浅葱の影   作:CATARINA

7 / 68
新キャラ……多分以降直接出る事はないので覚えなくて良いです。


外つ国の商人

 あれから年も明けて夏も近付く頃。

 

「五月なのに暑くない……? 出雲、お昼は素麺にして」

「手伝う雰囲気くらい出そうぜ相棒……俺、所用で一週間くらい神戸に行くから留守番頼むぞ」

「え、聞いてないんだけど」

「言ってないからな……米国(あめりか)からダチが来るんだよ、お前はそろそろ自立する訓練をした方が良い。手始めに掃除くらい自分でやれ、飯は左衛門の嫁さんに頼んでっから……」

「待った待った! それなら私も着いてくぞ! 出雲は弱いからな!」

「叩っ殺すぞテメェ。そもそも屯所に伝えてないだろうが」

「今行ってくる! 待ってろ!」

 

 嵐のような女だ……

 悪いヤツじゃ……悪い……うーん……

 良いヤツではある、悪くもあるけど。

 酒癖悪いのと寝煙草で家燃やしかけるのだけはやめて欲しいかな……

 寝相が悪いのはもう良い、許した。

 何をどうしたら寝ながら三角絞めを決められるんだ?

 そして何故起きない?

 丑三つ時から日の出までの長時間胴体を千切られそうになっていたのだが。

 

 この後満面の笑みで休みをもぎ取ってきた。

 今日の駐在だった原田の前で大太刀をチャキチャキして脅してきたらしい。可哀想。

 かくして俺たちは二人して神戸に向かうことになった。

 

 

 

「うお……初めて来たぞ、すげぇな」

「俺は仕事でまぁ何度か……と言っても未だに物珍しくはあるが」

 

 神戸は古く、遥か昔から海運の要として発展した。

 また、長崎の出島から横浜、江戸を繋ぐ中継地でもあり……

 国内では比較的早期に異国文化が浸透した地でもある。

 

「横浜はもっとすげぇぞ、突然異国に迷い込んじまったみたいな風情だ」

「ふむ……いつか行ってみたいモンだな」

「仕事で行く事もあるからよ、連れてってやるさ」

「やったぜ」

 

 さて、確か海軍訓練所の近くでって話だったが。

 あのヤロウ来てねぇな、時限厳守とは程遠い男だから仕方ないが……

 少し見回るか?

 

 新撰組の大半がそうであるように、琴も田舎の出だからな。

 江戸然り京然り神戸然り、あらゆるモノが新鮮なのだろう。

 

『Oh,イズモ!!!流石にYouは目立つネ!』

「お前が言うか……? 体格は変わらねぇだろ」

「ん?」

 

 突然の絶叫。

 街を震えさせるほどの大声に一瞬怯んだ琴が振り返ればそこに居たのは異人の偉丈夫。

 無論、七尺の大男である出雲には及ばないが、日ノ本では異様な巨躯。

 また顔立ちも日ノ本の男子では有り得ない程に彫りの深いく、眼は青空の如く。

 陽気で声も身体もデカく、全てがうるさい____

 

 絵に描いたようなあめりか男(ステイツメン)がそこには居た。

 

 向かい合う巨漢二人はどちらからと言うでもなく、拳を弓なりに引き絞り差し出す。

 ガキリと金属が擦れるような音が響いて、お互いの拳を然と突き合わせた格好だ。

 

「久しぶりだな、兄弟。商売の程はどうだ?」

「HAHAHA! 米国の品、ジパングじゃまだトテモ珍し。Brotherのお陰でオオモウケ」

「絵面が暑苦しいな……」

 

 片や悪人面の厳しい巨漢。

 片や声のデカい異人の巨漢。

 悪目立ちし過ぎである。

 

「Umm__? 其方のPrettyなGirlは?」

「ん……? 私の事を言ってるのか、これは?」

「南蛮語は分からんだろうしなお前じゃ……俺も初見の時は蘭語しか話せなかったから死ぬほど苦労したモンだが…… ah__Koto Nakazawa,she's……

 琴はギョッとする。

 話せるのかよ!?

 秋無はいずれ外つ国にも自らの商会を広げる野望を抱いている。

 ならば当然、主要な外つ国言葉をも会得していて当然ではあるのだ。

 

『~~!~~~~,~~~~~!!!』

『……???~~~~,~~~~~~』

『HAHAHA!!! ~~~~~~! ~~~~!!!!!』

 

 尚、琴からはこう聞こえている。

 何となく笑ったりしてるのは分かるのだが、意味がまるで分からないのだった。

 

「ハァ……馬鹿な事言ってないで行くぞ。わざわざ呼び付けたンなら理由あんだろ?」

「oh、イズモ。慌てない慌てないヨ。イソガバマワレ言うだロ?」

「少し意味が違う気するけどな……」

「ヨシ! それじゃ行こうカ! C'mon pretty girls!」

「あ〜……来いって言ってるな、行くぞ」

「う、うん……」

「因みにコイツ自身日本語は此方から話す分にはそこそこ通じる、気になるなら気後れせずに言ってやれよ」

「じゃあ何だったんだよこのくだり!?」

「あ。名前ジャック言います。ヨロシュウタノンマス?」

 

 

 

 

「ほーん、また色々持ってきたな……」

「持ち込んだ分全部売れちまうしナ」

「装飾品に武器、衣服、筆記用具まで……」

「ここにハ置いてナイがsteam engine……蒸気機関のベースも幾つか持ってキタゾ」

「マジ? 後で一つ買ってって良いか?」

「勿論だブラザー」

 

 やったぜ。

 仕組みは俺も詳しくないが、あの技術は開拓の余地がある。

 俺が考えてるのは蒸気の圧力を利用した車両……

 英国じゃ既に実用されてるらしい新たな運送手段だ。

 陸に架線を引き、その上をスチームの力で押し進む車。

 今まで大量の荷物は海運が主流だったが実現すりゃ革命が起こる。

 

 海はどうしても自然との戦いだ、船員の負担も甚だ大きい。

 速く、そして早く確実に荷物を走り届ける蒸気車。

 架線を引いて江戸や横須賀から京に神戸、果ては出島までを繋ぐ。

 荒唐無稽に思われるかもしれないが、やれると俺は信じている。

 かの伊能忠敬は徒歩で列島を踏破したんだぜ? なんとなるさ。

 

 ぼんやり考えながら積み下ろされた品々を眺めていると、一つの箱が目に止まった。

 一尺もないくらいの小さな箱。しかし何故かそれから目が離せない。

 

「兄弟、コイツは……」

「Great、出雲。コレはプレゼント、米国(ステイツ)が最新兵器。正規のルートジャ国内でもThree yearは手に入らない人気商品ネ。ブラザーはガンが好きだったから、苦労したヨ」

「……実包が金属なのか?」

「Yes、カートリッジはメタル。強度は増して水にも強くなった、よりハードなバトルフィールドにも対応してるヨ。それにfireした後弾を抜けばすぐさま次のアモを装填可能。パーカッションのリボルバーと違っテveryvery shortノstrokeで大量のBulletバラ撒けるカラ長く戦える」

 

 小箱を開けて中の銃を取り出す。

 鈍く深い黒鉄で出来た連装銃。

 片手よりやや大きい程の大きさに秘められた圧倒的な殺意。

 武人としてというより、商人として。この品の良さは一目瞭然だった。

 

「……良いのか? 相当価値があるだろうに……」

「NonNon、水臭い事を言うなヨ出雲。俺たちはBrother、兄弟だろうガ。」

 

 銃を取って構える。

 サイズ感は良好。日本人にしては大柄な俺には寧ろ異人向けの型が近い。

 一度懐に隠した旧いリボルバーを置き、腰の位置に差して抜く。

 軽い、そして照準しやすい。

 

「装填してミロ」

「えーと……確か見たヤツは棒で薬莢を押し出すんだったか」

「イイヤ、ソイツはカスタム品ダ。真ん中で折った後軽くswingすれば落ちる。」

 

 言われるがまま、弾倉の留め金を外し、銃を半ばで二つ折りにする。

 そのまま軽く下方向に振るえば薬莢は勢いに負けて簡単に零れ落ちた。

 剥き出しの弾倉に六発弾丸を込め直し、折れを直して再度構える。

 なんと素早い……旧式のリボルバーでは撃ちきったらまず再装填は見込めなかったが、これなら仲間の援護や習熟次第で自由に弾を込め直すことが出来る。

 凄い武器だ。

 

「……ありがとよ兄弟。貰ってく」

「オウヨ、キットお前の身を守ってくれるサ」

「なんかよく分からんが、良かったな出雲」

「HAHAHA、Boyはいつだって新しいウェポンにはExciteするイキモノ。Girlsにはちょっと分からないかもだけドね」

「正直サッパリだぞ……私はコイツしか使わないし使えないからな」

「oh,Japanese big sword。確か大太刀言うデシタか?」

「俺よりずっと強いモンコイツ……俺は結局剣はダメだからなぁ」

「どっかの訓練に混ざった時だいぶ酷いやらかしをしたんだっけ?」

 

 訓練に混ざって刀振ったらすっぽ抜けて道場の壁をぶち抜いたんだよね。

 しかもその先に鴨さんがいてあわやぶっ刺さるとこだった。

 以降俺は帯刀禁止を命じられた。悲しみ。

 

「ん、こりゃ……服か?」

「Huh__これは古いEuropeの服。デコレーションが派手で奇抜だから売れると思っテ」

 

 ______あ、降ってきた。

 

「ジャック、あるだけ全部くれ。デカいシノギの香りがする」

「おお、マイドマイドね。ブラザーが買ってくれると品のハケがquickで助かるヨ。」

「……何に使うんだこれ?」

「I see__出雲キットEuropeの装いがCritical hitネ。Mrs.ナカザワもヒトツ要らないカ?YouのGreat bodyデ着たらもうソレはソレはExciting nightヨ。」

「?????」

「ソイツの妄言は放っておけ、それと頭下げろよ琴」

「? はいよ」

「Oh!? Nooooooo!?」

 

 間に立っていた琴が屈むと同時に長煙管で思いっきり殴り抜く。

 不意打ちが完璧なタイミングで刺さり、情けない声を出してジャックは吹っ飛んでいった。

 

「だからそういうのじゃねぇって言っただろうが!!!」

「……Hey,出雲。Brotherに隠し事はNothingヨ」

「余計なお世話だっての……ハァ、酒行くぞ酒。久しぶりに潰してやるからなテメー」

「HAHAHA、Japが米国軍人(アーミー)をKOする?ヘソでTea party ネ!!!」

「私は南蛮語は分からないけど、何か間違えてないか?」

 

 さてと、神戸の店には疎いんで適当に見繕うか……

 こっちのダチも誘って良いとこ教えて貰うのも悪くないな……

 

「…………ん?」

「Huh?」 

 

 前方から明らかな殺意。

 おいおい、こんな白昼堂々人目もある大通りで何する気だよ。

 見渡せば最早議論の余地すらない程明らかな手合い。

 普通に帯刀した身なりの悪い男らが数人、此方を見ていた。

 攘夷志士ども。

 俺たち新撰組が対峙する敵の大半を占める、国家転覆思想者。

 天子様のお膝元、京の商人たる俺でも倒幕なんざ考えねぇよ……

 

 国の中枢が江戸にある、というのは何かと都合が良いのだ。

 開国で浦賀一帯が開かれた今なら尚更……

 

「おい、そこの異人ども」

「偉人……? 参ったな、日ノ本を代表する大商人になるつもりはあるが、サインを貰うにゃまだちと早いぜ早漏共。それとも商談でもするかい?」

「……異人の言葉を使うか、売国奴め」

「言うに事欠いて売国奴と来たか! ハハ、国なんてモンを売れたらそりゃ商人冥利に尽きる!」

「なんだとッ……!?」

 

 馬鹿、遅ぇんだよ。

 此方に殺気飛ばしてきてる外敵に時間を与える程温情ではない。

 走り出して即座に距離を潰し、踏み切って飛び蹴り。

 顔面と胸部に命中した三俵を超える大質量。

 そのまま肋の骨と頭を砕かれて血みどろに吹き飛ぶ。

 

 突然の強襲に面食らう一同を更に怯ませんと声を張る。

 

「ジャック!」

「C'mon bro!!!」

 

 浪士の一人を腕で抱え、ジャックの方へ推し飛ばす。

 俺の意図を速やかに察したジャックは剛腕を振るい、そのまま浪士の首に叩き付けた。

 突如狂を発した巨漢二人、混沌に呑まれた浪士共が慄く。

 

「よく分からんが、やって良いんだな!?」

「出来るだけ殺すなよ! 吐かせたい事もある!」

「終わった後に生きてるのを拾ってくさ!」

 

 背負った大太刀を抜き放ち、腰だめに構える。

 攘夷志士たちもビビってるなぁ。

 それもそのハズ、この泰平の江戸の時分に戦国さながらの長物。

 刃渡りだけで優に六尺半。柄を含めれば身の丈同等八尺はくだらない剛刀である。

 そんなシロモノを下段から一息に跳ね上げる!

 法神流皆伝の技量と馬鹿力、双方なくば不可能な芸当。

 

 咄嗟に刀身で受け止めようとしたらしいが無駄無駄。

 皆が持ち歩く打刀程度では単純な質量の差でどうにもならぬ。

 刀は小枝のようにひしゃげ、身体は勢いのままかち上がって宙を舞う。

 一応峰打ちにはしてあるらしい……

 

 でも俺思うんだ、あの大きさだと金棒で殴られたようなモンだって。

 御伽噺なんかであるよな? 『安心されよ、峰打ちだ』ってやつ。

 峰打ち、普通に人が死ねる威力あるから。何も安心出来ねぇよ。

 生きてると良いけどな……いや、下手したら死んでた方が良いかもしれないが。

 

 この後めちゃくちゃ拷問した。

 全員二日酔いでくらくらしながらだったけど。

 外つ国の拷問ってのはすげぇなぁ。

 顔に布被せて水ぶっかけるとか考えもしなかったぞ。

 帰ったら局内でも取り入れられないか検討してみようか。

 




WW1相当の中折れリボルバーとかいう未来兵器。
試作品って事で何とか……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。