜きを狙ってる時。アンタの動きは僅かに鈍る。

 それなりに集中しなきゃ出来ないんだろ? そして、単純な腕力ならこっちが勝ってる。

 差し込まれた腕を握り潰し、そのまま回転をかけて引きちぎる。

 惜しくも途中で気付かれて逃げられちったけど……まぁ、これで危なっかしい事は出来ないでしょ。

 

「なんだ、捻じ切ってやろうと思ったのに」 

「……驚いた、本当に馬鹿みたいな力してはるね」

「馬鹿力だけが自慢でね……ややこしい事は全部任せてるんだ」

 

 神秘の出涸らし、或いはその断末魔。

 故にこそ、時代に取り残されたこの身体は人智を超えた剛力を生み出す。

 異様な程の肉体の跳ね、玉鋼の撥条の如き強靭な撓りこそが物理法則を置き去りに鉄塊を振り回す。

 

 ぐぐっと身を屈めるのは力を蓄える合図、腰だめに構えた巨剣を引き絞り……

 

「あ? 無理ィ? そんな言い訳は聞きたかない、()()。使ってやってる恩を忘れんなよ」

「はい?」

「ああいや、こっちの話……さて、どれ程行けるかな?」

 

 引き絞った力を地から脚に、脚から胴に、腕、頭のてっぺんまで。

 天地を揺るがす天性の魔、その狂奔に任せて一薙ぎ。

 

 しかし距離が離れ過ぎている、振られた剣は勢いこそあれ空振り。

 酒呑と頼光は共に歴戦の猛者が故に、その見立てを即座に立てる。

 一閃が振るわれる刹那……巨剣は更に三倍近い刀身へと新調。

 詰まった射程、広すぎる加害範囲。

 咄嗟に二人はそれぞれ刀や爪で受け止める事を選ぶが……

 

 剛力無双、万物を打ち砕く。

 めり込んだ刀身が二人を持ち上げてしまえばもう駄目。

 いかなる力も、それは地に足が着いてこそ。

 足元を掬われてしまえば、稚児でも英霊を打倒しうる。

 ましてや、今此処にいるのは化け物である。

 

 二人の身体を道連れに剣を振り抜けば、伴って双方共に勢い良くブッ飛んでいく。

 片や岩々を貫き、土煙に消え。

 片や豪勢かつ雅な塔を崩しながら沈黙する。

 

「んー……死んだ? まさかね、そんなヤワな相手じゃあないだろうし」

 

 残念ながらちょっと力不足……流石は神秘全盛期。

 相性悪いっつーか……やっぱりちゃんとやらなきゃ駄目そう。

 とはいえ少しは時間が稼げたろ、今のうちに……

 

 急いで後方に下がり、今なお倒れたままの愛しい男に声を掛ける。

 

「出雲〜! 大丈夫そ? 治った?」

「……溶け残り加味して六割くらい。左腕が溶けなかったのが幸いか」

「流石に特別製……私は不味いから好きじゃないけど」

 

 出雲の左腕は今も建御名方の力を宿したまま。

 霊基に同居した状態であるが故の事だが……味が変わるんだよなぁ。

 私は誰彼問わず食い荒らすような見境も節制もない鬼ではないのだ。

 そもそも人を食いたいワケではなく、出雲を食いたいだけなので。

 

 ……再会した自らの子を見た時、愛しいと思った。

 腹は減らなかった。

 それだけが私の心を狂気に抗わせる、最後のよすがであるから。

 

「やったか?」

「出雲、それ駄目なヤツじゃない?」

「……まぁ、アッチは平安の大怪異サマらだしな。そりゃしぶといだろ」

 

 酒呑童子とか首一つで飛び回った逸話なんかあるし__

 ぼんやりと話す出雲の姿を見ていると、愛しい気持ちが溢れてくる。

 具体的には腹と口から。

 

「秋無組長! 琴さん!」

「ん、齋藤か……沖田はどうした?」

「……組長が溶かされたので割とパニックを、今は藤堂が抑えてます」

「目の前で私がガジり始めても大丈夫なのに溶けるのは駄目なのか……」

「狂った会話だな、普通結構キツい絵面だと思うぜ」

 

 やれやれと半ばの身体で起き上がろうとする出雲の肩を掴んで押し倒す。

 未だ癒え切らない傷に障るが為か、悶絶して歯を食い縛った。

 ……ああほんと、駄目だな私。

 どんな顔も好きだ、本当にどうしようもない。

 堪らなく愛おしいからこそ、徹底的に壊したくなる。

 鬼子としての呪い、人でなしの業。

 

「……齋藤、万が一マスターが見ちゃうと辛いだろうから……急いで全員離れさせて?」

「ああ……分かりました。組長、ご愁傷さまです」

「そう思うならちったぁ助けてくんないかね全く……」

 

 そう言いつつ抵抗の素振りは見せない。

 受け入れて、くれている。

 私のどうしようもない性も、悪癖も。

 全てを依存してしまっている。

 それでも、それさえを許容されている。

 

 __本当に、たまらない。

 

「……つらい、今回の俺の役割がダメコンタンクでしかない」

「いつもの事だろクソタンク(タゲ集中持ち)……治りかけのところ、悪いけど」

「良いさ、やってやれよ……俺の相棒はホンモノの鬼なんざより遥かにすげぇって見せてやんな」

「うん」

 

 大口を開けて、牙を剥き出しにして食らいつく。

 食い千切り、咀嚼して、嚥下する。

 身体の中に凄まじい熱と力が漲る、世界の彩度が上がり、何もかも鮮明に。

 

 ホント、私は恵まれてる。

 

 

 

 

 

「__悪いね、律儀に待ってくれるとは」

「…………」

「…………」

「いや、どちらかというと呆然としてた感じ? ……まぁ、そりゃそうか」

 

 人目も憚らず食人……鬼種としての業を行う。

 恐らくそれはかの時代の人間からしてさえ異様な事なのだろう。

 試し斬りに通りすがりの百姓斬り殺してたような奴らなのにね。

 

「……ああ、なるほど。なるほどね?」

「何ですか、急に一人……」

「…………嫉妬だよな? お前ら?」

「は?」

「人として、鬼として__好き勝手やって、それを許されてる私が妬ましいんだろ。違う?」

「何を言うてんのかさっぱりやね」

 

 そうかなぁ。

 何となくそんな気がしたんだけれど、女の勘?

 だって良く良く考えたら……出雲を齧ると頭が冴えるんでね。

 

「鬼子として生まれ、それを認められなかった源氏の棟梁」

「……」

「鬼の中の鬼、人の世に逆らう者が故に討たれる運命の妖」

「……」

「そして私は__何故か人に受け入れられた、人と交わった私が羨ましい?」

「……何を根拠に」

 

 えー。

 まだ認めない? だってもうすんごい黙っちゃってるじゃん。

 新撰組組長っぽく言うなら効いてて草。

 だんまりする時はめちゃくちゃ刺さってる時だって言ってたし。

 

 ……酷い言葉を思いつく。

 言っちゃおうかなぁ……流石に駄目か?

 出雲なら、どうするかな。

 

 

 

「まぁ……分かんないか、そうだね。膜に蜘蛛の巣が張ったような雑魚どもには到底____」

「「…………!?」」

 

 コイツらって、アレだろ。

 二人して金時(同じ男)を愛して二人とも雑魚死したんだろ。

 馬鹿だねホント……もっと自分本位にやりゃ良かったのに。

 沖田を見習いな、諦めたの何の言っときながらまるで引かないぞ。

 そういうとこが可愛いから良いんだけどね……

 

「結果がお母さん気取りにお姉さん気取り? ちょっと歪み過ぎやしない?」

「……虫ッ!!!」

「……随分人を舐めてはるんやない!?」

「わーお、超効いてる。機嫌悪いね、生理痛か? 使った事も無いのにな」

 

 

 

 鬼として、魔性としての異常を誰からも受け入れられなかったお前らと違って私は理解のある旦那と子供まで作ったけどお前らは?

 

 つまり、そういう事。

 人には触れちゃならない痛みがある。

 ……戦争したいなら、そこに敢えて触れりゃ良いワケだ。

 

 さてやるか、ちゃきちゃき鏖殺だ。

 少なくとも今の私は天上天下唯我独尊。

 例え日輪の神そのものが来ても負ける気はしないね。

 怒りに冷静さを欠いた馬鹿な鬼の生娘二人。

 

 真っ向勝負ならともかく、今のアンタらなら尚更ね。

 




新撰組流煽り殺法、相手はキレる。

頼光→琴ちゃんも酒呑→琴ちゃんも相性は最悪。

「鬼のくせに人と懇ろになってて」「しかもそれを受け入れられている」
二人と違って『人の世に馴染んだ鬼』だからこそ、全く相容れない。
なので二人が何を言っても『私には理解のある旦那がいます、あと子供も』で返されてしまうという悲しい戦いが発生する。

そして久しぶりに掛け合いが発生した琴ちゃんの処刑剣。
基本的に主にはビビり散らしているが空気を読んで魔剣っぽくなったり聖剣っぽくなったりするので結構良い子。
バルムンクや虎徹(偽)とは仲が良い。

鬼種の魔:EX

鬼の異能、魔性を表すスキル。
神秘の薄い時代に生きた彼女はこのスキルの影響が弱い。
通常時にはある程度の筋力増加に効果が留まる。

但し、飢餓状態に陥ると日ノ本最後の神秘たる異常性が発現。
物理法則を無視する程の剛力と魔力放出が可能となる。
暴走に等しい状態だが、特定の個人を捕食する事で制御が可能。

組長同様に変動値がデカいのでEX、通常時はD〜C?
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